生きた地で眠る自由
― 日本におけるムスリム墓地の今 ―

 

静岡県JR清水駅から、車を走らせること20分。周囲を山とみかん畑に囲まれた、のどかな丘陵地に清水霊園イスラーム墓地がある。現在使われているのは43基。大人の墓から、日本では墓に入れないことが多い、胎児のものまで、年齢や性別もさまざまだ。「イスラーム教徒にとって、火葬は地獄での火あぶりを連想させるもの。人の身体を焼くことが許されるのは神だけなので、ムスリムは火葬ではなく土葬を選びます」。管理人の勝沢洋さん(39)はそう話した。(取材・写真=河合晴香)

 

第1章 日本の地で眠るムスリム

仏教徒の墓地を見慣れている日本人からすると、ムスリムの墓地はとても質素に見える。コンクリートやレンガで囲まれた枠の中に、土が被せられ、小さな墓石がちょこんと乗っている。土の上に石を敷き詰めているものや、草木を植えているものもあり、何も知らずに通りかかると、花壇や庭かと思い込んでしまいそうなものもあった。「お供えする花も国によって違います。こちらはアフリカ出身の方のお墓。なんだかアフリカらしいですよね。花じゃなくて草なんですよ」。

清水霊園イスラーム墓地内の大人用のお墓=2017年11月20日、筆者撮影
清水霊園イスラーム墓地内の大人用の墓=2017年11月20日、筆者撮影

国によって、墓のデザインやお供え物が少しずつ異なる。違う国で生まれたもの同士が、同じ宗教を信仰しているという理由で隣に眠る。誰が見ても分かるよう、墓石に姓を刻み、隣の墓とは一線を画するかのごとく石を積む、日本人に馴染みある墓の形とは、大きく異なっている。

99%以上の人が火葬を選択している日本で生きた、ムスリムたち。彼らは自らの信仰に忠実でありたいと、この地で土葬という手段を選んだ。だがムスリム用の墓地の存在は、日本人にどの程度知られているのだろうか。どれほど理解され、受け入れられているのだろうか。

今日、ムスリムの人口は世界規模で増加しており、その数は約18億人にものぼる[i]。日本でも2013年時点で8万人以上のムスリムが暮らしており[ii]、今後も増加が見込まれている。人口の増加に伴い、モスク[1]の増設やハラルビジネス[2]の活性化など、イスラーム教の文化を尊重しようとする動きが多く見られるようになった。しかし墓地はどうだろう。非ムスリムの日本人にとって、馴染みのない「土葬」という形、そして自分たちが持つものとは完全に異なった死生観。自分たちとは「違う」存在への抵抗からか、ムスリム墓地建設時には、地元の人から反対の声が上がることも多い。[iii]現在日本のムスリムたちが、「多文化共生」という文言の元で尊重されているのは、生きている間の信仰に限定されてはいないだろうか。生まれ故郷を離れて日本に渡り、日本で最期を迎えることを選んだムスリムや、イスラーム教に入信した日本人の「死」の自由は、十分に尊重されているのだろうか。

 

第2章 ムスリムの死生観

土葬に馴染みのない人には目新しいムスリムの墓の形は、イスラーム教の死生観に合ったものだ。ムスリムにとっての「死」は通過点であるとよく表現される。ムスリムは来世でよりよく生きるために、現世で神に忠実に生きる。一度死んでも、それは天国か地獄かの審判が下されるのを待つ時間にすぎないと考えている。[3]それゆえ、葬儀は質素に、墓地自体も小さいことが多い。清水霊園の管理人である勝沢さんに、埋葬前の墓地を見せていただいた。

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清水霊園イスラーム墓地内の埋葬前の墓場=2017年11月20日、筆者撮影

土葬場の深さは2メートル。その半分の1メートル地点には出っ張りが見えた。「あの部分に板を被せて、その上から土を重ねるんです。なので遺体が直接土に埋まるわけではなくて、空洞になっています」。勝沢さんによると、死後、横たえた状態にある遺体が、最後の審判の結果を伝える天使がやってくると、上半身を起こし、天使の声を聞くのだという。そして上半身が起こせるだけのスペースを確保するために、空洞を作っているのだ。

