コロナ対策に抵抗する人々 彼らは「ヘンな人」なのか


お断り
この記事では新型コロナウイルスや新型コロナワクチンについて、様々な意見が出てきます。中には政府や専門家の見解と大きく異なるものがあります。この記事が科学的見解について情報提供を行う目的のものではないことをご了承ください。なお筆者は新型コロナワクチンを2回接種した後、早稲田大学やゼミの方針に従い十分な対策を取りながら取材を行いました。(取材・文・写真=榊原碧人)

トップ写真はデモ隊の最後尾付近から撮影。先頭が見えないほど長い列になっている。=2021年7月24日、筆者撮影(以下同)
第1章 7月24日、新宿、世界同日デモ

2021年7月24日土曜日、14時30分、新宿の街を人の列が進み始めた。「マスクを外そう」「子どもにワクチンを打たないで」。炎天下、声を挙げながら練り歩く。私は最後尾から列を追い始めた。先導車のいる列の先頭までたどり着くために、コロナ禍前よりは人の減った新宿の街を駆けた。

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新宿アルタ前広場に集合するデモ隊。=2021年7月24日

列は新宿駅東口駅前広場(アルタ前広場)から新宿通りを西武新宿駅まで北上し、靖国通りを東に進む。そして明治通りで曲がって南下、新宿御苑付近でまた曲がり、甲州街道を西進していく。新宿駅南口を横目に、代々木二丁目あおい公園まで、新宿をぐるっと回るように約1.8キロメートルを行進した。「日本と子どもの未来を考える会」という団体が主催している。主催者発表で700人以上が参加していたという。同日の新宿区の最高気温は34.4度を記録していた。

参加者は老若男女、幅広い層がいる。子連れでの参加や、コロナ禍で見かける機会が少ない外国人も目立つ。お喋りに興じながらベビーカーを押す母親たちは、さながらお昼の散歩をしているかのようであった。

先導する軽トラックには「新生活様式にNO」の文字がある。搭載された音響機材からは陽気な音楽が流れる。荷台に立った人たちは、マイクで通行人に訴えながらオリジナルソングを歌う。「医師免許を持ってるのか」。街行く人から罵声を浴びせられる場面も見られた。これは『世界同日デモ』と銘打たれたもので、主催者によると世界180都市以上で同様のデモが行われたという。

デモの参加者達は新生活様式に反対するという主張からか、マスクを着用していない。厚生労働省は夏のコロナ予防として「高温や多湿といった環境下でのマスク着用は、熱中症のリスクが高くなるおそれがあるので、屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合には、マスクをはずすようにしましょう」[i]としている。参加者の間に2m以上の距離があるようには見えないが、炎天下でのマスクが熱中症のリスクを高めていたことは確かだろう。

私はデモ参加者ではなく話を聞くという立場であったため、ずっとマスクを着けていたが、暑さで立ち眩みがしていた。正直なところ、デモ隊が羨ましかった。この感情が人々をデモに向かわせたのではないか。そんな思いが沸き上がった。

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終着点のあおい公園に集まるデモ隊。自由解散となっていたが、談笑する参加者も多かった。=2021年7月24日

行進している間はどの参加者もデモに集中していたが、目的地のあおい公園に着くと、参加者同士で談笑している。さながら大学の大人数講義が終わった後のような和やかな雰囲気だった。ようやく時が来たと思い、何人かに声をかけることにした。ここで知り合った三沢さん(仮名)のお話は3章で詳述したい。

 

デモの参加者に話を聞くとき、「これはどんな集団だと思うか」と問いかけた。しかし、はっきりとした答えを持つ人はいなかった。2020年から新型コロナ政策や新生活様式に反対するデモや街宣をしている団体がある。当然ながら、その延長線上で参加している人もいる。ただ、2021年になって初めてデモに参加したという人も少なからずいた。

ちなみに、早稲田大学では学生へのワクチン接種を行っていたが、7月には「まだ受けない」と語る友人もいた。デモ参加者を動かしたのは、私が感じたような自粛生活への疲れや、ワクチンへの漠然とした不安ではないだろうか。

