妥協のない音色を届ける「ハイソ」

早稲田の学生会館に、軽快なアンサンブルの音色が響き渡る。サックス、トランペット、トロンボーン、ギター、ベース、ドラムによって編成される、主にジャズのバンド形式のひとつ「ビッグバンド」。早稲田大学ハイソサエティオーケストラ(以下ハイソ)は、学生ビッグバンド界の最前線で活躍し続けている。今年60周年を迎えたハイソの魅力に迫る。(取材・写真=皆川優大)

 

全国大会で常に上位5位以内

 

ハイソは1955年に創立された。学生バンドの登竜門である全国大会「山野

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早慶明2016年大森ジャズフェスティバルでの演奏
ビッグバンドジャズコンテスト」では常に上位5位以内をキープし、2014年の第45回大会では見事優勝し、日本一の座に輝いた。メンバーは毎年50人程度。うち40人ほどが早稲田生で構成され、他に国立音楽大学や東京大学からも参加している。筆者も2年次までハイソに所属し、ベースとして活動していた経験がある。

ハイソの魅力は何か。トロンボーン担当、現役3年幹事長の富永悟さん(文学部)は「目指す音楽があり、その音楽の実現のために妥協をしないところだと思います」と話す。

ハイソは週3日のペースで活動している。毎回、メンバー全員で集まって合奏を行う時間が設けられている。合奏中は練習室内の空気がぴんと張り詰める。サウンドチェックをするのだ。

「この場面でもっとグルーヴ感を出していきたい」、「ベースとドラムのサウンドをもっと聴くべき」など、サウンドの改善点について遠慮のない指摘が交わされ、合奏の質を高めていく。

 

自分の限界に挑戦するメンバー

 

ドラム担当3年、国立音楽大学所属のプロ志望・金野遼太郎さんは「(ハイソは)音大とは違って、人によって音楽のとらえ方が多様だから刺激になると思い、入団した。どのメンバーも自分の音楽人生のすべてを大学4年間に注ぐつもりでやっているので練習や本番中の集中力がすごい」と話してく

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定期リサイタルでの金野遼太郎さん

れた。

勉強のストレス発散として音楽をやる人、自己成長のために音楽をやる人。音楽に打ち込むメンバーの動機は人それぞれだ。しかし、多様な価値観を持ちつつも、各々が高いモチベーションで音楽をやっている、と金野さんは指摘する。

「本番中にメンバーが自分の限界に挑戦しようとするところは見ていて感動する」(金野さん)。彼らの向上心は練習のときだけにとどまらない。本番中でさえ、自らのレベルアップの場ととらえている。飽くなき探求心は、富永さんの語ってくれた「妥協を許さないストイックさ」と通じるものがある。

 

数年ぶりの挫折と再起

 

昨年、ハイソの伝統をおびやかす出来事が起こった。昨年2015年の山野ビッグバンドジャズコンテストで4位という結果に終わってしまったのだ。優勝は、慶応大学の「ライト・ミュージック・ソサエティ」に奪われる形となった。

ハイソは2013年、2014年と優勝を重ね、着実に実績を残し、トップの座を守ってきた。通常のバンドにとっては、上位10位以内に食い込むのも大変な努力を必要とする。そのため、昨年の4位という結果は他のバンドにとってはむしろ好成績ととれる。しかし三連覇を目標として努力を重ねてきたハイソにとって、4位という結果は想定外であり、衝撃を受けた。

富永さんは当時の心境を「もちろん、たいへん悔しい結果でした」と振り返る。メンバー個々人の実力も非常に高く、三連覇についてはOB、OGからの期待も大きかった。その日の打ち上げの席では、ため息が多く聞こえたという。

しかし富永さんはこうも語る。「悔しい結果ではありましたが、どういう点がバンドのレベルを左右するのかということを感じることができたので、前向きに次を頑張ることを考えられました」

苦い経験をしたハイソだったが、メンバーはその挫折を前向きにとらえ、多くを学び取っていた。あれから1年が経過し、新体制となった今年度のメンバーにも、その教訓は受け継がれている。

 

「生演奏の魅力を広く伝えたい」

 

今年ハイソは60周年を迎えた。5月に開かれた記念コンサートは盛況だった。ひとつの節目を迎え、新たなステップを踏み出したハイソは、今後どのように活動していくのか。

「今やマイナーな趣味となりつつある生演奏の魅力を音楽ファンにとどまらず広く伝えていけるよう努力したい」と金野さんは締めくくった。

今年の山野ビッグバンドジャズコンテストは8月13~14日の二日間かけて行われる。リベンジを成し遂げ、トップとしての矜持を守ることができるのか。今後に期待がかかる。