わせねこ ネコと人の共生をめざす


1号館の前で日向ぼっこするネコ。草陰からこちらをじっと見つめるネコ。早稲田大学キャンパス内では、ネコたちが自由気ままに暮らしている。ネコたちのために小さな水皿も置かれている。彼らを世話しているのが「早稲田地域猫の会」、通称「わせねこ」というサークルだ。「わせねこ」の活動を取材をした。(取材・写真=内海美緒)

 

「餌を放置しない」がルール

 

「わせねこ」は1999年に創立された。2016年の時点では100人を超える学生が所属している。多くの学生は「家でネコを飼うことができない」「ネコが好きだから」などを理由に入会している。毎日午後4時30分。「わせねこ」の活動が始まる。

置きエサ禁止を呼びかける手作りポスター
置きエサ禁止を呼びかける手作りポスター

事前にシフトが組まれており、毎日必ず「わせねこ」のメンバーがネコのもとへ足を運ぶ。餌やりと水皿の交換を行うと同時にネコたちの健康状態を確認する。ネコたちの周囲の環境保全にも尽力する。吸い殻や空き缶など猫にとって危険なものは、見つけ次第徹底的に排除する。ひとしきり校内を見回ると、「えさやりノート」にその日のネコの様子を記録し情報の共有を行う。

「わせねこ」は学内の人々に配慮しながら活動している。というのも、猫アレルギーの人や猫が苦手な人がいるように、誰もが猫に好意をいだいているわけではないからだ。キャンパス内で暮らすネコには必ず去勢を行い繁殖を防ぐ。また、餌を放置しないことをルールとし他の野良ネコやカラスが近づかないようにする。

「ただネコをかわいがるのではない。ネコたちと人がよりよく暮らせる環境を保全することが目的。そのためには、地域住民、大学職員、学生に理解してもらうことが必要だ」と副幹事長の宮崎大樹さん=法学部3年=は語る。

毎年早稲田祭では、ネコたちのオリジナルグッズを販売することで多くの人に活動を伝えている。創立当初30匹いたネコは、今までは8匹にまで減少した。「わせねこ」のメンバーは単にネコが好きなだけではない。キャンパス内で暮らす飼い主のいない地域猫がゼロになることを目標としている。

 

大学職員も地域ネコの世話に協力

 

猫たちの世話をしているのは「わせねこ」のメンバーだけではない。学校の門がまだ閉まっている早朝や受験シーズンの大学ロックアウト期間は、学生が校内に立ち入ることが禁止されている。そうした期間には、大学職員や守衛の人が世話をしてくれている。
「365日。年末年始もネコを見に来る。世話を始めたことへの責任だから」。大学職員である細山さんはそう語った。1号館の前にいた「まさこ」というネコとの出会いが始まりだ。それからネコたちを見守り続けて10年になる。取材時も、「チャチャ、チャチャ」となれた口ぶりで細山さんが名を呼ぶと1匹のまるまるとしたネコがすぐに近寄ってきた。ネコに餌をあげてから細山さんの1日が始まるのだという。
細山さんをはじめ10人前後の職員にネコたちは見守られている。自主的に世話し始めた人もいれば、「わせねこ」が頼んだことをきっかけに見守るようになった人もいるという。病気のネコがいればすぐに教え合うなど「わせねこ」と職員との間で徹底的に情報共有を行う。今では、「わせねこ」が来ることができない日には、職員が水皿の交換と餌やりをしてくれる。
「自分たちだけではネコを見守ることはできない。周囲の人々の協力が欠かせないと日々感じる」と副幹事長の宮崎さんは語る。また、地域住民による「西早稲田地域ねこの会」との交流を通して、地域猫と人が共生できる環境づくりに必要なことを学び、行動にうつしている。「わせねこ」は学生、職員、そして地域住民の理解と協力の上で成り立っているのだ。

 

ネコがつなぐ留学生と日本人学生

 

「日本にきた当初はさみしくて泣いてばかりいた。けど、『わせねこ』に入ってからはもう大丈夫」。そう教えてくれたのは、日本語留学センターに所属するセ・ショウテイさんだ。

わせねこ3
エサ皿を洗うわせねこのメンバー

昨年9月に中国から来日した。日本に来た当初は、飼っていたネコが亡くなったこともあり落ち込み気味だったという。日本語もほとんど話せなかったため日本の学生と他愛ない会話をすることも少なかった。そんな時、大学祭で『わせねこ』の活動を目にし、入会を決めた。当初日本語が苦手だったショウテイさんに『わせねこ』のメンバーは簡単な日本語や英語、中国語を使って何度も話しかけてくれたという。
次第に飲み会や早慶戦をみんなと見に行くようにもなった。「『わせねこ』が私の居場所だ」。「わせねこ」で過ごす時間が増えるにつれ自然とそう思い始めたとショウテイさんは言う。
ショウテイさんのような留学生が「わせねこ」には多数所属している。

中国、台湾、タイといったアジア圏だけでなくチェコ、スロバキア、カナダなど挙げたらきりがない。「いろいろなことに手を出すのではなく、いま学内に暮らすネコを責任をもって見守っていきたい」と「わせねこ」の在り方について先山諒さん=文化構想学部3年=は言及する。何か一つのことを全員で成し遂げることをするわけではない。サークル員が好きな時に参加して好きな時に帰れる。そんな「わせねこ」の雰囲気が日本にきたばかりの留学生にも受け入れやすいのだという。

「わせねこ」はネコを見守るだけでなく、多くの人にとって「居場所」となっているのかもしれない。