極限まで食材を使い切り、食品ロスを防ぐ
「luce cafe」 竹澤さんの取り組み


JR伊勢崎駅から県道68号を10分弱かけて東に進むと、左手に白い壁と木材で飾られた屋根が異国情緒を感じさせるお店が目に飛び込んでくる。居酒屋や住宅が多いこの地域で一際目を引くこのお店が「luce cafe」(ルーチェカフェ)(1)だ。店内に入ると、白を基調に洗練されつつも、サーフボードなどがアメリカ西海岸の明るさと暖かい雰囲気を感じさせる。店名の由来は、イタリア語で「terra della luce(陽の当たる場所)」という言葉であり、「お客様、スタッフ、お店に携わる全ての人が光り、輝ける場所を作りたい」という思いが込められている。こちらの「luce cafe」と配食サービス「SOLIS」(2)を経営している竹澤勇太さん(42)に、食品ロスについてのお話を伺った。(取材・文・写真=岩味夏海)
無意識に身についた食品ロス削減の精神

竹澤さんは、群馬県内の高校の調理科を卒業してすぐに、横浜のパン屋さんに就職した。その後、地元である群馬県のバー、イタリアン、居酒屋、ダイニングカフェなど、様々なお店で料理人としてのキャリアを積んだ。そして、2015年に、群馬県伊勢崎市で自身のお店である「luce cafe」をオープンした。

(luce cafeの外観=2023年6月13日、岩味夏海撮影)
luce cafeの外観=2023年6月13日、岩味夏海撮影

このような経歴の中で、竹澤さんは「食品ロスっていうこと自体がタブーであるっていう教えのもとで仕事してきた」と語った。飲食業界に入って最初に教わることが、「食品ロスを無くすこと」と「生き物を殺さないこと」だという。この2つの教えは重なる部分があり、それを象徴するのは竹澤さんが任されていたアサリ係の仕事だ。

アサリ係とは、調理するギリギリまでアサリを生きたままの状態で保てるように世話をしたり、アサリが傷む前にどのように加工するのかを考えたりする係だ。アサリがギリギリまで生きている方が、調理した時に出汁が出やすく、食感も良いという。傷んでしまったアサリはもう調理することができないため、アサリ係の役割は非常に重要であり、食品ロス削減の大前提であると語った。このような経験が、竹澤さんの食品ロス削減の精神を作り上げてきたのだ。

食品ロス削減のためのさまざまな取り組み

 現在、luce cafeでは、食品ロス削減のための様々な取り組みを行っている。2018年10月には、伊勢崎市によって「伊勢崎市食品ロス削減協力店」として認定された(3)。群馬県でも「ぐんまちゃんの食べきり協力店」という同様の取り組みがあり、そちらにも認定されている。これらに認定されている取り組みは、以下の通りである(4)。

ぐんまちゃんの食べきり協力店 認定項目

 竹澤さんは、お店側と顧客との間で料理の量の認識を擦り合わせることを特に大事にしている。ボリュームの多い料理を売りにしたとしても、「残されたら意味ないな」と竹澤さんは考えているそうだ。量の認識を擦り合わせるための取り組みは、お店側から考えて取り組んでいるものと、顧客からの要望に応えるものの両方を実施している。

例として、顧客数に対して注文量が多すぎると感じた際には顧客に料理の量を伝え、適切な量の提案をすることや、料理の量に関する要望にはできるだけ答えることを心がけているという。万が一食べ残しが出てしまった場合には、当日中に食べてもらうことを前提として、衛生的に持ち帰り可能な料理を持ち帰るための容器を用意している。

 また、ディナータイムには、一名でも様々な料理を楽しむことができて食べ残しを防ぐことのできるメニューを用意している。ディナーのお料理はいずれも数人でシェアできる量である。しかし、メニュー上に記載されているわけではないものの、お客様からの要望があれば一人前の量と価格で提供できるように準備しているそうだ。

