日本初のLGBT学生センター設立に向けて


日本における性的少数者(LGBT)[i]の割合は7.6%、およそ13人に1人だという2015年の調査結果がある[ii]。これは1つの指標に過ぎないが、意外な割合の高さに驚く人もいるだろう。私たち大学生が通うキャンパスにもLGBTの人は大勢いるのである。昨年、早稲田大学内の企画コンペティション[iii]においてLGBTに関心を持つ学生グループ「ダイバーシティ早稲田」が日本初のLGBT学生センターの設立を提案して総長賞を勝ち取った。めざしていることは何なのか。ダイバーシティ早稲田の方々に活動についてお話を聞いた。(取材・執筆・写真=早川史也、トップの写真提供はダイバーシティ早稲田)

 

LGBT学生を取り巻く環境

 

「LGBTとは決して珍しい存在ではない。あなたの隣にいるかも、ではなく、あなたの隣にいるのです」。

そう語ってくれたのは早稲田大学の卒業生で、ダイバーシティ早稲田創設時のメンバーである逸村理さんである。では、大学内においてLGBT学生を取り巻く環境はどうであろうか。

逸村理さん
逸村理さん

男女別のトイレ・更衣室、保健センターなどの既存の設備やシステムに困ることは多いに違いない。それに加え、他の学生や教職員の理解に欠けた発言も完全になくなってはおらず、そのことによって悩む学生もいるであろう。そして、悩みを抱えていても相談できる人や機関が整っていないなどLGBT学生を取り巻く環境は不十分に思える。

 

LGBT学生センターとは

 

LGBT学生センターとは何か。

逸村さんは「セクシャリティにかかわらず学生が自分らしい大学生活を送れるよう学生・教職員が関わる場」だと説明してくれた。ダイバーシティ早稲田が提案するLGBT学生センターとは主に次の3点である。

1. 大学組織を対象に、トイレや更衣室などの設備や保健センターやレジデンスセンターなどのサービス・システムの改善を学内の他の機関と連携しながら進める。

2. 非LGBTおよび教職員に対して、イベントや講演会などを開きLGBTに関する学びの場を提供すること。さらには、差別を低減させるためのルール作りを提案する。

3. LGBT学生を対象に、専門職員による個別相談を設けたり、LGBT学生の居場所作りをしたりする。さらに、そのような学生支援の情報を提供する。

 

コンペチームの枠を超え

 

ダイバーシティ早稲田は、最初は、コンペのための学生グループであった。

「誰かがリーダーシップを取るというよりかは、LGBTに関心のあった4人が互いに声を掛け合った結果、コンペチームとしてできた」(逸村さん)。しかし、現在ではコンペチームの枠を超え、実現に向けた一歩として学内の関心を高める活動にシフトしている。

今年5月には早稲田大学学生生活課や早稲田大学国際コミュニティセンター(ICC)などと共催で、LGBT当事者だけでなく、興味を持っている人も参加できるようなイベントを開催した。その影響もあってか、ダイバーシティ早稲田のメンバーも当初の4人から6人へと増えた。

 

活動を続ける上での苦悩

 

「コンペが終わった後にこのグループで活動を続けるべきなのか悩んだ」と逸村さんは教えてくれた。

コンペティションと違い、普段の学生生活で大学職員や教授に直接意見を訴えることの難しさに直面したのである。それでも、「企画で終わらせてしまえば意味がない。」そう思い。なんとか実現に持っていくための活動を始めたという。

まずは、話を聞いてくれそうな大学の学生生活課や男女共同参画推進室の職員の方々に辛抱強く相談することにした。その結果、最初は話を聞いていただけの職員の方々も、LGBTについてアンテナを張り応援してくれるようになった。さらには、学生向けのトークショーなどのイベントも開催してみると、学生以外の方々も参加してくれるなど予想外の反響があった。

 

先輩の活動に影響されて

 

「LGBTについて話を聞いたり、コンペティションでの活躍を見て、ただ話題性があるだけではないと知り、協力しようと思った」と語ってくれたのは政治経済学部4年でダイバーシティ早稲田の現メンバーの1人である程島彩佳さんである。

彩島さん
程島彩佳さん

 

程島さんは「家にフェミニズムに関する本があったので元々、性に関する興味があった」という。ダイバーシティ早稲田の活動に加わる直接のきっかけになったのは結成当時のメンバーであった逸村さんと偶然、障がい学生支援室のボランティアで出会ったことだった。具体的な活動や逸村さんの思いを直接聞き、またコンペティションでも結果を残したことに心を動かされた。

そんな程島さんは現在、活動の中心に立ち逸村さんたちの活動を引き継ぎ、また次に繋げようとしている。まだ、実現していないが、ダイバーシティ早稲田のサークル化もその試みの一つである。

 

実現に向けた課題は多い

 

ダイバーシティ早稲田は、これまでは周りの関心を集め、大学側に理解してもらうことを活動の中心に据えてきた。今後もその活動は続くであろう。

程島さんは「LGBT学生センターは、様々な人やシステムの関わる複合的なものなので実現に向けた課題は多い」と指摘する。

たとえば、LGBT学生センターの建物ができたとして、誰がその運営をになうのか。あるいは、誰が学生の教育を担当するのか。実際に、すべてのセクシャリティの学生や教職員が利用できる環境を整えられるのか。

今後、LGBT学生センターの実現に向けた課題にどう対処するか。そこにダイバーシティ早稲田の次の一歩が見えるのではないだろうか。

 

<参考URL>

<注>

[i] 性的少数者(セクシャル・マイノリティー)であるレズビアン(L)・ゲイ(G)・バイセクシュアル(B)・トランスジェンダー(T)の総称

[ii] 2015年電通総研ダイバーシティラボ調べ

[iii] “WASEDA VISION 150 STUDENT COMPETITION” 創立150周年を迎える2032年に早稲田大学が目標とする姿を実現するための施策についてのコンペティション。