検証・兵庫知事選 「稲村氏が今回の兵庫県知事選挙をナチスの台頭扱い」は不正確。ネットで拡散


対象言説

2024年11月19日、X(旧Twitter)上で匿名ユーザーが以下の投稿を行った。

「【悲報】 稲村県知事候補が 今回の兵庫県知事選挙をナチスの台頭扱い チャット欄は大荒れ」

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この記事では、上記の投稿内の「稲村県知事候補が 今回の兵庫県知事選挙をナチスの台頭扱い」の部分を対象言説として、検証を行う。

投稿に添付されている動画はYouTubeチャンネルReHacQ−リハック−【公式】の生配信(2024年11月19日配信)の1:27:35-1:29:10の部分を切り抜いたものである[i]

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選定理由

この投稿は2024年12月15日時点で「いいね」が5000件以上、リポストが1700件以上、閲覧数が420万回以上に達しており、広く拡散されている。「ナチスの台頭」は歴史的に大きな出来事であることからその言葉が持つ影響力は大きく、発言の意図を明らかにすることは重要であるため、検証の必要性が高いと考えた。

 

 
「稲村氏が今回の兵庫県知事選挙をナチスの台頭扱い」= 不正確

 

判定理由
稲村氏は「ナチス台頭」と今回の兵庫知事選挙の関連を否定

生配信の中で稲村氏の対談相手である高橋弘樹氏が「SNSを沈静化するためにもちょっと聞きたいんですけど、この選挙結果を受けて、民意がまずい方向に向かっているとか、有権者が誤った判断を下したという言説もあります。知識人の中にもある。こういう言説に関して稲村さんはどう思いますか?」(1:21:00)という趣旨の質問をした。これに対し、稲村氏は以下のように、「勝手に想像した」と強調しつつ、ナチスの話題に触れた[ii]

 

古い知識人の方で、それを言ってらっしゃるのは、ナチスドイツが民主主義から出てきたことを想起しているのかなと勝手に想像しました。つまり、群衆の熱量によってナチスドイツはある種正規の手続きで作られたが、結果として様々な反省を生んだ。そのことをおっしゃっているのだろうと。私は直接聞いていないので、そうなのかなと想像しました。

 

しかし、続けて「そういうことと、いや今回の民意が間違っていたというのは全く別の話かなと思います。今回は民意だと思います」(1:23:00)と発言し、ナチスドイツと今回の兵庫県知事選挙とは別の話だとの見解を示している。

 

ナチスを例に民主主義の危うさを訴えていることは事実

上記の稲村氏の発言を受け、高橋氏が「今回の民意はナチスドイツと同じものではなく、正当化されるべきだろうというのが稲村さんの見解ですかね」と念を押したところ、稲村氏は「ちょっとそういうリスクを感じなかったといえば嘘になります。なぜなら市民派としてやってきた私の実像が十分に伝わらなかったもどかしさ。そこの違和感は正直あります」(1:23:22)と答えた。

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続けて、「選挙のスタイルとしてもSNSを元にした方が、判断に至る材料の提供のされ方には少し課題もあるかもしれないが、多くの人が一人一人判断され、かつ、投票率が上がりました。そういったことも含めて、今回の選挙が間違っていたと言うつもりもないし、言うべきものでもないと思います」と発言。また、「ナチスの時もそうだが、実際の生活の苦しさや大きな不満とか、やっぱりそういうところにポピュリズムがくると思います。ポピュリズムにおいて、現実の世界で苦しむ人たちに希望を与えることを言ったり仮想敵を作ったりして、あいつらが悪いから今のこの現実があるんだみたいなストーリーが作られたりするのは歴史上あったことだと思います」(1:27:48)という発言をしている。

稲村氏は、SNS上で真偽不明の情報が拡散され、市民派を自負する稲村氏の立場が、いつの間にか既得権益側とイメージされたことにリスクを感じる一方で、SNSを元にした今回のような選挙スタイルを評価している。また、ナチス時代のポピュリズムや仮想敵の話をしており、明言はしていないものの、今回の選挙において、他陣営によるSNSを駆使した情報戦略が有権者を扇動した可能性に言及したとも捉えられる。

その後、稲村氏は「日本社会は思考を深める、鍛えるよりも管理する、させるような状況を生み出してきたところもあったわけです。民主主義を健全に運営していく社会を施行するには、制度の見直しとリテラシーの向上の両方が必要。リテラシーを作っていく上でも正確な情報をどう取り扱うのかは非常に重要」(1:29:28)と発言しており、民主主義のあり方やメディア、SNSの危うさを訴えている。