反新生活様式・反ワクチンを訴えるデモは、社会の多数から「ヘンな人たち」と思われているだろう。実際、私もそう感じていた。新型コロナによって世界全体が深刻なダメージを受けている。マスクをすることで感染を抑えられるのなら、ワクチンを接種することで重症化を防げるのなら、そうすればいいじゃないかと思っていた。

そして、参加者から見ても「よく分からない」集まりだ。どのような想いからデモに参加するのか、そもそもどんな経緯でコロナ政策に疑問を抱くようになったのか、あくまでも筆者の視点から読み解いていく。

 

第2章 新型コロナへの世間の意識

デモ参加者の個人的な話に入る前に、世間の人々がどのような考えを持っているのかを参照したい。日本社会においてどのような立ち位置にあるのか、データの面から少しでも理解できるかもしれない。

グラフ1
図1「ワクチンを接種したいか(2021年7月)」(NHK世論調査をもとに筆者作成)

世界同日デモがあった2021年7月にNHKが実施した世論調査では、新型コロナのワクチンを「もう接種した」が46%、「接種したい」が32%と、8割近い人がワクチン接種について前向きな考えを持っていたことが分かる。他方、「迷っている」が13%、「接種したくない」が5%と、ワクチンについて不安があるとか、ネガティブに捉える人が2割弱の割合で存在していた。

グラフ2
図2「新型コロナ 感染の不安(2021年7月)」(NHK世論調査をもとに筆者作成)

また、新型コロナに感染する不安がどの程度あるかという質問では、「大いに感じる」が34%、「ある程度感じる」が45%であり、「あまり感じない」が15%、「まったく感じない」が3%となっていた[ⅱ]

二つの問いへの回答を見ると、2021年7月時点では、約8割の人が新型コロナ感染の不安を感じながらワクチン接種に積極的で、約2割が感染の不安をあまり感じずワクチン接種にも消極的であったことが分かる。

この記事の取材対象は基本的に後者、約2割の側になる。この中でデモに参加する人なると、より絞られることは間違いない。ただ、彼らを圧倒的少数と断じることはできない。むしろ7月24日の炎天下で私が感じたようなマスクへの疲れや、ワクチンを様子見すると語っていた友人のような考え方は、社会の約2割には浸透していた。このことを念頭に置き、できる限りニュートラルな姿勢で話を聞こうと努めた。

 

第3章 政治活動の一環としてデモに参加する

比較的、中年層が多い中、私は年齢の近そうな人に声をかけた。三沢さんは7月のデモに一人で参加していた。少し怪しまれたが、すぐに打ち解け、親身になって話を聞いてくれた。8月初旬の休日、デモに参加した経緯について、ZOOMで詳しく聞かせてもらった。

三沢さん(29歳・取材時)は茨城県出身。現在は埼玉県に住んでおり、都内で通信設備関係の仕事をしている。

2015年から社会や政治に興味を持つようになった。普段のニュースのほかに三橋貴明さんのYouTubeチャンネルや小林よしのりさんの書籍等で情報を得るようになった。特に小林よしのりさんに信頼を置いていて、「ゴー宣道場」という有料の勉強会にもたびたび参加している。

また、同時期にデモに参加するようになった。「政治主張の機会を探していました」。2015年には安保法制のデモに、2019年には消費税増税に反対するデモに参加してきた。「右寄りのデモが多かったです」。そう自覚している。

他にも、政府や自民党に政策についての意見書を提出するといったこともしてきた。職場で政治の話題になり、自分の考えを述べることもあったという。

2020年2月ごろから、小林よしのりさんが新型コロナについて情報発信するようになったという。クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号での感染が話題になってきた時期だ。三沢さんは小林よしのりさんが「コロナで人気になった」と見ている。私もコロナの文脈で小林さんの名前を目にすることが増えていた記憶がある。新型コロナについて積極的に発信していたようだ。

