不安を抱え続けた新生活 ~ コロナによって変わったもの ~


レポートの書き方がわからない

2020年6月22日、母親から一通のメッセージが送られてきた。確認すると、「パソコンでこんなグラフを作りたいんだけど、手順おしえて」。メッセージには、授業の資料のパワーポイントのような画像が添付されていた。いきなりのことで戸惑ったが、しばらくしてそれが私の弟の大学の課題であることに気付いた。私の弟は2020年の4月に大学へ進学した。新潟から上京して関東で一人暮らしをしながら大学に通う……はずであった。しかし、その年の初頭から感染が拡大していた新型コロナウイルスの影響により、弟の通う大学では入学式が中止。授業の開始も延期され、前期は授業を全面オンラインで行うことが発表された。そのため、弟はまず半期は上京せず、実家でオンライン授業を受講することを決めた。

グラフの書き方を尋ねるメッセージの他にも、受けている法律の授業に関連した本を持っているかなどを尋ねられたり、7月に入ってからは学期末が近いからだろうか、レポートの書き方を教えてほしいと言われたりした。たしかにオンライン授業では、通常の授業形態に比べて教授に授業に内容や課題についてなど、授業に関することを質問するハードルが高いと、私自身もオンラインで授業を受けていて感じた。授業を受けているとはいえ、見知らない大人にメッセージを送ることは、大学一年生にとっては未知の体験なのだからなおさらだろう。もしくは、いつも通りであれば、授業やサークル、部活などで知り合った友達、先輩に相談することもできたかもしれない。(ちなみに弟は体育会系の部活に入部する予定であった。)

自宅のダイニングで課題をこなす弟(2020年7月)
自宅のダイニングで課題をこなす弟(2020年7月)

小学校、中学校、高等学校などは次々と登校を再開し、社会人もリモートワークから出社しての仕事にシフトし、世間では日常生活をとりもどしつつあるが、大学は対面での授業がなかなか再開されない。もちろんオンライン授業は、環境さえ整っていれば場所を選ばず受講することができる。そのため、新型コロナウイルスの感染拡大を防いだり、あるいは教室のキャパシティ以上に多くの学生の受講が可能になったりなど、メリットも少なからず存在すると考える。しかし、生徒も教授もどちらも慣れないオンライン授業では、上手くいかなかったこともあるのではないだろうか。特に、大学一年生は普段でさえ新しい環境に踏み込む不安があったであろう。相談する相手がなかなか見つからないこの状況下ではなおさら大学生活をおくりづらかったのではないだろうか。彼らの大学生活一年目はどうだったのか。どんな困難に直面し、どのようにそれを乗り越えたのか、取材をした。(取材・文・写真=齋藤正昂)

 

第1章 これまでの「当たり前を」覆された大学生

その後、私が弟と再会したのは8月の中旬。大学の部活の練習に参加するため、上京して一人暮らしを始める準備を手伝う際であった。結局弟の大学では、春学期の授業、およびテストは全面オンラインで行われた。
文部科学省の調査によると、7月1日時点では全国の国立大学、公立大学、私立大学1012校のうち、面接授業(対面授業)を実施したのは154校(15%)、面接・遠隔を併用していたのが619校(61%)、全面遠隔授業が行われたのが239校(24%)であった [1]。

文部科学省「新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえた大学等の授業の実施状況(令和2年7月1日時点)」(学校に関する状況調査、取組事例等、2020年7月17日)〈https://www.mext.go.jp/content/20200717-mxt_kouhou01-000004520_2.pdf〉より筆者作成
文部科学省「新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえた大学等の授業の実施状況(令和2年7月1日時点)」(学校に関する状況調査、取組事例等、2020年7月17日)〈https://www.mext.go.jp/content/20200717-mxt_kouhou01-000004520_2.pdf〉より筆者作成