イスラーム教と仏教では、死生観や葬儀、墓の使用など驚くほど違いがある。清水霊園がある場所は元々、複数の住居を建てる予定だった。しかし山に囲まれており、崖崩れの可能性があるとして立地許可が下りず、計画は頓挫した。土地の責任者がどうしようかと迷っていたところ、懇意にしていたサウジアラビア人から墓地不足の話を聞き、ムスリム墓地を建設することになったのだという。ムスリムでもなければ、イスラーム教に詳しいわけでもなかった勝沢さんは、この流れに少なからず戸惑った。「はじめはもちろん抵抗ありましたよ。でも、ムスリムの人たちがとても一生懸命に教えてくれるんです。それだったらやってみようかな、ムスリムのために土葬できる場所を一から作ってみようかなって」信仰熱心なムスリムは、ムスリムではない人にもイスラーム教について聞かれれば快く答えてくれる。勝沢さんは、浜松モスクに通うムスリムたちに、アッラーから冠婚葬祭に至るまで、ありとあらゆる知識を一から教わったのだという。

 

ムスリム墓地の利用者は、死後の礼拝や洗浄を近くのモスクで行い、その後遺体を墓地へ運ぶ。埋葬前に行われる儀式は、仏教のものとどう違うのか。日本ムスリム協会の樋口美作理事にお話を伺った。

「ムスリムは、亡くなったらすぐに葬儀をすませて土葬したいんです」。

日本では土葬をする場合、死後24時間以上経過してからでないといけないという決まりがある。ムスリムのこのルールに従うが、少しでも早く埋葬できるように、と迅速に準備を進める。

ムスリムが亡くなると、遺族だけではなく同郷のムスリムや、同じモスクに通う仲間も駆けつける。家族の元を離れ、日本で暮らしていたムスリムが亡くなっても、必ずムスリムの誰かが故人を悼み、埋葬に至るまでをサポートするのだという。外国から来たムスリムも住んでいる地域にあるムスリムコミュニティーに所属しているため、必ず周りにはムスリムの友人が住んでいる、という環境が護られている。

モスクでの祈祷、洗浄が終わると葬儀が行われる。告別式はなく、葬儀自体も数分で終わってしまうことが多いという。仏教形式の葬儀に慣れている日本人が、土葬の次に違和感を覚えるのがこの葬儀だろう。ムスリムの葬儀に参列するのはムスリムだけである。つまり、遺族であってもムスリムでなければ、葬儀には参列できない。その場合、遺族は葬儀が行われている場所から少し離れたところで、待機しているのだという。このような葬儀の形は、非ムスリムの日本人にとっては受け入れ難いのではないだろうか。「団体によって対応はしていますよ。うち(日本ムスリム協会)は会員のほとんどが日本人。だから葬儀の方法は遺族と相談している。それやったらイスラームから離れちゃう、ってことだけやらないようにしてます」。樋口さんは、イスラーム教に馴染みのない人のためにも柔軟な対応が必要だと考えている。

ムスリムの死、そしてそれに伴う葬儀、埋葬の儀式。無宗教と言われることが多い日本人の多くが、自分が仏教徒であることを最も感じるのは、身近な人の死に際したときなのかもしれない。そしてその身近な人が、仏教徒ではなくムスリムだったら?大事な人の死とともに、宗教の違いをすんなりと受け入れられるだろうか。皮肉にも「死」が宗教の溝を深めている、という現実は少なからず存在している。

第3章 墓はどこに

現在、日本のムスリム墓地不足問題は新たな局面を迎えようとしている。前章で示したように、ムスリム墓地の数はここ数年で徐々に増えている。では今、いったい何が問題なのか。

「墓地不足は数年前の話。今は墓地が全体的になくて困る、というよりももっと地域的に欲しい、というのが望み。墓地のない地域に住むムスリムが亡くなった時、墓地があるところまで運ばないといけない。これが本当に大変で」。

