「野球と応援」を見つめて――コロナ下の今とこれから


新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの日常を大きく変化させた。プロ野球の応援スタイルもその一つだ。ブラスバンドに合わせて大声を出して行う鳴り物応援が禁止になったことは、野球ファンの「応援」に対する見方を転換させるきっかけにもなった。今後、野球観戦はどう変わっていくのか。早稲田大学公認サークル「プロ野球ファンサークルセレクト」(*1)の幹事長を務める教育学部3年の渡邊智也さんが、いち野球ファンの目線で思いを語った。(取材・文・写真=吉村穂乃香)


トップの写真は、プロ野球ファンサークルセレクト幹事長の渡邊智也さん=吉村穂乃香撮影
「静かな球場が、野球観戦のあるべき姿かもしれない」

2022年のプロ野球では、3年ぶりに観客数の上限が撤廃された。大声での応援禁止といった制限を残しつつも、緩やかにコロナ以前の姿に戻り始めている。

「プロ野球ファンサークルセレクト」は、プロ野球観戦と軟式野球のプレーの2つを軸に活動するサークルだ。プレー経験や男女を問わず野球好きが集まり、週2回ほど軟式野球の練習や試合を行いながら、プロ野球の観戦会を実施している。

巨人ファンである渡邊さん自身も小学生の頃から野球をプレーし続けており、野球観戦とプレーの両面で「野球」という競技と親しんできた。このように観る楽しさ・プレーする楽しさの両方を知るファンとしての立場からは、コロナによって打ち出された観戦スタイルを惜しむ気持ちがあるという。「最初は違和感がありましたが、静かな球場が野球観戦のあるべき姿なのかもしれません」。その理由について、渡邊さんは次のように語った。

「野球は『間』が多いスポーツです。だからこそ、例え観客がいても、グラウンドが静まり返る時間があっても良いのではないでしょうか」。野球では、プレーの合間に様々な駆け引きが行われる。例として挙げたのは、投球間に守備位置を変えたり、打者が次に投じられる球種やコースを予測したりすることだ。「もっと言えば、投手の投球の間隔そのものも、『リズム』や『テンポ』と表現され、試合の勝敗や調子を左右する重要な要素になっています。他にも打者がヒットを打つためには、投手・投球に対してタイミングを合わせる必要がある……」

これら全てが野球における「間」であり、試合においては、心理的・戦略的・技術的に「間」が大きな役割を果たしているというのが、渡邊さんの考えだ。

プレー間の駆け引きが持つ意義を肌で感じることは、野球をより深く、楽しく観戦するための鍵となる。応援のみに気を取られ、プレー以外に行われる様々な動作を見逃してしまってはもったいない。コロナ禍で鳴り物応援が失われたことで、応援に紐づけられない、「野球」という競技そのものの魅力が伝わっているように思えるのだという。

部室には応援グッズや選手のサイン、野球道具が並ぶ=筆者撮影
部室には応援グッズや選手のサイン、野球道具が並ぶ=筆者撮影

 

応援がもたらすもの……野球というスポーツが向かう先が問われる

「だからといって、賑やかな応援が野球に不要だとはなりません」。渡邊さんは、結論を急がない。「野球って、ルールが複雑で試合時間も長い。未経験者がいきなり観戦しても面白さが伝わりにくいんです。そのような人にとって、応援が引き起こす盛り上がりは重要になります」。華やかな応援は、現地に観戦に来た人に「楽しかった」「また来よう」と思ってもらうために一役買っている。

渡邊さんは、「サークルにも『そろそろ応援歌を歌いたい』『手拍子だけでは物足りない』とこぼす人はいます」と会員の声を紹介する。現在、プロ野球ファンサークルセレクトには約50名が在籍しているが、野球自体はプレーせず、観戦のみを行うメンバーも少なくないという。もし、鳴り物や大声での応援が不可能になれば、それらを楽しみにするファンにとって、球場を訪れる理由が減ってしまうのではないかと懸念している。

「現在のような大衆スポーツとしてのかたちを維持するのか、好きな人が高い質で観戦するという方向へシフトすべきなのか。今後の野球があるべき姿についても考える必要がありますね」

 

コロナを経て野球観戦のスタイルはどう変わるのか?

2022年9月12日、球場での声出し応援が一部解禁された(*2)。2年前の6月に無観客試合でシーズンが開幕(*3)して以降、「新しい観戦様式」として定着するかに見えた応援スタイルは、やはり、元あったかたちに戻ろうとしている。

例え野球に詳しくなくても楽しむことができるコロナ以前の観戦スタイルと、野球が好きな人にとことん魅力を伝えていける可能性がある新しい観戦スタイル。渡邊さんは今後、どちらをより望むのだろうか。

「個人的には、コロナ後に生まれた観戦様式を残してほしいと思います。その方が、野球という競技をより楽しむことができる。でも」、渡邊さんの目に悩みの色が浮かぶ。「多分それだと、観客動員数は減るでしょうね。実際に見に行くと、コロナ以前より外野席が空いているのがよく分かります。

一般的に、野球観戦の場において、応援団は外野席に集う。テレビで野球を見る際に聞こえていた、楽器も交えた華やかな応援は、ほとんどが外野席から発されたものだ。応援に制限がかかり続ければ、どうしても外野席に集まるファンは減ってしまう。

観客数の減少は、数字にもはっきりと表れている。今季、東京ドームで実施された巨人主催の全65試合中、4万人を上回る観客数を記録したのは13試合のみ (*4)。コロナ以前の2019年、同条件で実施された64試合すべてで4万人を超す観客を動員していた(*5)ことを考えれば、劇的な変化が起きていると言える。12球団全体で見ても、2022年9月27日終了時点の入場者数平均は24,558人(*6)で、2019年の30,929人(*7)から大きく減少していた。応援への制限が観客動員数へ負の影響を与えていることは否定できない。

「野球そのものの魅力だけでは、残念ながら『野球界』の発展にはつながらない。だとしたら、コロナ以前のスタイルに完全に戻ってしまう方が、長期的にはファンのためになる可能性が高いですね」

ファンとして、プレイヤーとして、野球という競技を愛するからこその葛藤。ここに、どちらが正しいという答えはない。だがこれは、コロナ禍における観戦スタイルの変化がなければ気付けなかったことだ。目先の感情だけでなく、より長い目で野球を見つめる渡邊さんにとって、新型コロナウイルスは大きな転換点となっていた。

 

脚注

*1 紺碧の春 プロ野球ファンサークルセレクトhttps://www.waseda.jp/inst/weekly/circleguide/detail/?id=3198(2022年7月13日閲覧)
*2 NPB新型コロナウイルス感染予防ガイドライン(有観客開催)pp.70 https://npb.jp/npb/guideline_for_2022seasongames.pdf (2022年9月27日閲覧)
*3 NPB 2020年度公式戦開催について(2020年5月25日) https://npb.jp/news/detail/20200525_01.html (2022年9月27日閲覧)
*4プロ野球Freak 読売ジャイアンツの観客動員数(2022) https://baseball-freak.com/audience/giants.html(2022年8月4日閲覧)
*5 プロ野球Freak 読売ジャイアンツの観客動員数(2019)https://baseball-freak.com/audience/19/giants.html(2022年7月14日閲覧)
*6 NPB 2022年セ・パ公式戦入場者数 https://npb.jp/statistics/2022/attendance.html (2022年11月30日閲覧)
*7 NPB 2019年セ・パ公式戦入場者数 https://npb.jp/statistics/2019/attendance.html (2022年9月27日閲覧)