つながりの新しいカタチ ― 埼玉県深谷市におけるネットワークの視点から


生まれたときから22年間、埼玉県深谷市に住み続けてきた。正真正銘、ここは私の故郷である。だが、「市内に強いネットワークを持っているのか」と尋ねられたら、答えはノーだ。中心市街地から離れた地域で育った私は、自分を「よそ者」のように感じてしまったり、人とのつながりを実感できず落ち込んだりすることも多かった。今回、「ネットワーク」の正体を見つめ直すため、文献調査と並行して、深谷市の方々へ数多くの取材を行った。希薄化しているつながりを、私たちは結び直すことができるのか。そして、話を聞く中で見えてきた「つながりの新しいカタチ」とは一体どういうものなのだろうか。(取材・文・写真=松本 雛)

 

目次
序章 魅力あふれる深谷に潜む影
第1章 場所に根ざした、強いまちなかのネットワーク
第2章 つながり、ネットワークの正体とは?
第3章 「技」で繋がる、場所を超えたネットワーク
第4章 場所を超えたネットワークを作る難しさ
第5章 未来に向けた新しいネットワークづくりを
終章 つながりはきっと作れる

 

序章 魅力あふれる深谷に潜む影

2019年4月9日。埼玉県深谷市はこの日、大いに盛り上がっていた。同市出身の偉人で「近代日本経済の父」と名高い渋沢栄一が、2024年に発行予定の新一万円札の絵柄になることが発表されたからだ。郷土の偉人として、今なお市民の心の拠り所であり続ける渋沢栄一。その像は、深谷駅北口の青淵広場でどっしりと腰をかけ、市内を見渡している。

写真1 深谷駅北口に鎮座する渋沢栄一像(著者撮影)
写真1 深谷駅北口に鎮座する渋沢栄一像(著者撮影)

私は、生まれたときから22年間、深谷市に住み続けてきた。そのことを初対面の人に話すと、必ずと言っていいほど「深谷ねぎ」または「ふっかちゃん」という反応が返ってくる。「深谷ねぎ」は、その糖度の高さと白根の長さが特徴だ。「ふっかちゃん」は、公募によって決定した深谷市のゆるキャラだ。私が小学生だった頃に投票が行われたため、今では深谷市の顔として、全国的にその存在が知られている。
深谷市の魅力は多種多様だ。農産物や地酒、深谷牛などの食に始まり、地域のまつりなど四季折々のイベント、そして暮らしやすさ。挙げ始めたらきりがない。

だが、こうした魅力は変わらない一方で、現代特有の新たな問題が台頭していると思えてならない。その問題とは、「同じ市民という意識、そして人と人とのつながりの希薄化」だ。

図1・写真2~4

前提として、現在の深谷市は、深谷市・岡部町・川本町・花園町が2006年1月1日に合併されたことで誕生した。この合併により、深谷市は県内の63市町村で6番目に広い面積を有している[1]。広さの目安としては、市内の北端から南端・東端から西端まで、いずれも車で移動するには30分前後時間がかかるイメージだ。
私は、図1[2]ピンク色の深谷エリア-Bの東端に居住しており、実際の行動範囲はこのエリア内にほとんど収まる。ホームセンターやスーパーで生活に必要なものはなんでも揃うからだ。また、ショッピングモール「アリオ深谷」の建物内に行政サービスセンターが入っているため、深谷エリア-Aの中心市街地エリアに位置する市役所や商店街地域に出かける必要もほとんどない。
当たり前ではあるが、市内に住んでいる人はみな一様に「深谷市民」である。それを頭では理解していても、普段は出かけないエリアに足を運んでみると、私は自分を「よそ者」のように感じてしまう。かつて深谷駅前の商店街、西島商友会(深谷エリア-Aに位置する)が主催した妙見市[3]「ウエスト愛ランド」に足を運んだ際も同じであった。本来、誰が買い物をしていてもおかしくないのだが、ご飯を食べながら談笑している近隣地域の人々の様子や、店の人とお客さん同士が知り合いという雰囲気に、なかなか入っていくことができなかった。

こうしたことを感じているのは、私だけではない。埼玉県内の大学に通っており、私の小学一年生の時からの友人でもある栗田知星さん(22)は、「深谷市の中でも、人間関係にすごく地域差を感じる」と語る。「私の行動範囲である上柴地区(深谷エリア-B)は、ニュータウンとして栄えているのですが、祖母が住む花園エリアは、若者を見ることもあまりない田舎です。でも、その分濃いご近所付き合いがあるみたいで、野菜を持ってきたり、基本的に毎日誰かかが訪ねてきたりするようです」。そんな栗田さんも、祖母の家を訪れる以外に、自ら深谷エリア-B以外の地域に足を運ぶことはほとんどないのだそうだ。それ故、自身が明確なつながりを持っているという実感がない。

合併に伴う市全体の広域化や、生活範囲の縮小によって地域の分断が進んだことで、「同じ市民である」という意識はどんどん希薄化し、これから先、人と人との結びつきは更に弱まってしまうのではないか。自身の経験やインタビューを通して、私はそんな危機感を抱くようになった。商店街付近や、特定の地域で住民同士の結束力が強いことはあっても、別の地区では近所の人のことをほとんど知らない、ということもある。事実、私が暮らす場所に商店街はなく、自治会の活動も最小限に留まっている。地区の運動会や小さな祭りは毎年あるものの、新しく何か始めようという動きはないため、参加するメンバーも固定されてしまっているのだ。

