どのように利用? 早稲田大と同志社大の「国内留学」制度について考える
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早稲田大学と同志社大学の間には、学部学生交流制度がある。早稲田大学グローバルエデュケーションセンターのホームページ[i]によると、1977年に始まった「国内留学」の制度であり、年間5名から10名程度の学生が、1年間または1学期間、交流先の大学に在籍し、勉強している。学生たちはどんな目的で東京や京都への国内留学を利用しているのだろうか。同志社大、早稲田大双方の利用者にインタビューを試みた。 (取材・執筆・写真=川野耀佑)
「確実に、来てよかったです」 同志社大学からの留学生・神谷龍さん
神谷龍さんは同志社大から、早稲田大へ留学している、名古屋出身の2年生だ。
中学1年生の時、自分の興味のある分野の社会人に取材し、記事を書くという授業を通して「伝える」ということの面白さを知り、メディアに興味を持った。メディアを学ぶ為、同志社大学社会学部メディア学科[ii]へ進学した。関西でメディアを勉強する中で、神谷さんは1つの疑問を抱いた。
「関東のメディアに対する、関西のメディアの役割って何だろう。もしかしたら、情報の中心地である東京で勉強することで、分かるかもしれない」。こう考えて、学部学生交流制度の利用を決めた。
神谷さんは4月から1年間、文化構想学部表象・メディア論系[ⅲ]への留学を希望した。「この留学制度に自分の大学生活が懸かっている、という気持ちでした。東京だけでなく、早稲田大学にもあこがれがあったので」
「早稲田の学生はまじめで、早稲田が好き」
授業でメディアについて学び、サークル活動でも中学時代から続けてきたハンドボールの他、早稲田大学マスコミ研究会[ⅳ]に入り、忙しくも有意義な毎日を過ごしているという。早稲田大への留学により、授業、サークルなど大学の内外を通してメディアに関わる人々の話を聞くことができ、同志社大時代とはまた違った形でメディアについて学ぶことができている。
「世間ではいろいろ言われますが、やはり早稲田にはまじめな学生が多いと感じます。それから、自分の大学のことが好きな人が多い。そして、お酒をよく飲みますね」。神谷さんは笑いながら話す。
「確実に、来てよかったです」。この留学制度は、同志社大のゼミ選考に参加できず、書類のみでの選考となってしまうなどデメリットもある。それでも神谷さんは、インタビューを終え、別れるまでの間にも、早稲田大の魅力や、東京での暮らしの楽しさを何度も語ってくれた。
心理学をより深く学ぶ 早稲田大学からの留学経験者 久保田寛大さん
早稲田大から同志社大への留学経験者にも話を聞いた。
人間科学部3年の久保田寛大さんは2年生の時1年間同志社大へ留学した。
久保田さんは高校時代から心理学に興味があり、心理学をいじめ被害者のケアなどに役立てたいと考えていた。そのため、早稲田大入学後は人間科学部健康福祉学科[ⅴ]で心理学を学んでいたが、早い段階から同志社大への留学を希望していたと言う。大きな理由は二つ。一つは、心理学部が設けられている同志社大なら心理学をより深く学べるのではないか、というもの。もう一つは、実家を出て、一人暮らしをしてみたいというものだった。
久保田さんは書類と面接により、同志社大学心理学部へ1年間の留学が決まった。「やりたいことを貫く」ことを大切にしていた久保田さんは、1年間京都市の中心部にある烏丸に住みながらも、前期は主に理系の科目を学ぶため、京田辺キャンパス[ⅵ]に、後期は主に文系の科目を学ぶため、京都市中心部にあり、御所に近い今出川キャンパス[ⅶ]に通った。実際に同志社大学心理学部[ⅷ]では、より多くの教授陣のもと、実験心理学をより深く学ぶことができた。
京都の魅力をフリーペーパーで伝える
さらに、もともと東京でフリーペーパー「ENJI」[ⅸ]を作成していた経験を活かし、京都の新たな魅力を伝えるフリーペーパー「FASTNER.」[ⅹ]の制作に携わった。文章を書くのが好きな久保田さんにとって、FASTNER.は久保田さんの同志社大生活の中心となった。
「FASTNER.」20号に、久保田さんは「私とヒーロー」という文章を載せている。そのなかに、このような文がある。「ヒーローとはなにか、それは、自分の道を貫き通す勇気を持つ人間だ」。
「やりたいことをやればいい。大学生活を就活のためだけに過ごすのは意味ないのでは」
もちろん、同志社大への交換留学は決して楽しい面だけではなく、厳しい面も持つ。「でも、やりたいことがあるなら、それに向かってやればいい、と思うんです。せっかくの大学生活を、やりたいことをやらず、就活のためだけに過ごすのでは、意味がないんじゃないか、と」。
同志社大に行く意味を見出し、その意思を貫いた久保田さんにとって交換留学は、早稲田大に戻った今にも活きる大きな経験となっている。
現実的には、学部学生交流制度を使用することは良い面ばかりではなく、厳しい面も持つ。久保田さんは単位互換が半分ほどしか認められなかったと言う。さらに、元の大学のゼミ選考に参加できなかったということは二人ともが語った。しかし、それとしっかりと向き合った上で、それでも同志社大学に、早稲田大学に行きたい理由がある者に、この制度はかけがえのない体験を与えるのだ。
早稲田からの留学希望者は少ないようだ
唯一、この取材を通して残念に感じたのは、早稲田大学からの留学希望者の少なさだ。二人の話を聞くに、二人が希望を出した年の同志社大学からの留学希望者は年間80人程度、早稲田大からの留学希望者は年間5、6人程度だったという。早稲田大の学生に対する同志社大の魅力のアピールという点にはまだまだ課題がありそうだ。久保田さんのように同志社大に行きたいという志のある学生が、臆することなく積極的に利用するようになることを願う。
【注】
[ⅰ] 早稲田大学 学部学生交流制度(https://www.waseda.jp/inst/gec/undergraduate/exchange/) [ⅱ] 同志社大学社会学部メディア社会学科(http://ss.doshisha.ac.jp/med/outline.html) [ⅲ] 早稲田大学文化構想学部表象・メディア論系(https://www.waseda.jp/flas/cms/about/theoretical/smbi/) [ⅳ] 早稲田大学サークル マスコミ研究会(http://wasedamassken.web.fc2.com/index.html) [ⅴ] 早稲田大学人間科学部(https://www.waseda.jp/fhum/hum/about/history/) [ⅵ] 同志社大学京田辺キャンパス(https://www.doshisha.ac.jp/information/campus/kyotanabe/kyotanabe.html) [ⅶ] 同志社大学今出川キャンパス(https://www.doshisha.ac.jp/information/campus/imadegawa/imadegawa.html) [ⅷ] 同志社大学心理学部(https://www.doshisha.ac.jp/academics/undergrad/psychology/index.html) [ⅸ] 早稲田大学のフリーペーパー ENJI(http://www.enji-wu.com/) [ⅹ] 京都のフリーペーパー FASTNER.(https://www.facebook.com/FreePaperFASTNER)【追記】
中見出し「やりたいことをやればいい。大学生活を就活のためだけに過ごすのは意味ないのでは」を追加=2018/08/06
中見出し<少ない早稲田からの留学希望者>を<早稲田からの留学希望者は少ないようだ>に変更=2018/08/06
写真キャプション「本人の希望で」の前に「顔が載ると恥ずかしいから」を追加=2018/8/6