日本ムスリム協会の樋口さんはそう話した。今日、ムスリム墓地に求められていることは、単なる墓地の拡大ではなく、小さい墓地をより地方に分散化させることなのだという。

では、現在日本にムスリムが土葬できる墓地は何箇所あるのだろうか。各墓地の関係者や日本に住むムスリムたちから話を聞き、独自に「墓地マップ」を作成した。

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<図> 日本のムスリム墓地マップ=筆者作成

現時点で把握している墓地は、よいち霊園(北海道余市町)・谷和原御廟(茨城県常総市)・多磨霊園(東京都)・文殊院(山梨県甲府市)・清水霊園(静岡県清水市)・神戸市立外国人墓地(兵庫県神戸市)・大阪イスラミックセンター霊園(和歌山県)の7箇所である。地図内の数字は、墓地ができた順番を示している。初めてムスリムの埋葬を行った年については、各墓地のホームページを参照、もしくは管理事務所や法人に問い合わせた。
ここから見えるように、現在日本にあるムスリム墓地は西・東・北の3つの地域に分かれている。瀬戸内や九州四国、東北にはムスリム墓地を見つけることができなかった。では、ムスリム墓地が近くにない土地に住むムスリムは、自分の死後をどう考えているのだろうか。熊本市在住のRisnanderさん(34)に話を聞いた。
Risnanderさんはインドネシア出身だ。大学院を出て、2014年に仕事を探して日本へやってきた。現在住んでいる熊本市の黒髪地区にはモスク(マスジド熊本)があり、周辺には多くのムスリムが住んでいる。日本に7箇所のムスリム墓地があることを知っているか、と尋ねると、彼は3箇所しか知らなかった、と答えた。北海道、山梨、兵庫にあるのは知っている、そのうち山梨はもういっぱいになっていると聞いている、と話してくれた。日本最大級の面積を持つ清水霊園(静岡)のことを聞くと、そんな場所が日本にできていたなんて、と驚いた。ムスリム墓地は年々増えている。しかしその存在は十分には認知されていないのが現状のようだ。ではその原因はどこにあるのか。話を聞いているうちに、外国出身ムスリムならではのスタイルが根付き始めていることが分かった。
Risnanderさんは、自分の周りにいるムスリムは、亡くなったら遺体を自国に空輸で運ぶつもりだ、と続ける。日本での埋葬ではなく、自国まで帰る方法が彼の周りでは主流のようだった。
しかし、誰もが出身国へと遺体を運ぶことができるわけではない。遺体の空輸には、70~100万近くの費用がかかる。手続きも複雑で時間がかかる。死後、できる限り早く埋葬することを望むムスリムにとって、遺体の空輸は必ずしも最善の策とは言い切れないだろう。さらに、日本生まれのムスリムの存在を忘れてはいけない。樋口さんは、今後の日本におけるムスリム増加の大きな一因として、外国出身ムスリムとの国際結婚が挙げられると考えている。
「航空が政府・大使館と提携して、国民が亡くなったら本国に送るということが増えている。最近は航空会社が割安にすることもあるし。自分の国に送るってケースも増えてはいる。問題は、国際結婚。例えば、パキスタン人と結婚した日本人が亡くなって、その人はパキスタンへ送るわけにも行かないし・・・そういうケースが一番増えていくと思いますよ」。
ムスリムと結婚する人はムスリムでなくてはいけない。つまり、もともとムスリムではない人でも、結婚相手がムスリムなのであればイスラーム教に入信しなくてはいけない。それは同時に、死後自分の先祖と同じ墓に入らずに埋葬されることを意味する。
遺体の空輸という手段が、今後ビジネスとしてより盛んになることは予想される。しかしながら、それは日本のムスリム墓地が抱える問題までも収拾する策となりえるわけではない。日本人ムスリムが増えていくに伴い、やはりムスリム墓地もより分散化させ、多くの都道府県に置かれるべきなのだろう。

 