様々な話を聞く中で、地域や個人ごとに人々の生活や関係性がぶつ切りになり、広がりのない様子が思い浮かんだ。栗田さんは、市民同士のつながりについて、少し考え込みながらも自身の思いを語ってくれた。「例えば、災害が起こったときに、人間関係が薄いことを後悔してしまうのではないかと思います。顔見知りだったり、人とつながりを持っていたりすることが、助け合う上で重要になると思うからです。そのためには自分たちが自主的に動かなければならないと思うのですが、具体的にどうしたらいいかがわかりません」。深谷市に住んでいながら、なかなかつながりを築くことができないことに、葛藤を抱えているように見受けられた。
もちろん、これらは深谷市に限った問題ではない。人と人とのつながり、つまり人的なネットワークが希薄化していることに対する危機感は、私の中でより一層強まった。
人と人のつながりはどのように築かれているのか。顔が見える新しいネットワーク構築には何が重要なのか。まずは私が住んでいる深谷市で取材をし、明らかにしていきたい。

 

第1章 場所に根ざした、強いまちなかのネットワーク

地元の友人である栗田知星さんが「市内でも人間関係に地域差を感じる」と語ってくれたことからもわかるように、深谷市ではつながりが濃い地域もあれば、薄い地域もあると推察できる。濃い地域とは一体どこにあって、どんな特徴があるのだろう?そんな時に真っ先に思い浮かんだのが、深谷駅の北側に広がる商店街地域(図1の深谷エリア-A)だった。この地域は、商店が多いのはもちろん、市内でも最大規模の「深谷まつり」「深谷七夕まつり」などの拠点になっている。その際、町内ごとに神輿を担いだり、お囃子の叩き合いを行ったりしているため、人と人とのつながりが特に強いと考えられたからだ。そんな商店街の中でも存在感を発揮している女性がいる。

 

深谷商店街の女性リーダー

お盆を間近に控えた8月上旬、深谷駅から徒歩5分ほどに位置する老舗和菓子屋「浜岡屋」では、この日も若女将である岡部美雪さん(57)の笑顔が輝いていた。営業時間中の取材だったため、お客さんや集荷に来た郵便局員など、多くの人々が店を訪れた。「この間、アド街見ました![4] 」という一言に対しても、「ありがとうございます。最近女優なんて呼ばれちゃったりして!」と答えながら、手際よくレジを打ち、包装をすすめる。笑いが絶えず、一人ひとりと深いコミュニケーションを取っている印象を受けた。もちろん、雑談だけではなく、商品についても丁寧に解説を加える岡部さん。そうした接客の影響もあってか、お客さんが「もう少し買っちゃおう」と購入を追加していた姿が印象的だった。

深谷市内で、強固なまちなかのネットワークを作り上げ続けているのが、「浜岡屋」の岡部美雪さんである。深谷商店街の女性グループ「深谷商店街活性隊若女将の会」(以下「若女将の会」)ではリーダー的な役割を務めている。取材当日、商店街という慣れない雰囲気に不安を感じていた私だったが、浜岡屋を訪れた瞬間、岡部さんのはつらつとした笑顔にホッとしたことを覚えている。

写真5 笑顔が素敵な浜岡屋の若女将・岡部深雪さん(著者撮影)
写真5 笑顔が素敵な浜岡屋の若女将・岡部深雪さん(著者撮影)

自身のことを「生き字引ではないか」と語る岡部さんは、深谷市で生まれ育ち、結婚してからは4人の子供を育て上げた。その間、PTAの横のつながり、子供会の縦のつながり、商店街や行政とのつながりなど、様々なネットワークの形を目にしてきたという。

 

女性目線から商店街の活気づくりを

今でこそ「若女将の会」の先頭に立ち、精力的に活動している岡部さんだが、昔から主体的に活動を行っていたわけではない。「(商店街の)みんなのことは知っていたけれど、一歩踏み出すことはできなかった」と振り返る。
岡部さんに転機が訪れたのは、深谷商店街の役員が男性ばかりだった7年前のこと。男性役員たちの企画で始まった「100円商店街」で思ったような結果が出ず、やめようという話が持ち上がっていたタイミングだったという。せっかく走り出した企画をすぐに辞めてしまおうとする運営陣の判断や、イベントばかりに力を入れて、各店舗が疎かになっている状況を憂いた岡部さんは「そんなのもったいないよ、まだ始まったばかりなんだから続けよう!」と声を上げたのだ。それは彼女にとって、初めて自分から意見を出した瞬間だった。そして、その一言がきっかけとなり、若女将だけの会を始めてみたらどうか、という提案をもらったのだという。
「私なんかでいいのかなって最初は思ったの」と岡部さん。商店街ではよく買い物をしてきたのはもちろん、若女将の中でも店で働き始めたのは早かったため、周辺のお店のことはよく知っていた。小さい頃から、にぎやかで活気のある商店街が大好きだったという思いもある。そうした様々な思いが重なって、今から約7年前、「若女将の会」を発足することにしたのだ。

そんな岡部さんを「中心に立つ人」だと語るのは、髙木玩具店の若女将、髙木陽子さんだ。新しいことを始めるときに、「これをやってみよう!」と言い出す存在は不可欠で、そうした役割を岡部さんが担っているのだという。いい意味で突っ走ってくれるため、「どう転ぶかわからない期待がある」と高木さん。だが、決して岡部さんのワンマン体制ではない。11人の若女将たちはそれぞれ書記をしたり、チラシを作ったり、得意なことをうまく分担しているそうだ。

 

