だから私はヴィーガンを選んだ


ヴィーガンとは、「可能な限り衣食住の目的のために動物を搾取しない生き方」[i]を指し、その認知度や関心が高まっている[ii]。ヴィーガンコスメやヴィーガン対応メニューなど、街中でヴィーガンというワードを目にする機会は日々増えている。一方、SNS上ではヴィーガンに対する否定的な意見も目立つ。ネガティブな反応を示す人々の中には、彼らがなぜヴィーガンを選び、どう生きているのかを知らずに偏見を持っている人もいるのではないか。ヴィーガンのリアルなお話を早稲田大学ヴィーガンクッキングサークルに所属している松澤拓也さん(28)に伺った。(取材・執筆=川村梨乃、写真提供=松澤さん)

 

動物の利益尊重は「動物が可愛いからではない」

松澤さんがヴィーガンを選んだのは、今から4年前。大学の授業で、アメリカで製作された『The Cove』[iii]というイルカの追い込み漁に関するドキュメンタリー映画を見たことがきっかけだ。必死に抵抗しながらも死んでいくイルカの姿や、殺されたイルカの血で海が赤く染まる光景を今でも覚えているという。「人間のために不当な扱いを受けているのはイルカだけにとどまらない。ほかの動物たちも同じような目にあっているのではないか」。牛や豚、鳥などを食することに抵抗を感じるようになったと松澤さんは語る。

ちょうど同時期にピーター・シンガー[iv]の『動物の解放』を読んだことで、さらにヴィーガンへの関心が高まった。人種差別や性差別が許されないように、人間による動物の利用も正当化することはできない、という考えに感銘を受けた。ヴィーガンという言葉を知る以前、人権の適用範囲が歴史を経て拡大していったように、種族間の優越もいつの日にか無くなるのではないかと考えたことがあったという。「数百年後の人類は、肉食をしたり動物実験を行う我々のことを野蛮と思うのかもしれない」。このように考えていた松澤さんにとって、ヴィーガンという生活スタイルを知った以上、実践するのは自然なことだった。動物の権利保護のためにヴィーガンになったと言うと、「動物が好きな人」というイメージをよく持たれるそうだ。だが、そうではないと松澤さんは強調する。「動物の利益を尊重するのは、動物が可愛いからではない。道徳的にそうするべきだと思うからです」。

 

すぐに慣れたヴィーガンライフ

「(ヴィーガンの)理念は素晴らしいけれども、動物利用を完全にストップする生活が本当に可能なのだろうかと半信半疑でした」。ヴィーガニズムの実践はハードルが高いという予想に反して、ヴィーガンの食事にはすぐに慣れたという。限られた選択肢の中で美味しい食事を作ることに充実感を覚えたそうだ。よく作るのは応用がききやすいパスタだ。動物性のアンチョビの代わりに味噌を使うなどの工夫をしている。また、ヴィーガンになったことで食への意識が大きく変化した。以前は栄養を考えずに気分に任せて食べるものを決めていた。だがヴィーガンになってからは、不足しがちな栄養を補うために、食や栄養への関心が高まった。特にタンパク質が不足しがちなため、豆類を意識して食事に取り入れているそうだ。

松澤さんがよく利用するというVege ++ Coffee のヴィーガン対応タコライス=2023年7月13日、川村梨乃撮影
松澤さんがよく利用するというVege ++ Coffee のヴィーガン対応タコライス=2023年7月13日、川村梨乃撮影

不自由そうというイメージを抱かれることの多いヴィーガンだが、松澤さんはヴィーガン食に楽しみを見出している。「日本でもヴィーガン食の選択肢は年々増えている。魚を使わない寿司や卵を使わないオムライス[v]など、新しいものを試すのが一つの楽しみになっていますね」。

 

ネット上のネガティブな反応に思うこと

松澤さんがヴィーガンになったことを打ち明けた際、友人らは驚きこそしたものの否定的な反応を見せなかった。だが、ネット上では「ヴィーガン=過激で怖い存在」という考えが散見される。このようなネガティブなイメージについてどう考えているのだろうか。

「ヴィーガニズムについてよく知らないままに批判している人が多い。批判する前に、ヴィーガンのことを調べてほしい」と話す。「少なくとも、自分の知り合いのヴィーガンは過激ではない。動物や環境保護のために自分の生活を制限しているヴィーガンには、他者への配慮を忘れない人々が多い」。

「過激で押し付けてくる」というイメージは、ヴィーガンの実態とは違うように感じるという。

 

[i] 英国ヴィーガン協会「Go Vegan | What is Veganism? | Understanding Veganism」(https://www.vegansociety.com/go-vegan/definition-veganism 2023年07月20日閲覧)

[ii] 農林水産省「令和2年度フードテック振興に係る調査委託事業 4.気候変動が食料供給等に与える影響」(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sosyutu/attach/pdf/itaku-5.pdf 2023年07月20日閲覧)

[iii] 『The Cove』は2009年に公開されたアメリカ合衆国のドキュメンタリー映画。ルイ・シホヨス監督が手掛けた。和歌山県太田町でのイルカ追い込み漁を批判的に描いた。

[iv] オーストラリア出身の哲学者。現在はプリンストン大学の生命倫理学教授。主著はAnimal Liberation(1975:邦訳『動物の解放』(改訂版), 人文書院, 2011年), Practical Ethics(1979:邦訳『実践の倫理』(第二版), 昭和堂, 1999年), One World(2002:邦訳『グローバリゼーションの倫理学』昭和堂, 2005年)など。

[v] 松澤さんは、カゴメとプラントベースフードブランド2foodsが共同開発した「Ever Egg」やキューピーが開発した「ほぼたま」などの代替卵を用いている。