この授業形態についての調査であるが、5月、6月に行われた調査より、面接授業、および併用している大学の数が増加していた。5月中旬から全国的に新型コロナウイルスの感染確認者が減り、4月6日から発令されていた緊急事態宣言が解除されたことによるのだろう。しかし、面接・遠隔を併用して授業が行われていたといっても、それぞれの授業がどれくらいの割合で実施されていたかはわからない。
私自身が全国の国立大学49校と、関東・関西にある有名私立大学18校を各大学のホームページから調査したところ、どの大学も呼び方は様々であるが、大学キャンパス内ではなく、生徒自宅から受講することのできる遠隔授業にシフトしていた。
遠隔授業の形態は、どの大学も大きく分けて3つに分類された。
①ZOOMやMicrosoft Teamsのようなテレビ会議サービスを用いて講義を行うもの。
②あらかじめ教室で収録したり、授業内容のスライドに教員の解説音声をつけた講義の動画を視聴するオンデマンド授業。
③授業内容のスライドや課題が提示される授業。
①は従来キャンパスで行われていた授業を遠隔でリアルタイムで受講するイメージのものである。②は予備校などで配信されている授業と同じようなもので、授業動画の再生速度を1.5倍速など自由に設定できる場合もある。そして③は授業資料が配布され、それを自身で読み、付随する課題を提出するだけの授業である。どの方法にせよ、遠隔授業を受けるためには、自宅など、受講する場所で通信環境を整備する必要がある。通信環境が整備されていない生徒がいることも想定し、多くの大学でパソコンやWi-fiのルーターの貸し出しを行っていた。中には申請すればキャンパス内のPCルームを使用して遠隔授業を受講できるようにしていた大学もあった。

授業以外にも、大学生のこれまでの当たり前は多く覆された。大学最初の大きな行事である入学式はほとんどの大学で中止となっていた。受験生から大学生になったという実感を味わうことのできる大きな機会が失われたのである。多くの大学では学長からのメッセージ動画を公開していたりしていたが、入学式の代替にすることはできないだろう。授業の開始日時は、ほとんどの大学が2~3週間程度遅らせていた。大学暦上は当初のスケジュール通りであっても、最初の1、2週間は授業を休講していたという大学もあった。

 

第2章 やっとの思いで入学した大学

9月に入り、今年大学に入学した大学一年生に電話で話を聞くことができた。私と同じ高校に通っていて、部活動の後輩のAさんだ。Aさんは2年の浪人生活の末、ようやく今年関東にある私立大学の医学部医学科に見事合格した。両親も祖父母も自分より合格を喜んでくれたという。しかし、新型コロナウイルスの影響で入学式が中止に。「これまでの感謝の意味も込めて入学式で晴れの姿を見せたかった」と、とても残念に感じたという。

大学に入学した実感が持てないまま、気付いたらオンライン授業が始まっていた。補欠合格だったため入学が決まるのが遅く、引っ越しは4月の上旬に行った。しかし、引っ越しをした直後に全面オンライン授業となることが発表された。時間をかけて準備をしたが、キャンパスに通うことはなくなった。少しの間関東で一人暮らしをし、授業を受けていたが、行動を自粛しなくてはならず、一人でいると気が病んでしまい、友達もまだできていなかったため、実家に帰り授業を受けることにした。

Aさんの大学では、授業は基本的にYoutubeのライブ配信を用い、グループワークや発表をおこなう場合はZOOMを併用して行われた。授業後の小テスト、アンケートの回答で出席とみなすシステムだったが、その時間設定が10分以内とシビアで、遅れて欠席となってしまうこともあったという。「少しの欠席が留年に繋がってしまうので、ちゃんと出席できているか毎日不安でした」と話す。大学の授業支援サイトで出席状況が確認できるが、反映されるのが遅く、何度も問い合わせた。回答したのに欠席となっていた時もあった。授業の内容は複雑で、教員は生徒の理解度が確認できないため、ついていくのに必死だ。オンライン授業では質問がなかなかできなかった。普段であれば授業中だけでなく、授業後にも教員に直接話すことができる機会があった。オンラインでは授業中はYoutubeライブのチャット欄で、授業後はメールで質問する形式だった。しかし、授業中はチャットに気付いてもらえず、メールでは図についての質問をするのが難しい。その結果として理解度の低下につながり、モチベーションの低下につながった。オンライン授業のメリットをいかせていなかったと感じた。なかには、去年の対面授業の様子を録画したものを流していた教員も。オンライン用に作られていないため、黒板が読みづらく、オンライン授業のメリットを活かせていないと感じたという。