「新型コロナ対策で全体主義的な空気になっている」。「ウイルスにはどうやっても勝てない」。こういった主張には納得がいった。「太平洋戦争の時の日本も全体主義的で、圧倒的に強いアメリカに無謀な戦いをしていました。コロナもこれと同じだと思ってます」。

新型コロナの流行で2020年はテレワークが多かった。7月のデモに参加したのは、新型コロナ対策の規制を押し付けられていることに疑問を感じるようになったためだ。「他はあまり詳しくないです」。

世界同日デモには新生活様式と新型コロナワクチンという、大きく分けて二つのテーマがあった。ただ、新生活様式という言葉の定義がはっきりしない。厚生労働省によると、身体的距離の確保やマスクの着用、手洗い、移動の自粛等からなる「一人ひとりの基本的感染対策」、「3密」の回避やこまめな換気等からなる「日常生活を営む上での基本的生活様式」、「日常生活の各場面別の生活様式」、「働き方の新しいスタイル」といったことが「新しい生活様式」の実践であるという[ⅲ]

では、デモを主催した団体が考える新生活様式とは何なのか。彼らのビラを読んでみた。「日本の未来と子どもたちの笑顔を奪う新生活様式にNO!!」や「新生活様式は本当に『感染対策』のためなのか!?」といった文章が目に入る。よく読むと、「コロナ騒動は世界規模のウソ! 茶番です!」といったことも書かれている。デモ主催者にとっての新生活様式とは、コロナ対策として行われている非日常的なこと全般であることが推測できる。厚生労働省が示した「新しい生活様式」が生活のほぼすべての場面に関わるものであったことから、認識は一致していると考えられる。

三沢さんはマスクや自粛といった新生活様式への反対に共鳴してデモに参加した。では、ワクチンについてはどう考えているのか。

「私は様子見派です」。若者が新型コロナで死亡するケースが少ないことから、三沢さんはしばらく新型コロナワクチンを接種しないつもりだという。1、2年して安全性に問題が無さそうであれば接種するつもりだ。

「ワクチンそのものを全否定するつもりはありません」。7月のデモの一部に見られた主張については否定的だ。従来から接種されているインフルエンザ等のワクチンについては問題を感じていない。また同様にデモの中で見られた「PCRはインチキだ」とか「新型コロナワクチンで死人が出ている」といった主張についても反対している。「あのデモの参加者は政治初心者が多いように見えました。陰謀論が入口になっていることもあると思います」。

これまでの話から、三沢さんが自身とは異なる主張をするデモに参加したように思えた。そもそも、新生活様式に反対する根拠が主催者側と異なる。主催団体は新型コロナの存在を怪しむ立場から反対する一方で、三沢さんは新型コロナを認めた上で対策をしても意味がないと考える。しかし、7月のデモで大々的に主張されたのは「子どもにワクチンを打たないで」というもので、それには賛同できたため参加したという。新型コロナで死に至るリスクが低い若年層は、まだワクチンを接種する必要はない、というのが三沢さんの考えだ。

「今後も参加したいです」。7月の世界同日デモには満足している。これからも政治主張を続けていくつもりらしい。

 

三沢さんとの出会いにより、私はデモに対する視点を修正した。それまでは、全参加者がある程度、主張を共有しているものと考えていた。しかし、三沢さんのように主催者が提示したテーマに賛同しただけで、他の参加者とは大きく異なる考えを持つ人がいる。彼は新生活様式と新型コロナワクチンという二つのテーマに興味を持っていたが、参加者の中には片方には全く関心がないという人も一定数いたのかもしれない。主催団体がデモに際しては主張を穏健なものとし、コロナ禍での生活に疑問を持つより多くの人の琴線に触れるようにしたことが、要因として挙げられるだろう。

 

第4章 語学力を活かし複数の団体で活動する

実は7月の世界同日デモの際、その最中にもかかわらず話しかけることができた人がいる。デモ参加者ではなく、私と同様に歩道からデモ隊を追っている男性がいた。中年くらいの白人で、列にビデオカメラを向けている。デモ参加者と同様、彼もマスクをしていない。とりあえず英語で声をかけてみる。どうやら日本語を話せるらしい。互いに自己紹介をした。KLA.TVという海外のメディアの記者としてデモを取材しているらしい。「これからデモの主催者にインタビューする」とのことだったため、名刺をいただいて別れた。