 これらの工夫により、現在の一般営業では既に、顧客側からの食品ロスがほとんど出ない状態になっている。

食品ロス削減の課題とこれから

食品ロス削減の課題について竹澤さんに伺ったところ、貸切のパーティーでの食品ロスが時折目立つそうだ。竹澤さんは、「お金はいただいちゃっている以上、提供しなければならない」という言葉と共に、少し苦しそうな表情を見せた。食べ残った料理を持ち帰ってもらうにしても、時期によっては食中毒の危険もあって難しいという課題もある。

しかし、すでに行われている取り組みもある。竹澤さんは、当日の顧客のアルコールの飲み方を見て、料理の量やパスタの麺の種類などを微調整するという。アルコールをたくさん飲むグループは、そうでないグループに比べて食事の量が少なくなる。そこで、パスタの種類をスパゲッティからペンネに変更することがある。(5)スパゲッティは食事の締めのように感じられる場合が多いが、ペンネであればおつまみとしてアルコールと一緒に食べることができる。また、スパゲティとペンネではペンネの方が少し量感を抑えられるため、料理の食べ残しを減らすことにつながる。

竹澤さんは、このような取り組みを中心に、試行錯誤を重ねてパーティーでの食べ残しを徹底的に減らしていきたいと力強く語ってくれた。

 調理段階で出る食品ロスに関しても、極限まで減らすことを課題として常に考えている。竹澤さんはそのための様々な工夫を教えてくれた。その工夫の一つとして、一般的にくず野菜と呼ばれるものの活用方法を紹介する。

 野菜を調理する際には、そのままでは食べられない部分がほとんどの場合で生まれてしまう。例えば、玉ねぎのヘタや人参の皮である。これがくず野菜と呼ばれるものだが、くず野菜を使って出汁を取ると非常に美味しいという。近年では、このように野菜から取れる出汁が「ベジブロス」(6)という名前で知名度を高めているそうだ。そのままでは食べられない部分を何もせずに捨てるのではなく、調理に使用することで、それはロスではなくなるのだ。

 竹澤さんは、「このような工夫を料理のおいしさとして伝えられたら」と柔らかい笑顔で語る。お話の節々から、調理過程での食品ロスも、顧客からの食品ロスも極限まで削減し、顧客に美味しい料理を届けたいという想いが伝わってきた。竹澤さんはこれからも美味しさの追求と食品ロスに対して真摯に向き合っていく。

(スパゲッティのイメージカット)
スパゲッティのイメージカット
(ペンネのイメージカット)
ペンネのイメージカット

(1)群馬県伊勢崎市上諏訪町2111−1で営業しているカフェ。以下はお店のホームページである。https://lucecafe.com

(2)「和食・洋食・中華など各分野の第一線で活躍してきた料理のプロフェッショナル集団がお送りする新しい形の配食サービス」(「SOLIS」公式リーフレットより引用)を行なっている。

サービス名の「SOLIS」はラテン語で太陽を意味している。

(3)環境部資源循環課 資源化推進係、「食品ロス削減協力店店舗情報 luce cafe(ルーチェ カフェ)【伊勢崎・殖蓮地区/洋食、イタリア料理、レストラン、カフェ】」、2019年02月14日https://www.city.isesaki.lg.jp/soshiki/kankyobu/sigen/sigen/syokurosutenpojyoho/8074.html

(4)群馬県環境森林部環境政策課、「ぐんまちゃんの食べきり協力店登録店 Luce cafe」、2023年6月22日閲覧

 https://www.ecogunma.jp/?p=8597

(5)スパゲティ:直径1.4~1.9mm前後、長さ25cm前後の円柱状のロングパスタ。

  ペンネ:円筒状のショートパスタの両端をペン先のように斜めにカットしたショートパスタ。

引用:日本パスタ協会、「パスタの種類」、日本のパスタで楽しい食卓と健康を

https://www.pasta.or.jp/knowledge/type (2023年7月13日閲覧)

(6)江戸野 陽子、「野菜くずはおいしさのもと!野菜だし『ベジブロス』を活用しよう」、Come on House、2023年3月27日

https://comeon-house.jp/fromhouse/247/