無料児童預かり所で子どもたちの未来をー早稲田とSDGsー

2021年9月19日2021年10月25日 Editors4

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「面白い保育園がない」が出発点
自分たちの取り組みがSDGsと合致
「いいことやってるね」と言われるのだが・・・
時間がかかっても全国展開は諦めない

2021年1月、高田馬場駅から徒歩10分の場所に位置するビルの9階に日本初の無料児童預かり施設「SAFE HAND’s COMMUNITY HOUSE（以下SHC）」[i][ii]が設立された。SHCは、4歳から中学生までを対象に月曜日から土曜日の15時から21時まで開かれている。現在、SDGs （持続可能な開発目標）の目標を掲げ、クラウドファンディングに挑戦しているSHC。その取り組みについて理事の下里真里さんを取材した。（取材・執筆・写真＝後藤陽佳）

トップ写真はSAFE HAND’S COMMUNITY HOUSEの子どもたちの様子＝2021年6月23日後藤陽佳撮影

「面白い保育園がない」が出発点

自身も2児の母親である下里さんは、子どもを預ける保育園を探していた際、「面白い保育園がない」と感じた。カリキュラムが徹底され、園児たちが幅広い経験を享受できない状態に不満を抱いた。以前から保育園不足や待機児童の課題に関心があったこともあり、自分の手で教育施設を増やしたいと考えるようになった。

下里さんの知り合いだった現SHC代表の橘マリーさんは、歓楽街を歩き回る中高生や行き場のない子どもたちのシェルターを作りたいと考えていた。また、自身が運営してきたスナックやエンターテイメントレストランで、妊娠や育児により今までの仕事を辞め、築いたキャリアをゼロにして働く女性を多く目にしてきた[iii]。2人は試行錯誤の末、生活困難な家庭の子どもを無料で預かり、女性の地位も確立できる社会を目指すため、SHCを作ろうと決めた。

SHCではただ無料で子どもを預かるだけではなく、食事の無料提供や人件費削減により解雇されてしまった料理人を招き、子どもたちに料理や栄養について教えている。シルクドソレイユに所属していた方からのダンスの指導、ALT（外国語指導助手）による英語の授業もある。

3歳と4歳のお子さんを施設に預けている母子家庭の母親は「SHCに通って自分の時間ができ、家族の時間がより大切な時間になった」と微笑む。

スタッフに手伝ってもらいながら夜ごはんを食べる子どもたち＝2021 年6月23日、後藤陽佳撮影 — スタッフに手伝ってもらいながら夜ごはんを食べる子どもたち＝2021
年6月23日、後藤陽佳撮影

自分たちの取り組みがSDGsと合致

下里さんにとって無料児童預かり施設の運営は初めての挑戦であり、資金集めはなかなかはかどらなかった。それ以降、SDGsと照らし合わせて取り組みを発信し、17のアジェンダのうち「貧困をなくそう」「質の高い教育」「ジェンダー平等」の3つを掲げている。活動をSDGsの各項目に当てはめることで、SHCの活動が分かりやすく世の中に伝わるようになった。スタッフ間でも目標が可視化され、働きやすくなったという。

「教養や経験値は確実に子どもたちの身についていると実感している、（SDGsを）意識するようになって良かった」と下里さんは話す。

「いいことやってるね」と言われるのだが・・・

SDGsを謳うようになってから外部からの反響は増えた。取材が増え、世間からの注目度も上がっていると感じる。「いいことやってるね」と言ってもらうことも増えた。しかし、口では賞賛してもらえるものの資金支援は増えていないのが現状だ。支援金が劇的に増加した、手を貸してくれるスタッフやスポンサーが集まったなどということはない。

人員面や資金面での支援なしに活動を続けるのは難しい。いかに多くの人が見返りを求めずに支援するかは、SDGsの抱える課題だ。

時間がかかっても全国展開は諦めない

今後、SHCは全国展開を目指しているが、「来年第2施設を設立できるかと問われたらそうではない」という。全国でこのような児童施設を求めている声は上がっている。そのために、早稲田の施設で成功を収めなければならない。このまま無料でいいのか。コミュニティーメンバーの少なさ、ボランティアスタッフとの関わり方など課題は多い。それでも「運営方法を模索し続けながら、全国展開を目指したい」と下里さんは力を込める。

SDGsとは
SDGs（Sustainable Development Goals：持続可能な開発目標）とは、2001年に策定されたMDGs（ミレニアム開発目標）の後継として、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のこと。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない（leave no one behind）」ことを誓っている。（参照：外務省 ”SDGsとは？”、https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html、最終閲覧：2021年8月22日)