お茶屋の挑戦「過去と今と未来を繋ぐ」ー早稲田とSDGsー


高田馬場駅から早稲田大学に向かって伸びる早稲田通り。日本茶店「茶のつたや」はその通りに店を構える創業93年目の老舗だ。店内にはカウンター席とお茶を飲みながらパソコンなどを使用できる作業スペース、日本茶葉や雑貨を売る販売スペースがある。同店で企画・販売を担当する清水真由さん(26)は、国際社会で問題となっている気候変動に対する具体的な対策として、「SDGs(持続可能な開発目標)」への取り組みを2年前に始めた。「茶のつたや」はなぜSDGsへの取り組みを始めたのか話を聞いた。(取材・執筆・写真=杉江隼)

トップの写真は「環境にやさしい事業者部門」の賞状を持つ茶のつたや企画・販売の清水真由さん=2021年6月7日、杉江隼撮影

 

創業93年の老舗日本茶が「環境にやさしい事業者」に

1928年創業の「茶のつたや」は、現在、真由さんの両親である3代目店主の克弘さんと妻の明子さんが経営している。「つたや」という店名は、初代店主の妻の実家に蔦が巻きついていたことから名づけられたという。お茶と季節のスイーツを提供する日本茶のカフェとして営業する一方、茶葉だけでなく湯呑みや急須など伝統工芸品や雑貨の販売も行っている。

日本茶店として経営してきた同店が2019年より始めたのが、「SDGs」への取り組みだ。2020年3月には、SDGsへの取り組みが認められ、新宿区が開催した「第13回 新宿エコワン・グランプリ」の「環境にやさしい事業者部門」を受賞した[i]

 

真由さんとSDGsの出会い「SDGsを家業でも」

真由さんとSDGsの出会いは、学習院大在籍中の2018年までさかのぼる。当時、真由さんはイノベーションを学ぶ学生団体とグラフィックレコーディング[ii]を行うチームに所属していた。「SDGsに詳しい講師の方からのレクチャーを聴いたり、様々な企業や団体のグラフィックレコーディングをしたりする中で、自然とSDGsに関心を持った」。

SDGsを知り学んでいく中で、「家業でもSDGsに取り組みたいと考え始めた」という。「SDGsをうちでも取り組もうと両親に相談したが、SDGsなんて何のことか分からなかったみたいで、『洗脳されたのか』と言われた」と真由さんは笑う。それでもめげずに話し合いを繰り返していき、1年後の2019年に具体的な取り組みが完成した。

最初は反対していた両親も「娘の情熱に負けた」と話し、今では真由さんの活動を応援する。また、同店は高田馬場・早稲田の地域通貨「アトム通貨」[iii]に1期から参加していた。アトム通貨の理念「環境」「地域」「国際」「教育」に共感してのことだという。以前から両親が持っていたそのような姿勢も真由さんの活動を後押しした。

 

「現代は、大量消費する時代ではなくなった」

緑茶の国内消費は、年々減少している。農林水産省のデータによると、「1世帯あたりのリーフ茶消費量」は、2001年は1174gだったが、2015年には844gに減少した[iv]。同店にも、「従来のパッケージで提供される茶葉の量だと、買ってもロスになってしまう」という声が多く寄せられた。そこで、真由さんは克弘さんと話し合いを繰り返し、3年前から小さいサイズでの提供も始めた。

従来のパッケージ(緑)と新パッケージ(黒)=2021年6月7日、杉江隼撮影
従来のパッケージ(緑)と新パッケージ(黒)=2021年6月7日、杉江隼撮影

最終的な目標は、「すべての人に『量り売り』で茶葉を買ってもらうこと」だという。量り売りで買ってもらうことで、包装用袋や茶葉のロスを無くすことができる。また、店内飲食時のストローとおしぼりの提供中止、テイクアウト時のカップとストローを生分解性に変更、マイストロー(チタン、アルミ、ガラス、ステンレス)やマイボトル利用の呼びかけなども行っている。その他にも、SDGs普及に向けた「お茶屋のサステナブルべんきょうカフェ」の開催、ビル内電力の全面再エネ化、マイボトル普及に向けた無料給水スポットアプリ「mymizu[v]」の導入にも力を入れる。