第4章 ムスリム墓地を見る メディアの目

利用者ですら、全国のどこにムスリム墓地があるかを把握していない状況の中で、非ムスリムの人々はどれほど墓地の存在を把握しているのだろうか。それを探るため、今までにムスリム墓地について報じたメディアを調べてみることにした。対象としたのは全国紙・ウェブニュースサイト・キー局テレビ番組・キー局ラジオ番組の3媒体だ。まず全国紙に関しては、早稲田大学の学術情報検索システムを使い、朝日新聞・日本経済新聞・毎日新聞・読売新聞のデータベースから検索をかけた。ウェブニュースサイト、キー局のテレビ、ラジオ番組は、各社ホームページのアーカイブスから検索をして探した。結果として、ムスリム墓地を取り上げている記事および番組は1997年1月4日〜2017年9月7日のちょうど10年間に6社12回あり、朝日新聞と読売新聞が4回と複数回掲載していた。数は少ないが、ムスリム墓地が各所に出来始めた頃に、複数のメディアが墓地について取材をしている。ではそれらの記事や番組は、ムスリムではない人たちのイスラーム教への理解のために役立ったのだろうか。ムスリム墓地が抱える問題を正しく明らかにし、問題解決のための糸口となったのだろうか。12の記事・番組を検証していくことにした。
初めてムスリム墓地について触れたのは1997年1月4日発行の日本経済新聞だ。1996年1月3日〜10日まで、全8回に渡った連載「隣国内なるアジア」の第二弾として「ムスリムの訴え−死んだ友なぜ燃やす。」が掲載された。ムスリム墓地や土葬について書かれた記事の中では最も古い。内容は、1996年に栃木県で亡くなった日本人ムスリム、ハシムさんにまつわるエピソードが綴られていた。死に際し、当然のように火葬をしようとした遺族と、土葬をするべきだと主張するムスリムたちとで意見が割れたこと、結果ハシムさんの信教心を尊重したことなどが、遺族や仲間の声とともに書かれている。また、ムスリム墓地についても触れられており、当時はまだ山梨県塩山市(現・甲府市)の文殊院が、日本で唯一のムスリム墓地である、との記載がある。朝日新聞では4回中3回、読売新聞では4回中全ての回で、山梨県・文殊院内の塩山イスラーム霊園について報じている。他のメディアでもこの傾向があり、全12の記事・番組のうち10回が塩山イスラーム霊園に着目していた。それ以外の2回は、2016年1月21日静岡県版の朝日新聞が静岡市清水霊園イスラーム墓地を、2017年8月B26日放送のTBSラジオ『蓮見孝之 まとめて!土曜日』で茨城県常総市の谷和原御廟を取り上げていた。
以上をふまえ、ムスリム墓地に関する問題点を考えていく。まず第一に、取り上げられている墓地が偏りすぎている。第3章で参照したように、現在日本には7箇所のムスリム墓地があるが、メディアが扱うのは山梨県塩山イスラーム霊園がほとんどである。7箇所のうち、唯一戦前からムスリムを受け入れている神戸市立外国人墓地や、東日本唯一の市民用ムスリム墓地である、よいちイスラーム霊園などにはほとんどスポットライトが当てられていない。2010年10月18日掲載の朝日新聞の記事では、「現在(2010年)、国内でイスラム教徒向けの霊園は山梨県甲州市と北海道余市町の2カ所だけ」との記載があるが、前章の「墓地マップ」にて示したように、2010年時点で日本にあるムスリム墓地は、多磨霊園・塩山イスラーム霊園・神戸市立外国人墓地の3箇所である。
これだけ扱いが偏っていると、新聞やテレビでムスリム墓地を知った人の多くが、ムスリム墓地とは山梨県にあるもの、というイメージを持ってしまいかねない。
また、ムスリム墓地が抱える問題=土地不足という構図を描いているメディアが多い点にも注目したい。7箇所の霊園のうち、最も認知度が高いであろう塩山イスラーム霊園は、土地の余剰があまりない。その塩山イスラーム霊園を取材したメディアの多くが、「ムスリム墓地用の土地が日本で不足している」と結論づけていたのだ。実際には、7箇所の霊園全てで土地不足が問題視されているのではない。比較的新しくできた静岡県・清水霊園イスラーム墓地や、茨城県・谷和原御廟にはまだ十分な土地がある。2010年に朝日新聞の取材を受けた、日本イスラーム協会理事の樋口さんは「あれからかなり状況は変わっている。かつてはお墓が不足している時代もあったけど」と当時と今の状況を比較した。「おかげさまで土地を提供してくれる人も増えてきて。今は埋めるところがないという状況ではなくなってきた」
ごく少数の例を、あたかもそれがスタンダードであるように伝える−−−これまでなされてきた、ムスリム墓地に関するメディアの報じ方は適切だったのだろうか。何を考え、何を取材すれば適切な報じ方ができるのか。その答えは、正しい情報収集と現在のムスリム墓地が抱える本当の問題を明らかにすることにある。ここから2017年現在のムスリム墓地に現状をさらに掘り下げていく。

 

第5章 土葬の今

ムスリム墓地の実態をあまり把握していない人々−メディアを通してその存在を知っただけの人など−は、墓地に対して誤ったイメージを抱いている可能性がある。地元の人々との距離感や深刻な土地不足といったものが、実際に今も複数の墓地で起きているのか。墓地を訪ねてみることにした。
初めに向かったのは、第1章でも登場した清水霊園イスラーム墓地だ。清水市の中心部からは少し離れた場所に位置しているため、周囲に住居はほとんどない。また清水インターチェンジが近く、高速道路を使えば都内からのアクセスも悪くない。清水霊園イスラーム墓地のスムーズな運営は、この立地に関係しているのか。管理人の勝沢さんに尋ねた。

