生理休暇は「欲しいけど、使えない…」
ツイートの意見分析からみえてきたこと


 日本の女性労働者のうち、生理休暇を申請したことのある人は0.9%であるという実態が厚生労働省の調査で明らかになっている。労働基準法で認められた権利であるはずの生理休暇がなぜ取りづらいのか、日本語のツイートから背景を探った。(取材・分析・執筆=西田菜緒、原野百々恵/ゼミ友、住友千花、落合俊)

 

トップは生理の痛みで苦しむ女性の写真。フランス・トゥールズで撮影。ⓒAFP PHOTO /CHARLY TRIBALLEAU

 

「いいなぁ、俺にも生理欲しいよ」。高校3年生の受験シーズン、生理痛を理由に学校を休んだ筆者の一人に友人が放った言葉だ。理由を聞くと、大学受験に役立たない授業を受けるよりも家で休めて羨ましいと言った。毎月来る生理による生理前のホルモンバランスの崩れによる激しい感情の起伏、生理期間の腰とお腹の痛みや眠気。生理やホルモンバランスの崩れで、受験勉強もプライベートでも悩んでいた当時、その言葉に非常に傷ついた。同時に、生理で休むことへの罪悪感を抱くようになった。その後、大学進学し、授業やバイトで忙しい日々を過ごす中で生理による体調不良を、「体調不良」「お腹が痛くて」など濁しながら生活してきた。

株式会社明治が行った生理やPMSなどの女性特有の悩みに関する調査では、20代〜40代の女性4,418人の85.0%が生理の悩み「あり」と答えている1。また、働く環境にも課題があり、社会全体での理解を広め、生理によるパフォーマンス低下を1日減らすことができると、年間2,602億円相当の経済価値が生じるとの試算も出ている

多くの人が悩む生理だが、厚生労働省によると、女性労働者がいる事業のうち、2019年4月~20年3月の1年間に生理休暇の請求があった事業者の割合は3.3%。また、女性労働者のうち生理休暇を請求した者の割合は0.9%だった2。(厚生労働省の調査より

労働基準法は生理を理由とする休みを制定しているのにもかかわらず、なぜ取得率がそれほどまでに低いのか――。生理休暇に対する意見をツイッター上で収集し、その理由について分析してみることにした。収集は2022年12月に実施した。

 

生理休暇には賛成?反対?

以下の表では、ツイッター(現在のX)上で「生理休暇」の言及をしていた2542件のツイートを元に、ヒューマンコーディング後3に「生理休暇に対する個人の意見や感情が明確に読み取れる」ツイートを704件厳選した。704件中、生理休暇を明確に肯定するものが404件(57%)、明確に否定が13件(2%)、判断不可が287件(41%)だ。しばしば生理休暇に関する話題はTwitter上で議論を呼んでいるが、実際の賛否の割合を分析したところ以下の表のように生理休暇に対して肯定的な意見が多く、否定的なものが少ない結果となった。「明確に否定」に分類されたツイートには、「生理休暇は男性差別」「働いていない人がお金を貰える不平等制度だ」「生理休暇は甘え」などの意見が含まれていた。

 

(画像:n=704。ツイッター上の「生理休暇に対する意見」を分析)
(画像:n=704。ツイッター上の「生理休暇に対する意見」を分析)
生理休暇はなぜ取りづらい?

「生理休暇に対する個人の意見や感情が明確に読み取れる」704件のツイートの中から生理休暇取得の難しさを示唆するツイートを分析した。

以下、生理休暇所得の主な難しさとして挙げられていた4つの理由を紹介する。

 

① 職場に生理だと知られたくない
「うちの会社の生理休暇はただ生理休暇って名前がついて管理職たちに生理がバレるだけの欠勤なので使えません」
「うちの職場は上司が脊髄反射で生理休暇だと言いふらすので敢えて生理休暇使ってないんだよなあ」

生理期間であること、また毎月生理休暇申請をすることで生理周期を周りや職場の人に知られることに対するネガティブな感情を吐露するツイートが見受けられた。

 

② 働いている職場に生理休暇が存在しない
「生理休暇欲しい。(社員じゃないから使えない)」
「生理休暇あるって会社言ってたのにいざ使おうと話持ち出したら『うちそんなものないよ、休むなら欠勤』って言われて大笑いした、じゃあ書くな」

厚労省が定める労働基準法第68条4には、「生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求した場合には、その者を生理日に就業させることはできません」とある。また生理による体調不良は個々人により異なるため、生理休暇を取得できる日数は決められておらず、どのような雇用形態でも生理休暇を取ることは労働者の権利である(しかし、生理休暇にお金を出すかどうかは会社次第)。それにも関わらず、働いている職場の制度では生理を理由に仕事を休むことができないと主張する声があった。また、職場ではないが学校機関において生理休暇がないことへの不満をあげるツイートも複数見つかった。

 

③ 職場に生理休暇が取りづらい雰囲気がある
「生理は迷惑と言いつつ女が生理休暇を取ったら不公平とほざくのが男」
「若い頃生理が酷くて、でも我慢して出勤していてどうしても休みたくて生理休暇の電話したら男性マネージャーに散々イヤミ言われて、本当に辛かった」

生理による体調不良で仕事を休み、白い目で見られるのが嫌、生理休暇を取ることに対して罪悪感を覚えるなど、生理で休みを取ることに対して懸念を示す声もあった。

 