「若女将の会」が作り出す、人と人とのつながり

では、「若女将の会」ではどんな取り組みがなされているのだろうか。岡部さんは資料を片手に、丁寧に解説してくれた。
まず一つに、「深谷商店街つれづれ歩き」がある。商店街は、個々の店舗が独立している。そのため、ショッピングモールと違って、扉を開けて気軽にお店に入ってみるお客さんが少ないことを感じていた。何も買わずに帰るのは悪いと思ってしまったり、どの店でどんなものが売っているかがわからなかったりということは、深谷市に限らず、日本の商店街そのものの課題のように思える。商店街を利用してみたい市民が感じる、そうしたあらゆるバリアを取り除きたいと考えたことがきっかけだったという。「人をたくさん連れてくる代わりに試食とか試飲とか、ちょっとしたお土産を用意してね、とお店の人には全面的に協力をしてもらう。あとは必ず店主がおしゃべりしてねと伝えているの」。そうして、商店街の約12店舗を2時間近くかけて回ってくるのだという。たとえ、短い時間でも、何が売っているかを知ることができ、次に訪れるきっかけとなることは間違いない。「若女将もお客さんも、お店さんもみんな喜んでくれて三方良しだよね」と岡部さんの笑顔がほころぶ。
「深谷商店街つれづれ歩き」では、商店街という場所を生かして、若女将が店と市民の間に立つことで、新しいつながりを構築しているようだ。

写真6 岡部さんの温かい人柄がつながりの根本にあるのかもしれない(著者撮影)
写真6 岡部さんの温かい人柄がつながりの根本にあるのかもしれない(著者撮影)

他にも大きいものから小さいものまで、岡部さんの口からは様々な取り組みが紹介された。嬉しそうに語る様子から、深谷市を元気にするために自分たちから頑張っていこうという強い思いが強く伝わってくる。そして、2018年「若女将の会」は、埼玉県知事の前でプレゼンテーションをするに至った。活動内容が認められたことで、補助金をもらっての活動が可能となる、県内に6つしかない「NEXT商店街」の1つに選ばれたのだ。
ここにも深谷市役所の職員との「つながり」があった、と岡部さん。「知事の前で話すにあたって、私たちが一生懸命やっていると感じてくれた市役所の人が、発表用のパワーポイントを作ってくれたんです。私たちは商いをしているから、店にいることが一番の仕事。だから『若女将の会』は、二番目の仕事。全ての力を注ぐことはできないんです」。普段から密接な関わりを大切にし、協働しているからこそ、いざというときに助け合いの気持ちが生まれる。「その代わり、休みの日を使ってみんなで川越や栃木市に行って、町並みを勉強したりしています」。商店街が活性化することは、行政、ひいては深谷市全体にとって良い影響が考えられる。こうした持ちつ持たれつの関係は、いつの間にか出来上がっているようだ。

 

第2章 つながり、ネットワークの正体とは?
データから見るつながりの希薄化

前章で紹介した老舗和菓子屋「浜岡屋」の若女将、岡部美雪さんは、深谷商店街という「場所」に身を置き、そこを中心にネットワークを築いていた。ここで、私たちがこうして感覚的に用いている「つながり」「ネットワーク」とはそもそもどういうものなのか、今一度立ち戻って考えてみたい。
これには「ソーシャル・キャピタル」を考えることが一つの手がかりになるかもしれない。ソーシャル・キャピタルとは、アメリカの政治学者であるロバート・パットナムが唱えたもので、「調整された諸活動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる、信頼、規範、ネットワークといった社会組織の特徴」 [5]と定義されている。そして、それを構成する要素の一つに「市民社会の水平的ネットワーク」がある。坂本によると、国際的な比較を行っている世界価値観調査が2000年に行ったデータでは、日本はネットワーク参加の面において60カ国中33位であった。しかし、この調査は国際的なものであるため、日本の地縁組織(例:自治会)のような、各国に限定的な団体は含まれていない。そのため、日本の団体参加率はここで示されている以上に高い可能性があり、33位という順位ほどつながりが薄まっていないという見方も出来る。
だが、2015年に朝日新聞が行った「自治会・町内会は必要?不要?」というアンケート[6] では、1967件の回答のうち、「どちらでもない」を除き、「必要・どちらかといえば必要」が889件、「不要・どちらかといえば不要」が971件と、不要という意見が必要という意見を若干上回った。程度については定かでないにしても、近年では自治会のような組織に煩わしさを感じている人も多いようだ。これらのデータから、社会的なネットワークやつながりが希薄化している現状が理解できるはずだ。

 

つながりの再評価-場所に根ざした共助と場所を超えた共助

こうしたデータがある一方で、日本では東日本大震災以降、地域の人々同士が結びつく必要性が広く再評価されるようになった。その背景には、震災という自分一人の力ではどうしようもならない状況に直面したときに、被災者同士が手を取り合い、生き延びようとした姿がある。東京ガスの広報部が発行するニュースレター「話のたまご」の2012年2月号[7] では、「震災後に変化したこと」について自由記述の調査が実施されていた。そこで明らかになったのが「つながり、助け合い」に分類される意識が最も変化したということだ。家族の存在にとどまらず、親戚や近所の人々とのつながりを大事にしていくことを再認識したという回答が多かった。
このように、つながりを重要視する意見は他にも見受けられる。広井は、日本社会の課題を「『個人と個人がつながる』ような、『都市型のコミュニティ』ないし関係性というものをいかに作っていけるか、という点に集約される」[8] と述べている。更に、この「都市型コミュニティ」と対をなす、共同体的な一体意識を必要とする「農村型コミュニティ」とバランスを取り合うことが必要だと考えている。
また、大野は、ICT技術の高度化と大衆化に目を向け、「土地に縛られない助け合いの繋がりも広がりつつある。これからの社会において、場所に根ざした共助も場所を超えた共助もともに重要性を増していくことが確実である」[9] と述べている。こうした識者の意見から、これからの時代はどちらか一方に偏るのではなく、両方のつながりを築いていくための努力が必要となることがわかるだろう。

 

場所を超えたネットワークへ

若女将と深谷商店街の事例を当てはめてみると、場所に根ざしたネットワークがしっかりと確立され、非常に緻密であることが理解できる。確かに、狭く考えれば「若女将の会」自体も、商いをする者同士がつながった結果だろう。何かあればすぐに行き来する関係性なのだという。他にも「若女将の会」は、「深谷商店街つれづれ歩き」を通して市民と商店をつなぐパイプとしての役割も果たしている。
また、繋がりが濃いのは、商店街の中だけに留まらない。毎年夏に開催される深谷まつりへの参加が活発な中心市街地(深谷商店街を含む地域)では、自治体団体の連携がかなり綿密である。「町内でどこに誰が住んでいるか把握しているのは、うちの地域くらいじゃないかな。やっぱりそれはお祭りのおかげだと思う」。そう語ってくれたのは、「若女将の会」メンバーの髙木陽子さんだ。

