「山手線の車内案内から中国語・韓国語の表示がなくなった」は誤り。ネットで拡散
トップの写真は日・英2か国語での車内表示。JR山手線車内で=2020年8月22日、鳥尾祐太撮影
対象言説
ネット上で「山手線の車内案内から中国語・韓国語の表示がなくなった」という指摘が相次いでいる。Twitterで拡散しているのは8月6日に発信された以下のようなツイートだ。
「山手線内、本当に中国語と韓国語表示がなくなっています」
このツイートは、8月23日時点 で8997リツイート、2万5000いいねされている。 また、この他にも同様の言説がTwitter上で拡散している。
「東京来て山手線に乗ったら、電子案内が日本語と英語のみで、中国語韓国語が消えている」(8月5日、2728リツイート*8月23日時点 )
「JR山手線、中韓国語の表示を廃止」(8月7日、4694リツイート*8月23日時点 )
今回は、「山手線の車内案内から中国語・韓国語の表示がなくなった」という言説をファクトチェック対象とする。
選定理由
先述したように、この情報はネット上で広く流布している。
そしてこれらのツイートのリプライ欄を見ると、「ハングルや中国語なんて必要ない」 「日本が少しずつ戻ってくる」 など、当該ツイートの内容が事実だと信用し、他の鉄道路線においても日本語と英語だけの表記にするべきだ、といった意見が散見された。その一方で「前から表示してなかったんですけど…」 と当該ツイートに疑問を呈する声も寄せられていた。
本当に「JR山手線の車内案内から中国語・韓国語の車内表示がなくなった」という事実はあるのか。検証する必要があると考えた。
判定
山手線の車内案内から中国語・韓国語の表示がなくなった=誤り
判定理由
JR東日本に、JR山手線の車内における中国語・韓国語表示の有無について問い合わせたところ、「事故や運転に支障がある状況をお知らせする場合のみ中国語・韓国語の表記があります。一方通常のご案内は日本語と英語のみとなっております」との回答を得た。
また、過去に中国語・韓国語での表示がされていた事実があるかという質問には、「(過去と現在で)変更はございません」という回答だった。
つまり、 JR東日本の回答によれば、通常時は日本語と英語による表示を用いており、過去に中国語と韓国語の表記を使っていたという事実はなかった。したがって、「山手線の車内案内から中国語・韓国語の表示がなくなった」という言説は誤りである。
それでは、中国語・韓国語の表記は山手線で使われていないのだろうか。JR東日本の回答から、事故やトラブルなどの異常時に限り、車内表示で中国語・韓国語も使用していることが分かる。
また、車内案内以外では、駅コンコース等の案内サイン設備に関して、日本語・英語・中国語・韓国語の4言語を基本として整備を進めているという(JR東日本からの回答)。
このように駅コンコースの案内サイン設備や緊急時の車内案内などに中国語・韓国語が用いられているため、JR山手線の車内案内でも常時、中国語・韓国語が使われていたという勘違いが起きた可能性がある。
JR東日本は異常時などを想定し多言語対応を整備中
他にもJR東日本では、運行情報や駅構内図を英語で提供するアプリ「JR-EAST Train Info」を配信している。また異常時には、駅係員・乗務員がタブレット端末を活用し、4か国語(日・中・英・韓)での情報提供を行うなど、在日・訪日外国人への多言語対応を進めている[ⅰ]。 多言語対応の状況は次の表をとおりだ。
通訳サービスについては、株式会社ブリックスが運営する通訳センターを介して、英語・中国語・韓国語だけでなく、スペイン語とポルトガル語でも対応可能な体制が整えられている[xiii]。
これに加え、ニーズに応じて、より多言語での案内を行っている駅もある。例えば、新大久保駅では24か国語で「事故防止のために、階段や通路は右側を歩いてください。階段は止まらずに進んでください」というアナウンスをしている[xiv]。
なお、今後、通常時の車内案内で中国語・韓国語を追加する可能性を質問したところ、JR東日本から「変更の予定はございません」という回答を得た。
参考資料
[ⅰ]東日本旅客株式会社、『第8回 多言語対応協議会「鉄道における多言語対応の取組」』、2018年12月20日https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/multilingual/council/pdf/meeting_08/s13.pdf
[ⅱ]同上
[ⅲ]同上
[ⅳ] カレイラ松崎順子、『全国の鉄道事業者のグローバル化に関する現状調査』、研友社、Annual Review No.22 、2020年5月
http://www.kenf.jp/annualreview/KR-067.pdf
[ⅴ] 東日本旅客株式会社、『第8回 多言語対応協議会「鉄道における多言語対応の取組」』、2018年12月20日
https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/multilingual/council/pdf/meeting_08/s13.pdf
[ⅵ]JR東日本、『山手線などの駅のホーム上におけるご案内を充実します!~発車標に列車が駅に到着するまでの時間「約○分後」の表示を実施します~~発車標をLCD化(液晶ディスプレイ化)します~~英語案内放送を拡充します~』、「JR東日本ニュース」、2019年10月15日
https://www.jreast.co.jp/press/2019/tokyo/20191015_1_to.pdf
[ⅶ] ニッポン複雑紀行、『駅に来たら、母語が聞こえる。前代未聞の24ヶ国語アナウンスを始めた駅長が実現したかったこと』、2017年12月6日
https://www.refugee.or.jp/fukuzatsu/miyukinozu01
[ⅷ] JR東日本、『指定席券売機における多言語表示について』、「サービス品質よくするプロジェクト-JR東日本の改善事例-」
https://www.jreast.co.jp/servicepj/action/
[ⅸ] 東日本旅客株式会社、『第8回 多言語対応協議会「鉄道における多言語対応の取組」』、2018年12月20日
https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/multilingual/council/pdf/meeting_08/s13.pdf
[ⅹ]奥野博隆・日高洋祐・三田哲也、『インターネット接続による乗換案内端末(RouteFinder)の配信システムと機能概要』、「JR East Technical Review 」、NO.47-Spring2014
https://www.jreast.co.jp/development/tech/pdf_47/tech-47-49-52.pdf
[ⅺ]JR東日本、『JR 東⽇本グループにおける多⾔語案内体制の強化について』、2017年3月30日
https://www.jreast.co.jp/press/2016/20170317.pdf
[ⅻ]同上
[xiii] 東日本旅客株式会社、『第8回 多言語対応協議会「鉄道における多言語対応の取組」』、2018年12月20日
https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/multilingual/council/pdf/meeting_08/s13.pdf
[xiv] ニッポン複雑紀行、『駅に来たら、母語が聞こえる。前代未聞の24ヶ国語アナウンスを始めた駅長が実現したかったこと』、2017年12月6日
https://www.refugee.or.jp/fukuzatsu/miyukinozu01
運営責任者=瀬川 至朗
調査・記事担当者=鳥尾祐太
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