KLA.TVはネットメディアで、サイトには多数の動画が並んでいる。動画で情報を発信するメディアであると考えられる。日本語版のサイトもある。日本語版にある動画は大多数が新型コロナに関連したものだ。そしてほとんどが海外で作られたように見える動画に字幕と、時には機械音声が編集されたものであった。日本で撮影したデモやインタビューもあり、7月の世界同時デモの映像もあった。しかし、肝心のKLA.TVについての情報が少なくとも日本語では見当たらない。そこで、検索しているとodyseeという動画投稿サイト上にあるKLA.TVの日本語チャンネルにたどり着いた。

チャンネルの概要欄には「スイス、ドイツに本拠をおく独立系メディアで、世界中70か国以上の国々の2000人以上のボランティアスタッフによって運営されています(原文ママ)」とある。デモを取材していた男性もボランティアだったということだろうか。さらに「KLA.TVは主流メディアが語らず、隠蔽さえする情報や見解を自由な世界に伝えます。検閲を受けない言論の自由は自由世界の根幹です」と続いている。新聞やテレビといった主流メディアとは距離を置いているらしい。最後に「Googl-YouTubeで削除された動画もありますので、www.kla.tv/ja のサイトもご覧ください(原文ママ)」としている。

YouTubeは「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の医学的に誤った情報に関するポリシー」を2020年5月20日から公開している。その中で「コンテンツがこのポリシーに違反している場合は、そのコンテンツを削除」するとしている[ⅳ]。取材をしてきてYouTubeに新型コロナ関連の動画を掲載している人が動画を削除されて困っているという話を聞いてきた。KLA.TVも同様に新型コロナ関連の動画を削除されたのだろう。実際に、YouTubeにもodyseeと同名のチャンネルが存在しており、わずかな数の動画が残っていた。

 

後日、名刺のマイケルさん(仮名)にメールで取材を申し込んだ。その2日後、別のアドレスから返信が来た。メールの主は川田さん(仮名)という。とても丁寧な文章が印象的だ。

どうやらマイケルさんと同じ団体で活動しているらしい。若い世代との対話や議論が大事だとして、「喜んで取材に応じたい」と答えてくれた。マイケルさんは東海地方で学校の教師をしており忙しいため、川田さんが代理で返信してくれたという。こういったことからマイケルさんに直接会って取材をする機会は限られる。面識はないが、丁重に返信してくれた川田さんに取材を申し込むことにした。

川田さんは千葉県の富里市に住んでいるらしい。近くの成田か、予定がつけば上野でも会うことができると言ってくれた。何のイベントもない時に取材をするのだから、こちらから赴くのが礼儀だ。ただ、仕事か何かで上野に来ているということであれば、私としても行きやすい上野で会うことができるのは幸いだった。

10月中旬の平日、京成上野駅で落ち合い、上野恩賜公園の不忍池のほとりのベンチで話を聞き始めた。

川田さん(67歳・取材時)は北海道に生まれ、少年時代に何度か転居して生きた。京都大学に進学し、文学部で哲学を学んだ。同大学院の博士課程までドイツ哲学を研究し続け、最後にはドイツのアウクスブルク大学へ2年間、留学した。その後、ハイデッガーの作品の翻訳を最後に、学究の道を終えた。それからは、ドイツ語の能力を活かし、ドイツ語圏からの観光客を案内するツアーガイドの仕事を始めた。

約30年間、ツアーガイド一筋で仕事にまい進してきた。「自分でツアーを作って、個人で客を集めてやるってこともありましたね」。しかし、2020年3月の半ば、ツアーの途中で客が帰国することに。そのまま廃業となった。頃合いであると感じ、年金生活に入る。「本来であれば来年までやって辞めるかなと思ってはいたんですけどね」。

