「命の重さにコロナは関係ない」NPO法人小鳥レスキュー会 ―コロナ下の今とこれから


コロナによる外出制限で、新たに動物を飼い始める人が増えている。犬や猫の新規飼育頭数はコロナ前の2019年と比べて、2021年はおよそ15万頭と過去5年間で最高だった。一方で、最近では飼育放棄をしてしまう問題も注目されている。動物愛護団体「つむぎ」では、コロナ前後で保護したペットの数が40頭から95頭と倍増した (1)。特に、比較的安価で手に入り、飼い始めやすい鳥類も深刻だ。飼い始める敷居が低い分、命の重さは同じにもかかわらず、手放す敷居も低くなっている。ペットの鳥とコロナについて、鳥の保護や里親を探す活動を行うNPO法人小鳥レスキュー会代表の上中牧子さん(55)に話を聞いた。(取材・文・写真=長谷川理実)

トップの写真は埼玉県戸田市美女木にあるNPO法人小鳥レスキュー会 保護施設「鳥の駅」外観。この扉の奥には引き取られた鳥たちが暮らしている。(2022年6月11日長谷川撮影)

 

NPO法人小鳥レスキュー会代表上中さん。11月5日と6日の2日間、千葉県我孫子市で開催されたジャパンバードフェスティバルの出展ブースにて。(2022年11月5日長谷川撮影)
NPO法人小鳥レスキュー会代表上中さん。11月5日と6日の2日間、千葉県我孫子市で開催されたジャパンバードフェスティバルの出展ブースにて。(2022年11月5日長谷川撮影)

 

二重の扉を通り抜けると、鳥たちの鳴き声であふれた空間があった。ずらっと並んだ鳥のケージや、文鳥の水浴び場、頭上の鳥が止まるための止まり木。鳥たちが暮らすケージ内はどれもきれいで清潔感があった。――

 

鳥たちの命をつなぐ居場所

小鳥レスキュー会は埼玉県戸田市を拠点に活動している。警察の保護や飼い主の事情によって行き場をなくした鳥を引き取り、里親を探す活動を行なっている。2021年度に引き取った鳥の数は600羽以上、里親が見つかったのはおよそ200羽にも及ぶ。
代表の上中さんはアメリカ・ニューヨークのバードセンターなど海外の保護施設を回ったり、動物病院に勤務したりと長く動物に関わってきた。もともと上中さんの親御さんが保護活動に関わっており、小さい頃から動物たちに囲まれて育ったことが影響し、今の道に進んだのだという。活動の中で、「犬・猫には保健所があるのに、飼い鳥や野鳥は助けるような場所が少ない」という問題意識を持ったと話す。2015年にNPO法人化し多くの人の協力を得て継続的な活動ができるようにした。

警察署から迷子鳥として引き取られている鳥たち。 手前のインコは所沢警察署から引き取られている。 保護された日にち・場所・引き取られた日にち・体重が記載されている。 (2022年6月11日撮影)
警察署から迷子鳥として引き取られている鳥たち。
手前のインコは所沢警察署から引き取られている。
保護された日にち・場所・引き取られた日にち・体重が記載されている。
(2022年6月11日撮影)

コロナ禍で癒しを求めて

調査会社クロス・マーケティングが行ったアンケート調査(2)によると、現在ペットを飼っている人の約2割が「第1回緊急事態宣言後にペットを迎えた」と回答した。上中さんは、ストレスのかかる自粛期間で癒しが欲しくなるのは仕方ないことと捉える一方で、「コロナだからレスキューをしている訳ではない」と話す。「そもそも命はコロナがどうとか関係ない、そんなの分かっていなきゃいけないはずなんだよね」と命の考え方を語った。それでも、最近ではメディア露出の機会を増やしたことで、里親になってくれる人は行動規制が解除されてから増えてきているそうだ。

全体の引き取り数も増えているが、 2020年から2021年で飼い主の事情による 引き取り数が2倍になっている (虹の翼プロジェクトホームページ・直近3年間の活動報告より筆者作成)
全体の引き取り数も増えているが、2020年から2021年で飼い主の事情による引き取り数が2倍になっている
(虹の翼プロジェクトホームページ・直近3年間の活動報告より筆者作成)
世の中に見てもらうためのペット

クロス・マーケティングが行った同調査によると、コロナ禍で「癒し」を目的として始めたこと・機会が増えたことの設問には、「動画サイトやネットで他の人が飼っている動物を見る」が1位にきた。コロナ禍でSNSを用いて動物を鑑賞する機会が増える中、SNSでいいねを獲得するのは「かわいい」「面白い」動物の動画などだ。そのせいで、そのような動画ばかりが投稿されて、SNSフォロワーは飼育の大変さを知る機会が少ない。最近では、アニメ「鬼滅の刃」に登場するメインキャラクターらの伝令役となるカラスに影響を受けて、カラスが人気になり困っているそうだ。現在25羽ほどカラスがいるそうだが、上中さんの腕にはカラスの爪の傷跡が残っていて苦労が見られた。受け手に誤解を与えないためにも、小鳥レスキュー会のSNSでは“当たり障りの無いことしか載せない”という軸を持って活動報告をしているそうだ。「飼うなら最後まで飼ってほしい」、「SNSで(ペットを)見せびらかさないでほしい」と上中さんは強く訴えた。

 

鳥たちと「これから」

コロナ禍の飼育放棄などであふれてしまった鳥たちに対して「(自分が今できる)対策はない」と上中さんは断言していた。法律が変わらないと物理的な規制がかからないからだ。だからこそ、目の前にある命を引き取って保護することに尽きるそうだ。
犬や猫の長寿化が進んでいる現状はあるが、鳥の寿命は意外と知られていない。セキセイインコや文鳥は平均寿命が7年(3)と、長い目で考えないと容易には買えないはずだ。「7年間は命の責任を持って飼う覚悟を携えて、新しい家族を見つけてほしい」と上中さんは願っている。

今年の6月1日から、犬や猫のマイクロチップ登録制度が開始されるなど、飼い主とペットに関して過渡期を迎えている。人間、犬・猫、鳥、どれも命の重さは変わらないはずだ。最後に命の重さについて聞いてみると「答えなくても、あなたはもう答えを知っている」と上中さんは語った。

動物愛護を問いかけるカード
動物愛護を問いかけるカード

(追記)
現在、施設の老朽化のため、埼玉県戸田市から鴻巣市の施設に一部の鳥たちを引っ越ししている。来年中には引っ越しが完了する予定だそうだ。(2022年11月5日現在)

 

脚注

(1)文春オンライン.「『手の影にビクッてする』虐待受け捨てられたか…ペットブームの陰で
飼育放棄急増 柴犬アキちゃんの運命は」.2022年2月22日.

https://bunshun.jp/articles/-/52232

最終アクセス(2022年10月6日)

(2)クロス・マーケティング(2021).「ペットに関する調査(2021年)」. クロス・マーケテ
ィング無料調査レポート.

https://www.cross-m.co.jp/report/other/20210623pets/
最終アクセス(2022年10月6日)

(3)日本ペットフード.「種類別の小鳥寿命表」.九官鳥の基礎知識.

https://www.npf.co.jp/kisoaqua_bird/kop4-04.html

最終アクセス(2022年10月6日)

 

参考

NPO法人小鳥レスキュー会ホームページ
http://kotori99.org/

Twitter
小鳥レスキュー隊の隊長
@bono2019
https://twitter.com/bono2019?s=20&t=dgWcBlkTu0qEmEzk1KfFDg