早稲田に新規に開いた店舗 2回目の夏 ―コロナ下を生きる―


新型コロナウイルスが蔓延してから1年半が経とうとしている。早稲田の街では、大学の授業のオンライン化に伴い、シャッターを閉める店舗も見られた。しかし、業種を問わず新しくオープンした店舗も少なくなかった。『明日』のために営業を続けるカフェと『10年後』のために営業するアンテナショップ。コロナ禍になって2回目の夏を迎えた今、新規店舗の状況は大きく異なっている。二つの店舗を取材した。
(取材・執筆・写真=内海日和)

トップの写真は『Café 17/F』の店員・アオイさん=2021年5月27日、内海日和撮影
営業を止めるわけにはいかない

『Café 17/F』‹¹› は東西線早稲田駅から徒歩5分の場所にある。香港出身のチウ・チュンキンさん が経営するお店だ。日本で自分の店舗を出店することがチウさんの夢だった。当初は外国人観光客をターゲットとして原宿を考えていた。しかし、新型コロナウイルス蔓延による外国人の入国規制で原宿を断念し、若者の集客を見込める学生街・早稲田への出店を決めた。

オープンは2020年5月15日。1回目の緊急事態宣言の最中だった。生まれ育った香港では、かつてSARS(重症急性呼吸器症候群)が爆発的に広がったのにも関わらず夏前には収束していた経験がある。 今回の新型コロナウイルスも「すぐに収まるだろう」と考えていたという。

しかし、チウさんの期待に反し、2021年8月現在も新型コロナウイルスは猛威を奮っている。企画していたイベントも自粛しなければならず、思うようにいかない。「集客が一番難しい」とチウさんは切実に語る。

そうした中でも、ウーバーイーツなどの出前サービスを駆使して売り上げを確保する毎日だ。その状況に追い討ちをかけるように、2021年5月28日、緊急事態宣言の延長が発表された。

「今お店を閉めてしまったら、ビザも切れて日本にいられなくなる。家賃も払えなくなる。結局、営業を続けるしかない」。外国人が日本にいるためにはビザが必要不可欠だ。店舗を閉店してすれば、ビザの種類が変わるために帰国しなければならない。また、休業をしても、家賃は毎月引き落とされていく。収入が止まってしまう中で家賃を払う余裕など、今はない。「出店当初は2店目も出店したいと考えていたが、今はまずコロナの収束を願っている」とチウさんは話した。

今の時期がチャンス
株式会社ワングローバル・塙健司代表=2021年5月31日、内海日和撮影
株式会社ワングローバル・塙健司代表=2021年5月31日、内海日和撮影

他の店舗が新型コロナウイルスによる打撃を受けていたのに対して、この機会をチャンスと捉えている店舗もある。高田馬場駅から早稲田通りを10分ほど歩いたところに位置する『ワセダ食堂』 ‹²›は、2021年3月にオープンした。親会社の株式会社ワングローバル・塙健司代表は「今だなと思った」と、このコロナ禍にビジネスチャンスを見出している。

『ワセダ食堂』は日本全国から集めた食材や日本酒を販売しながら、カフェも併設している店舗だ。コロナ禍で外食が減った代わりに、自宅用にこだわりの品を買っていく人が多くなっている、と塙さんは説明する。

「コロナウイルスは逆にお客様の活性化に繋がった。衛生面に気を使わなければならないことは新しいが、やることはこれまでもこれからも変わらない」。

もちろん新規店舗を営業することは容易ではない。「店舗の前に出て、通りがかる人と直接コミュニケーションが取れないことが一番大変」と話す。塙さんは『ワセダ食堂』をオープンさせる前は、長年商品をプロデュースして人に届けるという仕事をしていた。その経験から、コミュニケーションやふれあいが重要だと考えている。そこで、2階のフリースペースで子供向けの作文教室を開催するなど、新しい取り組みを始めた。このように、積極的にコミュニケーションの機会を増やそうとしている。

「これ(コロナとともに生きること)を当たり前としていかなければならない。それでもあのお店に買いに行きたい、食べに行きたいと思ってもらえるような店舗にしていく 」 。

「この状況をチャンスと捉えて『10年後』そして『20年後』へと続いていく店舗を作ってために工夫していきたい」と塙さんは話した。『ワセダ食堂』は今日も、人々にこだわり食材を提供する。

 

<注>

¹. Café 17/F公式HP
https://cafe17f.owst.jp/
2.One Global、『ワセダ食堂』公式HP
https://oneglobal.co.jp/wasedashokudo/

*最終アクセス日は2021年8月19日