したがって、稲村氏が今回の兵庫知事選挙を「ナチスの台頭扱い」したというのは事実と異なる。しかし兵庫県知事選の自身の経験も踏まえながら、ナチスドイツのように、民主主義のもと正規の手続きで誕生した政府であっても危機感を持つべきだと話しているのは事実である。

このように、事実と異なる部分が大きいが、ナチスドイツのようなリスクに触れていることは確かである。全体としては正確性が欠如していることから、FIJのレーティング基準を基に不正確と判定した。

 

[i] 【稲村和美vs高橋弘樹】敗因は?激戦の標語県知事選を振り返る【ReHacQ生配信】

https://www.youtube.com/live/zotM7TzK6aQ

 

[ii] 兵庫県知事選との関連で語っている部分の発言詳細は以下の通り。

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高橋 この選挙が素晴らしい。その観点で1個だけ、これちょっと、SNSを沈静化するためにもちょっと聞きたいんですけど、やっぱ今回一部の議論の中にこの選挙結果を受けてですね。例えば民意がまずい方に向かっているとか、あるいはですね、この有権者が誤った判断を下したっていう言説も一部あるんですよ。これは知識人の中にもあると、いわゆる古い文脈での知識人って言葉ですけど、知識人の中にもあると。こういう言説に関しては稲村さんどう思いますか?

稲村 古い知識人の方でそれを言ってらっしゃるのはやっぱりあれじゃないですかね。ナチスドイツが民主主義から出てきたっていうことを想起してらっしゃるのかなと勝手に想像しました。

高橋 どういうことですか?

稲村 つまりその何だろう? そういう群衆の熱量によってナチスドイツは、ある種正規の手続きで作られ。

高橋 ワイマール憲法っていう、民主主義の中でもまれにみる民主主義的な制度のなか生まれてきた。

稲村 はい、だけれども、結果として様々な反省を生んだと。だからその民主主義を上手にやり続けるには、相当努力がいるっていうことなんだと思うんですね。それぞれの立場の人たちが、市民一人一人がやっぱりそのリテラシーということであったり、その思考を深める努力であったり、複雑さに向き合う。耐性をつけていくということであったり。なので、そこのことをおっしゃってるんだろうと。私は直接の言説聞いてないので、そうなのかなと想像しました。そういうことと、いや今回の民意が間違ってたっていうことが全く別の話かなと思いますね。今回、今民意だと思います。

高橋 ナチスドイツという1930 年代に置かれてはそういうことがあって、それは想起したんだろうと。ただ、稲村さんとしては今回の民意はそれと同じものでなく、今回の民意は正当化されるべきものだろう。そういうことですかね。稲村さんの見解としては。

稲村 なので、ちょっとそういうリスクを感じなかったといえば嘘になります。私の実像が本当に十分に伝わらなかったかもしれないというもどかしさ、市民派としてやってきた者として。最後にそういった、本来自分もこれ変えた方がいいと思うんですって言ってたのと、まあだから、反対の立場に立ったわけですよね、私結果。なので、そこの違和感が正直ありますけれども。ただそう判断されるような。例えばさっき言ったようにいわゆるその市民派選挙って何なのっていう話にもなるんですけれども、やっぱりその、選挙のスタイルとしても、今回 SNS をもとにした方が、判断に至る材料の提供のされ方には少し課題もあるかもしれないけれども、だけれども多くの人たちが一人一人その組織だけじゃなく判断もされ、かつ私がすごく重視しているのは投票率が上がったってことです。はい。で、やっぱりここすごく難しくて、本当はやっぱり投票率もっと高くないといけないと思ってるんです。私。で、もっていうと、そのためには、もっと多様な人が政治に関わって、立候補も多様な人がした方がいいと勝手に思っているわけの一人なんですけど。

やっぱりこうやって今まで投票に行ってない人が投票に行ったということは、すごく重要なことで、そういったことも含めて、今回の選挙の結果っていうのは間違ってたとか。そんなことは到底言うつもりもないし、言うべきものでもないと思います。

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運営責任者=瀬川至朗
記事担当者=松浦花音、飯塚智也、小宮俊輔

本記事は、2024年度秋学期のアカデミックリテラシー演習(ファクトチェックの理解と実習)=担当教員・瀬川至朗=の受講生が作成しました。

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