【ファクトチェック】自民党・高市早苗政調会長「日本ほど国民負担率が低い国はなかなかない」はミスリード。NHKの討論番組で発言


NHK『日曜討論』での自民党・高市早苗政調会長

 

対象言説

2022年6月19日、参院選に向けたNHK『日曜討論』にて「与野党に問う 参院選の争点は」が放送された。番組中、日本経済の現状について共産党・田村智子政策委員長が日本はなぜ消費税を減税できないのかと指摘した。これに対して、高市政調会長は社会保障の安定的確保に向け消費税は残しておくべきという主張の中で、以下の発言をした。

 

「あの日本ほど国民負担率が低い国っていうのはなかなかないです。今の水準の福祉を続けていく上でですね、税と社会保障、これの負担っていうのは日本は4割台ですよ。フランスはもう7割近いですよね。フィンランドも6割近いですよね」

 

発言にある「なかなかない」は、「容易には見つからない(存在しないだろう)という気持ちを表す」(明鏡国語辞典)(1)ときに使われる。日本より国民負担率が低い国は、容易には見つからないレベルなのだろうか。今回はこの「日本ほど国民負担率が低い国はなかなかない」という部分を対象言説としてファクトチェックしていく。

 

選定理由

この討論会は参議院選挙に向けてNHKで放送された。そのため多くの国民の目に触れ、影響力がとても大きいことが考えられる。

また、消費税減税の議論は与野党の間で主張が大きく異なる。今回の参議院選における各政党の公約や主張を見ると、全ての野党は消費税の減税や廃止を訴えている一方で、与党は訴えていない(2)。

今回の高市政調会長の発言は、消費税増税の根拠として提示されたものであるためファクトチェックする意義は大きいと考え、この言説を検証する。

 

判定
日本ほど国民負担率が低い国はなかなかない=ミスリード

 

判定理由
日本の国民負担率はOECD加盟36カ国中25番目

国民負担率は、租税負担と社会保障負担という国民の公的負担の割合を示す数値で、財務省は国民所得に対する比率を用いて算出している。財務省ホームページの負担率に関する資料「国民負担率(対国民所得比)の推移」というグラフによると、日本の令和元年度の国民負担率は44.4%、2年度は47.9%、3年度は実績見込みとなり48.0%、4年度は46.5%の見通しとなっている(3)。この数字だけ見ると、国民負担率が低いか高いかの判断は難しいため、他国との比較を行なっていく。

財務省の同資料内における令和元年度の「国民負担率の国際比較(OECD加盟36ヵ国)」を示すグラフによると、高市政調会長が比較対象として言及したフランスとフィンランドはそれぞれ、67.1%、61.5%だった。フランスは7割近くで、フィンランドも6割近くだとする高市政調会長の発言内容と一致している。両国は日本と比べても高い水準にある。
では、その他の国々はどうだろうか。
このグラフによれば、日本の国民負担率は36カ国中25番目に位置している。確かにOECD(4)加盟の36カ国で見れば、全体の上から3分の2の辺りだが、日本より国民負担率が低い国は11カ国あるということが見て取れる。その中には韓国やアメリカといった身近な国も含まれている。そのため、日本ほど国民負担率が低い国は「なかなかない」という表現は妥当ではないと考える。

グラフ1. 国民負担率の国際比較(OECD加盟36カ国)

エディソン

財務省「国民負担率の推移」より

GDP比国民負担率では38カ国中25番目に

日本の財務省では、国民所得比を元に国民負担率を計算しているが、諸外国では国内総生産比(GDP)を用いて計算する手法が一般的だ。そのためOECDのデータをもとに名目GDP比での国民負担率(2019年度)を求めると以下のようになる。

グラフ2.OECD諸国GDP比国民負担率

エディソン2

*(資料)OECD「Revenue Statistics」(5)をもとに筆者作成

ここでは、財務省が取得できなかったコロンビア及びアイスランドのデータを入れて数えることができる。これを見ると、日本は38カ国中25番目となり、日本より国民負担率が低い国は13カ国である。なお、財務省宛に、日本が国民所得比を元に国民負担率を計算している理由を7月1日に問い合わせ、5日までの回答をお願いしたがまだ回答はいただいていない。

