風格と癒しを残したい 金澤町家 <ゼミ合宿シリーズ②>


 

城下町金沢の街を歩く。武士のひざ元に栄えた茶屋街では町家づくりの伝統的建造物が誇らしげに立ち並び、まるでその繁栄を表すような金箔で包まれたソフトクリームを観光客が珍しそうに眺める。北陸新幹線の開通から一年以上経過した今も観光地としての人気は絶大だ。中でも、金澤町家は昭和25年以前に建てられた昔ながらの建物で、金沢の風格ある街並みには欠かせない。しかし、その数は年々減少している。ひとつでも多くの金澤町家を残すため、金沢ではさまざまな保全活動が行われている。(写真・文:池田百花、清水郁)

 

金澤町家とは

金沢では昭和25年(1950年)以前に建てられた歴史的な建物をまとめて金澤町家と呼んでいる。そのため、一般的に町家と呼ばれるものだけでなく他の建築様式をとるものもその中に含まれている。「町家」のほかに「武士系住宅」「足軽住宅」「近代和風住宅」の建築様式を有するものも金澤町家と呼ばれる。現在5800軒あるとされているが、その数は年間200~300軒も減少しているという(金沢市の平成28年現在の世帯数201407軒中、金澤町家の割合は2.8%)。このままいくと30年以内にすべてなくなってしまうことになる。想像以上に早いペースで取り壊されていっているのだ。

 

まいどさんが語る金澤町家

観光地として有名なひがし茶屋街に、町家の建築様式で復元したひがし茶屋休憩館という建物がある。そこで私たちは「まいどさん」と呼ばれる観光ボランティアガイドの方々に出会った。彼らはボランティア大学という金沢市が行っている講習を修了した後にまいどさんとして活動しており、ひがし茶屋休憩館を含め金沢市内の3ヶ所に常駐している。現在はその数300人を超えているそうだ。

定年退職後に金沢に移り住みボランティアガイドを始めたという大平敏さんにお話を伺った。町家は店舗兼住居として使われていたもので、土間があることや道路に広く面していることが特徴だ。それに加え、金沢の町家の代表的な特徴として「キムシコ」という格子がある。それは格子の断面が台形になっており外から中が見えにくい構造になっているという。また、足軽のような身分の低い者の家であっても長屋ではなく一戸建てであったり袖壁がしっかりしていたりと、町家から加賀藩の財力を窺い知ることができると大平さんは教えてくれた。

 

いかにして町家を残していくか

長町武家屋敷休憩館のまいどさん(中央が俵さん)
長町武家屋敷休憩館のまいどさん(中央が俵さん)

武士系住宅や足軽住宅が立ち並ぶ長町武家屋敷では、俵政昭さん(73)が江戸時代の地図と現在の地図を照らし合わせながら長町の変化について説明してくれた。俵さんもまた「まいどさん」として活動するボランティアガイドの一人だ。

金澤町家が多く残る長町だが現在一般に公開されているのは一軒のみで、その他は一般の人が住居として使用している。しかし、その数も年々減少しており、虫食い状に無くなっていっているという。少しずつ町家が失われることで街並みまでが壊れてしまうことを危惧し、少なくとも外観は残そうと保全の取り組みが行われている。しかし、町家は当然木造であるため外観だけを残すというのも難しい。俵さんは「町家が減っていくのは止められない」としつつも、民間の力も借りながら、いかにリノベーションして残していくかが大事だと語った。

 

 

試し住み、町家ツアー、若い人にも

NPO法人金澤町家研究会は町家の継承と活用を通じた金沢市の魅力ある街並みづくりを目的に8年前に立ち上げられた。学生2人を含む市内関係者70人で金澤町家の魅力を発信し、時には「町家コーディネート事業」としてユーザー(町家購入・賃貸希望者)とオーナー(町家所有者)間の町家の売買を仲介することもある。また「金澤町家巡遊」というイベントでは毎年新しいテーマに基づき、毎日異なる催しを行う。昨年は「町家本来の機能を思い出してもらう」ために応募者12組に実際に一週間の町家住まいを体験してもらった。今年は株式会社ドゥーコミュニケーションズの協力で開発された、当時の町家と現在の町家をCGで比較できる体験ツアーが見どころ。会員で金沢大学に通う大学3年生の竹村雛さんは「町家の温かい雰囲気が好きでよく友達と町家カフェに行きます。もう少し学生に町家に興味を持ってほしい」。

 

金澤町家研究会(金沢市彦三町)
金澤町家研究会(金沢市彦三町)
金澤町家研究会(金沢市彦三町)、CGで現在と昔の街並みを比べる
CGで現在と昔の街並みを比べる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市民との認識すれ違うむずかしさ

 

左から竹村さん、栗田さん(株式会社ドゥーコミュニケーションズ代表取締役)、古村さん
左から竹村さん、栗田さん(株式会社ドゥーコミュニケーションズ代表取締役)、古村さん

活動は徐々に知名度も上がり、町家の売買マッチングはこの6年間で21軒成立させた。会員の古村尚子さんは「必ずしも古いままで住む必要はない。現代に合わせて改築することでより住みやすくなる」と考え、持ち主の相談を受けながら解決策を提案する。

しかし設立当初は町家に住む市民との認識のずれに頭を抱えることもあった。「町家ツアーの見学依頼に対し、『もうすぐ取り壊すから』とか『うちは見学施設ではない』と言われることもありましたね。それでもうちの活動を見てもらい、趣旨を理解していただいた後、その方から取り壊し予定の町家を残すことにしたと連絡があったときはやりがいを感じました」。

わけあって町家を手放す人、町家に住んでみたい人。双方の気持ちに寄り添ってひとつひとつの町家を守っていく。「さりげないところにこだわりや工夫があるんです。夏は涼しく湿気も少ない。冬は暖房を増築するのもいいけどあえて寒さを楽しんでもいいかもしれませんね。自然の空気に包まれているような癒しが町家の良さです」と町家愛を話してくれた。

町家が失われていく理由のひとつとして現代には合わない建物の造りがある。町家のリノベーションに否定的な意見もあるなか、金澤町家では街並みの保全を第一に考え、現代の暮らしに合わせて住みやすくすることに積極的だった。新しいものと古いものが共存する金沢。その金沢らしさが町家の保全にも表れていた。

(この記事は2016年9月の取材をもとに作成しました)

 

参考URL

・金沢市観光協会 金沢旅物語 観光ボランティアガイド

http://www.kanazawa-kankoukyoukai.or.jp/access/info_guide.php

・金澤町家巡遊 http://kanazawa-machiya.net/mj/

・歴史パノラマCGツアー(株式会社ドゥーコミュニケーションズ)  http://do-vr.com/

・NPO法人金澤町家研究会 http://kanazawa-machiya.net/