ふるさと納税 自治体依存度マップを作成 ―― 北と南に「高」の地域


「ふるさと納税で日本を元気に!」。総務省が運営するふるさと納税ポータルサイトのキャッチコピーである。

ふるさと納税とは、生まれた故郷や応援したい自治体に「寄付」することで本来払うべき住民税・所得税が控除され、地域の特産物などを「返礼品」として受け取ることができる制度だ。総務省のデータによると、2022年度には全自治体の受け入れ寄付件数が4400万件を突破し、寄付額は総合8300億円を超えた*1。

人口の減少などで税収が増える見込みが立たない自治体にとって、ふるさと納税は救いとなる増収策である。そこで全国1,747市区町村の歳入におけるふるさと納税が占める割合を調査し、ふるさと納税への依存の度合いを明らかにした。(担当 = エディソン静蘭、西村玲、菊池朋香、小池春都)
トップの画像は、ふるさと納税依存度マップとゼミ担当教員が撮影した写真を組み合わせたイメージ画像です。本文の内容とは関係ありません。

 

可視化ツール『Flourish』で地図形式に

少し古くなるが、今回は総務省の「令和2年度(2021年度)市町村別決算状況調」から、全市区町村の歳入額・ふるさと納税寄付額のデータを取得し、歳入に占めるふるさと納税の割合を算出した。データをビジュアル化するツール『Flourish』を用い、日本地図形式に表した結果が以下である。

地図上でカーソルを動かすと、その位置にある市町村の依存度合いがパーセントで表示される。また、左上の検索欄に市町村名を入れると地図上の位置に依存度合いが同じく表示される。スマホやタブレットでは日本地図を拡大することが可能で、隣接する各自治体の色合いの違いを細かくみることができる。

 

図1.  総歳入に占めるふるさと納税額の割合(%)

歳入の平均:44,514,995(単位:千円)

ふるさと納税額の平均:378,031(単位:千円)

全国平均%=1.82%

 

歳入に占めるふるさと納税の割合が高いほど色が濃く写り、低いほど色は薄くなっている。一部灰色となっている地域はデータ不足によるものであり、値が存在しないため0となっているため考えないものとする。

 

北海道、九州に依存度高の地域

この地図を見ると、北海道や九州で色の濃い地域が目立つ。特に濃く表れているのは北海道白糠町・北海道紋別市・宮崎県都農町・鹿児島県大崎町などで、自治体の知名度と比例しているわけではない。

以下が自治体別に算出した歳入に占めるふるさと納税の割合ランキング上位10地域である。

 

表1.  ランキング上位10自治体

ランキング 自治体名 歳入/ふるさと納税の割合
北海道白糠町 49.15%
北海道紋別市 33.13%
高知県芸西村 33.07%
佐賀県上峰町 33.04%
鹿児島県大崎町 32.75%
宮崎県都農町 32.28%
北海道根室市 30.62%
北海道弟子屈町 29.89%
和歌山県北山村 28.15%
10 和歌山県湯浅町 24.04%
首都圏などは総じて低い依存度

一方で、首都圏や政令指定都市などの大都市は色が薄い。事実、首都圏を含む27もの自治体が、今回の割合調査で0%(四捨五入後の割合が0.00%)の値を記録した。以下がその自治体名である。0の値を取る自治体の約半数が首都圏である。

 

表2.  割合が0の自治体

埼玉県越谷市 埼玉県滑川町 東京都千代田区
東京都大田区 東京都中野区 東京都豊島区
東京都北区 東京都荒川区 東京都板橋区
東京都立川市 東京都小平市 東京都福生市
東京都東久留米市 東京都瑞穂町 東京都日の出町
神奈川県横浜市 新潟県刈羽村 静岡県長泉町
愛知県刈谷市 愛知県大治町 愛知県飛島村
滋賀県野洲市 京都府長岡京市 兵庫県香美町
兵庫県播磨町 奈良県上牧町 広島県広島市

人口による収入と同程度の寄付額を得る自治体もあれば、反対に寄付額が無いと同義な自治体も存在する。しかし、地図に濃い部分がパラパラと点在することから分かるように、全体的には割合が高水準な自治体が特異な存在だ。以下のグラフ1は、割合を元に作成した「全自治体数と算出した割合のヒストグラム」である。全自治体に占める割合が5%未満であった自治体は1557地域にも登った。5%以上50%未満の自治と比較して、その差は歴然である。さらに割合が5%未満の自治体の中でも、特に0.1%以上1.0%未満の自治体が多いことがわかった(グラフ2を参照)。

画像1

図2.  全自治体数と算出した割合のヒストグラム(n=1717)

 

画像2

図3.  割合が5%未満の自治体に限定したヒストグラム(n=1557)

 