その結果、日本茶の量り売り購入をするお客さんは目に見えて増加した。また、排出されるゴミの量は、取り組み前に比べ、5分の1にまで減少した。

 

SDGsウォッシュへの懸念と今後の展望

同店は数多くの取り組みを実施しているが、店内にSDGsへの取り組みをアピールするものはない。その理由に関して真由さんは、「最近SDGsに対して、『SDGsウォッシュ』のイメージがつき始めてしまった」と話す。SDGsウォッシュとは、SDGsに取り組んでいるようで、その実態は伴っていないビジネスを揶揄する言葉だ[vi]。「SDGs自体が悪いわけではないのに、ウォッシュ企業や消費者側のリテラシーの問題で、SDGsのイメージが3年前と変わってきたと感じている。だから、あえて店内にSDGsのゴールを掲げることはしていない。また、SDGsを直接掲げてしまうと、消費者側の思考が停止してしまうという懸念もある」と説明する。

茶のつたやの外観=2021年6月7日、杉江隼撮影
茶のつたやの外観=2021年6月7日、杉江隼撮影

今後、「高田馬場・早稲田地域の過去と今と未来を繋いでいきたい」と真由さんは力を込める。

「高田馬場・早稲田地域の老舗店である『つたや』だからこそできる持続可能な取り組みがあるのではないか」と考え、「過去と今を繋ぐ」ための取り組みをしていきたいという。具体的には、以前より真由さんが行っていた地域に住む戦争体験者への取材経験から戦争の記録を冊子にまとめたり、講座などを開いたりしたいそうだ。

また、「今と未来を繋ぐ」ために、「SDGsをツールとして、未来世代に今までの負荷を押し付けないようなことをしていきたい」という。そのための取り組みとして、フードロス削減に向けたフードシェアリングアプリ「TABETE[vii]」や地球に優しいお店とつながる地図アプリ「mamoru[viii]」の登録などを構想中だ。

 

真由さんにとって「SDGsはメガネみたいなもの」

SDGsで定められた17の目標だけを見て、漠然としたものだと捉える人も多い。一方、真由さんはSDGsに対して異なる見方をしている。「今までモヤモヤした違和感が多くあった。しかし、SDGsのターゲットや指標によってその違和感は言語化された。そのため、SDGsを通して見ると、モヤモヤした世界がクリアになった。世界が昔よりも鮮明になることで、志向にも行動にもつながりやすくなったと思う」。

 

SDGsとは
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、2001年に策定されたMDGs(ミレニアム開発目標)の後継として、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のこと。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。(参照:外務省 ”SDGsとは?”、https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html、最終閲覧:2021年8月22日)
国際連合広報センターHPより
国際連合広報センターHPより

 

<注>

[i] 新宿区「第14回新宿エコワン・グランプリ」、https://www.city.shinjuku.lg.jp/kankyo/kankyo01_000001_00003.html(最終閲覧:2021年8月28日)

[ii] グラフィックレコーディング:会議や講演の内容を、文字とイラストを使って記録する方法のこと

[iii] アトム通貨:早稲田・高田馬場の街で、地域コミュニティーを育み、街を活性化させるため生まれた地域通貨

[iv] 農林水産省HP 「茶をめぐる情勢」、https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/pdf/cha_meguji_h2805.pdf(最終閲覧:2021年8月28日)

[v] mymizu HP 「less plastic, more fun!」、https://www.mymizu.co(最終閲覧:2021年8月28日)

[vi] IDEAS FOR GOOD HP 「SDGsウォッシュとは・意味」、https://ideasforgood.jp/glossary/sdgs-washing/(最終閲覧:2021年8月28日)

[vii] TABETE HP、https://tabete.me(最終閲覧:2021年8月28日)

[viii] MAMORU HP、https://www.mamoru.earth/?lang=ja(最終閲覧:2021年8月28日)