7月8日に回答をいただいたため、脚注に記載する(6)。

潜在的国民負担率ではさらに順位を上げる可能性も 

また、国民負担率に財政赤字を含んだ潜在的国民負担率も将来の負担を考える上で欠かせない。財政赤字による借金の返済は、将来世代の税負担によって賄われるためだ。

財務省の「国民負担率の国際比較」という表によると、日本の2019年度の潜在的国民負担率は、財政赤字率5.3%を加えて49.8%だった(7)。これに対して英国は49.7%だったため、日本より順位を下げることになる。また、国際通貨基金の世界経済見通しデータベースによると、国民負担率のデータでは日本より上位かつ数値が近いカナダとエストニアは財政赤字がない(8)。つまり、財政赤字を考慮した潜在的国民負担率で見れば、日本が順位を上げる可能性がある。そのため、潜在的国民負担の面から見ても、日本ほど国民負担率が低い国は「なかなかない」ととは言い切れないだろう。

自民党政務調査会からの回答
「日本の社会支出水準以上の国で国民負担率が日本より低い国は見当たらない」

高市政調会長が「なかなかない」という言葉を用いた理由について自民党政務調査会に伺ったところ、7月5日に次のような回答をいただいた。

 

「国民負担率については、既にご確認いただいている通りOECD加盟国のうち、比較可能な36カ国の中で、わが国は25番目(44.4%)となっており、以前に比べて上昇しているとはいえ比較的低位を保っていると認識しております。また、社会支出につきましては、OECD内で比較可能な2017年現在、わが国は22.3%であり、この水準以上の国で、国民負担率がわが国より低い国は見当たりません。ご指摘の発言は、このような状況を踏まえたものであるとご理解いただければと存じます。」

 

つまり、日本の社会支出水準以上の国で国民負担率が日本より低い国がないという意味での発言だった。
社会支出はOECDの統計の基準であり、老齢年金や健康保険の医療給付、児童手当など、国民に対する公的・私的給付のことを意味し、国際比較では対GDP比の数値が用いられる。社会支出が日本より大きい国は、一般的に社会保障などが充実した国といえるが、そうした国のなかに日本より国民負担率が低い国が見当たらないのは、当然のことのように思える。また、社会支出水準の説明がないまま「日本ほど国民負担率が低い国はなかなかない」と発言すれば、聞き手は単純に「日本より国民負担率が低い国は容易には見つからない」と受け取ることは明白である。

このように、発言の背景や国際比較を含め、「日本ほど国民負担率が低い国はなかなかない」という表現はミスリードであると判断した。

脚注

(1)北原保雄 編、(2010)『明鏡国語辞典 第二版』、大修館書店

(2)早稲田大学マニフェスト研究所、「| 2022 | 参院選 マニフェスト比較表」、2022年6月17日

(3)財務省、「国民負担率の推移」、2022年6月29日閲覧

(4)OECD:経済協力開発機構;日本を含んだ38カ国の先進国で構成された、国際経済について協議する国際機関である。

(5)OECD、Revenue Statistics – OECD countries: Comparative tables、2022年6月30日閲覧

(6)回答は、過去の国会における財務副大臣の答弁内容を参照する形でいただいた。
以下答弁の内容である。
(遠藤副大臣)
国民負担率につきましては、これは政府の大きさとか国民負担の大きさを測るための一つの便宜的な手法でございまして、分母に何を使うかということにつきましては必ずしもこれまで明確な決まりがあるわけではないというふうに理解をしております。
そういった中におきまして、我が国におきましては、従来、所得との対比で負担が議論されてきたという経緯がありまして、また実感としても、収入のうちのどの程度の割合が税金や社会保険料として徴収されるかといった指標として負担の大きさを議論した方が国民にとっても分かりやすいということがありまして、国民負担率のベースとして国民所得を用いているところでありまして、あくまでも便宜的なものと、また実感を踏まえたものということでございます。-平成20年3月27日-

(7)財務省、「国民負担率の国際比較」、2022年6月29日閲覧

(8)国際通貨基金、世界経済見通しデータベース、2022年6月30日閲覧

 

運営責任者=瀬川至朗
記事担当者=エディソン静蘭、杉江隼

 

WaseggはFIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)ガイドライン活用メディアであり、この記事ではFIJのClaim Monitorの情報を活用しています。

 

レーティング(判定)はFIJが策定した基準(下記参照)を用いています。

FIJレーティング