「沖縄が米軍基地の70%を負担というのは数字のマジック」は本当か?


対象言説

対象とした言説は、2018年9月3日放送分AbemaPrimeでの竹田恒泰氏の発言、および放送をもとに作られたAbema TIMESのネット記事『竹田恒泰氏「沖縄の基地負担が大きいというのは幻想だ」津田大介氏、森本敏氏らと沖縄問題を議論』である。

番組での発言は次のようなものである。

沖縄だけ特に負担が大きいというのは、私はこれは幻想だと思っていまして、数字のマジックなんですね。つまり、よく言うのは沖縄が70%負担しているって言うじゃないですか。必ずそこの前につくんですけど、米軍専用施設で見ると70%、7割なんですよ。ところがですね、米軍専用施設だけじゃなくて日米共同利用の方が多くて、要するに米軍の関連施設全部で見ると沖縄の比率はですね22.5%しかないんですね。ですからこれは、オール沖縄とか反対とか言っている人たちが上手に数字のマジックをつくったものであって、数字が出ていますから

ソース

https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p593 (実際に放送された番組=2018年9月27日まで動画があることを確認。同10月6日時点では削除されている)

 

この発言のうち、「よく言うのは沖縄が70%負担しているって言うじゃないですか。必ずそこの前につくんですけど、米軍専用施設で見ると70%、7割なんですよ。」「これは、オール沖縄とか反対とか言っている人たちが上手に数字のマジックをつくったものであって、数字が出ていますから」という部分を対象言説とする。

 

なお、この番組内容をまとめたAbema TIMESの記事では以下のような発言となっている。

沖縄の基地負担が大きいというのは幻想で、オール沖縄や基地に反対している人たちが”数字のマジック”で言っているだけだよく沖縄は日本にある基地の70%を負担している”というが、それは米軍専用施設の話であって、実際の基地の多くは日米共同利用。米軍関連施設を全て含めれば、沖縄にあるのは22%程度でしかない。

 

Abema TIMESのこの記事と9月3日の放送での発言とでは、ニュアンスが少し違うところがある。記事では、「よく言われている」という表現の部分が「沖縄は日本にある基地の70%を負担している」となっている。この場合の「基地」は「米軍基地」を想定していると理解されるため、本記事では「米軍基地」と読み替えることにする。また、70%や22%は基地の面積を比較したものであり、施設数の比較ではない。本記事でも面積比について扱うこととする。

 

選定理由

竹田氏の発言と記事は沖縄の米軍基地問題を想定したものであり、2018年9月の沖縄県知事選にも関連する話題であることから世間的な注目度は高いといえる。また、この発言、記事の真偽についてはまだ検証したものが存在しない。発言者の竹田氏は多くのTV番組に出演するなど、人気のコメンテーターであるため発言が世間に対して及ぼす影響力も大きいと思われる。

 

判定
「沖縄は日本全体にある米軍専用施設のうち70%を負担している」【正確】
「沖縄は日本にある米軍基地の70%を負担しているというのは、オール沖縄や基地反対している人たちが“数字のマジック”で言っているだけだ」【誤り】

 

判定理由
言説①「沖縄は日本全体にある米軍専用施設のうち70%を負担している」

まず、最初に理解しなくてはならないのは、「米軍専用施設」と「日米共同利用施設」の違いである。「米軍専用施設」というのは、日米地位協定の第2条1-aと第2条4-aに規定される、米軍が管理する施設のことである。一方、「日米共同利用施設」というのは日米地位協定の第2条4-bに規定される、自衛隊が管理しているが米軍が期間を限定して利用できる施設のことである。こちらは、自衛隊基地などを米軍が一時的に利用することを意味する。

竹田氏の発言の通り、全国にある「米軍専用施設」を対象としたとき、沖縄にあるものは約70%(面積比)である(1)。一方、「米軍専用施設+日米共同利用施設」を対象としたとき、沖縄にあるものは約19%(面積比)となる(2)。これらの数字は沖縄県もほぼ同じものを出している(3)。竹田氏の指摘した数字は、両方ともに根拠はある。したがって、言説①「沖縄は日本全体にある米軍専用施設のうち70%を負担している」は正しいと判定した。

 

言説②「沖縄は日本にある米軍基地の70%を負担しているというのは、オール沖縄や基地反対している人たちが“数字のマジック”で言っているだけだ」

この発言は一般に以下のような意味として受け止められる。「沖縄の米軍基地について語るとき、本来は22.5%という数字を使うべきなのに、基地反対の人たちが70%と言い続けることで本来有用ではない数字を刷り込もうとしている」。

まず、翁長前沖縄県知事の支援組織として作られた「オール沖縄」がどう語っているかをみてみる。オール沖縄のホームページには「日本の米軍基地の約74%が沖縄に集中しています」と書いてある(4)。これは2016年の米軍専用施設の面積比と思われ、2017年には70%になっている。この表現をみれば、竹田氏の、オール沖縄は米軍基地の負担として70%と言っている、という指摘は正しい。ただし、今回の知事選でオール沖縄が支援した玉城デニー候補は、今年9月の沖縄県知事選立候補予定者討論会(沖縄県政記者クラブ主催、2018年9月11日)で、米軍基地の負担について、「米軍専用施設」という表現を用いて、次のように発言している(5)。