—墓地の建設時に地元の人から反対の声はありませんでしたか。
「ほとんどなかったです」。
−何か策を講じられたのでしょうか。
「墓地建設の前に、自治体向けに説明会を開きました。住宅地からの距離や衛生面について話して、実際に土地も見てもらいましたね」。
−他のムスリム墓地の中には、地元の人からの反発を受けているところもあるようです。ムスリムではない日本人に、ムスリム墓地を理解してもらうにはどうすればいいとお考えですか。
「物理的な距離を置くしかないじゃないでしょうか。それ以外は、今の日本では難しい気がします」。

清水霊園イスラーム墓地には現在43基の墓があるが、勝沢さんによるとあと2000基分の土地の余裕があるのだという。

 

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現在使われている墓がある区画=2017年11月20日、清水霊園イスラーム墓地で筆者撮影

 

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現在墓がある区画の隣に階段があり、さらに上の区画へと上がることができる
=2017年11月20日、清水霊園イスラーム墓地で筆者撮影

墓のあるスペースから階段を上ると、今度は更地のスペースが広がっている。緑の柵で区分けされているこの部分は全て、今後ムスリムの墓がおかれる場所だ。現在使われているのは、1区画の中のわずかな部分にすぎない。

これほど土地が多くあるのにも関わらず、利用者の数は年々減っている。勝沢さんによると、墓地の開園当初は年間5~10回ほどあった土葬希望の連絡も、現在では1回程度だという。「あとは生前購入が1件くらい。ムスリム墓地も増えているので、分散しているんじゃないかと思います」。勝沢さんは、土地の余剰の原因についてそう話してくれた。墓地の分散化については3章でも述べた通り、現在ある7箇所だけでなくさらに分散化していくことが求められている。

清水霊園イスラーム墓地では、住民からの反対も、土地不足も起きていなかった。強いて言えば、その広大な敷地面積が十分に生かされていないという部分のみが問題のようだった。

 

次に茨城県常総市の谷和原御廟に向かった。東京都豊島区にある大塚モスクと連携し、都内近郊に暮らしていた多くのムスリムがここを利用する。山梨県の塩山イスラーム霊園と同様、隣接するお寺が所有している土地に造られた墓地だ。それゆえ、ムスリム墓地のすぐ隣の区画には仏教徒の墓地があるが、両者の間には塀があり奥の入り口まで行かなければ、土葬の墓が目に入ることはない。「ムスリム墓地を開始した時期が、ちょうどIS問題が大きくなり始めている頃で、塀で囲んだんです。でも周辺住民の方からの反対の声はなかったですね」。管理を担当している岡本光男さんはそう話す。

 

−こちらのムスリム墓地の規模はどのくらいですか。

「ムスリムの方の墓は500基くらい入ると思います。今使われているのは、そのうち100基くらいです」。

−いっぱいになってしまった時は、また土地を拡張するのでしょうか。

「それはたぶんないと思います。イスラームの国では、古い土地の再利用[4]をするところもあるようですが、ここではその予定もないです」。

−では満員になってしまったらそれきり、ということですか。

「そうですね。ここはもともと三福寺の土地ですから。住職がムスリムの方のお墓を受け入れたことで実現した場所ですので」。

 

岡本さんは、ムスリム墓地に対し地元で反対の声が上がらない理由として、住職の存在を挙げた。「住職の存在は間違いなく大きいです。住職は心が広い、寛容です」。住民と密な関わりを持ち、信頼の厚い住職が、自分のお寺が所有する土地にムスリム墓地を受け入れた。それは、地元の人々にとって、自分たちがムスリム墓地を受け入れる理由にもなった。

「住職がいいって言ってるんだからいい、そうやって地元の方も受け入れていったのかと」。

一方で、利用者のムスリムの中には、土地を住職から「借りている」という意識が薄い人も多いと感じるそうだ。

「以前ムスリム墓地で、お供えの花が風に吹かれて、自分のところに流れてきたといって口論になったムスリムの方がいて」。

ご厚意で貸してもらっている土地。そこで波風を立てると、住職に迷惑がかかってしまう。

「住職の顔に傷をつけることが一番の問題なんです。騒ぎを起こしてしまえば、もう土地を使えなくなるかもしれない、そうなったときに困るのは自分たちだということを、利用者の方にも考えていただければ」。

