<コラム> 普天間基地が抱える矛盾 ― 騒音問題をどう考えればいいのか


「バラバラバラバラ……」。沖縄県宜野湾市内にある嘉数高台公園の展望台から普天間基地を見学していたときのことだ。私たちの上空を、2機のオスプレイが連なるように飛んで行くのが目に入った。率直に驚いたのは、その音量の大きさだ。東京から訪れた私たちにとっては見慣れず珍しいと感じられる光景も、基地周辺の人々にとっては日常と化してしまっている。また、高台から眺めると、普天間基地は人口密集地の中にぽっかりと穴が空いたように存在していることがよく分かる。周辺に居を構える人々の中には、米軍機が頭上を飛行する恐怖を少なからず感じている人がいるに違いないと感じた瞬間だった。(取材・文=松本雛、写真=河合遼。トップの写真は普天間基地の見学でゼミ生の質問に答えてくれたニール・オーウェンズ大佐)

 

■2018年度は騒音激化

普天間基地は米海兵隊の飛行場である。朝日新聞の記事[1]によると2018年度、市に寄せられた普天間基地の苦情件数は、前年度比の1・5倍だった。市が要因の一つとして挙げているのが、外来機の飛行であり、その回数は前年度の4・2倍となっていた。読者の中には、米国に対して騒音軽減の要請をすればよいのではないか?と考える方もおそらくいらっしゃることだろう。しかし、現状では、日米地位協定によって米軍の排他的管理権が認められ、国内法を適用することはできないため、米軍機の飛行時間を日本側で規定するのは不可能となっているのである。
そうした不平等な状態を改善するため1996年に日米で「航空機騒音規制措置」について合意した。環境省によると、この措置の具体的内容は下記[2]のとおりだ。

[1]22時から翌朝6時までの間の飛行等の活動は、運用上の必要性から緊要と認められたものに制限され、又は禁止されること
[2]夜間訓練飛行は、任務達成、練度維持のために必要な最小限に制限されること
[3]日曜の訓練飛行は最小限に抑えること、
[4]18時から翌朝8時までの間は、原則としてジェット・エンジンのテストは実施しないこと
[5]人口稠密地域上空をできる限り避けること等の規制措置が定められている。

以上の5項目を日米間で合意しているのにも関わらず、「夜中の1時くらいまで飛んでいる日もある」「入試のリスニングテストの最中も飛んでいた」と琉球大学の山本章子講師から教えていただいた。規制措置が形骸化していることは明らかだろう。

嘉数高台公園から見えたオスプレイ(撮影:河合遼)
嘉数高台公園から見えたオスプレイ(撮影:河合遼)

 

■「練度を保つために必要な演習もある」 オーウェンズ大佐

2019年9月の沖縄研修旅行では、米軍普天間基地の中を見学する機会もあった。こうした現状を米軍側はどう考えているのだろうか。基地見学には、在沖海兵隊を統括する政務外交部長であるニール・オーウェンズ大佐に同行していただいた。広大な普天間基地内を移動するバスの中で、騒音問題について、思い切って質問をした。

オーウェンズ大佐は、沖縄との関係は重要であり、できるかぎり住民の皆さんの負担にならないように運用することを常に考えていると前置きをした上で、「住民の方にご迷惑をおかけしてしまうこともありますが、練度(operational readiness)を保つためにどうしても行わなければならない演習もあります」と語った。そして、「日米合意においては、演習上の理由があれば、22時以降の飛行が全く駄目というわけではない」と指摘した。例えば、米海兵隊が他の国で戦闘状態になるとしたら、実際に夜間に動ける練度を持っていないと優位性を保てないと考えているのだ。飛行間隔が短いのもそのためだ。そして最後に「自分たちがなすべき役割を意識しています」[3]と付け加えた。

普天間基地では、近隣への貢献活動として英会話クラスや食事会を実施することで、宜野湾市民との関係性を構築している。だが、バス内での質疑応答から、最も重きをおいているのはあくまでも任務遂行のための対応能力の維持管理であるということが伺えた。

 

■沖縄県民の生活が犠牲になってよいのか?

正直なことを言うと、私は今回の見学をするまで、普天間基地に対してマイナスのイメージを抱いていた。それは、米軍が沖縄戦後に「占領と同時に土地を接収し、滑走路の建設を始めた」[4]という歴史的経緯に起因する。
だが、見学でいろいろと話を聞く中で、米軍の人たちが自分たちが果たすべき役割を強く意識し、遂行しようとしていることが伝わってきた。わたしたちが部活動やゼミの中で役職を全うするよう努めるのと同じように、日々訓練を積み重ねているのだ。彼らの様子を目にしたことで、米軍に対する自分の意識が少し変化しているのに気づいた。彼らもまた、自分たちに与えられた「任務」と沖縄県民の「声」の間で板挟みとなってしまっている存在の一人なのではないかと感じた。
では逆に、「米軍の任務」という理由があれば、沖縄県民の生活が犠牲になってもいいのだろうか。答えはNOである。誰かの不幸せの上に成立する幸せなど、本当の意味での幸せとは呼べないはずだ。
新たな基地建設が進む名護市辺野古にも、約2千人の人々が住んでいる[5](2019年3月31日現在)。埋め立てによって海に生息するジュゴンや珊瑚の環境が危険に晒されることはもちろんだが、辺野古でも普天間基地同様、騒音や安全性が問題になることは容易に想像がつく。
これからも、こうして都合のいい理由をつけて沖縄県にだけ負担を押し付け続けていいとは到底思えない。県外移設をすることで国民が平等に負担する・国外に移設するなど、様々な意見が飛び交っている。実際に沖縄県に足を運んで見聞きした現在、何が最善策かを簡単に語ることはできない。だが、基地問題は沖縄県だけの問題ではない。日本に住む全国民の問題であることを一人ひとりが認識し、道を模索していくことが重要であると考える。


[1] 『朝日新聞』2019年4月28日朝刊1面「普天間、米軍の騒音激化 外来機、離着陸4.2倍 18年度の苦情1.5倍」
[2] 環境省 平成20年版 環境循環型社会白書[そ]
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h20/html/hj08040115.html(最終閲覧2019年9月23日)
[3]在沖沖縄海兵隊の役割については、見学中のレクチャーで以下の5項目が挙げられた。
-アジア太平洋地域の平和と安定を維持する
-日本国の防衛に寄与する
-韓国の防衛に貢献する
-自然災害や人道支援活動を迅速、かつ効率的に対応する
-日本や韓国、オーストラリア、フィリピン、タイとの強固な安全保障同盟を維持する
[4] 沖縄タイムス編集局『これってホント!?誤解だらけの沖縄基地』(高文研、2017年3月)
[5] 名護市役所http://www.city.nago.okinawa.jp/about/population/(最終閲覧2019年9月23日)

このコラムは2019年9月のゼミ沖縄研修旅行をもとに作成されました。