地域のひとをつなぐ写真館 山口貴弘さん

「写真は撮る側が多いから、撮られ慣れていなくて緊張する」。そう話すのは、早稲田大学に近い新宿区鶴巻町にある「ろくなな写真館」を営む山口貴弘さんだ。毎月一回、絵本の読み聞かせ会がこの写真館で開かれて、鶴巻町の子どもたちも多く参加している。なぜ写真館でこのようなユニークな催しをしているのだろうか。(取材・執筆・写真=齋藤正昂)

 

「ろくなな」に込めた思い

山口さんは写真の仕事をしているが、元は映画監督を志望していた。大学を卒業して、広告会社に入社した。何か映画に関係しそうな仕事だと感じたからだ。ファッション関係などの仕事は楽しかった。しかし、27歳の頃、「自分はこのまま何も成し遂げずサラリーマンでいいのか。今まで本当にやりたかったことに対して行動に起こしてなかったじゃないか」という思いに駆られるようになった。当時一番興味のある写真にチャレンジしようと考え、カメラマンを志すようになった。

写真の仕事では、タレントを撮影することも多かった。ポートレートを撮ることが好きで、撮影の仕事でもそれを武器にしていた。しかし、タレントにはオーラがあり、自分の魅せ方がわかっている。そうした撮影の仕事をつづける中で、「自分は果たして写真的に高いところにいるのか」と疑問に思うようになったという。

2012年8月に鶴巻町に写真館を開いたのは、タレントではなく、写真を撮られ慣れていない個人の方の魅力を引き出すことで、写真を極めたかったからだ。名前は「ろくなな写真館」。由来は自分が好きな6:7という写真のサイズと、2004年に写真家に転向した際に初めて買ったカメラの名前である「Mamiya RZ67」。写真館のホームページを作るにあたってつけた名前だ。

山口さんが初めて買ったカメラ、「Mamiya RZ67」
山口さんが初めて買ったカメラ、「Mamiya RZ67」

 

撮影した写真が家族の宝物に

写真館を始めると、しだいに訪れる人の数が多くなった。お客さんとも顔見知りになっていく。来館する家族にとって、七五三など、家族の思い出に残る写真が宝物になる。自分が他の人の人生に介入しているということに気付いた。そして、だんだんと大きくなっていく地域の子どもたちのために、写真館を活用したいと考えるようになった。写真教室を開くことも考えたが小さい子ども向けにしては難しい。どの年代の子どもも楽しむことができることは何かと考えた結果、絵本の読み聞かせ会を写真館で行うことを思いついた。

写真館の近くにある鶴巻図書館に連絡すると、ぜひやりましょうと返事をもらった。だが、図書館でも同様にお話し会が開催されていた。同じことを、場所を変えて行っただけでは面白くない……。せっかく近くに早稲田大学があるのだから、子どもたちとお兄さん、お姉さん的な学生との交流の場を設けたらいいのではないかと考えた。

一緒にお話し会を作り上げてもらえそうなサークルを探していて、「アナウンス研究会」を見つけた。アナウンサー目指す学生が集まっていて、そのサークルの学生たちが読み聞かせをしたら面白そうだ。アナウンス研究会の学生に声をかけ、2017年4月から、写真館、図書館、学生が一つになったお楽しみ会が開催されるようになった。

お楽しみ会は現在三年目になる。写真館に初めて来る人も、何回も来る人も集まる。今年6月には新たな取り組みとして、麻布大学の童遊会を呼んで、人形劇をやってもらった。見ているうちに泣き出してしまう子もいた。みんな夢中になっていた。山口さんは「初回にしてはとてもおもしろいものができた。今後は年に2度ほど、人形劇にとどまらず、マジックショーや子供とお母さんが一緒に遊べる何かなどに、チャレンジしていけたらと思います」と話す。

お楽しみ会の会場でもあるろくなな写真館
お楽しみ会の会場でもある、ろくなな写真館

 

難しく考えずに好きなことを

写真館を経営する山口さんは「自分には写真しかないんだ!というわけではない」とも語る。映画監督志望から広告会社、カメラマン、写真館経営、地域のお楽しみ会・・・。山口さんの行動は軽やかに見える。曰く興味の対象が広く、好きなものがたくさんある。たまたま好きなものの中に写真があり、それが仕事になっただけだという。

「なかなか自分の好きなものがわからない人がいると思う。でもそこで難しく考えたり、ハードルを上げたりすることはない」

そんな山口さんの言葉には「好きなことを真摯にやってみれば」という若い人向けのメッセージが込められているように思えた。

 

<注>本記事の筆者は早稲田大学アナウンス研究会のメンバーであり、お話し会での読み聞かせに参加しています。その経験をもとに本記事の取材を企画し、取材をしました。

 

<参考>

ろくなな写真館ホームページ https://67photo.jp/

山口貴弘さんホームページ  http://takahiroyamaguchi.com/