ひびきわたる笑い声の中で ~ふかや子ども食堂まめっこの今~


毎月第2・第4木曜日の夕暮れ時。「ママ、いい匂い!」と入口へかけていく子どもや、苦手な食べ物にも挑戦する子ども。そこに家族とボランティアスタッフも加わって、深谷公民館二階の和室は、笑い声が溢れる温かい空間になる―。「ふかや子ども食堂まめっこ」はNPO法人イエローハーツ(注1)によって運営されている。筆者の地元、埼玉県深谷市(注2)にある唯一の子ども食堂だ。離婚率の増加や女性の社会進出による孤食、子どもの貧困などによって、家族で食卓を囲む機会が減ってきている社会状況の中で、子ども食堂が果たす役割とは何なのだろうか。代表理事を務める田中一永(かずえ)さんとまめっこに関わる方々にお話を伺った。(取材・執筆・写真=松本雛)

 

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この日の食事

6月14日木曜日、午後5時30分。この日もまめっこがオープンした。参加人数は子ども28人、大人24人(うち見学2人)、スタッフ16人の計68人にのぼる。調理を一手に引き受けるボランティアスタッフは2時間半前に集合し、準備を進めていた。メニューは、ひじき入りハンバーグのトマトソース 新にんじんと新じゃがいもの素揚げ添え、ほうれん草の豆乳ポタージュ、とうもろこしの洋風炊き込みごはん、そしてデザートだ。参加者は徐々に集まっていき、皆思い思いに食事や会話を楽しむ。「何がおいしかった?」と尋ねると、佐藤遼空(りく)君(5)は「スープ。ほうれん草のスープをおかわりした!」と満面の笑顔で答えてくれた。

 

シングルマザーの経験から

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皆、思い思いに食事を楽しむ

代表理事の田中一永さんは、50歳になったら地域貢献をしたいと考えていた。ただ、最初から子ども食堂に焦点を当てていたわけではない。数年間何をしようか考え、最終的な決め手となったのは、彼女自身が仕事をしながらシングルマザーとして息子を育ててきた経験だった。夜ご飯に誘ってもらい、近所の家でご飯を食べた。「何を食べたかは覚えていないけれど、自分の懐に入れてくれる近所の方の心遣いが嬉しかった」と振り返る。特定の人に直接的にではなく、別の形で地域の方々に恩返ししたい。その思いに、元々食事を作ることが好きだったことも重なり、子ども食堂を始めることに決めた。

「まめっこ」という名前は、子どもが覚えやすく、親しみがあり、ひらがなで書けるというイメージからつけられた。他にも候補があったというが、子ども食堂のマークになっているさやえんどうのデザインともあわせているのが特徴的だ。

子ども食堂の活動は自身の不動産業の仕事と並行して行っている。主に運営に携わる役員は4人で、それ以外は学生から子育てが一段落した主婦まで約30人のボランティアの手によって動かされている。そのうち、調理のスタッフが半数ほどで、残りは食事の後に子供と遊んだり、お絵かきや勉強を見たりするフロアスタッフといった内訳だ。それぞれの人が無理のない範囲で活動している。

 

子どもや大人の居場所として

子ども食堂と聞くと、「子どもの貧困」を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。厚生労働省が行っている国民生活基礎調査(注3)に基づく子どもの貧困率は、2015年現在で13.9%。約7人に1人とも言われている。田中さんはまめっこを始めるにあたり、行政と連携して本当に困窮している人に食事を届けるか、子供会のように誰でも歓迎する“居場所づくり”をするかの二つで悩み、今のまめっこの形態を選んだ。「所得証明を持ってくるわけではない。とにかく間口を広げて、その中に貧困で苦しむ子が混じっていたら、少しでも満たされてくれたらいいと思う」と穏やかに話す田中さん。経済的な問題だけにとらわれず、三世代世帯の減少等の影響で子育てがしづらくなった時代背景を視野に入れた“居場所”という選択だった。

実際、子どもだけではなくお母さんたちのよりどころにもなっている。田中さんと共に運営を行う川田貴代美さんは、「親や旦那さんに言えなくても、同じ“母親”という斜めの関係だから話せることはあると思う。それを大人の方は楽しみにしてくれていると思う」と話す。手を差し伸べるまでいかなくとも、少しだけ関わりを持つことで、張り詰めた糸を緩めることができる。まめっこはそんな場所なのだ。

食材は、地域で農業や家庭菜園をしている人の協力によって集まる。社会福祉協議会(社協)にボランティア団体として登録することで、農家を紹介してもらえたり、寄付を配分してもらったりすることができる。この日もまめっこにはお米30kgが寄付された。「匿名の方が子ども食堂さんに寄付してくださいって社協さんに渡してくれたらしいんです」。まめっこの存在が地域で浸透している証拠だ。

 

地域と共に3年目。まめっこ「次の目標」

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参加者への配膳を終え、スタッフ用の食事を分ける田中さん

2018年5月、まめっこはオープンして3年目を迎えた。最初は20人程度だった参加者も、続けていくうちに60人ほどになった。もっと規模を大きくしたいか、という問いに対して田中さんは首を横に振った。「今はもう少し“貧困”という問題に焦点を当てて、本当に必要とする人にピンポイントで食事を届けたい」。

現在考えているのは、フードバンクとの協力だ。フードバンクとは、「食品企業の製造工程で発生する規格外品などを引き取り、福祉施設等へ無料で提供する(注4)」ことを目的とする団体で、農林水産省にも支援されている。品質に問題がないにも関わらず廃棄されてしまう食品を支援の必要な家庭に届けたいと思い、既に取り組んでいる地域に足を運んだ。自分たちにもできそうと感じた反面、問題点にも気づく。「フードバンクから受け取り、保管し、困っている人の手に配るという“中間の仕組み”がないんです」(図)。

図 フードバンクのしくみ(実線の矢印でつながれた部分は現在取り組まれている) 農林水産省の図を基に筆者が一部改変
図 フードバンクのしくみ(実線の矢印で繋がれた部分は現在の取り組み)
  農林水産省の図を基に筆者が一部改変

3年目となった今、まめっこではその問題を乗り越える方法を模索している最中だ。「地域の未来に投資してもらうと思って、フードバンクに限らず深谷市にある食品企業さんとも協力していきたい」と意気込みつつも、冷静な口調で語った。

 

 

午後6時30分過ぎ。食事を終えた参加者の多くは、隣のプレイルームへ移動していった。この日の食後のイベントはてるてる坊主づくり。まめっこでは、季節や暦に合わせて、食育・知育の取り組みを積極的に取り入れている。三児の母の今井晴子さんは、長女に「まめっこへ行きたい」とお願いされ、半年ぶりに家族5人で訪れた。食後の団らんについて「今までは自分が側にいないとできなかったことが、一人でもできるようになった。子どもが成長できる場」と嬉しそうに語った。

誰がいつ行っても、そこを自分の「居場所」と感じられるふかや子ども食堂まめっこ。張り詰めた気持ちがほぐれて、少しだけほっとできる。地域や隣人との関係が希薄になってしまいがちな現代において、本当に必要なことは、ゆるやかに地域と繋がりを築いていくことなのではないだろうか。

 

 

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(注1)特定非営利活動法人 イエローハーツ ホームページ
https://yellowhearts.net/(2018/6/26参照)
(注2)深谷市ホームページ
http://www.city.fukaya.saitama.jp/(2018/7/5参照)
(注3)厚生労働省 平成28年国民生活基礎調査の概況http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/index.html(2018/6/26参照)
(注4)フードバンク:農林水産省http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/foodbank.html(2018/6/26参照)