QRコードや通行証 感染者少なくても本格的対策 ― 中国人早大生に聞いた上海とコロナ


新型コロナウイルスは当初、中国の湖北省武漢市において感染が報告され始めた。それ以降、世界中に広まっていったという経緯がある。7月11日時点での中国全体での累計感染者数は8万3000人を超え、累計死者数は4600人を超えた(注1)。当初、世界の注目を集めた武漢以外の地域ではどのような状況だったのか。2月27日に中国に帰国し、春学期は上海の実家からオンライン授業を受けている早稲田大学社会科学部3年の厳圓さんに話を聞いた。(取材・文=吉田七海 写真=厳圓さん提供、©AFP PHOTO/HECTOR RETAMAL)

トップの写真は、上海郊外にある親戚の家を訪問したときの厳圓さん(2020年4月下旬撮影。厳圓さん提供)

 

オンラインの通信回線と東京の部屋が心配

春学期の授業が全てオンライン授業になったことについて厳圓さんは「zoomでやっていた授業はまだいいんですけど、なかなか回線がつながらない」と話す。回線の問題でなかなか見ることができない授業があるようだ。一方で、回線の問題がなければ上海の実家から受講する方が絶対に良いとも感じている。オンライン授業であれば体調や都合に合わせて受けたいときに授業が受けられるからだ。また、日本にいた時に住んでいた部屋をそのままにしていることに不安を感じている。「夢の中で、トイレの中にパイナップルが生えてくる夢を見ました。家がアマゾンになったんですね」と笑い交じりに話してくれた。「東京に帰れるなら帰りたい」。それが今の率直な思いだ。

 

緑・黄・赤のQRコードで感染対策

People wearing face masks amid concerns over the COVID-19 coronavirus outbreak walk along a shopping district in Shanghai on March 20, 2020. (Photo by Hector RETAMAL / AFP)

2020年3月20日、上海の繁華街をマスクを着用して歩く人々=©AFP PHOTO/HECTOR RETAMAL

 

7月11日時点での上海の累計感染者数は約700人と、中国全体の累計感染者数約8万3000人と比較すると少ない印象だ(注2)。中国では3月10日に習近平国家主席が湖北省武漢市を訪問した際に「抑え込み宣言」が出された(注3)(注4)。その後も中国政府として感染対策は継続され、上海でも取り組みが続けられている。その一つとしてITを活用した感染対策について知ることができた。

 

「自分だけのQRコードを持っています。健康だったら緑で、国外や省外に出て戻ったりしたら黄色くなって、本当にコロナになったら赤くなるQRコードです。どこに行ってもこれを見せたり、体温を測ったりします」

 

中国では『アリペイ』という複数のサービスを一つに盛り込んだアプリを用いて「ユーザーの移動履歴や登録情報をもとに緑・黄・赤の健康コードを付与する」サービスが活用された(注5)(注6)。QRコードは主に店に入るときなどに使用するという。

厳圓さんは、日本で本格的に新型コロナが流行する前の2月27日に帰国した。中国ではすでに新型コロナが流行していたが、上海ではPCR検査をせず、書類の記入などの検疫関係の事務作業をすることで入国できたという。入国後は、14日間の自宅待機が必要となる黄色のコードが出た。厳圓さんが帰国した当時は毎朝の体温測定と、共産党組織の居民委員会が募集したボランティアにその報告をすることが求められたという(注7)。当初は厳圓さんのように本人のみが自宅待機を求められていたが、3月17日時点では自宅待機か施設待機のどちらかを選択し、当人が自宅待機をする場合は家族も全員外出できないことになった(注8)。3月28日からは例外を除いて待機場所が指定施設に限られたという(注9)。

家族全員が外出できない状況でも、スマートフォンから野菜や肉なども購入できるため困らない。武漢市ではこのサービスを「ウィーチャットペイ」が提供しているが、上海に住む厳圓さんは「叮咚买菜」といったアプリなどを利用していた(注10)。便利な一方で、新型コロナによる影響もあったという。野菜の価格が高騰し、平時であれば1、2時間ほどで配達されていたところが1日ほど日をまたぐようになった(注11)。購入できる品種も限られていたようだ。

 

コロナ禍で活躍するアパート管理人

「通行証明書を一家に2、3枚配って、これを持って外出し、帰ってくるという感じです」

 通行証というのはアパートに出入りする際に必要なものだ。厳圓さんのアパートでは2月中旬から5月の下旬まで使用していたという。読売新聞によると、この通行証の確認をするのが共産党末端組織の居民委員会が募集した“ボランティア”の住民や警備員」だという(注7)。彼らは社区と呼ばれている。通行証の確認だけでなく宅配荷物の管理や住民の体温チェック、住民が注文した食べ物の配達なども行う。これらの取り組みは各アパートによって異なる。厳圓さんのアパートでは通行証の確認は社区ではなくアパートの管理人が行っていた。

