メディアの自殺報道は過激なのか ― 実際の記事から見えてくる各社の対応


2020年は著名人の自殺が相次いだ。その度に報道は過熱し、インターネット上では様々な意見が飛び交う。しかし著名人の自殺報道は社会への影響が大きいことから世界保健機関(WHO)がガイドラインを作成し、報道機関に配慮を呼び掛けている。本企画では、日本の主要メディアにおけるガイドライン遵守状況について、検証を行う。(取材・記事=牧野天稀 廣瀬遼一 嶋田朱里 鈴木筍太郎 図=牧野天稀)

自殺報道は「後追い自殺」に直結

マスメディアの自殺報道の後に、一般人の自殺者数が増加する現象を「ウェルテル効果」という。特に著名人の自殺報道の場合、その影響は大きくなることが研究により明らかにされている(Wasserman,1984;Stack,1987)。また、報道後には特に若者の自殺率が増加すること、報道での取り上げられ方が大きいほど影響が大きいことも報告されている(Pirkis ;Blood,2010)。

以上のような研究の結果を踏まえ、WHOは自殺報道をする上でのガイドラインである「著名人の自殺に関する報道にあたってのお願い」(https://www.mhlw.go.jp/content/000684650.pdf)を公開している。ガイドラインでは、それぞれ6つずつの「やるべきこと」、「やるべきでないこと」(以下参照)が定められている。

 

「やるべきこと」「やってはいけないこと」をルール化したWHOガイドライン

WHOガイドラインにおける「やるべきこと」と「やってはいけないこと」は以下の通りだ。

図はWHO「自殺対策を推進するために メディア関係者に知ってもらいたい 基礎知識」(自殺総合対策推進センター訳)を元に牧野がまとめた。

自殺報道ガイドライン

 

影響力をもつメディアの記事を分析

・2020年に自殺した著名人であり、報道記事が社会に対して十分な影響力を持つ、三浦春馬さん、竹内結子さんの自殺報道記事について分析する。

・新聞は朝日新聞社、毎日新聞社、読売新聞社の3社、通信社は共同通信社、時事通信社の2社、このほか、ネットメディアとしてHUFFPOST、文春オンラインを分析対象とした。主要な全国紙3紙に加え、Twitterのフォロワー数を踏まえ、影響力が大きいと判断したメディアの記事を検証することにした。新聞3社の記事は各社の記事データベースで調べた。その他のメディアの記事は、通信社の記事を含め、ネットに掲載されている記事を対象として調べた。なお、記事のうち「各社の初報であり、見出しに本人の名前がある記事」を対象とした。

 

検証対象とした初報記事

<三浦春馬さん>

・『朝日新聞』2020年7月19日朝刊2社会「三浦春馬さん、自宅で死亡、30歳、俳優」

・『毎日新聞』2020年7月19日東京朝刊社会面「三浦春馬さん死去 30歳・俳優、自殺か」

・『読売新聞』2020年月日東京朝刊2社会「三浦春馬さん自殺か 30歳 『14才の母』『直虎』」

・HUFFPOST,2020年7月18日, 「三浦春馬さん、30歳で死去。映画『コンフィデンスマンJP』など出演【UPDATE】

・共同通信社, 2020年7月18日, 「俳優の三浦春馬さんが死亡 30歳、自殺か

・時事ドットコム, 2020年7月18日,「俳優の三浦春馬さん自殺か 自宅マンションで死亡―東京

 

<竹内結子さん>

・『朝日新聞』2020年9月28日朝刊2社会「竹内結子さん死去 自宅で発見、自殺か 俳優・40歳」

・『毎日新聞』2020年9月28日東京朝刊社会面「訃報:竹内結子さん 40歳=女優」

・『読売新聞』2020年9月28日東京朝刊2社会「竹内結子さん死去 自殺か 『あすか』 『いま、会いに』 40歳」

・HUFFPOST,2020年9月27日,「竹内結子さん、40歳で死去。『いま、会いにゆきます』など出演【UPDATE】

・時事ドットコム, 2020年9月27日,「俳優竹内結子さん自殺か 東京都内の自宅で死亡

・文春オンライン,2020年9月27日,「竹内結子さん40歳で死去……長男も後押し、“事務所の後輩”と再婚した理由

 

検証の基準を定める

WHOガイドラインの各項目について、○(遵守している)、△(一部遵守している)、×(全く遵守していない)の三段階で評価した。各項目について2人が独立して検証を行い、評価における一致率を測定した。2人の評価が一致しなかった項目については、合議で決定を行った。

WHOは上図のガイドラインに加えて、各項目の詳しい判断基準を掲載している。これを元に今回の検証の基準を定めた。

例えば<やるべきこと>⑴どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供することの場合、支援先の電話番号やメールアドレスの記載はあるか、24時間365日利用可能か、掲載する連絡先の数を限っているかを全て遵守していれば○、一部遵守していれば△、遵守していなければ×とする。