授業で使う資料は自分で印刷しなければならない。毎回100枚以上を使用し、解剖図が資料に含まれる場合はカラー印刷をするため、膨大なお金がかかってしまった(大学によっては、プリント代を学校側で受け持つという対応を取った大学もあった)。通常であれば、授業の際に学校側が印刷し配布されるが、それもなく、さらに学費も減免されない。そのようなオンライン授業を1コマ65分間でほぼ毎日1限から6限、18時頃まで座りっぱなしで受け続ける。「授業が終わっても授業の課題に追われる毎日で、体力的にも精神的にも大変でした」と話す。

前期に弟が印刷した資料の一部。積み上げると高さ12cmほどになり、金額では2万円を優に越したという
前期に弟が印刷した資料の一部。積み上げると高さ12cmほどになり、金額では2万円を優に越したという

Aさんの大学では、新型コロナウイルスの影響で全面オンライン授業になったほか、授業の開始時期も遅れた。遅延による授業の遅れを取り戻すべく、通常行われていたパソコンの設定、使い方、word、excelの使い方に関する授業が無くなった。そんななかで出されたレポート提出の課題。フィードバックでは、レポートの表紙がない、ページ番号がない、参考文献の書き方が違うと指摘された。「レポートの書き方なんてわからないのに突然課題が出て戸惑いました。教わっていないものはどうしようもないのに」。

初めての大学生の授業は教場での試験で締めくくられ、結果的に単位を落とすことはなかった。9月からは実験が対面で行うことができるようになり、入学試験以降、初めてキャンパスに足を運ぶことになった。しかし、感染拡大防止のため、友達と話すことはできず、共に食事をすることも禁止された。実験は再開しても実習はいまだに再開されず、ZOOMで代替された。「自分がその場にいて、自分の手を動かすわけではないので、イメージをすることが難しかったです。」今後実習を行う機会は設けるというが、この状況で本当にあるのかどうか不安だという。

 

第3章 教員側も対応に追われたオンライン授業

新型コロナウイルスの感染拡大によって、大学の授業形態はイレギュラーな形となった。では、どのようにオンライン授業の導入が進んでいったのか。IT機器・ICTツール等の利活用支援、双方向授業やアクティブラーニングを使った授業支援を行っている、早稲田大学のCTLT(Center of Teaching, Learning and Technology)の方々にお話を伺った。インターネットを使って、授業を活性化させるという目的のもと、2020年の4月に設立されたCTLTだったが、最初の大きな仕事は、早稲田大学の授業を全面オンラインで行うことができるようにすることだった。

左から、大学総合研究センターの助教 阿部真由美さん、講師 蒋妍さん、副所長 森田裕介さん
左から、大学総合研究センターの助教 阿部真由美さん、講師 蒋妍さん、副所長 森田裕介さん(筆者撮影)