谷和原御廟では、利用者のムスリムにもルールを守ってもらうように徹底している。通常ムスリムの埋葬時には、親族だけでなく、同じモスクに通っていたムスリムや、同郷出身のムスリムなど多くの人が集まる。他のムスリム墓地の場合、ムスリムたちは市街地からバスなどで埋葬する墓地へ向かう。しかし居住地の中にある谷和原御廟では、地元の人々の生活に支障が出ないよう、埋葬時になるべく大勢で来ないようにとお願いしているという。

「(ムスリムたちに)肩身の狭い思いはさせたくないです。けれど、何かあってここが使えなくなることが、ムスリムにとっても一番のデメリットなので」。

岡本さんはそう話した。

 

谷和原御廟では、地域に根付いたお寺の住職が、地元の人々とムスリムを繋いでいる。その甲斐もあり、両者の間で揉め事が起きたり、墓地に反対の声が上がることもない。住職の重要性について、日本ムスリム協会の樋口さんはこう話した。

「新しくムスリム墓地を建設するのであれば、ムスリム側と地域の人と両方の窓口となる人が必要です。地域で顔が利くような、例えば住職さんとか。住民や自治体と話し合うことができる人がいないと、墓地はなかなか難しい。地元の世話役をやっている人を頼りに、地域住民と対話をして、理解してもらわないといけないですから」。

ムスリム墓地と、その地域に暮らす人々の間に立つ仲介人の存在が、ムスリム墓地の運営を支えている。居住地から物理的な距離を置いた、清水霊園イスラーム墓地とは真逆の、地域密着型の運営スタイルだ。岡本さんは、ムスリム墓地に関わっている人は他にもいると話す。

「役所との連携も、かなり密に行っています。埋葬希望者から埋葬許可書を受け取ったら、役所の戸籍課に埋葬の旨を確認することを徹底してます。あと、公安の方もよく墓地の点検に来ますし」。

その地域で暮らす人、働く人、そして眠る人。全ての人が、各々の生活と信仰心を尊重するため、努力をすることで成り立っているのが谷和原御廟内のムスリム墓地なのだ。

 

岡本さんにムスリム墓地のさらなる分散化について尋ねると「理想だと思うけど、難しいのでは」と首をかしげた。「特に新規で墓地を作るのは厳しいと思います」。

岡本さんによると、現在は市営・都営の墓地が売れず、多く余っているのだという。その状況下で、役所が民間の新規墓地にすんなりと許可を出すとは考え難い。ムスリム墓地の場合、まず「土葬」という形態の墓地にすることに対して許可を取ることに一苦労する。その上、土地の新規開拓となると、より一層全ての許可を得るまでに時間がかかる。ではどうすればいいのだろうか。やはり、各都道府県に1箇所ずつムスリム墓地を造ることは難しいのだろうか。

「市が許可している区画に埋葬することはできますよ。ただ埋葬用の許可は取らないといけないですが」。

現在、余っている市営・都営墓地を利用してムスリム墓地にする。それが最も実現可能性が高い手段なのだ。そうはいっても、東京都23区や大阪府[5]・長崎県[6]の一部など、土葬を禁止にしている自治体も多くある。全都道府県に1箇所ずつの墓地を造ることは難しくても、現在ムスリム墓地の存在が確認できていない、九州や、四国、中国地方には墓地の需要が他の地域よりもあるかもしれない。各地域に数カ所造ることはできるのではないだろうか。

 

第6章 「眠る場所」を選ぶ権利

現在、日本には7箇所のムスリム墓地があることが明らかになった。その全てが、誰でも利用できる墓地というわけではないが、土地に余裕がある墓地も複数あることが分かっている。今日の日本の墓地は、ある程度ムスリムを受け入れる準備が整っていると言えるだろう。しかしこれだけでいいのだろうか。

今後ますます需要が多くなるムスリム墓地に今求められていることは、「さらなる分散化」と「墓地情報の伝達」であると考える。現在墓地があるのは、関東・関西・北海道の3つの地域に偏っている。前章での述べた通り、自治体の条例や、元々の土地の狭さなど土葬ができない理由もあるため、全都道府県に造ることはおそらくできない。なので、少なくとも各地方(北海道・東北・関東・中部・関西・中国・四国・九州)に1箇所ずつ、もしくは複数の墓地を造ることが理想だろう。ムスリム墓地市営・県営などの余っている墓地、もしくはお寺が所有している私営墓地の一画をムスリム墓地にできれば、実現不可能な話ではないと考える。さらに運営の方法も、清水霊園イスラーム墓地のような住宅地から離れた山奥を利用する型と、谷和原御廟のように住職を中心とした地域の協力に基づく地域密着型の2つに分けることができる。土地の特性に合ったモデルケースがあるのだから、このケースを応用していけば、より多くの地域でムスリム墓地の運営が可能になるのではないか。

