地球儀でわかる!日本の輸入 ~Flourish を使った、輸入額の可視化~


日本は、様々な農林水産物を輸入している。たとえば2020(令和 2)年には、つぎの金額で農林水産物が輸入されている。▼米国 15,579 億円(17.5%)、▼中国 11,907 億円(13.4%)、▼カナダ 5,195 億円(5.8%)、▼タイ 5,193 億円(5.8%)、▼オーストラリア 4,546 億円(5.1%)[1] 国ごとに割合の違いはあっても、日本に住む私たちの生活は、世界からの原料供給で成り立っていると言える。
今回、日本と貿易相手国を取り巻く環境の変化を、品目別の農林水産物輸入状況を地図で表現し、考察した。(担当:大日結貴、菊池侑大、木村心音、山下りな)
変化を見える化したい

私たちは、「データを分かりやすい形で示して、おもしろさを感じられるようにすること」を目的とした。一般的に政府の統計データは Excel や CSV ファイルで配布されるため、内容を直感的に理解するのが難しい。そこで今回は、図やマップというフォーマットを用いた、データの見える化に取り組んだ。これは『インフォグラフィック』と呼ばれ、ジャーナリズムの現場でも実際に取り入れられている手法でもある。

そして題材としては、時間に伴って変化する「輸入額」を選んだ。

ビジュアライズの作り方

次に、使用したデータやサービスを紹介する。元のデータは、農林水産省が公開している『主要国・地域別の農業概況』のうち、輸入額で上位にあたる 20 品目である[2]。 年度の範囲は、公開されていた 2012 年から 2021 年までを対象としている。私たちの手でデータを整理した後、アプリケーション『Flourish』の『Arc Map』を使用し、見える化を行った。なお、データを入力する際には、octaviadata.com に掲載されている国名コードを利用した[3]

グラフ:輸入額の変化

結果は以下の通りである。

考察
全体からわかること

地図から分かる顕著な特徴は、取引額トップの国が入れ替わる品目は少ないということだ。全 20 品目のうち、取引額トップの国に入れ替わりがあったのは、「えび」「たばこ」「木材チップ」「牛肉」「生鮮・乾燥果実」の5品目のみだった。後に詳しく触れるが、特に入れ替わりが大きかったのは「たばこ」で、オランダ(2012-2014)、スイス(2015)、アメリカ(2016)、イタリア(2017-)と変化している。なお、その他の「えび」「木材チップ」「牛肉」「生鮮・乾燥果実」は、3位から4位までの国で首位が入れ替わるケースが多かった。

たばこに見る、貿易相手国の変遷

ここでは、少し詳細に、たばこの輸入について着目する。

はじめに、順位の入れ替わりに着目する。先ほども述べたとおり、輸入額トップの国は、2012年から2014年がオランダ、2015年がスイス、2016年がアメリカ、2017年から2021年はイタリアとなっている。二位以下に関しても、2014年から2017年は全ての国の順位が入れ替わっている。また、2017年以降は、韓国が二位で安定しているものの、三位以下は順位の入れ替わりが起こっている。さらに、データの開始年である2012年と最終年2021年を比較すると、輸入額の首位の6か国は一つも重なっていない。

こうした激しい入れ替わりの原因として、電子たばこが考えらえる。具体的には、2014年に世界的に発売された、電子たばこ「IQOS(アイコス)」の普及である。産経新聞によれば、2015年から2016年にかけて、イタリアからの輸入総額に占める加熱式たばこの割合が、0.3%以下から5%超まで拡大した[8]。そしてこの理由を、アイコス用のヒートスティックが、イタリアで生産されているためと説明している。

さきほど述べた通り、2017年から2021年は、たばこの輸入相手国の首位はイタリアになっている。これを踏まえると、私たちが見える化した「たばこ」の輸入の変化には、電子たばこの登場という背景が反映されているといえる。

新型コロナウイルスの影響について

次に、新型コロナウイルスの影響について考察する。グラフィックを確認すると、新型コロナウイルスが流行した時期(2019年末~)における輸入額や相手国の変動は、それ以前の時期と比較しても、そこまで変化がないと分かった。これは、私たちの事前の想定と異なっていた。

農林水産省は令和2年の4月、新型コロナウイルス感染拡大を不測の事態と位置づけ、食料安保が国際社会でも大きな課題になったことを指摘した [4]。ロシアなど穀物輸出国19か国が輸出規制を実施したことや、WTO(世界貿易機関)会合などで輸出規制が提案されたからだ。

しかしデータを見ても新型コロナウイルス発生以前と以後で大きく変化が見られた項目はなく、国の順位の変動も輸入額の変化もほとんど見受けられない。

 

可視化された傾向から大きな変動が読み取れないのは、農林水産省の対応によるものだと考えられる。令和3年2月に農林水産省はコロナ禍における食品の輸入の対応を発表。そこには、商社と緊密な連携を取ることで物流の遅れを防いでいることが記されている。また、G20農相会合においても、農産物の生産と流通の流れを遮断しないよう各国と協調したことを明らかにした[5]。これにより米国穀物協会の協力のもと、主要穀物の日本向け供給量が十分に保障され、穀物輸出施設も正常に操業された。

 

同資料では2020年4月段階でトウモロコシの輸入額が大きく減少したと書いてあるが、上記のデータ推移を見ても400億の減少がみられる。これは2019年の輸入額の15%に相当するもので、若干の減少はあるものの大きな変動は見られないと言える。国際価格の大きな変動もないため[6]、上記の対応策により5月以降でとうもろこしの輸入量が回復したと考えられる。

 

また、2020年から2021年にトウモロコシの輸入額は大幅に増加している。しかし、トウモロコシの国際価格 [7]を見ると2021年は前年と比べると1.5倍ほどにあがっており、可視化されたデータを見ても同様の増加をしていることが見て取れる。よってトウモロコシもコロナ禍による輸入量変動はなく、2021年に金額が変動しているのは国際価格が上がったためだと言える。

 

以上のことから、農林水産省による各所との連携や、各国の協力が実を結び、穀物輸入量が担保され、物流が確保されたことで、輸入額の大きな変動は起こらなかったと考えられる。

この記事では、過去 11 年間(2011 年~2021 年)における農林水産物 20 品目の輸入額の変遷を調査し、地図上に可視化した。 更に期間を増やすこと、そして法規制や協定などに照らし合わせることで、より解像度を上げて供給網の現状を分析できると推測する。

 

 

参考文献

[1] https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kokusai/attach/pdf/index-97.pdf

[2] https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_boeki_tokei/sina_betu.html

[3] https://tables.octaviadata.com/content/iso3166

[4] https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r2/index.html

[5] https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/attach/pdf/adviserr3-19.pdf

[6] https://ecodb.net/commodity/maize.html

[7] https://ecodb.net/commodity/maize.html

[8] https://www.sankei.com/article/20170414-AHX6R3O6ZZIZBPZJU4RGMT66HQ/