4月7日に感染拡大地域に緊急事態宣言が出されたことに伴い、その翌日から早稲田大学の学生はキャンパスに立ち入ることができなくなった。それにより、対面で授業を実施することができないという想定しない事態に陥った。大学のアンケートによると、早稲田大学の教員の8割が、オンラインでの授業の経験がないということだった。「それでも早稲田はオンラインを使った授業を推進していた方です。他の大学はもっと経験がない人が多いのでは」とCTLTの副所長である森田教授は話す。そこで、CTLTは4月13日から16日の4日間、計8回、オンライン授業実施のためのセミナーを開催し、延べ3000人以上が参加したという[2] 。そこで提案した授業スタイルは、「(A)講義資料・課題提示による授業」「(B)収録コンテンツのオンデマンド配信による授業」、そして、「(C)リアルタイム配信による授業」の3つであった。CTLTは「まずオンラインでの資料を作ってください」と、A→B→Cの順に次第に授業展開していくよう提案した。しかし、教授たちの意見は真逆だったという。「まずリアルタイムで授業をしたいというんですよね。でも、それが一番ハードルが高いんですよ」。大学生も慣れないオンライン授業に戸惑ったが、それは教える側でも同じことであった。授業資料がない教授は1からつくることになり、授業開始まで1か月という短い時間で準備をしなければならなかった。「準備に膨大な時間がかかっていて、教員も週に40時間、なかには休日がないと言っていた人もいました」という。
授業をオンラインで行うというところにハードルが置かれたため、その先のオンラインで行う授業の内容の最適化までたどり着くことが難しく、それが大きな課題だという。授業のデザイン、構成からしてオンラインと対面でまったく違うものになるべきだ。しかし、従来の教室での授業のようにやろうとする教授や、最適な授業スタイルがわからない教員も中にはいた。「大学で教える人は”研究者”なので、教えることのプロではないんですよね。自分が学生時代に受けた授業と同じような授業を自分なりに作っていく”教育の再生産”をしているんです」(森田さん)。授業のデザインの支援を目的としたCTLTでは、教員の目指す授業スタイル、パーソナリティや教育観、そして学生の雰囲気などを聞いて、授業づくりの支援を行っている。様々な先生の授業について語り合う場、どのように授業をしているのかを情報交換する場を設けたり、SNSでコミュニティを作ったりしていて、教える側も試行錯誤しながら授業をブラッシュアップしていっているという。なかには、前期中にみるみるオンラインコンテンツを充実させていった先生もいたという。

多くの大学生と同じように、教員側も新型コロナウイルスの影響により、オンライン授業に移行する対応に追われていた。オンライン授業は発展途上であり、まだまだ課題はあるものの、よりよい授業内容のものが増えていくと期待したい。

 

第4章 オンライン授業も悪いことばかりではない、しかし……

しかし、オンライン授業にネガティブな感情をもった学生ばかりではない。都内の国立大学に今年入学したBさんはこう話す。「私はもうずっとオンラインでいいですね」。

後期に入ってもオンライン授業が続いており、今までに8月に健康診断の際一度しかキャンパスを訪れていないBさんだが、同学年の友達はいる。Bさんの通う国立大学でも授業開始が延期され、ゴールデンウィーク明けから本格的に授業が全面オンラインで始まった。最初に学科の顔合わせがオンラインで行われ、そこからSNSでつながり、仲良くなったという。また、学科の先輩が学期初めにグループを作ってくれ、授業の説明や履修の相談に乗ってくれた。他の一年生が壁に感じるレポートの書き方についても、丁寧に授業で教えてもらえたという。Bさんの大学では、とても学生に親身なサポートを行っているのだと、話を聞いていて感じられた。大学の支援が手厚いこともあり、現状授業がオンラインで行われることに不満を感じることは少ない。春学期に受けた14授業でほぼ毎回課題が出されていたが、それでも高校の頃に比べれば少なく、乗り切れた。「授業は、週に一度だけ2限の時間に起きて、残りの日はお昼まで寝てられました。朝早く起きなくていい、外に出て移動しなくていい、交通費もかからないし……」。Bさんの家から大学までは片道一時間半かかるそうで、移動時間が無くて済むのはとても大きなポイントであるという。「私は友達を多く作るタイプだし、特殊だとは思います。周りの人はやっぱり大学に通いたいっていう人も多いですね」。

こう話すBさんだが、入学したての頃は理想のキャンパスライフを思い描いていた。アルバイトをしたりサークル活動をしたりなど……。「いまはそんなことないですね。一周回ってもういいやって。多分そう思っていたのは夏休み前くらいまでだと思います。高校の友達と遊んでいるし、別にいいかなと」。Bさんはフットサルサークルと合唱のサークルに入った。しかし、フットサルサークルはなかなか活動ができず、合唱の方は12月の演奏会が中止になり、練習もオンラインで行っている。高校生活は合唱に熱を注いでいたBさんは現状をこう話す。「合唱は他の人とハモることが楽しいのに、この状況だとなかなかできずにモチベーションがあがりませんね。サークルに友達がいたらまた変わったのかもしれませんが」。今はあまり練習に意味を見出せず休団している。新型コロナウイルスがなければ、今とは違う大学生活を送れたかもしれないが、その選択肢すら奪われてしまっていた。

 