現在、商店街という「場所」にしっかりと根を張っている「若女将の会」。だからこそ、大野が「場所に根ざした共助」と同じくらい重要だと述べていた「場所を超えた共助」は、まだあまり見受けられない。商店街を知りたい、とつれづれ歩きに参加する人はいても、大人数の気軽な参加や流入は見込めないからだ。

図2 「若女将の会」が築いているつながりの様子(著者作成)
図2 「若女将の会」が築いているつながりの様子(著者作成)

やはり、人と人とのつながりの構築には「場所」や「地域性」が必要不可欠なのだろうか。その場合、元々あまりネットワークが存在しない場所で、一から築いていこうとしてもかなりハードルが高いように思える。
だが、複数名の識者が二方向からのつながりの重要性を指摘しているならば、既に場所を超えたネットワークを構築する取り組みがなされている可能性がある。深谷市内でのそうした動きを追った。

 

第3章 「技」で繋がる、場所を超えたネットワーク
深谷市と市民協働

深谷市では、2014年から「深谷市市民協働指針」が定められていた。これによると、市民協働とは「市民をはじめ団体、事業者、学校、行政など様々な主体が、それぞれの強みを生かしながら地域を支えるまちづくりのことであり、深谷市に関係する様々な人の力を生かすことによって『住み良い、魅力的なまち』を目指すもの」[10] とされている。この指針が2019年4月に改変されることとなった。背景には、行政側から発生する「やりたいこと」(=行政のフィールド)だけをやるようになってしまったことが挙げられる。これに対して市民協働に関する業務を受け持つ協働推進課の小島拓也さん(2019年2月現在)は「市役所が何かしよう!って言っても、正直なところあまり興味が持てなかったりしませんか?これまで、行政が一方的に盛り上げたいとか、こうしたら良いと思っていても実際に盛り上がらないことが多かったんです」と少し笑いながら話してくれた。
こうした現状を覆すべく改変された結果、これまでの形態を維持しつつ、市民側からも発生する「やりたいこと」(=市民のフィールド)に行政が歩み寄っていく、新しいまちづくりの方向に舵をきったのだ。小島さんは、穏やかな口調でながらも真剣な顔つきで「市の方は、手伝いができればというスタンスに変化しています。何か実施するときの主体はあくまでそれぞれの人たち。決して、市が『何かしてください』と投げかけるだけではありません。市民がしたいと思うことをやりやすくするのが私たちの役割です」と続けた。プライドを持って市民協働に向き合っていることが伝わってきた。
協働推進課が行っているネットワーク形成に関わるものに、「ヒトの支援」がある。これに関連して、独自の取り組みとして始まったのが「技(わざ)活(かつ)」である。

 

深谷市独自の協働推進「技活」

「技活」の前身は、2002年の行財政改革に伴って導入された「人材バンク」であるが、市のホームページに文字情報を掲載するだけだった。そのため、上手く活用してもらう仕組みが作れなかった。
この反省を踏まえ、2017年7月19日に誕生したのが「技活」である。

写真7 技人・奥原純一さんの「技活」のページ。「紹介してほしい」ボタンを押して情報を入力すると技人に依頼できる仕組みだ。
写真7 技人・奥原純一さんの「技活」のページ。「紹介してほしい」ボタンを押して情報を入力すると技人に依頼できる仕組みだ。[11]
市民主体のまちづくりを推進するため、技術や知識を持つ市民を動画で紹介することで活躍機会の増加を図り、深谷市内で技術・知識を持つ、新たな人材を発掘することが目的だ。行政が、「活躍したい人(技人)」と「お願いしたい人(依頼人)」の間に立ち、パイプの役割を果たすことで、両者をつなげていく仕組みとなっている。市内に活動の場を持つ満20歳以上で、識見又は資格を有しており、市政や地域の発展に貢献する意欲があれば、基本的に誰でも技人として登録することが出来る。
「技活」が発足したことで、運用面での課題は大幅に見直された。例として、依頼者が理解しやすいようにカテゴリを設定し直したり、YOUTUBEに動画を掲載したり、手間のかかる書類を簡素化したりなどがある。特に動画には力を入れ、2、3時間かけて、技人の思いをじっくり聞きながら撮影するのだという。担当の長谷川遼さんは、動画の良さについて「技術や知識レベル、顔、喋っている様子から人となりがわかるので、文字情報よりも想像しやすいと思います。様々なカテゴリを用意しているので、もっといろいろな人に登録してほしいです」と笑顔で語った。
小島さんは「技活」について、みんなのつながりを集めさせてもらっている感覚だと語る。「何か新しいことをやってみようって時、知り合いがいないとやりづらかったりすることがあると思います。それが『あの人がいたな、相談してみよう』というつながりが徐々に増えていくことで活動も広げていけると思います」。

 

「技活」の現状と課題

取材を行った2019年2月7日時点での技人数は129名。「人材バンク」時は、50代以上の登録者が多かったが、「技活」を始めた影響で20代から40代の若い層が増加していた。また、2017年度の紹介数は15件、実際につながった件数は14件で、2018年度は紹介数52件、つながった件数は約32件まで伸びたとのことだ。この結果は、大いに期待できると言えるのではないか。
だが、このように初年度から順調に紹介件数とつながり件数が増えているものの、動画の閲覧回数はそれほど伸びていない。実際にYOUTUBEの「技活・深活」【深谷市公式】 [12]のチャンネルから2019年8月7日午後1時時点でアップされている動画本数と視聴回数を集計した(「深活」[13] の動画に関しては「技活」と少々異なっているため、動画本数・視聴回数共に除いている)。その結果、動画本数は145本、視聴回数の合計は52796回で、動画一本あたりの平均視聴回数は364.1回という結果になった。だが、アップロードされてから1日以内の動画もあることから実際の数値はバラけており、1000回以上のものは7つある。しかし、比較的初期にアップロードされたものでも視聴回数が少ない動画があることから、「技活」自体の認知度があまり高まっていないことがわかる。