仕事を辞めると、時間に余裕が出てきた。最初の数か月は主に読書をして過ごしたという。「時間がないからニュースを見るくらいで深掘りをしてこなかった」。

2020年6月ごろ、ネット等で情報収集をしているうちに、法輪功の「臓器狩り」という言葉を目にし、中国共産党に怒りを覚え始める。それから、法輪功を知るために、実際に千葉県内にある気功の練習場にも何度か足を運んだ。7月にはSMG(Stop Medical Genocide)という法輪功系の団体にボランティアを申し出た。地元富里市の議員を訪ね、臓器売買に反対する決議をするように求めたこともある。十数人を訪ねたが、実を結ぶことはなかったという。ただ、川田さん自身は活動の手伝いをしているだけという認識だ。

「法輪功の信仰の部分には距離を置く部分はあります」。哲学を学んできたため、何かを信じるというよりは、自分自身で人生を見つめることを重視している。

2020年末ごろからは、NTD(New Tang Dynasty)という法輪功との関係が強い大紀元時報系のメディアでも活動を始めた。日本ではアメリカ、イギリス、香港で制作された動画に字幕や吹替をつけてネットに配信しているという。SMGでの活動をしてもなお余力があると伝えたところ、紹介してもらった。NTDからは報酬が出ているが、その額は「ゼロよりはいいくらい」だ。

中国関連の活動以外にも、ロックダウンやマスク着用に違和感を覚え、ネットで情報収集していた。2021年に入り、ワクチンの接種が始まると本格的に興味を持ち始めた。主に専門的な論文を読んでまとめているというブログから情報を得ている。自分で引用元の論文に目を通すこともあるという。

2021年6月、ネットでKLA.TVの動画を見る機会があった。当時、日本語の動画は片手で数えられるほどしかなかったという。川田さんはその主張に共感し、SMGの時と同様に自分から連絡を取り、ボランティアを申し出た。「日本語も増やしてやろうと思った」。ドイツ語系のメディアであったため、自身の経験とも相性が良い。

その後、私が連絡を取ったマイケルさんと出会い、共同で作業をすることもある。高校教師であるマイケルさんは「孤軍奮闘している」という。ワクチンの危険性を伝えるビラを川田さんと共に制作し、教室に置いているという。

川田さん自身も、ワクチンについての情報を家族や近しい友人、元同僚に発信している。数十人に連絡を取った。「結構みんな打っちゃってますけどね」。ただ、川田さんの家族はワクチンを接種していないそうだ。母、妻、高校2年生の息子との4人家族だ。「息子の場合は自分で調べてマスクもしなくなりました。頑張ってます」。

マスクは効果が薄いと考えている。ウイルスの飛散を防ぐことはできないのに、健康や子供の発育絵の害が大きいため、着けないほうが良いと考える。ただ、電車のような人が密集する場所では着用する。

しかし、三沢さんと同様に、デモの一部で見られた「コロナは存在しない」という主張に対しては懐疑的だ。「基本的には中国かアメリカが作ったもの。人工ウイルスである確率は99%」。川田さんはこう考えている。

自身の主張が多数にとって良く思われていないことも承知している。「デマとか陰謀論とかいう言葉を使うこと自体が、科学的に議論しようとする姿勢を捨てている」。それでも止めるつもりはない。「ほとんどの人はあまりに忙しすぎて私みたいに情報を調べられない。じゃあできる人間がやらなければならない」。

これからもワクチンの危険性を伝える活動を続けるつもりだ。「のんびりとした余生をと思っていたが、戦争になってしまったのでやめるわけにいかないです」。

それ以降もKLA.TVでやりたいことがある。「ワクチンが解決しても次の問題、気候変動が出てくる」。

 

川田さんへのインタビューを始める前に、確認されたことがある。新型コロナワクチンを打っているか。「打ちました」と答えると、「そっち側なんだね」と納得した様子で会話を続けた。

話していて感じたのは、使命感や怒りだ。仕事に没頭してきたために知り得なかったことを知り、すぐに行動に移している。それを知らなかった自分に、我慢がならなかったのだろう。