第5章 コロナ禍で変わらざるを得なかった学生生活

では、大学生の当たり前はどのように新型コロナによって変わったのだろうか。4月の入学式の中止は新入生以外にも影響が及んだ。中止に伴い、部活やサークルなどの新入生勧誘活動は禁止された。新しい参加者がいなくなってしまうと、来年度以降の活動、およびその団体の存続が難しくなってしまうおそれがある。そのような状況下であっても、新入生を獲得しようと、学生団体でもZOOMなどを用いてオンラインで新入生向け説明会を開催した団体もあった。その後も課外活動の禁止は続いた。7月に入り、「3密」を防いだり、屋外での活動に限ったり、大学に申請をして許可が取れた活動のみに限定したりなど、少しではあるが課外活動の制限は緩和されるようになった(しかし、コンパなど大人数での会食は禁止されている大学が大半である)。また、遠隔授業が行われていたため、大学のキャンパス近郊に住んでいない学生もいる。そういった学生にも配慮してオンラインで練習などを行う団体も、前期を終えて夏休みに入ったことで増えてきていた。

8月の頭に、私の所属するサークルでオンラインでの懇親会が開催され、新入生と話す機会があった。大学一年生が大学に入学して4か月が過ぎ、一年間の授業の半分が終わった。しかし、授業はオンライン、部活動・サークル活動も制限されている。同年代の人と対面で交流する機会がことごとくなくなってしまった。まだ大学の所在する東京に来ておらず、実家で暮らしている新入生も多かった。彼らはまだ「大学生になった」という実感を得られていないようだ。

2020年11月4日、12時過ぎの早稲田キャンパスの様子。週末に早稲田祭の開催を控えているが、学生の姿はまばらであった。
2020年11月4日、12時過ぎの早稲田キャンパスの様子。週末に早稲田祭の開催を控えているが、学生の姿はまばらであった(筆者撮影)

サークルなどの課外活動の制限は、学生同士の交流の機会の喪失につながる。同じ場所に集まって活動をした場合は、活動の合間や活動後に話したり一緒に食事をとったりするなどして親交を深めることができる。しかし、オンラインでの活動はそれができない。ZOOMを退室してしまえばそれで終わりだ。授業においても同じことが言えるだろう。

全国大学生活協同組合連合会(以下、大学生協)が大学生を対象にしたアンケートを見てみる。(ホームページに掲載されているのは全学年の回答を集計した結果が掲載されているが、大学生協に問い合わせ、大学1年生の回答のみを抽出した結果をいただくことができた。なお、回答は無記名であり、何度も行うことができるため、正確性は担保されない。また、同じ学生がアンケートに連続して回答しているわけではないため、正確な推移が見て取れるわけではない。)

4月に行われたアンケートでは、大学に入り新しくできた友達の数が16,269の回答のうち新しい友達0人が7205件で44%、5人未満が6378件で39%、10人未満が1865件で11%であった[3] 。これには、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、授業開始が延期されたことが関係しているかもしれない。文部科学省の調査によると、5月12日時点で989校のうち、880校(89%)が授業の開始時期を例年より遅らせていた [4]。暦的には開始時期が変わらない学校も、2週間程度授業を休講としていたところもあった。アンケートの記述欄には、友達ができず不安な日々を過ごしている、であったり、それによって大学のことを相談できる相手がなかなかいないという大学一年生の声が散見された。5月のアンケートでは、7135の回答のうち、新しい友達0人が35%、5人未満が44%、10人未満が15%。7月のアンケートでは4515の回答のうち、新しい友達0人28%、5人未満が42%、10人未満が18% [4]。次第に作ることができた友達の数は増えてきた。とはいえ、依然として大きな割合を占めているのは5人未満である。

私が一年生の時は、入学前オリエンテーションで周りの新入生と連絡先を交換し、入学式で再会したり、サークルや部活動の新歓やクラス制の授業で仲良くなるなどで友達を作ることができたりしたため、これまでと比べてとても少ないように感じてしまう。回答の中には、相談する相手の不在のほかに、周りで同じように勉強する存在がいないためモチベーションの低下につながってしまうというものもあった。