 

第4章 場所を超えたネットワークを作る難しさ

前章では、行政に対して「技活」の仕組みや現状についての話を伺った。それでは、実際に関わっている人は、「技活」を通した人と人とのつながりについて、どのような思いを抱いているのだろうか。

 

依頼者と「技活」以上の関係性が生まれた技人・tanioさん

「技活」を通して、「技人―依頼者」という以上のつながりが生まれた人がいる。安産祈願などを目的として、妊婦のお腹(ベリー)に絵を描いているベリーペイントアーティスト・tanioさんだ。デザインの専門学校を卒業後、市内の映像会社で働きながら、現在はイラストレーター/ベリーペイントアーティストとして活躍の場を広げている。元々ベリーペイントに興味があったわけではないというtanioさん。というのも、映像制作の仕事で深谷市のグランドホテルに出入りするうちに、その中にある写真室の従業員に「やってみない?」と誘われたのがきっかけだったのだそうだ。興味を抱いたtanioさんは、日本ベリーペイント協会に加入。正式な試験を経てアーティストとなった。

写真8 技人でベリーペイントアーティストのtanioさん(著者撮影)
写真8 技人でベリーペイントアーティストのtanioさん(著者撮影)

「技活」を知ったきっかけは、意外にも回覧板に挟まったチラシだった。家族の後押しや、映像会社の上司の推薦もあって、ベリーペイントを広める活動ができれば、と技人になることを決意したのだという。アーティストになって日が浅く、ペイントを施した人数も少ないというtanioさんだが、依頼者との継続的なつながりを持っている。
それは、2018年に開催された、技人が集まるイベント「技活の日」で展示された作品を見て、妊娠中の女性がブースに遊びに来たことがきっかけだった。後日正式に依頼を受け、ベリーペイントを行ったのだという。その依頼者とは現在も、ママ友として交流が続いている。「子育てのことを相談しあったり、一緒に詩の読み聞かせ会に行ったりもしました」。「技活」というと、どうしても「技人」と「依頼者」という関係になってしまい、それ以上踏み込んで関わったり、つながりが深まったりしていかないように感じる。だが、そうしたハードルを越えて、新しい関係が作られていくのは非常に興味深い。
その一方、ホームページを通して依頼者と3件つながったバルーンアーティスト・おちゃっぴいほりこしさんは、「技活」を通じて交流が生まれたことは一度もないと語る。年に一度のイベントで、昨年は依頼を受けたものの、今年は声がかからなかった。「今後繋がる可能性は無きにしもあらず」と答えてくれたものの、その表情から難しいという様子が伺えた。

 

ネットワーク構築面から考える「技活」の問題点

これまで、行政機関である協働推進課の方々、技人となり活動の場を広げている方々の思いを中心に取材を進めてきた。「技活」自体、非常に画期的で面白い取り組みであることは、ここまで読み進めてくれた皆さんになら理解してもらえることだろう。だが、内容ベースではなく、ネットワーク構築という切り口で考えた場合、「技活」では補いきれない部分があるというのが私の意見である。

認知度の低さは言わずもがなではあるが、今後の努力や時間をかけて取り組みを継続していくことで十分改善する余地がある。だが、それよりも大きな問題は、「技活」が構築する、人と人とのつながりの特殊性にある。そもそも「技活」は「技」、つまり何か特別な技術を介した上で成り立つネットワークであることは否めない。そのため、人と人との関係性は、<技人-依頼者>という固定化されたものになってしまうことが多いのだ。
例えば、ヨガ講師を招いた、ふかや市商工会の瀧澤啓子さんは、一度目の講習会の盛況を受けて、月一回の頻度で同じ技人に依頼することになった。その人からは「講習会を行った地域と接点が少なく、活動範囲が広がって良かった」とポジティブな感想をもらったのだという。ネットワークが、場所や地域を超えた一例とも言える。

だが、このつながりは、あくまでもヨガを教える側と教わる側、つまり<技人-依頼者>の関係性である。確かに、「技術や知識を持っている深谷の人を応援したい」「活躍の場を提供したい」という「技活」の目標には達している。だが、tanioさんが依頼者との間に構築したような、利害関係がない、持続的なつながりと比べると少し異なっている。
つまり、「技活」によって友人関係だったり、互助の関係だったりを築くことは非常に難しく、稀であるのだ。また、依頼者は「依頼要件」、技人は「自分の技術」なくして繋がることは不可能であるため、依頼者・技人のどちらにもなりえない人は、その母集団の中に入ることすらできない。

「技活」は素晴らしいシステムだ。行政が間に入ることで安全を担保しただけでなく、動画を活用した視覚的にわかりやすい紹介も可能にしたため、技人にとっても依頼者にとっても非常に有益だからである。だが、別の面からこうして問題点を挙げていくと、場所を超えたつながりを構築した成功例として提示するのは難しいと言えるのではないか。

 

第5章 未来に向けた新しいネットワークづくりを

ここまで、「若女将の会」などの商店街地域を中心として場所に根ざしたネットワークを、「技活」を中心として場所を超えたネットワークを探ってきた。だが、場所に根ざしたネットワーク形成は、商店街や自治会のようにある程度作り上げられた基盤がないと難しい。一方、場所を超えたネットワーク形成にはあまり持続性がない。更に、強固なつながりを持つ地域に、場所を超えて他の地域の人が入っていこうとしても、陥る先は居心地の悪さと「よそ者」という感覚のように思える。もっと誰もが気軽につながりを持つことができる、そんな未来に向けた新しいネットワークの仕組みがあるのではないか。

