大学教育のこれから 安達准教授に聞く ― 早稲田とコロナ


新型コロナウイルスの感染拡大によって、早稲田大学では春学期の授業が全面オンラインで行われた。通学時間がかからないなど、学生が享受するメリットは大きい。また一部の教授からは「学生の出席率が上がった」という声も聞こえる。一方でオンライン授業によって失われてしまうものとは何だろうか。ここに学生の視点からは見えてこない問題がある。また、全面オンラインというこれまでにない授業期間を経て、今後の大学教育はどのように変化していくのだろうか。自身も早稲田大学の出身である、政治経済学部准教授の安達剛さん(公共経済学)にお話を伺った。(取材・文・写真=廣瀬遼一)

トップの写真は、2020年6月13日、Zoomを使ったインタビュー取材を受ける安達剛さん
教科書で勉強した大学時代

安達さんは広島県福山市の出身だ。高校時代から経済に対して強い関心を持っており、経済学の教授になることが夢であったという。大学時代は積極的には授業に参加せず、教科書を読み勉強する生活を送っていたそうだ。授業を聞くだけでは表面的な理解しか得られない。安達さんは自ら積極的に知識を得ることを大切にしている。

自身の授業にかける想い

安達さんは毎回の講義に対し、およそ2時間の準備時間を費やすという。100名以上の受講者を抱える自身の講義、「経済政策」を対面で実施する場合は、二人一組のペアワークを活用し、学生同士のディスカッションを聞いてまわるなどの取り組みも行なってきた。自身の授業にかける想いを安達さんはこう語る。

 

『10年後に何かの問題解決のツールとして思い出すことができる授業』を目指しています。ただ授業を聞くだけではテレビ番組を見るのと変わりなく、得た知識はすぐに忘れてしまうでしょう。ペアワークなどを活用し、自ら積極的に考えてみることで、10年後でも学んだ知識が問題解決のツールとして生きてくるのではないでしょうか。

 

突然の変化 全面オンライン授業 

今春、新型コロナウイルスの感染拡大によって、大学での対面授業は大きな転換を余儀なくされた。しかし安達さんは突然の変化に対して全く抵抗はなかったという。

 

私の場合、コロナウイルスが流行する以前からオンライン授業を取り入れようと考えていたので、不安に感じることは一切ありませんでした。往復2時間かかっていた通勤時間が無くなったことは大きいと感じています。空いた時間は全て勉強に充てています。また、ほとんどのオンライン授業は後から見直すことができます。この点は学生にとってもメリットとなるのではないでしょうか。

 
一方でオンライン授業には課題もある。安達さんは自身のゼミで、対面授業と同じように質を確保することは難しいと感じている。

 

オンライン授業によって、自分のゼミに関しては質が下がったと思っています。3、4人に区切ってグループワークを行ってもらい、答えに詰まったら私が提案を行う。それは対面授業でやっているから意味があることなんです。ブレイクアウトルーム機能(Zoomで参加者を小グループに分ける機能)を使用することもできますが、質の低下は避けられません。ブレイクアウトルームでは各ペアの進行状況を確認することができないんです。誰がどこのルームに入っているかが表示されるだけで、話し声も聞こえなければ学生の表情を見ることもできません。

 

反転授業の動き

教育にオンライン授業を導入しようとする動きは、コロナウイルスの拡大以前から見られた。例えば21世紀以降、教育の世界では「反転授業」という教育形態が注目されてきた。従来の教育は、大学での講義を受けた後に、その場で演習やディスカッションを行うものであった。反転授業においては家庭でのオンライン授業によってインプットを行った後に、大学での対面授業を通じてアウトプットを行う。オンラインと対面、それぞれの良さを生かした取り組みである。自身もオンライン授業を積極的に活用していこうと考えている安達さんは、大学教育の将来像についてこう語った。

 

オンライン教育というのは非競合性のある公共財のような性格を有しています。いいかえると多くの人が授業を視聴しても、品質が低下することはないということです。まず有名な先生を何人か雇って授業を録画して、生徒は好みに合った授業をオンライン上で視聴する。次に大学の対面授業で演習、ディスカッションを行う。こうした反転授業への動きが、オンライン授業期を経て、一層進んでいくことは間違いありません。今後オンライン授業は『インプット』の場として、大学での対面授業は『アウトプット』の場所として活用されていくでしょう。


安達剛(あだちつよし)氏 プロフィール
早稲田大学 政治経済学部 准教授。2011年 経済学 博士号取得。2018年より現職。専門はメカニズムデザイン、社会的選択理論、公共経済学。

 

参考文献

早稲田大学 政治経済学術院HP

注目の反転授業とは? 反転授業のメリット・デメリット

https://benesse.jp/kyouiku/201609/20160902-1.html

 

2020年度春学期の瀬川ゼミ演習Ⅰ(3年生のゼミ)では、新型コロナウイルスの問題を取材実習のテーマとし、それぞれリモート取材に取り組みました。「海外コロナ事情」と「早稲田とコロナ」という2つの特集企画で記事をお届けします。