【ファクトチェック】れいわ山本代表「南海トラフは阪神大震災の17倍、東日本の10倍の地震。これに耐えられる原発があるはずない」はミスリード。数字は想定被害額


 トップの画像は2022年6月21日、日本記者クラブ・党首討論会での山本太郎氏=©AFP/David Mareuil/POOL
対象言説

れいわ新選組の山本太郎代表は2022年6月21日に日本記者クラブで行われた9党党首討論会で以下のような発言をした。

「もう首都圏直下が来ると。これ阪神大震災の5倍、東日本の3倍です。20年間の経済的損失731兆。南海トラフ、最もでかくて、これ阪神の17倍。で、東日本の10倍の地震です。20年間の経済的損失は1410兆円。これに耐えられる原発あるはずないでしょ。」(当該部分は1時間54分4秒〜)(1)

山本氏は、南海トラフ地震の被害が「阪神大震災の17倍、東日本の10倍」と大規模になることを理由に、「これに耐えられる原発あるはずがないでしょ」と発言している。地震被害の大きさが原発の損壊の大きさに直結するのか、その真偽を検証する。

 

選定理由

9党党首討論会はYouTubeで49800回ほど再生されている(2022年7月8日現在)。また、原発の是非は7月10日に行われる参議院選挙の争点となり得る上、れいわ新選組代表の山本太郎氏の発言力も大きいと考えられるため、検証すべきだと判断した。

 

判定
南海トラフは阪神大震災の17倍、東日本の10倍の地震。これに耐えられる原発があるはずない=ミスリード

 

判定理由
数字は経済的被害の想定額

9党党首討論会での山本太郎氏の発言内で「もう首都圏直下が来ると。これ阪神大震災の5倍、東日本の3倍」「南海トラフ、最もでかくて、これ阪神の17倍。で、東日本の10倍」という部分がある。これらの数字は何を示しているのかを調べた。

内閣府によると、

阪神・淡路大震災の被害額は、約9兆6千億円 (2)
東日本大震災の被害額は、約16兆9千億円 (2)
首都直下型地震の想定被害額は、約47兆円 (3)
南海トラフ巨大地震の想定被害額は、約169兆5千億円 (4)

である。

ここで提示されている被害額は山本氏が述べた「首都直下型地震が阪神大震災の5倍、東日本の3倍」「南海トラフが阪神の17倍、東日本の10倍」という発言の数字に限りなく近いことがわかった。
この阪神大震災と東日本大震災の被害想定額の算出方法については、

「資本ストックの種類別に、その時点で入手可能な損壊状況に関する情報に基づいて損壊率を想定し、資本ストック額に乗じてそれぞれ推計したもの」(2)

とあり、首都直下型地震と南海トラフ巨大地震の被害想定額の算出方法は、

「被害量(物的被害の推計結果)×原単位(単位あたり復旧額等)により推計したもの」(5)

とある。これらは、経済的被害を表している。

原発事故の主要因は地震動と津波の大きさ

一方、環境省の資料は、東日本大震災時の福島第一原子力発電所の事故の要因として、「地震と津波の影響」を指摘している(6)。

具体的には、地震により①原子炉の停止と②送電線鉄塔の倒壊による外部電源の喪失、そして③津波襲来による冠水と全電源の喪失――が炉心溶融を招いたことを記載している。
南海トラフ巨大地震でも、原発立地地点での地震の揺れや津波の高さが事故の要因として検討されている。例えば、中部電力浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)では、同地震による津波の高さが最大で22メートルを超すことを想定し、防波堤などの対策を進めている(7)。
以上のことから、原発が地震に耐えられるか否かの指標は、経済的被害のみでは計ることができないと分かるが、山本氏は経済的被害額だけを強調して「耐えられる原発、あるはずないでしょ」と述べている。経済的被害額の大きさが原発の損壊程度に関係するように思わせる発言は、ミスリードだと言える。

 

れいわ新選組に問い合わせ

7月7日に、問い合わせフォームよりれいわ新選組にこの発言の根拠について問い合わせたが、7月9日時点で回答はいただいていない。回答があり次第、追記する。

脚注

(1) 9党党首討論会 2022年6月21日
https://www.youtube.com/watch?v=6LGNXuFrr5o
(2) 内閣府 震災の経済への影響
https://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr11/chr11020201.html
(3) 内閣府 中央防災会議 平成25年12月19日
https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/pdf/syuto_wg_gaiyou.pdf
(4) 南海トラフ巨大地震の被害想定について 2013年3月18日
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/20130318_shiryo3.pdf
(5) 首都直下地震の被害想定項目及び手法の概要 2013年12月
https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/pdf/syuto_wg_keizai.pdf
(6) 環境省 『放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成30年度版、 HTML形式)』 「6.1 福島第一原発事故の状況」
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h30kisoshiryo/h30kiso-06-01-03.html
(7) 時事ドットコムニュース「津波想定、22.5メートルに 浜岡原発、防波壁超す―中部電」2021年12月17日
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021121701223&g=soc

※最終アクセス日は全て2022年7月9日

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