 

妙見市と併せて開催されたよりみち市
写真9 旧七ツ梅酒造跡で開催されたよりみち市(著者撮影)
写真9 旧七ツ梅酒造跡で開催されたよりみち市(著者撮影)

私が「よそ者」気分を感じ、打ちひしがれていた妙見市開催日の2019年12月10日、旧中山道を歩いていると甘酒のいい匂いが漂ってきた。職場体験にやってきていた近隣の学校の中学生数名が「よかったらどうぞ」とチラシを手渡してくれる。ここは、妙見市の会場からほど近くに位置する七ツ梅酒造跡である。1694年創業、2004年に廃業した蔵元で、現在は映画やドラマのロケ地に使用されることも多い、歴史ある建物だ。敷地内に進んでいくと、街の映画館である「深谷シネマ」、古書店、もんじゃ焼き屋やコーヒー屋など様々な店舗が間借りする形で入居している。この日七ツ梅酒造跡では、妙見市にあわせて「よりみち市」というイベントが開催されていた。

七ツ梅酒造跡に入っていくと、その通路にはブースが並び、古着や手作りの布雑貨など様々な商品が広げられていた。商品を眺めていると、編み物をしながら店番をしている女性に「(パンの形をしたワッペンを指しながら)子供向けの商品だけど、大人が買っていかれることも多いんですよ」と声をかけられた。平日で、あまり混雑していないということもあって、会場は気さくに会話を楽しむ空気に包まれており、ホッとした。商店街から少し離れ、ご近所感というのが多少薄まっていたことも理由としてあったのかもしれない。
更に敷地の奥に目を向けると、数名の子供とお母さんがしゃがみ込んで何やら楽しそうにしている。そこでブースを開いていたのは、なんと以前、「技活」について話を聞かせていただいた、技人でバルーンアーティストのおちゃっぴいほりこしさんだったのだ。

写真10 よりみち市で再会した技人・おちゃっぴいほりこしさん(著者撮影)
写真10 よりみち市で再会した技人・おちゃっぴいほりこしさん(著者撮影)

再会に驚きつつも声をかけると、「やっぱり人との縁はお金じゃないよね。こうして松本さんともまた会えたわけだし」としみじみした表情のおちゃっぴいほりこしさん。誘われたイベントには、できる限り積極的に参加しているのだという。「次来たときにどんな出会いがあるかなと楽しみに思っている」と穏やかな表情で語る。こうして、人が集う場所があることで、新たな出会いが生まれたり、そのつながりが濃くなったりしていくように感じられた。
ひょっとしたら、気軽にそこに集まることができ、居場所となるようなコミュニティの拠点があることで、場所や個人という枠を超えて、今までになかった新しいつながりを作っていくことができるのではないだろうか。「よりみち市」、そしておちゃっぴいほりこしさんとの再会を通してそう感じた。

 

深谷シネマをにぎわいの拠点に

よりみち市の会場となっていたのは、一般社団法人まち遺し深谷が運営・管理を行っている七ツ梅酒造跡である。約900坪の敷地内には母屋、店蔵、煉瓦造りの精米蔵、煉瓦煙突などの歴史的建造物が立ち並び、現在は店舗として活用されている。
この敷地内にある、酒蔵を改装した映画館「深谷シネマ」の館長も兼任しているのが、まち遺し深谷の代表・竹石研二さんだ。非常に穏やかな話しぶりながら、その心には映画を愛し、「まちなかに映画館を」「深谷シネマをにぎわいの拠点に」という熱い思いが秘められている。

写真11 まち遺し深谷の代表で深谷シネマ館長でもある竹石研二さん 今はあまり使われなくなってしまった映写機とともに(著者撮影)
写真11 まち遺し深谷の代表で深谷シネマ館長でもある竹石研二さん
今はあまり使われなくなってしまった映写機とともに(著者撮影)

竹石さんは、「商店街の本来の強みはコミュニケーションのはず。だけど時が経って、そういうのを忘れてきてしまっている部分があると思います。だから、(コミュニケーションという)特徴を大事にしながら、安心できて楽しいエリアを作っていけたらいいですよね」と語る。その中心に、深谷シネマや旧七ツ梅酒造跡が存在するのだ。
また、竹石さんは、別のNPO団体である「深谷にぎわい工房」(現在は活動停止中)が目標としていた「生活街」という言葉を使い、「商店街から生活街へしていけたらというイメージがあるんです」と教えてくれた。深谷のオンライン百科事典・Fukapedia[14] によると、生活街とは、「人々が『住み』『働き』『学び』『遊び』『集い』『商う』生活の場」である。単に商いだけではなく、映画を見て楽しんだり、誰かと話したりして憩うこともできるのだ。無理に昔の商店街に戻そうとするのではなく、時代にあった新しい形を考え、実行しようとしている竹石さん。生活街へと変化させていくことで、商店街にはなんとなく行きづらいと感じていた人も、気軽に足を運ぶことができるようになるかもしれない。新たなつながりが生まれるとしたら、こういう場所ではないだろうか。

 

アットホームなわかおかみーけっと

2019年12月17日、あいにくの空模様ではあったものの、第7回わかおかみーけっとは開催された。わかおかみーけっとは、深谷商店街若女将を中心に開催される平日のマーケットだ。クリスマスを目前に控えたこの日、若女将たちはサンタ帽を頭にかぶり、妙見市が開催されたのと同じ「にぎわい通り」で元気に営業を行っていた。

写真12 冷たい雨は、気づけば止んでいた。若女将の明るさゆえだろうか(著者撮影)
写真12 冷たい雨は、気づけば止んでいた。若女将の明るさゆえだろうか(著者撮影)