そして、現存のムスリム墓地や今後新しくできた墓地についての情報を、全国に行き渡らせることも重要だ。今回取材のため、多くのムスリムや墓地の関係者にお話を伺ったが、日本に7箇所のムスリム墓地があること、そしてその中にはまだ土地の余裕がある墓地があることの両方を把握している人は一人もいなかった。イスラーム教は元来、信仰者同士の結びつきをとても大切にする宗教だ。ムスリムのコミュニティーは世界中に存在し、出身国や性別、年齢を問わず連携している。2016年の熊本地震の際には、モスク同士で連絡を取り合い、熊本市内のモスクに日本や世界中のモスクから支援物資が届いた。これほどまでに強いネットワークを持つムスリムが、墓地の情報を把握しきれていない。現在、墓地−特定のモスク間での連携は十分に行われている。清水霊園では浜松モスク、谷和原御廟では東京の大塚モスクが密に連携を取って埋葬を行っている。この一対一の連携を、一対複数、つまり1箇所の墓地につき複数のモスクが携わる形を取れば、地域ごとの墓地情報の共有がより円滑にできるのではないだろうか。だが墓地1箇所につき連携できるモスクの数は、複数とはいえど限りがある。そこでやはり、墓地をさらに細かく分散化しより数を増やすことの必要性が高まる。

墓地のさらなる分散化が求められる理由は、上記以外にも理由がある。火葬をする日本人は多くの場合、先祖代々の墓や自分が暮らしていた土地の墓に入る。だがもし自分の墓が縁もゆかりもない、見ず知らずの土地にできるとしたらどう思うだろうか。遺族の住まいから遠く離れた場所に墓があるとしたら、遺族はどう感じるだろうか。

自分の墓を望む場所に置く自由−−−「眠る場所」を選ぶ権利は、誰であっても護られるべきだ。特に「死」を、「生」の終着点と捉えるのではなく、次なる「生」を得るまでの通過点として捉えているムスリムにとって、「死」にまつわる権利は「生」にまつわる権利そのものだ。生きることが尊重されている以上、その延長である「死」がないがしろにされていいはずがない。

 

( 注 )

[1] イスラーム教徒の礼拝堂。店田(2009)の調査によると日本に60カ所以上あることが分かっている。
http://imemgs.com/document/Mosque%20in%20Japan2.pdf

[2] ハラルの直訳は「許されているもの」。主に食べていいもの、という意味で使われる。ハラルビジネスは「イスラム教徒向けの商品を供給する、サービスを提供する」の意。(一般社団法人ハラルジャパン)

[3]小杉泰(2016)『イスラームを読む –クルアーンと生きるムスリムたち』より

[4] イスラーム信教国では、もし土葬できるスペースが無くなった場合、遺族の同意のもと古い墓を掘り起こしで新たに別の遺体を埋めることも認められている。

[5] 大阪府墓地、埋葬等に関する法律施行条例 よりhttp://www.pref.osaka.lg.jp/houbun/reiki/reiki_honbun/k201RG00000557.html#e000000415

[6] 長崎市墓地、埋葬等に関する法律施行細則 よりhttp://www1.g-reiki.net/nagasaki/reiki_honbun/q302RG00000555.html#e000000350

 

[i] Pew Research Center “The Changing Global Religious Landscape”(2017/4/5) http://www.pewforum.org/2017/04/05/the-changing-global-religious-landscape/#global-population-projections-2015-to-2060

[ii]店田廣文「イスラーム教徒人口の推計2013年」(2015)よりhttp://imemgs.com/document/20150714mij.pdf

[iii] 朝日新聞2010年10月18日朝刊より

 

【追記】2018年3月23日 [訂正] 誤字を訂正しました。リード文 「上」→「神」 第5章 「策」→「柵」 顔が「効く」→顔が「利く」

 

本ルポルタージュは瀬川至朗ゼミの2017年度卒業作品として制作されました。