フラで笑顔を届けたい コロナ下の今とこれから


現在の大学3年生は、2020年の入学当初から、新型コロナウイルス感染症による行動制限のもとでのサークル活動を余儀なくされてきた。なかでもパフォーマンスサークルに所属している3年生は無観客・オンラインでのステージ開催がほとんどだった。withコロナへと向かう近頃の社会情勢を受けて、早稲田大学は対面イベントの集客数の制限を段階的に緩和している。公演の機会が失われたり、観客の人数が制限されたりした中で、早稲田大学ハワイ民族舞踊研究会(通称わせフラ)の副幹事長・小林愛里さん(21)に、コロナ禍での苦難とこれからの展望について、お話を伺った。(取材・執筆・写真=宮脇千弥)

=トップの写真は、わせフラ副幹事長の小林愛里さん。2022年6月3日宮脇撮影)
小林さんとわせフラ

ハワイの民族舞踊「フラ」は、踊り・楽器の音色・詠唱・歌による総合的な芸術だ。フラの所作には一つ一つに意味があり、神に捧げる神聖な舞踊だ(2)。

小林さんは2歳からピアノを習い、中学校3年生までステージから自分の世界を届ける経験をしてきた。高校ではコーラス部に所属し、「楽しんで歌っている私たちの姿」を伝える喜びを知った。隣で歌っている友達やお客さんを感じて楽しむことは、ひとり演奏して拍手を待つ個人演奏より面白いと思うようになった。

そこで、大学では新しいことに挑戦でき、ステージで表現するパフォーマンスサークルを探していた。高校3年生の時の早稲田祭で、わせフラの先輩が踊る姿を見て憧れがあったのだが、「柔らかくもやる時はやる」というストイックな雰囲気が決定打になり入会を決めた。小林さんはわせフラの魅力をこう語る。「お互いのことが好きで、フラが好き。互いを尊重し合える雰囲気がとても楽しいです」

また「人数の多いサークルでは珍しいことなんですが、ワセフラには学年関係なく同じラインで踊るダンスがあります」と小林さん。後輩との関係を大切にする先輩もわせフラの魅力の一つだ。小林さんが副幹事長に立候補したのも、彼女が尊敬する先輩に後押ししてもらったことが大きかった。

 

コロナ禍 我慢の先に

2020年夏、晴れてわせフラの一員となった小林さんだが、その年の11月に行われた有観客での単独公演を最後に2度目の緊急事態宣言が発出され、思うような活動が出来ずにいた。それでもわせフラのメンバーは新入生歓迎会に向け、冬の間はZoomでの練習を続けていた。ダンス経験がなくとも頑張って練習を続けていた小林さんだが、自宅で踊りを見せる相手を思い浮かべることが難しくなってしまった。モチベーションが低下し、何のために練習しているのかわからないと悩む時期もあった。さらに追い打ちをかけるようにして、練習を重ねた新入生歓迎会も、オンライン配信となってしまった。

小林さんたち大学3年生は無観客開催でカメラに向かって踊ることが常である。そのステージから見えるものはレンズしかなく、手を広げた先には人の温度、拍手、表情が何一つない。小林さんも公演後、「あれ、出来はどうだったのかなと感じます」と笑って話す。とにかく踊ることに必死で、具体的な感触が無いまま、新入生歓迎会は幕を閉じた。

ところが、図らずもこのステージが小林さんのサークル活動のターニングポイントとなった。公演後、LINEにはたくさんの友人や先輩、家族から「公演お疲れさま」のメッセージが届いていた。また、パフォーマンスを見てくれた新入生からたくさんの入会希望があった。舞台上では得られなかった観客からの熱い視線を、衣装を脱いだ後に感じることができたのだ。「最初は踊りたいと思うだけだったのが、踊る先にどういう人が待っているのかを感じることができて、見てほしい、届けたいと思うようになりました。」と心境の変化を明かした。さらに、全国の学生サークルが集まるフラのイベント(3)に出演した際には、アーカイブの再生数2万回という客観的な数字を目にし、より多くの人に届いたという実感が沸いた。1回の踊りで届けられる人は無限にいるという可能性を感じた。

 

2022年6月18・19日に行われた公演『Welina~愛を込めて~』での写真。小林さん提供
2022年6月18・19日に行われた公演『Welina~愛を込めて~』での写真。小林さん提供

 

コロナを乗り越え有観客開催

2021年秋に行われた早稲田祭は、人数を制限しながらも有観客で開催された。無観客の時は椅子とカメラしかなかったが、そのステージでは観客の柔らかな表情が見え、踊り手と観客の体温が伝わり合うのを感じた。「誰もいない空間とは違う、温度のある空間だった」。一つのカメラを見て踊るのが当たり前だったフラダンスを、やっと目の前の観客一人ひとりに向けてパフォーマンスすることができた。踊った先に待っている人が「いる」ことだけでなく、「感じる」ことができた。

コロナとともにあった2年間を振り返ると、出場するはずだった大きなイベントが無くなるのは踊り手にとって寂しいことであった。それでも小林さんは、「改めてサークルのメンバーと共に、新しい公演のかたちをゼロから創造できたことは結果的に良い経験になりました」と、常に前向きな姿勢だ。また、有観客とはいえ観客の数を絞っていることに関しても、「その分一人ひとりを意識して踊りを届けられます」とパフォーマーとしてのプロ意識ものぞかせる。「私たちわせフラの自然体の笑顔で、皆さまを幸せにしたいです」。わせフラを心から愛し、上昇志向を忘れない小林さんはコロナ禍の苦難を糧にして、11月の引退まで走り抜ける。

 

 

脚注

(1)早稲田大学学生生活課 課外活動の段階的な再開について(第14報)

https://www.waseda.jp/inst/student/news/5693)(最終閲覧2022年7月14日)

 

(2)フラダンスとは?ハワイの歴史やフラの意味、見どころを紹介 SKYWARD+スカイワードプラス

https://skywardplus.jal.co.jp/plus_one/traditional_culture_hula/)(最終閲覧:2022年7月12日)

 

(3)全国学生フラフェスティバル とは、高校生のフラ競技大会「フラガールズ甲子園」を全国に広めるとともに、フラを通して全国の大学生・短大生・専門学校生が交流を深め、被災地に元気を届けることを目的としたイベント。

全国フラフェスティバル

フラガールズ甲子園 フラガールのふるさと (hula-girls.net))(最終閲覧2022年7月14日)