第1章で取材を行った若女将の岡部深雪さんは、この日、話しかけるのが憚られるほど、多くの人たちと会話し、忙しそうにしていた。それほどたくさんの人が岡部さんのことを知り、信頼しているようだ。
会場では、どこかで必ず笑い声が聞こえる。それだけで、人と人との距離の近さがよく感じられる。商店街の中でイベントを開催しているから顔見知りが多いということも、もちろんあるだろう。だが、その雰囲気の良さは、必ずしも近所だからと「場所」に基づいた理由によるわけではなかった。
例えば、この日、muguetとしてハンドメイド作品を販売していた亀井理恵さんは、深谷市とゆかりはなく、群馬県桐生市から訪れていた。そのため、当日までは「閉鎖的で入りづらいのではないか」というイメージを抱いていたそうだ。しかし、そうした悪い雰囲気は一切なく、他県から来た亀井さんにもアットホームだったのだという。
実際、私自身も深谷商店街には縁がなく、どちらかと言えば亀井さんの立場に近かった。同じ市内でも電車で移動するほど離れているからだ。だがそこには、疎外感を感じたりせずに、気軽に会話を楽しむことができる雰囲気があった。主催は「若女将の会」かつ、会場は商店街の中だったものの、出店者が様々な地域から訪れていたことは、誰もが楽しめる空気を作り出した一因に思える。こうしたイベントは、深谷市内の異なる場所でも成り立つのではないだろうか。

 

新しいつながりの形はイベントにある?!

そんな疑問に答えてくれたのが、旧七ツ梅酒造跡内で「なんでも屋mog」を営みながら、よりみち市など数多くのイベントを手掛けてきた、技人兼まちづくりマイスター [15]の松岡嘉奈さんだ。この日、わかおかみーけっとには出店者として参加していた。松岡さんは「イベントは場所さえあれば辺鄙な所でもいい。駐車場でもどこでも、使える場所があればやりたい」、「新しい市役所 [16]とかでも何か開催できたらいいな」と語ってくれた。
もちろん特定の場所で開催すれば、既にできているつながりが、より強固なものになっていくだろう。だが、そうすると場所に根ざしたつながりばかりが強調され、他地域の人が入って行きづらくなってしまう。結果として、場所を超えたつながりを築いていくことができない、負の循環に陥ってしまうこととなる。

一方、イベントという多くの人に開かれた形であれば、自分の住む地域につながりがないと感じている人でも、様々なエリアから気軽に参加することができる。広い市内でも特定の場所に固執せず、人が流動的に移動するようになるのだ。その結果として、「場所」という枠組みを超えた新しいつながりが生まれていくのではないだろうか。
こうした点から、人が集う場所となるイベントは、未来に向けた新しいネットワークを構築する上で、最適な仕組みとなるのではないかと考えられる。

図3 未来に向けた新しいネットワークの可能性(著者作成)
図3 未来に向けた新しいネットワークの可能性(著者作成)

 

終章 つながりはきっと作れる

「一緒に頑張っていこうね!」わかおかみーけっとの会場で松岡さんに話を伺っていると、いつの間にか隣の出店者さんや市役所の人が話の輪に加わっていた。松岡さんが「ほら、松本さんにもつながりができた」と笑顔でその人達を紹介してくれた。その時ふと、つながりを作ることは、思っていたほど難しくないような気がしたのだ。

写真13 和やかな会話の一時。一番右が松岡嘉奈さんだ。(著者撮影)
写真13 和やかな会話の一時。一番右が松岡嘉奈さんだ。(著者撮影)

そもそも、深谷市における「つながり」についての調査の発端は、私自身が抱いていたネットワークの薄さや、辺鄙な場所に住んでいることで感じていた「深谷市民」という意識の薄さによるものだった。そんな私には最初、どこに話を聞きにいっても「自分なんてよそ者だしなあ」という思いがつきまとった。振り返ってみるとその根本にあったのは、自分の地元である深谷市についてほとんど何も知らないことに対する恥ずかしさだったのだ。
そんな私に松岡さんは、「とにかく人と話すこと」「トライアンドエラーで、失敗してもいい」と語った。これはもちろんイベント主催者としての意見ではあるが、「つながりを持ちたい」そんな悶々とした思いを抱えている私のような人も実践できることのように思えた。

第5章で、誰もが参加しやすい、場所に依らない新しいつながりの形としてイベントがあると結論づけた。だが、結局それに参加するかしないかは、私たち一人ひとりが決定することだ。参加してみるならば、出店者や参加者など様々な人と交流してみる、話しかけてみる。そういうところに、私たちが必要としている新しいつながりを作るきっかけが隠れているのだと思う。
今の時代、SNSは私たちの生活にかなり浸透しており、本ルポに登場した人も多くがSNSを活用して情報発信を行っていた。そうした画面の情報に目を通すだけというのも、もちろん一つではある。だが、実際にその場所に足を運び、雰囲気を味わってみることで、予想もしなかったような出会いがあったり、新しい人間関係が生まれたりするかもしれない。

つながりを築く要素には、これまで見てきたような「仕組み」というハードな面がある一方で、私たち一人ひとりの行動も含まれていることを忘れないでほしい。本ルポが「つながりを持ちたい」、そんなふうに思っている人が一歩踏み出すきっかけになれば幸いだ。

 

[1] 平成27年市町村勢概要(埼玉県公式サイト内)より集計https://www.pref.saitama.lg.jp/a0206/a350/a2015shiyousonnseigaiyou.html (最終閲覧2020年1月20日)

[2] 深谷市ガイドマップより画像を引用http://www.city.fukaya.saitama.jp/shisei/kohokocho/shinokankoubutu/kanko/1390797696849.html (最終閲覧2020年1月19日)