 

上海宅配ボックス画像

アパートの共同玄関に設置された宅配ボックス「丰巢」(写真奥にある設備)。取材時点(2020年6月12日)では感染流行以前のように利用できている=2020年6月に撮影。厳圓さん提供

 

荷物の配達に関しても特徴的だ。新型コロナが流行する以前、厳圓さんのアパートでは「丰巢」という宅配ボックスを利用していた。共同玄関に設置され、ウィーチャットと連動したQRコードで開けることができる。しかし感染流行に伴い「一番ひどかったときはアパート自体に宅配の人が入れないので外の方に傘を立てて、そこに置いてあった」という。この宅配荷物の管理も厳圓さんのアパートでは管理人が行っていた。厳圓さんは管理人と社区の活動は「アパートの上に上がるか」によって違うのではないかと話す。普段は管理人もアパートの住人の部屋を訪ねることが出来るが、新型コロナの影響で感染の危険が伴うため、替わりに社区が訪ねているのではないかということだ。

 

東京ディズニーランドに行きたい

新型コロナが収束したら何をしたいか聞いてみた。

「日本のディズニーランドに行きたいですね。上海のディズニーランドには事前に予約をとったら普通に行けるので。ただし、一緒に行ってくれる友達がいません。みんな留学で外国に閉じ込められています」

取材時点(2020年6月12日)で中国の入国者数の規制は継続していた。中国の航空当局は3月26日、国内外の航空会社に対し、中国と外国とを結ぶ路線を1社1路線、週1往復の運航にすることを求めた(注12)。その方針が6月4日には週2往復まで認めるという方針に変わり、緩和されつつある(注13)。しかし、減便とチケット価格の上昇の影響で、厳圓さんの友人は上海に帰国できずにいるという。日本でもタイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドと緩和に向けて協議を行っている(注14)。中国からの入国制限は続いている。

厳圓さんが東京ディズニーランドに行ける日はまだ先になりそうだ。(インタビューは2020年6月12日、zoomを使ってオンライン形式で行った)

 

参考文献

注1:中華人民共和国駐日本国大使館「新型コロナウイルス感染肺炎の最新状況【7月10日】」

http://www.china-embassy.or.jp/jpn/zt/1324werw/t1797541.htm

注2:Johons Hopkins University Corona Virus Resource Center

https://coronavirus.jhu.edu/map.html

注3:BBC NEWS JAPAN「中国・習主席、新型ウイルス『抑え込み』を宣言 武漢を初視察」https://www.bbc.com/japanese/51829500

注4:中华人民共和国中央人民政府「习近平在湖北省考察新冠肺炎疫情防控工作」http://www.gov.cn/xinwen/2020-03/10/content_5489651.htm

注5:若江雅子(2020.04.09)「[論点スペシャル]新型コロナ対策 通信データ利用」『読売新聞』朝刊、東京版、11頁

注6:杉目真吾(2019.10.11)「東南アジア デジタル市場急拡大 スマホ 社会インフラに」『読売新聞』朝刊、東京版、6頁

注7:田川理恵(2020.05.02)「[コロナ最前線@北京]住宅地に『防疫隣組』 検温 出入り厳格管理」『読売新聞』夕刊、東京版、1頁

注8:在上海日本国総領事館「上海市における隔離措置(変更点と補足)」

https://www.shanghai.cn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_00043.html

注9:在上海日本国総領事館「3月28日から上海でも原則として指定施設での隔離が求められます」https://www.shanghai.cn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_00077.html

注10:東慶一郎、南部さやか(2020.03.23)「武漢『収束』 住民も疑念 新型コロナ 封鎖2か月」『読売新聞』朝刊、東京版、7頁

注11:福田直之(2020.02.12)「中国、食品が急騰 滞る物流『白菜1000円』も 新型肺炎」『朝日新聞』朝刊、3頁

注12:日本経済新聞「中国、国際線は1路線・週1回に 内外航空会社に要求」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57298560W0A320C2EAF000/

注13:日本経済新聞「中国当局、国際線週2往復を容認 米国への配慮も」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59980790U0A600C2910M00/?n_cid=SPTMG002

注14:NHK「入国制限緩和 第1弾はベトナム 今月下旬にも相互入国で調整」https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200615/k10012470921000.html

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中国の新型コロナウイルス感染者数の日別推移(~2020年7月18日、3日間平均)=Our World in Data より
中国の新型コロナウイルス感染者数の日別推移(~2020年7月18日、3日間平均)=Our World in Data より

 

2020年度春学期の瀬川ゼミ演習Ⅰ(3年生のゼミ)では、新型コロナウイルスの問題を取材実習のテーマとし、それぞれリモート取材に取り組んでいます。「海外コロナ事情」と「早稲田とコロナ」という2つの特集企画で記事をお届けします。