同じアンケートでは、現在学生生活で困っていることについての自由記述欄で、
①課題の量の多さや、それについてのフィードバックが無いことに対する不安
②主な成績の評価対象であるレポートの書き方がわからない
③そういった相談をする相手がいない、
といった大学一年生の声が多かった [6]。そして7月に実施されたアンケートでは、周りの様子がわからず、自分が置いて行かれていないかという不安といった前期の授業のほとんどが終わった時点での困りごとが寄せられた。

また、アンケートの中には7月22日からGoToトラベルキャンペーンが開始されることについて憤っていた声もあった[7] 。会社や大学以外の学校がコロナ以前の日常を取り戻しつつあり、政府は経済活性化政策を打ち出す中、行動を制限され続けている大学生はやり切れない感情を抱えている。街に人通りが増えるようになった7月、未だ遠隔授業が続き、行動を制限されている大学生の不満がTwitterのハッシュタグ「#大学生の日常も大事だ」に集まった。大学一年生のmakiさんが7月17日に登校した漫画風イラストは、2021年1月8日時点で約16万リツイート、40万いいねをされている[8] 。 リプライ欄には多く共感の声が大学一年生から寄せられていた。大学生学年問わず、様々な不安、不満、憤りの声があがっていた。なかでも右も左もわからない大学一年生は、慣れない新生活、思い描いていたキャンパスライフと現実とのギャップに戸惑っていたようであった。

後期以降の授業であるが、文部科学省の調査によれば全1003校のうち、対面授業が173校、対面授業を検討中が5校、対面・遠隔併用が824校、全面遠隔授業が1校であった[9] 。

文部科学省「大学等における後期等の授業の実施方針等に関する調査」(2020年9月15日)〈https://www.mext.go.jp/content/20200915_mxt_kouhou01-000004520_1.pdf〉より筆者作成
文部科学省「大学等における後期等の授業の実施方針等に関する調査」(2020年9月15日)〈https://www.mext.go.jp/content/20200915_mxt_kouhou01-000004520_1.pdf〉より筆者作成

実験・実習・実技など対面でなければ行えない授業や、少人数での対話が中心となる演習を対面とする学校が多いようだ。そして、およそ6割の大学が全授業の半分以上を対面授業にすると調査ではででいる。しかし、実際のところ、どのくらいの学生がキャンパスで対面授業を受けることができているのだろうか。あくまで大学側が授業数から試算した数であり、実態とはかけ離れている可能性がある。また、新入生に関しては、少人数で行われる授業よりもむしろ大教室で行われる授業がほとんどである傾向がある。すると、大学に通うことができる新入生はほとんどいないのではないのだろうか。

都内の私立大学に通うCさんは、夏休みが明けて後期の授業が始まっても、全てオンラインで行われている。キャンパスに足を踏み入れたのは、夏休み中に行われた健康診断とガイダンスのみであった。ガイダンスは前期にオンラインで行われたクラスごとにまとまって座って行われた。しかし、Cさんはあろうことか座る位置を間違えてしまった。そのため、同じクラスの人と顔を合わせることもできない。ガイダンス後に何人かで食事に行ったことを後々知り、ショックを受けたという。「これに関しては自分の注意不足で、自分が嫌になりました。でも、オフラインで授業が行われていれば、後からその遅れをとりもどすこともできたのかな……とも思いますね」と話す。たしかに、オンライン上のやり取りでは既にあるコミュニティに入り込んでいくことは難しいように感じる。
Cさんは1年浪人し、今年第一志望ではないものの今の大学に入学することを決めた。気持ちを切り替え、前向きに楽しい大学生活を送ろうと意気込んでいた矢先に新型コロナウイルスの影響を受け、出ばなをくじかれてしまった。授業の開始は5月の後半にずれこみ、全14回予定だった授業は10回になり、カリキュラムが詰め込まれ、大変な授業もあった。その時期、気持ちが落ち込み、時間を無駄にしてしまっていたと感じたという。「もし浪人していなかったらと考えるととても残念です。周りの2年生の知り合いは去年の土台があるから友達がいるしとてもうらやましく、SNSで大学の友達と遊んだという投稿を見ると壁を感じてしまいます」と寂しそうに話していた。