④ 生理休暇だと給料が発生しない
「生理でどうしても体調悪くて会社行けなくて生理休暇2日間取っただけなのに給料から18000引かれてて泣きそう生理なんか自分でどうしようも出来ないのに死ねって事かな」
「無給の生理休暇って何か存在する意味あるの?」

生理休暇を取得した際に、給料が発生するか否かは個人の職場により異なる。労働基準法でも、生理休暇を取得した従業員に対して賃金を支払うか否かに対する言及はされていない。「令和2年度雇用均等基本調査」の結果では、生理休暇を有給とする事業所の割合は29.0%であり、その中の65.5%が「全期間100%支給」となっていることが判明した(厚生労働省の調査より2。生理休暇の全期間について100%賃金を支給する企業は全体の19%だ。生理休暇を取れない理由で「お金」「給料」を挙げていたツイートの中には、「無給=休みではない」「無給=金銭的に不利になる」という声が多く見られた。生理休暇という制度自体の問題があることを認識せざる得ない主張が多くあった。

(おりものシート、生理用タンポン、生理用ナプキンの写真。ⓒAFP PHOTO /LOU BENOIST)
(おりものシート、生理用タンポン、生理用ナプキンの写真。ⓒAFP PHOTO /LOU BENOIST)
助産師はどう考えるのか?

生理休暇を取りづらい状況を専門家はどう考えるのか。そして、生理休暇が取りづらいために、体調不良や痛みを我慢して働くことは身体にどのような影響を及ぼすのか、日々女性たちの心身と向き合う看護師・助産師として働く前田灯(=仮名)さんにお話を伺った。

前田さんは、生理休暇を取る理由には二つの理由があると考える。一つ目は、生理には痛みが伴うことがあるからだ。痛みとは主観的な感覚であり、本人以外には分からない。本人が痛いと感じ、休むことが必要だと感じる時には休むべきだという。二つ目の理由として、整理中の多くの人が貧血状態にあるという。生殖年齢期の女性の6割が鉄欠乏状態であり、その背景には鉄の需要と供給バランスの崩れがある。つまり、多くの女性が貧血状態にあり、さらに月経の際に出血が多いと生殖年齢期のクオリティ・オブ・ライフや労働生産性が下がっている。貧血と聞くと、「倒れやすい」という想像をする人が多い。しかし、実際には息切れ、動悸、疲れやすいなどの症状がみられる。「ただの疲れ」だと考え、無理をして働いたり動いたりする人が多いが、貧血も病気ということを知って欲しいと言う。「同じ生理でもその経験や体調不良には個人差がある」。

また、生理休暇の取得への心理的なハードルを感じる人が多い現状に対し、「本来であれば会社は生理休暇や有給を従業員がマックスで取得しても回る人員確保をしているべきです」と前田さんは話す。そうすることで、職場で、生理を理由に休む同僚への理解が増進し、自分達も体調が悪ければ積極的に休みを取りやすくなるのではないかと言う。

 

脚注

(1)PR TIMES, 「【20代〜40代男女1万人に聞く、生理の悩み実態調査】 女性の85%が生理の悩みを抱え、働く女性の78%が職場の理解を求めている」、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000100482.html、最終閲覧日2023年8月13日

(2)厚生労働省, 「令和2年度雇用均等基本調査」結果を公表します~女性の管理職割合や育児休業取得率などに関する状況の公表~, https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r02/07.pdf, 最終閲覧日2023年4月28日

 

(3)私たちが実施したデータ分析手法は以下の通りである。

RStudioを用いて「生理休暇」という言葉を含むTwitter上のツイートを収集した。収集のタイミングは7日おき(2022年12月9日、16日、23日の全3回)である。そして、正常に取集することのできた合計2542件をヒューマンコーディングによって分類した。

分類ではまず2542件のうち「生理休暇」という一続きの言葉を含むもののみを抽出し、その中でも「生理休暇に対する個人の意見や感情が明確に読み取れるもの」を704件抽出した。この704件を用いて以下の二つの分類を実施した。

分類方法①:704件を生理休暇の存在を「明確に肯定」しているもの、「明確に否定」しているもの、「判断不可」のもののいずれかに分類

分類方法②:704件の中から「生理休暇の利用のしにくい理由を示唆するもの」を221件抽出

 

またツイートの分類は4人で分担して行った。分類基準の認識を擦り合わせるためにツイート100件のみ全員がそれぞれ分類し、その結果の一致率を確認したところいずれも97%以上の高い水準の数値となった(信頼性検定)。一致率をまとめた表は以下の通りである。

 

西田と原野の一致率 98%
西田と住友の一致率 98%
西田と落合の一致率 99%
原野と住友の一致率 98%
原野と落合の一致率 97%
住友と落合の一致率 97%

 

(4)厚生労働省, 労働基準法のあらまし(生理休暇), https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000807610.pdf, 最終閲覧日2023年4月28日

 

(5)株式会社サイバーエージェント公式HP,「福利厚生」,

https://www.cyberagent.co.jp/sustainability/info/detail/id=26074,最終閲覧日2023年4月27日

追記

2023年8月25日 「助産師はどう考えるのか?」の2段落目にある「クオリティライフ」を「クオリティ・オブ・ライフ」に修正