[3] 妙見市とは、深谷市の中山道を中心に毎年歳末に1日限りで行われる大安売りで、正月用品をはじめ、日用雑貨、衣料、食料品など売られる。俗に「秩父の妙見くずれ」とも呼ばれ、別名を妙見まつりと呼ばれる秩父夜祭とのつながりがある、といわれている。
http://fukapedia.com/wiki/index.php?title=%E5%A6%99%E8%A6%8B%E5%B8%82(最終閲覧2020年3月23日)

[4] 岡部さんは、2019年7月20日、テレビ東京の「出没!アド街っく天国」(毎週土曜夜9時~放送)内で撮影したミニドラマに女優として出演していた。

[5] 坂本治也(2010)「日本のソーシャル・キャピタルの現状と理論的背景」関西大学経済・政治研究所『ソーシャル・キャピタルと市民参加』関西大学経済・政治研究所研究双書第150冊p.2

[6] 朝日新聞デジタル:フォーラム「どうする?自治会・町内会」
https://www.asahi.com/opinion/forum/013/ (最終閲覧2020年1月19日)

[7] 東京ガス株式会社広報部 https://www.tokyo-gas.co.jp/tamago/pdf/201202.pdf pp.1-2
(最終閲覧2019年8月6日,現在は閲覧不可)

[8] 広井良典(2009)「コミュニティを問い直す―つながり・都市・日本社会の未来」,筑摩書房 p.18

[9] 大野秀敏,饗庭伸,秋田典子ほか(2018)「コミュニティによる地区経営 コンパクトシティを超えて」,鹿島出版会 p.17

[10] 深谷市 市民協働指針より引用 http://www.city.fukaya.saitama.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/73/siminkyodosisin2.pdf p.2(最終閲覧2020年1月19日)

[11] https://wazakatsu.jp/waza/detail/?cont=191をスクリーン撮影(最終閲覧2020年1月19日)

[12] YouTubeのチャンネル「技活・深活【深谷市公式】」https://www.youtube.com/channel/UCFsP8rmcRcbNGaZR8KgmXzg/videos?view=0&sort=da&flow=grid (最終閲覧2020年1月19日)

[13] 「深活」(ふっかつ)とは、深谷に関する人、物、場所、活動の様子などを自由に投稿することができるサービスを指す。http://www.city.fukaya.saitama.jp/shisei/kyodo/katudou_sapoto/1559192909420.html
(最終閲覧2020年1月19日)

[14] Fukapediaは、Wikipediaに倣って作られたフリーなオンライン百科事典。深谷の情報を集め、共有することを目的としている。深谷タウン・マネジメント構想(深谷TMO)の一貫事業。http://fukapedia.com/wiki/index.php?title=%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8 (最終閲覧2020年1月20日)

[15] 新たに活動をはじめようと考えている市民の相談役として、まちづくりの分野で活躍している人を紹介する制度。現在6名のまちづくりマイスターが活躍中。
http://www.city.fukaya.saitama.jp/soshiki/kyoudou/kyoudou/tanto/kyodo/meister/1514443547003.html (最終閲覧2020年1月20日)

[16] 災害時、防災拠点としての役割を果たせるよう、現在新庁舎建設を行っている。2020年に開庁予定。

 

 

参考文献
・大野秀敏,饗庭伸,秋田典子ほか(2018)「コミュニティによる地区経営 コンパクトシティを超えて」,鹿島出版会
・坂本治也(2010)「日本のソーシャル・キャピタルの現状と理論的背景」関西大学経済・政治研究所『ソーシャル・キャピタルと市民参加』関西大学経済・政治研究所研究双書第150冊pp.1-31
・広井良典(2009)「コミュニティを問い直す―つながり・都市・日本社会の未来」,筑摩書房
・朝日新聞デジタル:フォーラム「どうする?自治会・町内会」https://www.asahi.com/opinion/forum/013/(最終閲覧2020年1月19日)
・東京ガス株式会社広報部 https://www.tokyo-gas.co.jp/tamago/pdf/201202.pdf pp.1-2(最終閲覧2019年8月6日,現在は閲覧不可)
・深谷市公式サイト http://www.city.fukaya.saitama.jp/index.html (最終閲覧2020年1月20日)
・深谷市ガイドマップhttp://www.city.fukaya.saitama.jp/shisei/kohokocho/shinokankoubutu/kanko/1390797696849.html (最終閲覧2020年1月19日)
・深谷市 市民協働指針http://www.city.fukaya.saitama.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/73/siminkyodosisin2.pdf p.2(最終閲覧2020年1月19日)
・深活(深谷市公式サイト内)http://www.city.fukaya.saitama.jp/shisei/kyodo/katudou_sapoto/1559192909420.html (最終閲覧2020年1月20日)
・Fukapedia http://fukapedia.com/wiki/index.php?title=%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8 (最終閲覧2020年1月20日)
・平成27年市町村勢概要(埼玉県公式サイト内)https://www.pref.saitama.lg.jp/a0206/a350/a2015shiyousonnseigaiyou.html (最終閲覧2020年1月20日)
・まちづくりマイスター制度(深谷市公式サイト内)http://www.city.fukaya.saitama.jp/soshiki/kyoudou/kyoudou/tanto/kyodo/meister/1514443547003.html (最終閲覧2020年1月20日)
・技活公式サイト https://wazakatsu.jp/ (最終閲覧2020年1月20日)
・技活公式サイト 奥原純一さんの投稿https://wazakatsu.jp/waza/detail/?cont=191 (最終閲覧2020年1月20日)
・「技活・深活【深谷市公式】」 YouTubeチャンネルhttps://www.youtube.com/channel/UCFsP8rmcRcbNGaZR8KgmXzg/videos?view=0&sort=da&flow=grid (最終閲覧2020年1月19日)

このルポルタージュは瀬川至朗ゼミの2019年度卒業作品として制作されました。