たしかに大多数の主張とは正反対ではあるが、その正義感や行動力は素直に尊敬するところであった。

 

第5章 1121日、新宿、世界同日デモ

2021年11月21日土曜日、午後2時、東京都庁のとなり、新宿中央公園に大勢が集まっていた。隔月で行っている世界同日デモの5回目だ。警察に誘導されながらいくつかの列に分かれている。

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新宿中央公園に集合するデモ隊。=2021年11月21日

「このデモの参加者への取材は禁止しております」。デモ開始前にもかかわらず拡声器で呼びかけている。実は7月のデモの際にも、主催者側から同様のことを言われている。今回のデモも、主催は「日本と子どもの未来を考える会」だ。

これに従うべきかは保留するとしても、主催団体との関係をことさらに悪くすることは得策でないと考え、今回はデモを追いかけるだけの取材にとどめた。

「このデモは平和的なデモです」という文言も、出発前から強調していた。この数日前からヨーロッパ各国で新型コロナのための規制強化に反発する大規模なデモが行われており、一部が暴徒化する事態が頻発していた。私もニュース等で映像を目にしていた。おそらく、コロナ政策に反対するデモが危険な集団であるというイメージを払しょくしたいという意図があったのだろう。

デモ隊は5つ分かれ、順々に間隔をあけて出発していく。主催団体によると、まとまって行進すると交通に支障が出るため、出発前から分割せよという指示を警察が出していたという。

新宿中央公園を出たデモ隊は東京都庁を左手に、公園通りを南下していく。公園通りは新宿駅から離れており、沿道の通行人は少ない。グループによっては新宿の中心地に出た時のために、シュプレヒコールの練習をしていた。

この日は湿度が高く、マスクから漏れる息でメガネが曇る。道が立体的に交差する公園通りを、デモ隊と距離を取りながら追いかけた。

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デモ隊同士が距離を空けているのが分かる。甲州街道を東に進む。=2021年11月21日

公園通りが甲州街道と交差するポイントでデモ隊は左折、東の新宿駅に向かって歩き続ける。新宿駅に近づくにつれ、車両も人も交通量が増えていく。当然ながら、デモ隊のコールにも力が入ってくる。特に人が多いエリアでは、街を往く人たちに直接、語りかけるような場面も見られた。

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新宿駅南口前。通行人に呼びかける姿が印象的だった。=2021年11月21日

新宿駅を過ぎたデモ隊は明治通りを北進し、靖国通りを西に進む。新宿大ガードをくぐり、新宿中央公園に戻っていった。約4.1キロメートルを歩いた。7月のデモの倍以上の距離だ。公園では前回のデモ同様に参加者同士で談笑している。しばらくすると、拡声器での呼びかけがあり、皆で記念撮影をしていた。また、デモ終盤からは雨が降り出していたが、大して気にする様子もなく続けられていた。

このデモには主催者発表で800人が参加した。今までの5回のデモの中では最多だったという。

7月のデモとの違いは通行人からの視線だ。私が見た限りでは、かなり柔らかくなっていたように感じる。

デモ隊が通りを行進する際、横断歩道はずっと通れないままになっている。歩行者は数分間、足止めを食らう。「マスクを外せば信号を渡れたのに」。デモを見ていた少年がそんな冗談を言っていたのが印象的だった。

他にも、20代くらいの女性がSNSでデモ隊について検索し、話の種にしていた。デモ隊の姿を見た中年男性が、「確かにもうマスクは要らない気もするよね」などと話し合っていた。

そもそも、7月24日と11月21日とでは感染状況が大きく異なる。東京都の新型コロナ陽性者数は、7月のデモの日には1148人、11月の日には20人[ⅴ]。50倍以上の差がある。7月にはオリンピックを前に感染者数が増え続け、自粛ムードが漂っていたのに対し、11月には感染の波が落ち着き、街へ繰り出そうという機運が高まっていたように思う。

状況の変化によって新型コロナに対する人々の見方が変わると同時に、世界同日デモのようないわゆる少数派への視点も変わっていったのではないか。

 

