ハラルフードで異文化理解を 上智大学の挑戦


近年グローバル化が進み、多様性を認めることの大切さがうたわれている。留学生が増加している日本の大学も例外ではない。上智大学は2016年9月に、日本で最先端のハラルフード専用のカフェテリアである「東京ハラルデリ&カフェ」をオープンさせた。ハラルフードは、イスラムの教えを守るムスリムの人向けの食事である。本格的なハラルフードで異文化理解に取り組む上智大学の試みを取材した。(取材・執筆=平山未来・土方萌・岡本太郎、写真=土方萌 )
<トップの写真は、東京ハラルデリ&カフェの経営を行っているモハマド・シャーミンさん(写真左)と上智大学財務局管財グループの正山耕介さん(写真右)。取材ではお二人に話をうかがった>

 

なぜ上智大学に?

上智大学四谷キャンパス(東京都千代田区)のホフマン・ホール4階には、昼休みの時間が近づいてくると、ひときわにぎわう場所がある。「東京ハラルデリ&カフェ」ある。日本で最先端のハラルフード専門のカフェテリアだが、留学生から日本人学生、講師まで様々な人でいっぱいになる。

ハラルフードとは、イスラム教の聖典であるコーランに記載されている条件を満たした食事である。「ハラル」な食べ物の例には、野菜、果物、魚介類をはじめとした、豚肉や豚由来の成分を含んでいない食品、アルコールを含んでいない食品がある。この条件を満たさないものは「ハラム」といわれ、取り入れることは禁止されている。

上智大学には現在、約1600名の留学生がおり、それぞれの生活文化も多様である。当初はムスリムの学生や教職員への食事の配慮で、2015年からハラルフードの弁当販売を行っていた。この弁当販売はモハマド・シャーミンさんが経営するASlink Ltd. 社に弁当作成を委託して、大学内で販売していた。ムスリム以外の人からも評判が良く、多い時は一日に150食完売するほどであった。しかし、厳密にハラルの基準を満たした食事を提供するには、ハラムな食材を調理する場所と完全に区別することが不可欠になる。カフェテリア改装の時期と重なったこともあり、ハラルフード専門の「東京ハラルデリ&カフェ」がオープンした。上智大学の新聞が実施した食堂ランキングでは学生人気1位を獲得したそうで、好収益をあげている。

東京ハラル デリ&カフェが販売している弁当(500円)
東京ハラル デリ&カフェが販売している弁当(500円)

厳密なハラルにこだわる

「お店を開くからには、ムスリムの方々が本当に安心して食べられる厳密なハラルフードを学生価格で提供したい。」

シャーミンさんと正山耕介さんに共通する思いであった。こだわりは細部にまで至る。ムスリムの食事は制限が多く、食料品に使われているすべての原材料を自力で確認するのは困難である。そこで、ムスリムにとっての安全のマークが利用されている。宗教と食品衛生の専門家が「この厨房はハラルである」と判断した飲食店や食品にのみつけることのできる「ハラル認証マーク」だ。調理場を完全に区別し、宗教法人日本イスラーム文化センターによる「ハラル認証」を得ることでムスリムも安心して利用できる。調味料の酒も禁止のため、スパイスや食材を組み合わせて手作りの調味料を作る。さらに、日本では得ることが難しい「ハラルな方法で処理された肉」を安価で得るために、シャーミンさんはタイに工場を作り、養鶏場と契約した。東京ハラルデリ&カフェで使われる鶏肉はその直営工場から出荷されたハラルな鶏肉である。

味へのこだわりも強い。メニューは社員全員で開発し、試食を重ねる。日本人の学生にも受け入れてもらいやすいような味付けに工夫もする。

食材や調味料にこだわったベジタブルカレー。このほかにライス一皿とおかず一品がセットでついてくる。(500円)
食材や調味料にこだわったベジタブルカレー。このほかにライス一皿とおかず一品がセットでついてくる。(500円)
ハラル認証マークのついた調味料。
ハラル認証マークのついた調味料。

東京ハラルデリ&カフェの今後

取り組みは食事だけではない。今年の7月7日に行われた浴衣デーでは、浴衣を着てきた客には、イスラムの伝統的なデザートをプレゼントした。

今後は、カフェテリアを通じて国際交流の場にしたいという。ハラルフードを理解してもらうために、学生向けに料理教室も開きたいと語っていた。

「ハラルフードを通して、ムスリムへの理解も深めてほしい。」その気持ちから今は様々な企画を考えている。

 

早稲田大学の取り組み

早稲田大学においても、ムスリムに向けての取り組みが見受けられたため紹介する。

22号館には、礼拝のできるスペースがある。留学生が授業で利用する機会の多いこの号館に、礼拝をはじめとした多様な目的で使用可能なスペース[i]を設けた。この施設を積極的に活用しているのは月に延べ70名程である。[ii]

また、大隈ガーデンハウスでは、種類は一つであるが、ハラルメニューの提供をしている。週替わりでチキンの味付け三種類[iii]を変えて提供する仕組みだ。17号館生協の売店にはハラル認証を受けたインスタント食品や飲料が置かれている。

イスラム圏から日本への留学生は7000人程度いる(2014年、日本学生支援機構調べ)。大学として、多くの国からの留学生を本気で受け入れようとするのなら、彼ら彼女らの多様な文化を学内で理解し、認め合える環境づくりが重要な課題であろう。

 

[i] 特定の宗教・信教に対して便宜供与しないという大学方針のため、ムスリム向けの礼拝室としての運用に限ってはいない。

[ii] 2017年4月から6月はそれぞれ延べ72名、76名、66名の利用者がいた。(早稲田大学国際部調べ)利用者が信仰する宗教についての調査はない。

[iii] 味付けは、トマト、和風、カレーがある。

 

取材協力

東京ハラル デリ&カフェ  https://twitter.com/TokyoHalal

上智大学財務局管財グループ 正山耕介さん

ASlink株式会社 代表取締役 モハマド・シャーミンさん  http://aslink.tokyo/

早稲田大学生協ライフセンター 南昌宏さん

早稲田大学生協食品部 遠藤貴博さん

早稲田大学国際部 山崎聡子さん