ファッションを楽しみながら持続可能性に向き合うRethink Fashion Waseda ―早稲田とSDGs―


 

若者が興味を持ちやすい「ファッション」という切り口から、持続可能な社会の実現に向けて動き出した学生団体がある。2020年5月に設立されたRethink Fashion Wasedaだ。早稲田大学の学生を中心に6名で活動を始めたが、設立から約1年が経った現在では国内外の大学から約90名が活動に参加している。中心メンバーの早大生3人に話を聞いた。(取材・執筆・写真=丹羽ありさ)

トップの写真は左からRethink Fashion Wasedaの内山響さん、五十嵐文桜さん、小林亜莉さん=2021年6月3日、丹羽ありさ撮影

代表を務める五十嵐文桜さん(国際教養学部4年)は、ドキュメンタリー番組をきっかけに大好きなファッション業界が環境汚染や人権侵害を助長する一面を持っていることを知り衝撃を受けた。以来、環境や人権に配慮したサステナブル(持続可能な)ファッションをより多くの人に伝えようと決意を固める。大学2年次には、米・カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に留学し、現地のNPO団体で様々な活動を経験した。そして帰国後、五十嵐さんの「日本でもサステナビリティ(持続可能性)への理解を広めていきたい」という思いに賛同する友人たちが集まり、Rethink Fashion Wasedaが結成された。

ファッション業界の抱える課題

華やかなイメージをまとうファッション業界だが、数々の社会問題を内包している。衣服の大量生産は、水質汚染や地球温暖化に直結する環境負荷を与えている。2019年に日本国内向けに供給された衣服の製造プロセスでは、約83億立方㍍の水が消費された[i]。東南アジアなどの染色工場では、汚水を未処理のまま排水することによる水質汚染が課題となっている[ii]。ポリエステルやナイロンといった化学繊維製の衣服を洗濯する際に、分解に数十年がかかるとされているマイクロプラスチックが河川や海に流入することも生物への影響が懸念されている[iii]

また、衣服の生産や流通、廃棄を通じて大量の温室効果ガスが排出されている。エレン・マッカーサー財団本部・イギリスによると2015年に繊維産業が排出した温室効果ガスは、世界合計で約12億トン(CO2換算)だった[iv]。環境省の調査によれば、日本では年間約48万トンの衣服が焼却あるいは埋め立て処分されており、その過程でも二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが排出されている[v]

労働者の人権に関する問題も深刻だ。ファッションブランドが低価格を実現できる背景には、工場における低賃金・長時間労働や劣悪な環境での強制労働、児童労働がある。労働者を搾取する工場は発展途上国に多く「スウェットショップ(搾取工場)」と呼ばれている。2013年4月にバングラデシュ・ダッカで1100名以上の死者を出したラナ・プラザ崩落事故は、ファッション業界における代表的な労働災害だ。このビルには27のファッションブランドの工場があり、若い女性たちは労働組合の結成も認められず危険な建物で低賃金労働を強いられていた[vi]

その他にもカシミヤ山羊の過放牧[vii]や綿花栽培に使用される農薬による土壌劣化[viii]、化粧品開発の際の動物実験[ix]など、ファッション業界には問題が山積している。

Rethink Fashion Wasedaの取り組み

Rethink Fashion Wasedaはファッションを楽しむ姿勢を持ちながらこれらの社会問題に向き合っている。主な活動はInstagramでの情報発信だ。サステナビリティという硬い印象を受けるテーマが、具体的に分かりやすく解説されている。日々の生活に環境や人権に配慮した行動を落とし込めるコンテンツも豊富だ。具体的には、古着のコーディネートや着なくなった服のリメイク方法、おすすめのブランド等が紹介されている。Rethink Fashion Wasedaのメッセージは、「十人十色のやり方で、サステナブルファッションを楽しもう」。既にフォロワーは2000人を超え、同世代の若者が気軽に挑戦できる行動を示すことで変化の輪が広がっている。

Instagram [@ref.waseda] における情報発信の様子=Rethink Fashion Waseda提供
Instagram [@ref.waseda] における情報発信の様子=Rethink Fashion Waseda提供
活動の裏側にはどのような考えがあるのだろうか。週に一度のミーティングでは、ファッションを楽しむ上での葛藤やエシカル(倫理的な)消費のアイデアを共有する。他団体や企業とも協力し、サステナブルファッションを推進するコミュニティづくりも担っている。内山響さん(国際教養学部4年)は、「活動のためにリサーチを行う過程で、自分たちが学びを得ることも大切にしていきたい」と語る。

今後の活動では、中高生向けのワークショップやファッションショーを企画している。また、Instagramだけでなく、YouTubeやTikTokでの動画配信にも力を入れていく予定だ。YouTubeディレクターを務める小林亜莉さん(社会科学部3年)は、「沢山の人が自分なりの関わり方を見つけられるように、表現の幅を広げてサステナブルファッションを広めていきたい」と話す。

 

SDGsとは

SDGs(持続可能な開発目標)とは、2001年に策定されたMDGs(ミレニアム開発目標)の後継として、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のこと。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。(参照:外務省 ”SDGsとは?”、https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html、最終閲覧:2021年8月22日)

SDGsアジェンダ

<注>

[i] 環境省 大臣官房総合政策課「SUSTAINABLE FASHION ─これからのファッションを持続可能に─」(https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/)(最終閲覧:2021年8月22日)

[ii] 環境省 水・大気環境局水環境課「アジア水環境改善モデル事業」(https://www.env.go.jp/press/files/jp/112020.pdf)(最終閲覧:2021年8月22日)

[iii] 高田秀重(2018)「マイクロプラスチック汚染の現状, 国際動向および対策」廃棄物資源循環学会誌,Vol. 29, No. 4, p.3(https://www.jstage.jst.go.jp/article/mcwmr/29/4/29_261/_pdf)(最終閲覧:2021年8月22日)

[iv] Ellen MacArthur Foundation; A New Textiles Economy: Redesigning Fashion’s Future, p. 127,
https://www.ellenmacarthurfoundation.org/assets/downloads/publications/A-New-Textiles-Economy_Full-Report.pdf)(最終閲覧:2021年8月22日)

[v] 前掲「SUSTAINABLE FASHION ─これからのファッションを持続可能に─」(https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/)(最終閲覧:2021年8月22日)

[vi] 未詳 “ラナ・プラザ崩落事故とは・意味“, IDEAS FOR GOOD,(https://ideasforgood.jp/glossary/rana-plaza-collapse/)(最終閲覧:2021年8月22日)

[vii] 双喜(2003)「内蒙古西部地域におけるカシミヤ生産と草原環境問題」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/fmsj1963/41/2/41_147/_pdf/-char/ja)(最終閲覧:2021年8月22日)

[viii] COTTON UP “なぜサステナブル・コットンを調達すべきか? コットンの課題”,(http://cottonupguide.org/ja/why-source-sustainable-cotton/challenges-for-cotton/)(最終閲覧:2021年8月22日)

[ix] NPO法人動物実験の廃止を求める会 ”化粧品でも動物が犠牲に“,(https://www.java-animal.org/animal-testing/cosmetics/)(最終閲覧:2021年8月22日)

 

※2021年8月23日 <訂正とお詫び> 本記事中、小林亜莉さんのお名前を間違って表記していました。訂正するとともに、ご迷惑をおかけしたことを謹んでお詫び申し上げます。