第6章 取材してきて 私は新型コロナについてどう思うか

これまでいくつかのデモや街宣に赴き、参加者の主張を聞いてきた。そしてその中で出会った二人からはじっくりと話を聞くことができた。これを通して、最初に抱いていた「ヘンな人たち」という感想はどう変化したのか。「よく分からない」集まりについて何を思うか。そもそも、私が新型コロナやコロナ禍での生活についてどのように考えているのか。この章では、以上のことを述べ、全体のまとめとする。

 

まず、「ヘンな人たち」という印象についてだ。これはかなり薄れたと言える。

三沢さんも川田さんも、そして声をかけた他の人たちも、他人である私に対して普通かそれ以上の対応をしてくれた。素っ気なく受け流されたこともある。全くの他人、そしてマスク着用の明らかに参加者でない人から話しかけられれば当然の反応だ。

三沢さんも初めは私を警戒していた。取材の意図を熱心に説明し、連絡先を交換してくれた。ZOOMでの取材では、かなり打ち解けることができたと思う。年齢が近いということはあるが、私の友人と似たような雰囲気を感じ取っていたことも大きい。

川田さんは取材時が初対面だったが、それまでのメールでのやり取りから、丁寧な人だという印象を抱いていた。会ってみても、その印象は変わらなかった。静かに話せる場所を一緒に探してくれたこと、それ以前に、初対面の大学生の取材を受けるために上野まで来てくれたことが、私からの印象を決定づけた。

しかし、私はデモ参加者全員と話したわけではない。無意識のうちに、声をかける相手を選んでいるはずだ。「ヘンな人」がいないとは言い切れない。ただ、そうでない人もいるということは断言できる。

 

反新生活様式・反新型コロナワクチンのデモ参加者が「よく分からない」集まりであるという認識は今も持っている。全員と話をしたわけではないためだ。ただ、少なからず見えてきたことはある。

まず、デモ参加者の主張や考えには想像以上に大きな幅がある。三沢さんのように自粛生活に反対という人から、「ワクチンは毒薬」というプラカードを掲げる人までいた。わざわざプラカードにして持ってくる主張は、その人の主張の中心であると思われる。

では、実際にどんなプラカードがどの程度の割合で存在したのか。これを見ればデモの全体感を示すことができるかもしれない。デモを撮影した動画から、確認可能な範囲で読み取ってみる。

7月のデモには、大きく分けて3種のプラカードがあった。コロナ対策全般への反対、「ワクチンは危険」、「コロナは嘘」といったものだ。それぞれ、マスクやワクチンといったコロナ対策全般への反対、新型コロナワクチンによる死亡者数とするものを示し危険性を訴えるもの、新型コロナの存在自体が嘘であるとするものであった。そして3種がほぼ同数であった。

11月のデモでは、コロナの存在を否定するプラカードはあまり見られなかった。その代わりに「ワクチンパスポート反対」が急増し、約半数となっていた。残りの半分は、コロナ対策全般への反対、「ワクチンは危険」、「子どもへのワクチン接種反対」といったプラカードであった。

6章では、デモに対する視線が変わっていたことを書いた。それと同時に、デモ全体の主張も変容していたことが分かる。コロナの存在を否定する主張よりも、ワクチンパスポートへの反対の方が、より多数に受け容れられやすいのは明らかだ。デモとデモを見る側の双方に変化があり、結果として両者が歩み寄っていたために11月の和やかな雰囲気が作られたのかもしれない。

 

最後に、私が新型コロナや2020年来の新しい生活スタイルに何を思うか。

私はマスクが嫌いだった。自分の顔の半分近くを隠すというのが、何か誠実でない気がしていた。メガネが曇るのも嫌だった。花粉症に苦しむ時期でも、マスクを着用することはなかった。

そして、新型コロナが日本に上陸してからも、すぐにはマスクを着けなかった。外に出るとみんながマスクをしているという状況になり、ようやく観念した。1年以上経ってもマスクを好きにはなれないが、こういう社会なのだと思っている。

