【ファクトチェック】日本維新の会・馬場幹事長「私立高校も大阪では完全無償」は誤り。NHKの討論番組で発言


トップの画像は2021年10月17日放送のNHK『日曜討論』より⁽¹⁾
対象言説

日本維新の会の馬場伸幸幹事長が、2021年10月17日に放送されたNHK『日曜討論』で以下の発言をした。

「大阪ではもうすでに幼児教育の無償化、中学生に対する塾代助成クーポン券を渡していますし、給食も無償化になっています。私立高校も、大阪では完全に無償と。来年春にできる新しい公立大学についても、授業料を無償化にできないか、今検討しています。」⁽²⁾。

今回はこのうち「私立高校も大阪では完全無償」という言説を検証する。

選定理由

先述した通り、この発言は2021年10月17日のNHK「日曜討論」で放送された。

また、この発言に対してはネット上で疑問の声が数多く寄せられている。例えば、日本共産党の辰巳孝太郎前参院議員は同日、Twitter上で以下の投稿をした。

「『私立高校も大阪では完全無償』いやいやウソはアカンでしょう。所得制限があり全世帯が無償になりません。また費用も府が全部出しているわけではなく国の補助に上乗せです⁽³⁾」

(Twitterより)
(Twitterより)

投開票を10月31日に控えている中、テレビでの馬場幹事長の発言は大きな影響力を持ち得ると考え、この言説を検証することにした。

判定
私立高校も大阪では完全無償=誤り
判定理由
国の支援金と大阪府の補助金を足し合わせて実施

大阪府が、2021年度新入生向けに作成した資料「大阪府内の私立高等学校等の授業料無償化制度について」⁽⁴⁾には、国が実施する「高等学校等就学支援金」(以下「就学支援金」)と併せて、府が実施する「私立高等学校等授業料支援金補助金」(以下「授業料支援補助金」)を交付することで、私立高校の授業料が無償化されるように支援していると記載されている。つまり、国と府それぞれが実施する制度を足し合わせることで初めて「授業料無償化」の状態になるということだ。

授業料無償化の要件として世帯収入の基準あり

では、どういった条件を満たす生徒が、国の「就学支援金」と大阪府の「授業料支援補助金」の受給対象者なのだろうか。

文部科学省のホームページによると、「就学支援金」を受給するには①在学要件と②所得要件の2つを満たす必要がある。在学要件については、日本国内に在住し、高等学校等に在学する生徒が対象と記載されている。

また、所得要件に関しては、例えば「両親のうちどちらか一方が働き、高校生一人、中学生一人の子供がいる世帯」(モデル世帯)の場合には「保護者等の課税標準額(課税所得額)×6%―市町村民税の調整控除額=30万4200円未満」が受給対象とある⁽⁵⁾⁽⁶⁾。モデル世帯では年収910万円未満が該当する。

さらに、先述の「大阪府内の私立高等学校等の授業料無償化制度について」によると、府の「授業料支援補助金」の受給要件の1つとして、「国の就学支援金を受給していること」が挙げられている⁽⁷⁾。

つまり、府の補助金を受け取るにも、国が定める①在学要件と②所得要件を満たす必要がある。モデル世帯で親の年収が910万円以上となる大阪府の生徒は、国の「就学支援金」も大阪府の「授業料支援補助金」のどちらも受給できず、授業料を全額負担することになる。

また、受給要件を満たし、国の「就学支援金」と府の「授業料支援金補助金」の両方を受給したとしても、必ずしも授業料が全額無償となるわけではない。

下のグラフ(大阪府作成、「大阪府の私立高等学校等の授業料無償化制度について」より引用⁽⁸⁾)は、年間授業料60万円の全日制高校に通う子どもが1人いる世帯をモデルに作成されたものである。

大阪府授業料
この条件の下では、授業料が完全に無償となるのは年収が590万未満の世帯に限られており、年収590万円以上800万未満の世帯は20万円の負担、年収800万円以上910万未満の世帯は48万円、年収910万以上の世帯は60万円をそれぞれ負担する必要がある。

従って、「私立高校も大阪では完全無償」という言説は誤りであると判定した。

大阪府の返答
「私立高校生徒の約7割を対象に無償・低額負担の支援を実施」

今回の検証結果に関して、10月20日にメールで大阪府私学課へ問い合わせを行ったところ、10月22日に以下の回答を得た。

「大阪府の私立高校の授業料支援として、国の「高等学校等就学支援金」と、それに上乗せされる大阪府独自の「私立高等学校等授業料支援補助金」がございます。

国の「高等学校等就学支援金」は次世代育成の観点からスタートした制度ですが、公・私間の授業料に大きな格差が残り、大阪の高校生全体に対する「教育の機会均等」という観点からは十分とは言えなかったため、生徒の約7割を対象に、授業料を公立同様の無償若しくは低額負担となるよう大阪府独自の「私立高等学校等授業料支援補助金」により支援しています。

両制度ともに、一定の要件(所得要件等)が設けられています」

 

大阪府では、公・私立高校間の授業料格差是正のために現在の制度が導入されているようだ。ただ、教育に関する府独自の取り組みはあったものの、馬場幹事長の発言が誤りであるという判定に変わりはない。

 

脚注

⁽¹⁾NHK+、日曜討論「あさって公示 衆院選の争点を問う」、2021年10月17日

https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2021101715286?cid=jp-GG149Z2M64

⁽²⁾同上

⁽³⁾Twitter、たつみコータロー 前参議院議員、2021年10月17日

⁽⁴⁾大阪府教育庁私学課、「大阪府内の私立高等学校等の授業料無償化制度について」、2021年10月22日

https://www.meisei.ed.jp/current/20210225_R3_tuition_free_program.pdf

⁽⁵⁾文部科学省HP、「高校生等への修学支援」、2021年10月22日

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1342674.htm

⁽⁶⁾文部科学省、「就学支援金制度概要リーフレット」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/20200715-mxt_kouhou02_2.pdf

⁽⁸⁾大阪府HP、「大阪府の私立高等学校等の授業料無償化制度について」、2021年10月22日

https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/11430/00000000/0720mushokar3.pdf

 

*最終アクセス日はいずれも2021年10月25日

 

運営責任者=瀬川 至朗

調査・記事担当者=杉江隼、鳥尾祐太

 

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