 地図から判明したように、自治体間の寄付額の差は大きい。色が濃い自治体と色が薄い自治体について、それぞれ情報を調べてみた。

 

寄付金で育児・教育などの支援事業を拡大した自治体

今回作成した地図で最も色が濃く表れている自治体が北海道白糠町だ。隣接する地域はいずれも1%に満たない数値を示し、その差は顕著だ。白糠町は魅力的な返礼品を送付することによって、ふるさと納税事業で奏功した。制度の開始である2008年、白糠町の寄附金額はわずか194万円であった。しかし2015年からその流れは変わる。いくらやサーモンなどの海産物を返礼品として提供し始めると、約7000件、およそ1.6億円もの寄付が集まった。その後も寄付金額は増加を続け、2021年には約84万件、およそ125億円もの寄付が集まった*2。 こうして集まった寄付金は、教育や文化・インフラ整備といった選択肢の中から寄付者自身が使い道を指定することできる。白糠町のホームページでは「子育て応援日本一の町」というキャッチコピーのもと、育児や教育の支援事業に注力していることがわかる*3。

このような成功体験は和歌山県北山村・高知県芸西村も同様だ。いずれの自治体も歳入の約3割をふるさと納税による寄付金が占めている。これらが他と違っている点は、周辺地域に同じ程度高い割合を占める自治体が存在しないことだ。そのため、ポツンと色の濃い北山村と芸西村は地図上で特に目立つ。いずれの自治体にも共通する点は、人口の少なさと周辺地域から差別化された返礼品だ。

北山村は和歌山県北部に位置する、人口約450 人の小さな村である。実は北山村は全国唯一の飛び地であり、隣接する自治体は全て三重県と奈良県だ*4 。これら周辺地域も含め、ほとんどの自治体は返礼品として名物紀州南高梅や名産品のみかんを送っている。しかしその中で、北山村の特色は「じゃばら」だ。じゃばらとは北山村で発見された柑橘系の果物の一種であり、北山村で唯一自生し定着してきた。飛び地ゆえに交通の便が悪く、以前は販売実績が伸び悩んでいた。しかし、インターネット上での販売が可能になると、売り上げは飛躍的に増加する*5。そして現在では、ふるさと納税の返礼品として人気を博すようになった。

高知県芸西村も同様に人口約3,600人の小さな村であり、公式HPの「小さくても元気に輝くむら」というキャッチコピーが特徴的だ*6。高知県の返礼品ランキングで上位に名を連ねるのはカツオだ*7 。高知県はカツオの消費量が全国一位であり、カツオのたたきは高知県の代表料理である。多くの自治体が一般的なカツオやカツオのたたきを返礼品とする中、芸西村が販売していたのは「訳あり」カツオのたたきだ。「訳ありだから、美味しいカツオのたたきをより得して食べられるだろう」。こうした消費者の心理を利用した戦略で、他の自治体とは違ったアピールポイントだ。

こうして周辺地域との差別化を図り、多くの寄付金が集まる。北山村では、寄付金は福祉や観光事業、じゃばらを守る事業のため有効に活用されている。芸西村においては、特に教育・子育て分野、医療・福祉分野共に6千万円超えが活用された*8。

 

支援事業を拡大した自治体の裏で

調査を進めていく中で、32.28%という全国でも6番目の数値を記録した宮崎県都農町が令和5年1月時点で制度から除外されていることが発覚した。都農町は宮崎県県央部に属し、大自然を生かした野菜や果物、畜産物などが生産されている*9。自然の恵みを存分に生かし、尾鈴ぶどうを原料とした都農ワインや宮崎牛が返礼品として送られていた。

では、なぜ都農町はふるさと納税制度から除外されたのか。きっかけは宮崎牛であった。法律上返礼品は「寄付額の3割以下」と定められていたが、規定を超える額の返礼品を送ってしまったのである。返礼品への申し込みが殺到し、予定していた受託業者が対応できなくなってしまったことが原因だった*10。こうして都農町はふるさと納税の対象自治体としての指定が取り消された。

ふるさと納税には「過度な返礼品で寄付を集めてはいけない」という前提がある。この事例は納税者への返礼品対応に追われたことによって起こってしまった問題だ。しかし結果として規定を破ってしまった。指定が取り消された都農町の予算は、前年度比で43%の減少となった。

こうした規則の逸脱からふるさと納税としての指定取り消し処分を受けた自治体は都農町だけではない。⾼知県奈半利町、兵庫県洲本市も同様に、寄付額の3割を超えた返礼品を送ったことで指定取り消しとなっている*11。こうしてふるさと納税は、突如予算が消える事態に発展する可能性をはらむ。

 