ワクチンに関しては、なるべく早く打ちたいと思っていた。私は血圧が高めなので、新型コロナに感染したときのリスクが高い。その安全性についても、あまり恐れることはなかった。「『ワクチンを接種した後に亡くなった』ということは、『ワクチンが原因で亡くなった』ということではありません」[ⅵ]という説明は、自分にとって十分に納得のいくものであったためだ[ⅶ]。実際、ワクチン接種後に体調が悪くなることはあったが、数日すれば元に戻った。

ワクチンやマスク等の感染予防に伴うリスクやコストよりも、新型コロナに感染した時のリスクの方が大きいと私は考えている。この認識は、取材を経ても変わっていない。しかし、感染予防やワクチン接種を拒む考えをまったくもって理解できないということではない。

それぞれのリスクやコストへの認識は人それぞれだ。年中マスクを着用するのは苦痛で、ある程度のリスクもある[ⅷ]。新しいワクチンへの不安があるのも当然だと思う。認識が異なるために、私とは違う行動をとっているに過ぎない。

デモ参加者には普通の人が多いし、三沢さんと川田さんは特に親切な人だった。デモがない日は私と同様、普通の社会生活を送っている。

 

[i] 厚生労働省「『新しい生活様式』における熱中症予防行動のポイントをまとめました」

[ⅱ] NHK選挙WEB「NHK世論調査(2021年07月)」

[ⅲ] 厚生労働省「新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」の実践例を公表しました」

[ⅳ] YouTube「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の医学的に誤った情報に関するポリシー」

[ⅴ] 東京都「新型コロナウイルス感染症対策サイト」

[ⅵ] 厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A「新型コロナワクチンの接種が原因で多くの方が亡くなっているというのは本当ですか。」

[ⅶ] 厚生労働省はワクチン接種後の死亡例について、2021年12月5日までに「ファイザー社ワクチンについて1,343例、武田/モデルナ社ワクチンについて59例の報告があり、アストラゼネカ社ワクチンについては疑い報告がありませんでした」との報告を受け、「現時点では、ワクチンとの因果関係があると結論づけられた事例はなく、接種と疾患による死亡との因果関係が、今回までに統計的に認められた疾患もありません」としている。厚生労働省「新型コロナワクチンの副反応疑い報告について」

[ⅷ] みらいクリニック院長の今井一彰氏はマスクの習慣的着用に伴うリスクとして、肌荒れ、口臭、歯並びの悪化、表情筋の衰え、集中力の低下、うつ病等を挙げている。PR TIMES「マスク着用の習慣化による体の不調・変化に関する調査を実施。約半数がマスク生活のもたらす健康リスクを「何も知らない」一方、3人に1人がその症状を実感!」

 

参考文献

NHK選挙WEB「NHK世論調査(2021年07月)」https://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/archive/2021_07.html(2022年1月7日確認、以下同)

疑似科学とされるものを科学的に考えるhttps://gijika.com/

厚生労働省「『新しい生活様式』における熱中症予防行動のポイントをまとめました」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_coronanettyuu.html

厚生労働省「新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」の実践例を公表しました」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html#newlifestyle

厚生労働省「新型コロナワクチンの副反応疑い報告について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_hukuhannou-utagai-houkoku.html

厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A「新型コロナワクチンの接種が原因で多くの方が亡くなっているというのは本当ですか。」https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0081.html

東京都「新型コロナウイルス感染症対策サイト」https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

PR TIMES「マスク着用の習慣化による体の不調・変化に関する調査を実施。約半数がマスク生活のもたらす健康リスクを「何も知らない」一方、3人に1人がその症状を実感!」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001473.000002360.html

山本輝太郎, 石川幹人「ワクチン有害説を科学的に評価する」『ファルマシア』55(11), 1024-1028, 2019

YouTube「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の医学的に誤った情報に関するポリシー」https://support.google.com/youtube/answer/9891785?hl=ja

このルポルタージュは瀬川至朗ゼミの2021年度卒業作品として制作されました。