<コラム> 早稲田の留学生のために 「あってよかった」支援を


早稲田大学社会科学学部3年生、ムン・へウォンさん。韓国の淑明(スンミョン)女子大学から2022年4月、1年間の交換留学のため早稲田へ来た。早稲田大学といえば留学生が多いことでも知られているが、これからさらに増やす方針を掲げている。その中で大学側は留学生に対して、安心できる受け皿となれているのだろうか。 (取材・文・写真=エディソン静蘭)
早稲田大学での生活

ムンさんは元々、2021年秋からの留学を予定していた。しかし新型コロナウイルスの影響で半年間延期された。聞いたことのある名前であったこと、中学生の時に国際教養に興味があったことが早稲田への留学の決め手となったという。現在は日韓交流サークルや情報系サークルに所属し、精力的に活動している。
早稲田大学が提供する寮に住み、韓国人の友人1人と台湾人の友人2人とは特に仲が良い。正規留学生(1)ではないため、奨学金は受け取っていない。しかし「もらえたら嬉しいが、ネガティブには思っていない」と前向きな様子だ。順調な留学生活を送っているように見えるムンさん。しかし、この生活の中にもいくつかの困難があった。

 

留学したのに少ない国際交流

現在寮では、コロナ対策で一人一部屋となっている。そこでは友人との交流が盛んなようだ。しかしそれが同郷である韓国人や、同じ交換留学生の台湾人であることに違和感を覚えた。ムンさんは英語学位プログラムの学生ではない。日本について学んでいる普段の授業も、非正規留学生に人気で日本人の学部生は少ない。寮主催のイベントへ参加しても、交換留学生のみとの交流が主だった。

一人の留学生として、ムンさんは特に異文化交流への思いがとても強い。それは留学生として海外に来ている以上、当たり前である。しかし現状は、非正規である交換留学生との交流が主となっている。留学生×留学生の交流ももちろん重要だが、留学生×日本人学生との交流も忘れてはいけない。
「日本人と留学生がどうやって混じっていくか、学校はもっと考えてほしい」。同じ空間にいて、かつ交流があるからこそ多様性には意味がある。

早稲田大学異文化交流センター(ICC)では、一年を通して留学生が日本人学生と交流できるイベントを開催している。一方で、自らがイベントへの参加を強く望まない限り情報が埋もれて届かない側面がある。早稲田キャンパス3号館に位置する「ICCラウンジそのものが、情報発信&収集のベースとなる仕掛け」となっているためだ(2)。まずはイベントの周知により力を入れ、日本人学生も留学生もイベントへ多く取り込むといったアプローチが必要なのではないだろうか。

 

異国の地で不安なく生きるために

ムンさんが日本での生活を準備するにあたって、最大の困難は銀行の口座開設だった。大学側から指定の口座開設の案内があった。しかし日本語の説明通りでは上手くいかず、自ら調べたという。これは他の友人も同様だった。結局直接銀行へ行き、解決までに1ヶ月もの時間を要した。
「早稲田指定の銀行がうまく行ったらすぐ開設できたのに」と話す様子からも、その苦労が窺える。「基本的なところをもっと教えてほしい」。大学生活を営むうえで必要な知識の周知という細かい配慮がなく、幾度も混乱した。一方で、ムンさんが「細かい気配りさえしてくれば、大きな不満はない」というように、課題の解決は難しいものではない。

違和感や困難を覚えた経験ばかりではなかった。助かったこともあるという。それはコロナ禍になって新しくできた、留学生用の証明書(3)である。急にできた制度ではあったが、ムンさんは何とか取得できた。しかし、他大学に留学を予定していた知人は、休学して留学を延期せざるを得なかった。その大学は正規留学生のみに証明書の取得を進めていたからである。

外国での生活は、ただでさえ慣れない環境で不安なことも多いはずだ。ムンさんが経験した口座開設でのトラブルや留学生用のビザ発行から分かるように、留学生にとっては異国の地での出来事一つ一つが生活を変え得る一大事である。不安の種を回収するような支援が求められる。

 

これからに向けて早稲田は

新型コロナウイルスが急拡大をみせた2020年には減少したが、早稲田大学の外国人学生 在籍者数は2019年まで増加傾向が続いてきた(4)。「Waseda Vision 150」(5)が掲げる外国人学生(受け入れ留学生)の目標数(各年5月1日時点)は、2032年に1万人となっている。これは2019年の受け入れ実績の約1.6倍で、全学生の20%に相当する(6)。これからも、早稲田の留学生は増えていくだろう。

多様性を謳い留学生を増やすからこそ、あらゆる留学生への配慮を忘れてはいけない。ムンさんの経験からも、留学生の心に届く「あってよかった」と思える支援を充実させてほしい。

 

早稲田キャンパス3号館にて、取材を受けてくれたムン・へウォンさん(撮影=エディソン静蘭)
早稲田キャンパス3号館にて、取材を受けてくれたムン・へウォンさん(撮影=エディソン静蘭)

 

(1)正規留学生:学部に入学し、4年間で学位取得を目指す留学生のこと。ムンさんは交換留学生であり、1年間の滞在であることから非正規留学生である。

(2) ICCホームページより抜粋、(https://www.waseda.jp/inst/icc/about/service/)(2022年9月7日最終閲覧)

(3)ERSFのことである。2022年3月に導入された、入国する外国人の受付証明を日本の受け入れ団体が発行するシステムである。

(4)早稲田大学留学センター統計データ参照、(https://www.waseda.jp/inst/cie/center/data)(2022年9月7日最終閲覧)

(5)「Waseda Vision 150」:早稲田大学創立150周年に向けた改革であり、教育と研究の体制整備の原点である。

(6)『Waseda Vision 150 Annual Report2021』、p.71、(https://waseda.app.box.com/s/6wk0qdyfanpur29za4848z893l2lixwk)(2022年9月7日最終閲覧)