東京都内でふるさと納税を充実させる区も

表2で示したように、割合が0を記録した自治体の約半数が首都圏であった。東京都に関しても、いずれも0%に近い値を示す。八丈町の3.03%が最大であり、次点が墨田区で0.5%だ。この原因として、元々東京23区は人口によって税収が確保されていることが考えられる。そのためふるさと納税に積極的でなく、返礼品競争に参入しない姿勢も目立った。

ところが最近では、方針を変更して返礼品を充実させる自治体も出てきている。これはふるさと納税による税収流出額が年々増加し、2022度の流出額が都全体で571億円に登ったことが関係している*12。そこで、返礼品を用意してPRを始める自治体が都内でも出てきているのだ。

今回の調査で割合が0.5%と、離島を除いて都内で最も大きい墨田区は、ふるさと納税に関する取り組みを早々に強化した自治体の一つだ。江戸切子のグラスや東京スカイツリーレストランで使える食事券など、墨田区ならではの返礼品が連なる*13。墨田区のリーフレットには具体的な使途が記載され、「墨田区を応援する」というふるさと納税本来の目的を達成しているように見受けられる*14。

 

調査から見えたふるさと納税の現状とは

地図からも分かるように、都市部よりも地方部の方がふるさと納税の恩恵を受けている。各自治体の個性ある取り組みによって新たな魅力が発信され、自治体を活気づけるのに一役買っていることは間違いない。また地方部の人口減少による税収の厳しさを鑑みると、「都市部には薄い地域が、地方部には濃い地域が多い」という地図の結果はふるさと納税の正解のように見受けられる。しかしその一方で、東京23区をはじめとする地方交付税不交付団体は深刻な税流出に悩まされ、声明を出す事態にもなっている。例えば東京都は「『ふるさと納税』には様々な問題があることから、東京都は、『ふるさと納税』に参加しておらず、国へ制度の見直しを求めています」と記す*15。 またふるさと納税で成功するためには、名産品や名物に加えて、本稿で述べてきたような各自治体のプロモーション戦略が重要だ。各自治体が競い合ってふるさと納税に注力することは、寄付者の居住地域の公共サービスの質の低下につながる可能性もはらんでいる。さらに宮崎県都農町のように、ふるさと納税制度から除外される危険性も存在する。

「ふるさと納税で日本を元気に!」。そのキャッチコピーに相応しい対価を得る自治体は、どのくらいあるのだろうか。

 

脚注

*1総務省「ふるさと納税に関する現況調査」

https://www.soumu.go.jp/main_content/000827748.pdf

*2 ふるさとチョイス、白糠町

https://www.furusato-tax.jp/city/info/01668

*3 白糠町ホームページ「令和3年度ふるさと納税の主な活用事業」https://www.town.shiranuka.lg.jp/section/kikaku/h8v21a000000jqgb.html

*4 北山村ホームページ「ふるさと納税・企業協賛」

https://www.vill.kitayama.wakayama.jp/furusato/

*5 北山村観光サイト「じゃばらの販売実績」

https://www.vill.kitayama.wakayama.jp/kanko/jabara/sales.html

*6 芸西村ホームページより

http://www.vill.geisei.kochi.jp/index.php

*7さとふる「高知県のふるさと納税 人気お礼品ランキング」

https://www.satofull.jp/products/ranking.php?s4=39

*8芸西村「令和3年度の寄附金の実績」

http://www.vill.geisei.kochi.jp/pages/furusato.php

*9 ふるなび 「宮崎県都農町」

 https://furunavi.jp/municipal_single.aspx?municipalid=1651

*10 日経ビジネス「宮崎県都農町、ふるさと納税の対象から除外 返礼品『ルール逸脱』」

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00115/00169/#:~:text=%E9%83%BD%E8%BE%B2%E7%94%BA%E3%81%AF%E7%9C%8C%E5%A4%AE,%E3%81%AE%E3%81%8C%E3%81%B5%E3%82%8B%E3%81%95%E3%81%A8%E7%B4%8D%E7%A8%8E%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

*11 ふるさと納税総合研究所「『レポート』ふるさと納税制度「指定取り消しとなった自治体」に関する当社なりの見解をまとめました。」

https://fstx-ri.co.jp/news/178

*12 東京新聞「ふるさと納税 東京23区からも返礼品攻勢 区民税流出、計708億円「背に腹は代えられない…」

https://www.tokyo-np.co.jp/article/231331

*13 ふるなび「東京都墨田区」

https://furunavi.jp/Municipal/Product/Search?municipalid=635

*14 墨田区「すみだの3つの地域応援プロジェクト リーフレット」

https://www.city.sumida.lg.jp/kurashi/volunteer/furusatonouzei.files/PR.pdf

*15 東京都主税局 「ふるさと納税に対する東京都の見解」

https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/furusato/index.html

※2023年12月22日までにアクセス。