【ファクトチェック】「日本人への奨学金予算が70億」という画像はミスリード。22年度予算と誤認する可能性


トップの画像はTwitterより
対象言説

「日本人への奨学金予算が70億で国費留学関係の予算が180億円」というテロップがつけられた小野田紀美参院議員(自民党)の発言に関する画像がTwitter上で拡散された。2022年6月14日に投稿されたツイートには、この画像とともに「私もう税金払いたく無い」というコメントが添えられている。ツイートは、7月1日時点で1.5万リツイート、6.1万いいねを獲得している。画像には「参院決算委 2022年6月13日」というテロップも付いており、読んだ人が、小野田議員の示した金額は2022年度予算だと受け止める可能性が大きい。

 

私もう税金払いたくない

(Twitterより)

今回は「日本人への奨学金予算が70億で国費留学関係の予算が180億円」という予算金額は正しいのか、それは2022年度のものなのか、について検証する。

選定理由

先述した通り、画像はTwitter上で広く拡散されている。また、ツイートに対して「金返せ」「これ…何年間この状態なんですかねぇ。ゾッとしますけど。」など画像を見た人の多くが、予算額の比率に疑問を抱いている。一方、「これ、平成29年度の予算です。令和4年の日本人学生への支援は2525億に増えてます!」という指摘もあった。

7月10日に投開票が行われる2022年度参議院選挙には、小野田参院議員も出馬しており、選挙戦への影響は大きい。そのため当該言説について検証することにした。

判定
日本人への奨学金予算が70億=ミスリード
判定理由
小野田議員は「2017年度の数字」として紹介

画像左上のテロップから、発言の出所は2022年6月13日の参議院決算委員会と考えられる。「立憲民主党 国会情報」というYouTubeチャンネルに同委員会の動画がアップされており、確認作業をおこなった。

動画では、小野田参院議員が「平成29年度の決算(発言ママ=編集部注)は、日本人への奨学金の給付型、これの予算が70億で、国費留学関係の予算が180億円だった。(中略)これ今は変わっていますでしょうか」と質問している(1)。(該当部分は1時間15分19秒〜)。小野田議員は、70億などの金額を2017年度(平成29年度)の数字として紹介していた。しかし、拡散されている画像のテロップには、「平成29年度の」という部分がなかった。

給付型奨学金予算は17年度の70億円が22年度は2525億円に

それでは、70億円と180億円という数字は2017年度のものなのか。文部科学省の資料を調べてみると、2017年度は給付型奨学金制度が創設された年で、予算額は70億円だった⁽²⁾。また、給付型奨学金制度の2022年度(令和4年度)の数字を財務省のHPを確認すると、予算は2525億円と大幅に増額されていた⁽³⁾。こうした予算額は、6月13日の小野田議員の質問に対する文科省の増子宏氏(高等教育局長)の答弁の数字と同じだった。

「国費留学関係の予算が180億円」は正しい

もう一つの「国費留学関係の予算」とは、国費外国人留学生制度に充てられた予算だと推測される。文科省の資料によれば、21年度予算額で184億円、20年度予算額で185億円であった⁽⁴⁾。文科省の増子氏は6月13日の答弁で「外国人留学制度につきましては、平成29年度の決算額が約180億円だったところ、令和2年度の決算額は155億円、令和4年度の予算額は184億円となっている」と答弁している⁽⁵⁾。(該当部分は1時間15分45秒〜)これらの点から、国費外国人留学生制度の予算額は、ここ数年180億円前後であまり変化がないといえる。

以上より、日本人への給付型奨学金の予算額は2017年度の70億円から22年度には2525億円に拡充されていた。一方、外国人留学生制度は17年度(決算額)から22年度(予算額)にかけて180億円前後だった。とくに日本人への奨学金でみると、画像の字幕の数字は2017年度のものであり、22年度ではない。しかし、画像には「2017年度」の文字が入っていないため、22年6月13日時点の給付型奨学金予算が70億円といった誤解を招きかねない。

「平成29年度(2017年度)」を切り取った別の動画が誤解の原因に

今回対象とした画像の元となる動画がないかをTwitterのキーワード検索(小野田 70億)で調査した。すると、同様のテロップ加工がされた動画を添付している別アカウントのツイートが見つかった。投稿日時は対象ツイートより一日早い6月13日午後6時4分。ツイートには「なお今日のダイジェスト(ニュース番組風に)」というコメントが添えられている。7月1日時点で3207リツイート、7678いいねを獲得している。

 

今日のダイジェスト

(Twitterより)

この動画をみると、参院決算委のやり取りが所々削除されながら、短くまとめられている。小野田参院議員の発言の「平成29年度」の部分も削除されており⁽⁶⁾、左上のテロップに2022年とあることから、22年度予算との誤解を与える編集になっていた(該当部分は24秒〜)。この動画の切り取りが原因で、70億円は17年度(平成29年度)の数字という認識がないまま、「日本人への奨学金予算が70億」と書かれた画像が再拡散され、誤った認識をネット上で広げている。

したがって、「日本人への奨学金予算が70億」という画像はミスリードであると判定した。

脚注

⁽¹⁾立憲民主党 国会情報、「2022年6月13日 参議院 決算委員会」、2022年6月13日、

https://www.youtube.com/watch?v=9waJI9XdAfQ

⁽²⁾文部科学省、「平成29年度文部科学関係予算(案)のポイント

https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11293659/www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2017/01/12/1381131_01_1.pdf

⁽³⁾財務省、「令和4年度文教・科学技術予算のポイント」

https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202203/202003f.html

⁽⁴⁾文部科学省、「留学生交流に係る最新状況と令和3年度関連予算案について」

https://www.mext.go.jp/content/20210326-mxt_gakushi02-000013769-01.pdf

⁽⁵⁾立憲民主党 国会情報、「2022年6月13日 参議院 決算委員会」、2022年6月13日

⁽⁶⁾Twitter、「なお今日のダイジェスト(ニュース番組風に)」、2022年6月13日

https://twitter.com/arc954/status/1536273402507702273?s=20&t=AhVm4Sh8VxEDSZqKig69tg

 

*最終アクセス日はいずれも2022年7月4日

 

運営責任者=瀬川至朗
調査・記事担当者=落合俊、山田彩愛、杉江隼

 

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