 

第6章 先行きの不透明なコロナ禍の中で

SNSなどでは、#大学に行きたい #GOTOキャンパスなどといったハッシュタグで、なんとしてもキャンパスに通いたい大学生たちの声で溢れている。では、大学生はキャンパスに通うことに何を求めているのだろうか。

再び、医学部に通うAさんに慣れない初めての大学生活、どのように乗り切ったかを聞いた。やはり、同学年と触れ合う機会はZOOMのみで薄かったという。たまにブレークアウトセッションで仲良くなり、連絡先を交換したりした程度。通常なら仲良くなってからSNSでつながるが、SNSでつながってから実際に会うという状況に、Aさんは不安を覚えた。その影響でなかなか積極的に友達を作ることもできなかった。そんなAさんを助けてくれたのは、同じ予備校に通っていた1学年上の先輩であった。先輩からは、科目数が多い中での授業への注力の仕方や、代々伝わるというテスト対策のまとめを教えてもらった。「先輩とのつながりのおかげで効率的に授業を受けることができました。周りの同級生は情報を持っていないので自分より大変そうでした」と話す。キャンパスに通うことができない状況で、Aさんのように縦のつながりを持っている1年生はとても少ない。

そして、私と同じサークルに所属する早稲田大学1年生のDさんは、こう乗り切ったと話す。オンラインで授業を受けながら、友達と遊ぶこともせず、バイトもせず、春学期は徹底的に自粛していたDさん。そのため春学期の間は連絡をとれる友達を新しくつくることができなかった。大学に通うことができないことに関しては、「まあそうだよな、しょうがない、身を守るためだから仕方ないと諦めていましたね」。しかしそれに対して打ちひしがれることなく、逆にポジティブに捉え、ゴールデンウィークからの授業開始に向けて準備する時間ができてラッキーと捉えていた。なぜここまでポジティブに語れるのか聞いてみると、コロナ禍であっても高校までの友達と毎朝電話をしていたからだと話す。毎朝の話題は昨日の反省や今日一日の目標、授業の話からどんな料理をつくったかなど、なんでも。「家族以外と話す機会もあってよかったです。周りの友達はこんなことをしているのかと刺激ももらうことができましたし」。

この二人に共通していたのは、オンラインであっても、同年代の学生とのやりとりがあったということだ。勉強面の話にしても、生活面の話にしても、家族以外の人と会話をするというのは困っていることの解決や、リフレッシュにつながるのかもしれない。以前の対面授業であれば、授業時間の前後に会話したり休み時間に一緒に食事をとったりすることで気軽に同年代とコミュニケーションをとることができた。しかし、オンライン授業では、そのようなコミュニケーションが発生せず、たとえリアルタイムの授業で他の生徒の顔が見えていても、授業が終わりそのミーティングから退出したらそれっきりである。

森田教授に、今後のコロナ禍、コロナ後の大学教育はどうなるのか聞いたところ、今までと全く同じ授業スタイルには戻らないだろうと話す。「実際、早稲田の生徒の92%が、有意義なオンライン授業があったと回答しているんです」と話す。オンラインでのコンテンツがあるとますます授業が効果的に行えていることはわかっていて、世界的にも授業のオンラインコンテンツの充実の流れがあるという。実際、2020年の6月に授業を無料公開して話題になったCourseraは、オンラインで様々な大学の講座を受けることができるサービスで、スタンフォード大学の教授が2012年に設立している[10] 。そういった取り組みでいうと日本は遅れており、今後よりオンラインを活用した教育が活発になっていくらしい。また、今回のコロナのような感染症だけでなく、例えば地震などの災害に見舞われた場合でも教育を止めないために、オンライン教育を活用していくという目的もある。そのため、新型コロナウイルスの流行が収まっても、以前のような授業形態には戻らず、対面授業とオンラインのハイブリッドで教育が行われていくだろうと森田教授は話す。