その他の項目の基準は記事の最後に参考資料としてまとめた。

 

検証結果を一覧表に

Ⅲで定めたガイドラインの項目ごとに評価を行い、以下の結果を得た。

三浦春馬さん検証結果竹内結子さん検証結果

*の項目は合議で決定した。Huffpostの<やるべきこと>(1)「情報提供」に関して三浦さんのケースと竹内さんのケース両方とも意見が割れたが、合議の上で△とした。Huffpostは支援を求められるネットワークは記載していたものの、掲載している情報数が非常に多く「連絡先が多すぎると効果がないこともあるため、数を限って(電話番号1つ、ウェブサイト1つ 等)提供するべき」(WHOガイドラインより引用)というガイドラインにそぐわないため△。

 

共通したのは過剰に報道しない姿勢

検証結果を見ると、自殺を当然のものとみなす表現、あるいは、自殺を賛美する表現はどちらも、全社共通して見られなかった。また<やるべきこと>(2)にあたる迷信の拡散については、自殺を図った経緯について考察を行う箇所はほとんどなく、各紙とも事実に則した報道を行っていた。そして竹内さんの報道時には自殺防止の支援サイトを掲載する社が増え、三浦さんの報道を踏まえた改善がなされたと考えられる。

 

各メディアで異なる対応も

以上のように共通する特徴があった。それ以上に気になったのが各メディアの対応の違いだ。

 

朝日新聞:三浦さんの記事では見出しに「死亡」を使用していた一方で、竹内さんの記事では「自殺か」を使用。表現を使い分ける基準が存在しているのだろうか。
毎日新聞:三浦春馬さんの死後49日後に、遺書の有無について関係者へのインタビューを行う記事を掲載。今回の検証対象からは外したものの、報道を繰り返すことで社会に悪影響を及ぼす可能性がある。
読売新聞:「クローゼットの中で」、「首をつっている」など、自殺の手段や状況に関する詳細な記述が目立った。さらに三浦さんの記事では、遺された関係者へのインタビューを唯一掲載していた。
Huffpost:WHOのガイドラインに沿って配慮した報道がされている。一方で支援サイトの掲示が多すぎてどこに連絡して良いかわからない。またリンクが切れておりサイトに飛べないものもあり、完全な対応には至っていない。
共同通信 (三浦さんの記事のみ):自殺という事実を包み隠さず伝えていた。通信社という性質上仕方ないことかと思われるが、その文面がネット記事として世の中に出ていることには変わりないため影響力は大きいと考えられる。
また9/4には遺書に関する記事を掲載。今回の検証対象からは外したものの、報道を繰り返すことで社会に悪影響を及ぼす可能性がある。
時事通信:三浦春馬さんの報道と竹内結子さんの報道でほぼ同じ結果となった。手段を伝えている点や見出しに「自殺」と入っている点など改善がみられない。
文春オンライン(竹内さんの記事のみ):竹内さんが以前離婚や再婚した際に掲載した記事を再掲している。これは今回の自殺と直接関係ないにもかかわらず掲載されており、事実に基づかない迷信であると捉えられる。

 

Huffpostのように多くの配慮がなされている記事もあるが、読売新聞のように状況を詳細に記述している記事もあった。読売新聞の対応は<やるべきこと>(4)にある、有名人の自殺報道については最新の注意を払い、手段に関して明確に書いてはならない、という基準に抵触している。ただHuffpostも完璧とは言えず、支援サイトの書き方に杜撰な点があるなど、改善が必要だ。

また毎日新聞や共同通信などは今回の検証記事の後に、遺書に関する記事を掲載した社もある。これは<やってはいけない>(1)の「過度に繰り返さない」や(6)の遺書の公表の自重(下記検証基準参照)に抵触する。

WHOのガイドラインを完全に無視している社はなく、三浦さんと竹内さんの報道では対応に改善が見られる。しかし目立ったのは<やってはいけない>(5)の見出しの配慮についてだ。ほとんどの社で×となった。見出しに「自殺」といれることは読者にとってわかりやすいかもしれないがその分凄惨な印象を与えるため、後追い自殺等への影響は大きくなる恐れがある。

 

「知る権利」とガイドラインの間で

ここには、メディア各社の対応の苦慮が垣間見える。「知る権利」とガイドラインの間で揺れているのだ。日本の厚労省が定めるガイドラインはWHOのものを和訳しただけのもので、強制力はない。また報道を規制したところでどのような効果が得られるかわかっていないため、報道しても問題ないと考えてしまうケースも多い。報道しないことで憶測やフェイクニュースが広がる恐れもある。SNSなどで不確実な情報や噂が、よりセンセーショナルに流れてしまうのだ。そのような状態になる前に報道機関が正しい情報を流すべきという意見もある。

 

