学生街での力試し 02cafe


早稲田大学の西門を出ると、西門商店街がある。時代とともに早大生を見守ってきたかのような古い店が並ぶ中で目立つのは、真っ白な壁とおしゃれな看板を掲げた02cafeだ。学生によって経営・運営がなされており、客層を尋ねると「場所柄、大学関係者の方がほとんどですね、あとは地元の方とか」と店長を務める鈴木遼太さん=早稲田大学先進理工学部3年=は笑った。(取材・写真=河合晴香)

 

学生プロデュースのおしゃれカフェ

 

お店の内装は木を基調としている。スタッフである学生によってデザインされたものだ。

02cafe_inside
木を基調とした02cafeのお店

店内に並ぶ背の低いイスとテーブルは、建築に関心のあったスタッフがこしらえた。あたたかみがあり、思わず長居してしまいそうなくつろぎを与えてくれる。カウンター席にはお酒が並び、カフェと言いながらも様々な顔を持つ店を想像させる。
お店ができたのは2006年。卒業を控えた4年生が、最後に何かを残したいと思い、カフェの開店に乗り出したのがきっかけだ。学生が建築・経営・運営を行うなど無理だろうと反対を受け、頭金として現金200万円を求められるなどオープンまでには苦労が絶えなかったという。無事にお店が開店してからも、内装の準備や経営不振など、なかなか思い通りには進まなかった。その度にスタッフで会議を開き、困難を乗り越えてきた。

 

「無給」から得た価値

 

現在02cafeで働いているスタッフは18人。その全員が学生で、無給で働いている。現在、2年生の田中千夏さんは1年生の春に02cafeで働き始めた。元々料理に関心があり、新歓期に知り合った先輩から学生で運営・経営しているカフェがあると聞き、すぐに興味を持った。しかし実際に働いてみると、学生だけで運営しているからこその苦労を痛感する。授業やサークルなど、それぞれのスタッフが異なる生活リズムを保ちながら、毎日営業を続けることは想像以上に大変なことだったという。
異なるのは生活リズムだけではない。「企画に興味がある人、webデザインに興味がある人、いろんな目的を持った人が働いています」と鈴木さん。学年も目的も異なる分、様々な意見が出てくる。だからこそ誰でも意見を言いやすい環境を作ることが大切になる。自分のやりたいことを、責任を持って実践していくというのが02cafeスタッフのスタンスだ。「無給で働いているからにはお金と同じ価値を見出してもらいたい」と鈴木さんは話してくれた。

 

地方と東京をつなぐ

 

02カフェでは毎月、スタッフが企画したイベントが開催される。最近では、外部の方からの依頼やコラボに対応することが多いという。現在企画・進行中のイベントは「かきのき村を次世代に残すプロジェクト」だ。学生団体Volanteの提案で、合併により5年後に名前が消えてしまう島根県・かきのき村(現吉賀町)の食材を使い、コラボメニューを出すことになった。かきのき村は高齢化の進む小さい村ながら、有機野菜の栽培に力を入れている。栽培している農作物も、コメやレタス、ニンジンにイチゴと多岐にわたる。
この企画の担当をしている田中さんは、6月初旬にVolanteのメンバーとともにかきのき村を訪れた。現在日本女子大学で食料経済を学ぶ彼女は、卓上の勉強と現実との違いを目の当たりにした。田中さんが話を伺った農家の方は、授業で学んだ国の政策で痛い目に合っていたという。「自分たちで、自立してやっていくしかないんだ、っていう思いがすごく強くて、とにかくアツかったです」そう言って田中さんは笑った。
厳しい環境の中でも、時間と費用をかけてかきのき村の方は有機栽培にこだわっている。その裏には、食べる人の顔が分かっているからこそ、手を抜くことはできないという熱い想いと責任感が感じられたという。
コラボメニューの発売は、コメや野菜が収穫された秋頃になる。どんな食材を使うかはまだ決まっていないが、「本物の美味しさ」を感じられる料理がふるまわれる予定だ。

 

部やサークルとのコラボも

 

スタッフにとって02cafeは、お客さんを楽しませることはもちろん、自分も楽しむことができる場所だという。オープンから10年が経ち、スタッフや客数が増え知名度も上がった今、02cafeは何を目指しているのか。鈴木さんは「挑戦する場所、経験する場所であってほしいなと思っています」と話してくれた。「みんなが驚くようなコラボをしてみたい」と田中さん。過去には早稲田大学の陶芸部や演劇サークルとのコラボなどもあったという。02cafeに来ることで、普段の私生活では関わることのなかったであろう人と出会い、関わるチャンスが生まれるのだ。
学生が人とつながり、何かを生み出すきっかけとなり続けている02cafe。
壁に立てかけられた雑誌や創意工夫を凝らしたコラボメニュー、月ごとに開催されるイベントと、店に足を運ぶことで客もスタッフも出会いと実践を繰り返す。ここは学生にとって学びの宝庫だ。