たしかに、インタビューしてきた中にも、私の周りにも通学時間を有効に使えたり、授業を参照しやすかったり、オンライン授業の恩恵を受けていたという友達は多かった。そして私自身、(4年生のため授業数が少ないこともあるのかもしれないが)わざわざ授業のためにキャンパスに通うことなく、時間にとらわれず授業を受けられたのはとても有意義だったし、なかにはオンラインであってもわかりやすく、とてもいい授業だと感じた授業もあった。同じように、学期が進み生徒も教授も現状に慣れたことで、授業がオンラインで行われることのメリットを大学生の多くは認識し始めたのではないだろうか。実際、前期にいろいろなことを質問してきた弟からも、後期に入ってからは授業に関する質問をされることはなくなった。

しかし、そうはいっても私自身もキャンパスに通いたい気持ちはある。残り1年、キャンパスの周りのまだ行ったことのない飲食店に足を運んでみようなどと考えていたが、それも実現することはなかった。足を運べなかっただけでなく、私が良く利用していたお店が、キャンパスに学生が通わなくなったことによって閉まっていき、学生街がにぎわいを失っている現状はとても寂しく感じる。これからもオンラインを活用した授業が続いていくなか、どのようにして、これまでオフラインで行われてきた生徒同士のコミュニケーションの機会を作っていくのか、また、大学そしてその周辺の街の文化を継承していくのかが今後のオンライン化の課題になっていくのではないだろうか。

 

[1]文部科学省「新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえた大学等の授業の実施状況(令和2年7月1日時点)」(学校に関する状況調査、取組事例等、2020年7月17日)〈https://www.mext.go.jp/content/20200717-mxt_kouhou01-000004520_2.pdf〉

[2]森田裕介、向後千春「早稲田大学のオンライン授業の取組みと課題」(『大学教育と情報』 2020年度 No.1(通巻170号))〈http://www.juce.jp/LINK/journal/2004/02_03.html〉

[3]全国大学生活協同組合連合会 広報調査部「【4月版】緊急「大学生」向けアンケート【大学生協】1年生・全国」

[4]文部科学省「新型コロナウイルス感染症対策に関する大学等の対応状況について(令和2年5月12日時点)」(2020年5月13日)〈https://www.mext.go.jp/content/202000513-mxt_kouhou01-000004520_3.pdf〉

[5]全国大学生活協同組合連合会 広報調査部「【5月版】緊急!大学生(学部生)向けアンケート【大学生協】1年生・全国」

[6]全国大学生活協同組合連合会 広報調査部「「緊急!大学生・院生向けアンケート」大学生結果速報」(2020年6月3日)〈https://www.univcoop.or.jp/covid19/recruitment/pdf/link_pdf01.pdf〉

[7]全国大学生活協同組合連合会 広報調査部「緊急!大学生・院生向けアンケート」大学生結果報告」(2020年8月7日)〈https://www.univcoop.or.jp/covid19/recruitment_thr/pdf/link_pdf01.pdf〉

[8]Makiさんのツイート(2020年7月17日)〈https://twitter.com/D6Hy1q0FQJuxtPO/status/1284137078914076673〉

[9]文部科学省「大学等における後期等の授業の実施方針等に関する調査」(2020年9月15日)〈https://www.mext.go.jp/content/20200915_mxt_kouhou01-000004520_1.pdf〉

[10]Michael T. Nietzel「コーセラ、世界の学生に無料で全講座開放」(Forbes JAPAN、2020年6月14日)〈https://forbesjapan.com/articles/detail/35073〉

参考文献
・中野快紀「始まらない「大学生活」 帰省する・しない 分かれる学生の対応」(東大新聞オンライン,2020年5月6日)〈https://www.todaishimbun.org/campuslife20200506/〉
・西川龍一「新型コロナ 苦悩する大学と学生は(時論公論)」(NHK,2020年4月22日)〈http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/428098.html〉
・京都新聞「今春入学の大学生、コロナで「ひとりぼっち」不安高まる キャンパス通えず、友人つくる機会なく」(2020年6月1日)〈https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/263021〉
・「新型コロナで司会不透明 大学を襲う『七大クライシス』」、『週刊ダイヤモンド』 2020年8月8日、15日発行、第108巻31号、pp28~41、株式会社ダイヤモンド

このルポルタージュは瀬川至朗ゼミの2020年度卒業作品として制作されました。