【ファクトチェック】山口公明党代表の発言 共産党「天皇制は憲法違反 廃止すべき」は誤り


トップの画像はNHK『ニュース7』、NHKプラスより
対象言説

公明党の山口那津男代表は2021年10月14日、街頭演説の中で「共産党は日米安保条約廃棄、自衛隊は違憲、天皇制は憲法違反、廃止すべき、こういう政党と政権を一緒にする、閣外協力すると言ってみても、それは極めて安定感のない、そういう政権にほかなりません」と述べた⁽¹⁾。

今回はこのうち「共産党は、天皇制は憲法違反、廃止すべき」だと主張している、という言説を検証する。

 

選定理由

この街頭演説の様子は、同日「NHKニュース7」で放送された⁽²⁾。また、11.7万人の登録者がいる公明党公式YouTubeチャンネルでライブ配信された。この動画は、10月18日時点で5万6千回以上再生されている⁽³⁾。

衆院選が10月19日に公示され、投開票を10月31日に控えている中⁽⁴⁾、山口代表の発言は大きな影響力を持ち得る。さらに、この発言に対しては共産党の小池晃書記局長が「デマである」として発言撤回を要求している⁽⁵⁾。

そこで、第三者の観点から本言説を検討し真偽を明らかにすることが必要であると考え、当該言説を検証することにした。

 

判定
共産党は「天皇制は憲法違反、廃止すべき」= 誤り

 

判定理由

共産党HPに掲載されている「天皇の制度と日本共産党の立場 志位委員長に聞く」によると、共産党は2004年に党綱領を改定し、それまでの党綱領にあった「君主制の廃止」という課題を削除している⁽⁶⁾。

 

党綱領に「天皇の制度は憲法上の制度」と明記

改定後の党綱領⁽⁷⁾には以下のように書かれている。

「天皇条項については、『国政に関する権能を有しない』などの制限規定の厳格な実施を重視し、天皇の政治利用をはじめ、憲法の条項と精神からの逸脱を是正する」

「天皇の制度は憲法上の制度であり、その存廃は、将来、情勢が熟したときに、国民の総意によって解決されるべきものである」

このように「天皇の制度は憲法上の制度」だと明記し、憲法が定めた制限規定の厳格な実施を求めている。また、天皇制の存廃については将来の問題と位置づけ、その解決は「国民の総意」によるという姿勢を示している。

2004年の改定の理由について、志位和夫共産党委員長は「天皇の制度と日本共産党の立場」のインタビューにおいて次のように語っている。

“戦後は、すでにお話ししたように、天皇の制度の性格と役割が憲法によって根本的に変わりました。この制度をなくさないと、私たちが掲げる民主的な改革――日米安保条約の廃棄や「ルールある経済社会」をつくるといった改革ができないということはありません。(省略)天皇の制度の廃止を、民主主義革命の課題から削除したことは、合理的な改定だったと考えるものです⁽⁸⁾。”

 

「存廃は将来の問題。運動は起こさない」

ただし、共産党が天皇制を全面的に是認しているわけではないことも党綱領からは読み取れる。「一人の個人が世襲で『国民統合』の象徴となるという現制度は、民主主義および人間の平等の原則と両立するものではな」いと指摘し、「国民主権の原則の首尾一貫した展開のためには、民主共和制の政治体制の実現をはかるべきだとの立場に立つ」と説明している。

この点について、志位委員長は、「将来的にこの制度の存廃が問題になったときには、そういう立場に立ちますと表明していますが、同時に、わが党として、この問題で、たとえば運動を起こしたりするというものではない⁽⁹⁾」(共産党HP「新天皇即位の賀詞と、天皇の制度について」)と述べている。

以上のように、現在の共産党は、天皇制を憲法上の制度と認めたうえで、その存廃は国民の意思に委ねられるものという立場をとっている。また、天皇制を積極的に廃止すべきという姿勢を取っていない。よって「共産党は天皇制を憲法違反とし廃止すべきとしている」という言説は誤りであると判定した。

 

公明党広報部からの回答

今回のファクトチェックに際し、Waseggの調査担当者は10月17日にメールで、公明党広報部に「(山口氏の)発言は、どのような根拠に基づいてなされたものでしょうか」と問い合わせ、以下のような回答を得た。

“昨年改定された日本共産党綱領に、象徴天皇制は、民主主義、人間の平等の原則(日本国憲法第14条1項)、国民主権(第1条)と両立しないとの見解が明確に示されています。これは現行憲法が定める国民主権や法の下の平等に相いれないとの見解であり、象徴天皇制は憲法違反だという評価をしているものと受け止めています。”

この回答によれば、山口委員長の発言は共産党綱領の記載内容に基づいたものとなっている。回答の文章を読むと、共産党綱領の「人間の平等の原則」という表記と憲法第14条第1項(国民の法の下での平等)を、そして「国民主権」という表記と同第1条(象徴天皇制と国民主権の一体的な説明)を、それぞれを同一視する形で憲法違反の論を展開している。

しかし、それらを同一とみなせるかどうかは議論のあるところであり、回答が拠り所とした共産党綱領には「天皇の制度は憲法上の制度」として象徴天皇制を受け入れることが明記されていることから、判定変更の必要はないと判断した。
公明党広報部には、「共産党の小池書記長は『荒唐無稽なデマ』と発言されていますが、今後、上記の発言を訂正・撤回されるご予定はありますでしょうか」という質問もした。「訂正・撤回の予定はありません」という回答を得た。

 

脚注

(1)(3)公明党公式YouTubeチャンネル「2021/10/14 公明党街頭演説会」、2021年10月14日、10分30秒ごろ~
https://www.youtube.com/watch?v=B9zsjjiIH5s 

(2) NHK、『ニュース7』、NHKプラス、2021年10月14日、50:53~(配信は2021年10月21日午後8時15分まで)
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2021101412797?cid=jp-YV1K1Z3YV8

(4) NHK、『政府 衆院選の日程 今月19日公示 31日投開票に 臨時閣議で決定』、2021年10月14日
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211014/k10013306821000.html

(5) NHK、『共産 小池書記局長「公明代表発言 荒唐無稽のデマ」撤回求める』、2021年10月15日
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211015/k10013309221000.html

(6)(8) 日本共産党『天皇の制度と日本共産党の立場 志位委員長に聞く』、2019年6月4日
https://www.jcp.or.jp/web_policy/2019/06/post-807.html

(7)日本共産党、日本共産党綱領、2020年1月18日
https://www.jcp.or.jp/web_jcp/html/Koryo/

(9) 日本共産党、『新天皇即位の賀詞と、天皇の制度について 記者会見での志位委員長の一問一答』、2019年5月10日
https://www.jcp.or.jp/web_policy/2019/05/post-823.html

*最終アクセス日はいずれも2021年10月18日

運営責任者=瀬川 至朗
調査・記事担当者=酒井春、後藤陽佳、鳥尾祐太

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