老舗銭湯「松の湯」と早大生

早稲田通りにレトロな白タイルの建物がある。大正時代から近隣住民に親しまれた老舗の銭湯「松の湯」だ。現在は、山﨑康五郎さん・久美子さん夫婦が切り盛りしている。この銭湯を山﨑久美子さんの祖父が買ったのは1950年(昭和25年)。当時は、付近に下宿屋や風呂なしアパートが多く立ち並び、家族連れや学生など大勢の人で繁盛していた。現在、早稲田生はどのように銭湯を利用しているのだろうか。(取材・写真=中村桐佳)

 

講義やサークル帰りに友人と利用

 

毎日約300人の利用客がいる中、学生は約60人。繁盛期よりは客数が減少したものの、土地開発が進み下宿屋が存在しない今も学生は多く訪れている。しかし、学生の利用形態は大きく変化した。

昭和の学生は、風呂なしの自宅から毎日一人で訪れる客が中心で、山﨑さん夫婦は、当時の学生と自然と親密になった。「今も子供や奥さんを連れて訪ねにきてくれる人もいて、それが嬉しい」と久美子さんは語る。

現在の学生利用客は、講義やサークル帰りに、友人と語らうために訪れる。学生の利用は遅い時間帯ほど増加する。

中には、一人で来る学生もいる。「講義のあとに直接夜勤に行かなければならない。その前にさっぱりしたいときに利用する」。そう語るのは社会科学部2年の内海さん。友人と喫茶店に入る感覚でなんとなく銭湯を利用し、銭湯の便利さに気づいたという。「家とは違う開放感のある湯船が良い」と、実家暮らしながらも、銭湯に魅力を感じている。

 

女子でも楽しめる銭湯

 

松の湯自体も、大幅リニューアルをした。以前は昔ながらの銭湯形式で、真ん中の番台で

matsunoyu lobby
松の湯のロビー

女湯と男湯の入り口が区切られ、それぞれ別ののれんをくぐって入店していた。約20年前にリニューアルをして、男女共用のロビーとフロントを作った。ロビーにはソファが配置され、男女一緒にテレビや語らいを楽しめる。コーヒー牛乳やビールを販売しており、入浴後に冷たいものを飲みながらくつろぐ学生も多い。売れ筋はコーヒー牛乳。取り扱う銭湯が少ない中、味わえる入浴後の一杯は貴重だ。

浴室の内装をほぼ一新し、湯船も取り換えた。約1億5000万円かかったこのリニューアルにより、打たせ湯やジャグジー、水風呂など豊富な浴槽を取りそろえた。別料金1000円が必要になるがサウナもつけた。

男子学生の利用者が多い中、リニューアル以降、女子学生も増加した。浴室は天井が高く開放感があり、白タイルの床と白と水色を基調とした壁は清潔感がある。高窓からは日中太陽光が降り注ぐ。壁一面に大きく羽を広げた鶴のタイル画は迫力があり、老舗感を楽しめる。

さらに、松の湯では、地下水をガスで沸かした湯を提供している。温泉と同じだけの成分が湯に含まれているため、肌にも良い。女子学生でも楽しめる銭湯だ。有料だが貸しタオルのサービスもあり、準備がなくてもふらりと立ち寄ることができる。

 

厳しい銭湯経営

 

銭湯経営には厳しい面も多い。

銭湯は、排管や浴槽などいたみが早いため、約20年おきに、「中普請」という大規模リニューアルが必要になる。収入が伴わず、経費を抑えた最小限の中普請しか行わない銭湯も多い中、松の湯では、他の銭湯に負けないよう流行りの浴槽を取り入れた。現在では、借金も返済しきり、利益が出ているが、次のリニューアルは未定だという。東京都内の銭湯数は昭和40年の2641軒から年々減少し、平成25年では706軒になった。

 

銭湯の利点は

 

銭湯の利点は何だろうか。店主の康五郎さんは「10トンもの湯がはられた広い浴槽で体を休められて、湯船を掃除する手間も省ける。頻繁に通えば地元の人との交流も自然に生まれてくる」と語る。そして、早大生に向けて「学生さんも一人でも多くきていただければ」と呼びかける。講義やサークルで疲れた体を休めるために銭湯「松の湯」を利用してはいかが。

ただし、他の利用者から学生利用者へのクレームは少なくない。グループで来て浴室を占拠する人や、周囲に配慮することなく大声で話す人がいる。当然のマナーが守られていない。貸しタオルのサービスも、タオルを持たない学生が頻繁に脱衣場を水浸しにすることに困り生まれたサービスだ。全員が気持ちよく銭湯を利用できるように一人ひとりの心がけが必要だ。