専門家「メディアの足並みをそろえることが重要」

今後、自殺報道の社会への影響を少なくしていくためにはどうしていくべきなのか。自殺報道に関する研究に取り組んでいる上田路子准教授(早稲田大学政治経済学部)は「他の国のようにガイドラインの規制を作って各社に守らせるべき。また主要メディアが足並みをそろえることが重要だ。ただ日本国内では、ルールの遵守が自殺者数の減少に及ぼす効果が検証されていないため、専門家が影響に関して示していくことが必要だ」と指摘している。

 

<参考資料>

WHO「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識

自殺総合対策推進センター訳

より

各項目についての具体的な検証基準

<やるべきこと>

⑴どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供すること

・支援先の電話番号、メールアドレスの記載はあるか

・24時間365日利用可能か

・掲載する連絡先の数を限っているか

⑵自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようにしながら、人々への啓発を行うこと

・迷信にあたることが記述されていないか

※「迷信」の定義に関しては

自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識 2017年最新版」(pp.17-18)を参照

⑶日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道をすること

・記事内で該当する記述があれば○、紹介程度にとどまっていれば△とする

⑷有名人の自殺を報道する際には、特に注意すること

・自殺を魅惑的なものとして伝えていないか

・自殺に用いた手段や当時の詳しい状況など、自殺という事実以上に踏み込んだ内容になっていないか

⑸自殺により遺された家族や友人にインタビューをする時は、慎重を期すること

・遺族のプライバシーを保護するための段階を踏んでいる(pp.05)かどうかは、記事の内容からは判断できないため、統一して「検証不可」とする

⑹メディア関係者自身が、自殺による影響を受ける可能性があることを認識すること

・対象記事内には記載が見られないため、統一して「記載なし」とする。

 

<やってはいけないこと>

⑴自殺の報道記事を目立つように配置しないこと。また報道を過度に繰り返さないこと

・記事の配置について、毎日新聞は紙面イメージなしのため「検証不可」とする。また、ネットに掲載されている記事を対象にした共同通信、時事通信、HUFFPOST、週刊文春は統一で「不明」とする。

⑵自殺をセンセーショナルに表現する言葉、よくある普通のこととみなす言葉を使わないこと、自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しないこと

・該当する表現が使用されていないか

自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識 2017年最新版」(pp.06)を参照

⑶自殺に用いた手段について明確に表現しないこと

・自殺手段の簡易な説明であれば問題なし。

・入手経路や詳細な方法の記述は×とする。

⑷自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと

・「後追い自殺を防止する」というガイドラインの目的を鑑みると、「自殺が発生した現場や場所」とは駅などをはじめとした「公の場所」である。したがって「自宅」は「現場や場所の詳細」とは言えない。

⑸センセーショナルな見出しを使わないこと

・見出しに「自殺」という語を用いていないか

⑹写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと

・遺書の公表は控えるべき。

・顔写真の掲載であっても×とする。

 

<参考文献>

WHO「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識

自殺総合対策推進センター訳(参照2020-11-12)

厚生労働省「メディア関係者の方へ」(参照2020-11-12)

『朝日新聞』2020年7月19日朝刊2社会「三浦春馬さん、自宅で死亡、30歳、俳優」

『朝日新聞』2020年9月28日朝刊2社会「竹内結子さん死去 自宅で発見、自殺か 俳優・40歳」

『毎日新聞』2020年7月19日東京朝刊社会面「三浦春馬さん死去 30歳・俳優、自殺か」

『毎日新聞』2020年9月5日毎日新聞東京朝刊総合面「三浦春馬さん死去:三浦春馬さん事務所『遺書なかった』」

『毎日新聞』2020年9月28日東京朝刊社会面「訃報:竹内結子さん 40歳=女優」

『読売新聞』2020年月日東京朝刊2社会「三浦春馬さん自殺か 30歳 『14才の母』『直虎』」

『読売新聞』2020年9月28日東京朝刊2社会「竹内結子さん死去 自殺か 『あすか』 『いま、会いに』 40歳」

HUFFPOST,2020年7月18日, 「三浦春馬さん、30歳で死去。映画『コンフィデンスマンJP』など出演【UPDATE】」(2020-12-18閲覧)

HUFFPOST,2020年9月27日,「竹内結子さん、40歳で死去。『いま、会いにゆきます』など出演【UPDATE】」(2020-12-18閲覧)

共同通信社, 2020年7月18日, 「俳優の三浦春馬さんが死亡 30歳、自殺か」(2020-12-18閲覧)

時事ドットコム, 2020年7月18日,「俳優の三浦春馬さん自殺か 自宅マンションで死亡―東京」(2020-12-18閲覧)

時事ドットコム, 2020年9月27日,「俳優竹内結子さん自殺か 東京都内の自宅で死亡」(2020-12-18閲覧)

文春オンライン,2020年9月27日,「竹内結子さん40歳で死去……長男も後押し、“事務所の後輩”と再婚した理由」(2020-12-18閲覧)