 

私は日米安保を認めている立場ではありますが、この偏重な、いわゆる日本国民やあるいはたとえば沖縄県民に過重に負担をかけすぎ、さらには地位協定のその大きな被害、害をこうむっているのが、0.6%の面積に70%余りの米軍専用施設が置かれている沖縄県には、本当に、比較してもかなり大きな数字であると思います。(34:49)

 

米軍専用施設が70%集中していることが沖縄県民に過重な負担となっているという指摘だ。辺野古基地建設に反対の人がすべて「米軍専用施設」を「米軍基地」という表現にしているという事実はない。

 

防衛白書と全国知事会は沖縄の基地負担の数字として70%を使用

 

沖縄の米軍の状況については、『防衛白書平成29年版』では以下のように記している(平成30年版も同様の記述)。

 

沖縄県内には、飛行場、演習場、後方支援施設など多くの在日米軍施設・区域が所在しており、17(同29)年(注=2017年、平成29年のこと)1月末時点でわが国における在日米軍施設・区域(専用施設)のうち、面積にして約70.6%が沖縄に集中し、県面積の約8%、沖縄本島の面積の約15%を占めている。このため、沖縄における負担の軽減については、前述の安全保障上の観点を踏まえつつ、最大限の努力をする必要がある。(6)

 

在沖米軍専用施設の面積であることを明確にしたうえで、70.6%という数字をもとに、米軍施設の集中と負担軽減努力を明記している。政府が、沖縄の米軍基地負担を米軍専用施設の数字で語っているのは明白である。

もう一つ、全国知事会の「米軍基地負担に関する研究会」は2018年8月14日に「米軍基地負担に関する提言」を外務省と防衛省に提出している(7)。日米安保条約の重要性を認識した上で、日米地位協定の見直しや基地の整理・縮小・返還の積極的推進を求めている。研究会での確認事項として、航空機騒音、米軍人等による事件・事故、環境問題などが基地所在自治体の負担になる側面があると指摘している。また、沖縄県について特に言及し、「沖縄県における米軍専用施設の基地面積割合は全国の7割を占め、依然として極めて高い」と書いている。

上記のように、沖縄の米軍基地負担として、政府も全国知事会も、米軍専用施設の面積比(約70%)を挙げて説明している。よって、米軍基地負担として米軍専用施設の面積比を用いることは基地反対派の「数字のマジック」ではない。言説②は誤りと判定した。

 

日米共同利用施設の利用状況は

 

ファクトチェックは以上だが、補足として、竹田氏の発言を読むと、米軍基地の負担という点では、本来は、米軍専用施設の70%よりも、日米共同利用を含めた22.5%(最近の数字は19%)の方が有用だという考え方である。この点を考えるには、共同利用施設の利用状況を調べる必要がある。

2016年3月24日の琉球新報の記事『<沖縄基地の虚実6>「年1日使用」も合算 「常駐」施設74%、沖縄に』(8)によると、日米共同利用施設(自衛隊施設)での米軍の2014年度の年間使用日数は30日未満がほとんどで、中には数日の事例もあった(55日が最高)。琉球新報が防衛省に問い合わせて得た回答をまとめたものだ。

一方、米軍専用施設である沖縄の嘉手納基地ではほぼ毎日、米軍による飛行が行われている。米軍専用施設の周辺住民の負担は、明らかに共同利用施設の周辺よりも大きいと言いえる。

日米共同利用施設では、地元との間に、年間に米軍が使用できる日数を地元の自治体との間に結ぶことが多い。例えば、北海道千歳市にある航空自衛隊千歳基地では、「共同訓練の期間は、訓練1回あたり約3日から20日まで、年60日以内とする」と定められている(「米軍再編にかかる千歳基地への訓練移転に関する協定」(9))。

 

このような利用状況は沖縄の米軍専用施設とは大きく異なるため、22.5%は根拠のある数字ではあるものの、沖縄の基地負担を考える上ではあまり有用な数字でないと考えられる。

 

資料

(1)防衛省ホームページ「在日米軍の施設・区域(専用施設)都道府県面積」

(2)防衛省ホームページ「在日米軍の施設・区域(共同使用施設を含む)別一覧」

(3)沖縄県のホームページ「沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料集)平成30年3月 Ⅰ基地の概況 1総括」

(4)オール沖縄会議 「正しい情報を手に入れよう!」 その1

(5)沖縄県知事選立候補予定者討論会(沖縄県政記者クラブ主催、2018年9月11日)

(6)『防衛白書 平成29年版』第II部 第4章 第3節「在日米軍の駐留」

(7)全国知事会 米軍基地負担に関する研究会「米軍基地負担に関する提言」(2018年7月27日)

(8)『<沖縄基地の虚実6>「年1日使用」も合算 「常駐」施設74%、沖縄に』(琉球新報2016年3月24日)

(9)「米軍再編にかかる千歳基地への訓練移転に関する協定」

 

(注)ウェブの閲覧は2018年10月6日までにおこなった。

 

運営責任者:瀬川至朗

調査・記事担当者:船本潤平

なお、このファクトチェック記事の作成にあたってはNPO法人ファクトチェック・イニシャティブ(FIJ)のサポートを受けた。