「玉城デニー氏は国庫支出金を要らないといっている」は事実ではない
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対象言説
玉城デニー氏の沖縄振興政策はまやかしだ。1993億円の国庫支出金を要らないといいながら、代替財源として示されている法定外目的税「観光・環境協力税(仮称)」では、数十億円の税収しか見込めない。要は、デニー知事になると、沖縄経済は、即日死亡する。違うというなら、1993億の代替財源を示すべき。
ソース: https://twitter.com/kiyohiko_toyama/status/1040254752133718017
選定理由
公明党所属の衆議院議員、遠山清彦氏による、2018年9月14日のツイートである。時期的には9月10日に行われた玉城デニー沖縄県知事候補の政策発表会見や9月11日の沖縄県知事選立候補予定者討論会の発言を受け、ポストされたものと見られる。リツイート218件、いいね319件(2018年9月22日現在)とそれほど大規模に拡散しているわけではないが、同じテーマのツイートが他にもあり、国会議員の発言で影響力が強いと考えられることから、検証の対象とした。
判定
「玉城デニー氏は1993億の国庫支出金を要らないといっている」【誤り】
「法定外目的税『観光・環境協力税(仮称)』が代替財源として示されている」【誤り】
言説① 「玉城デニー氏は1993億の国庫支出金を要らないといっている」
玉城候補の公的な発言を確認するため、9月10日の政策発表会見(1)、9月11日の沖縄県知事選立候補予定者討論会(沖縄県政記者クラブ主催)(2)のほか、9月5日に実施された県知事選公開討論会(日本青年会議所沖縄ブロック協議会主催))(3)を含め、3つの会合の動画をチェックした。
以下、3つの会合で、玉城候補が沖縄県の財政や経済に言及した発言箇所を紹介する。なお、同候補は、国庫支出金という特定の言葉ではなく、(国の)補助金という一般的な言葉を使っている。ここでは国庫支出金は「国の補助金」を意味するものとして検証を進める(4)。
■9月5日=沖縄県知事選公開討論会
私は、沖縄県の自立型経済はここまで一括交付金を活用する形で非常に数字的にも上げてきていると思います。例えば、1人当たりの県民総所得は、平成24年が197万6000円だったのが今は216万円、少し上がってきてます。さらにクルーズ船の実績、観光収入、アジア各国との直行便との直行便の数も上がってきています。つまりこういう財務のどこに振り分けるかによって、そこから得られる収入が実は沖縄県の体力を強くしているということになると思うんですね。ですから、国の『お任せ民主主義』的な3割自治から卒業できると、そこからどんどん自立型経済に進んでいくことができる、という手ごたえが(先の)翁長県政でも十分あったと思っています。(41分29秒)
■9月10日=玉城氏の政策発表記者会見
沖縄の自立型経済をしっかりと構築していく方向に向かっていくということです。ですからアジア経済戦略を真っ先に掲げて沖縄がアジアに打って出ることによってアジアのダイナミズムを取り組んでいく。これは従来のいわゆる『補助金頼み県政の予算づくり』ではありません。自分たちでその原資を獲得していく、その方向で沖縄の新時代を作っていきます。そしてそこで得られた利益を、人に優しい沖縄県作りに幅広く循環させていく。(26分20秒)
■9月11日=沖縄県知事選立候補予定者討論会
私が掲げる新時代沖縄は、沖縄の自立型経済の構築を目指すものです。この経済の、今順調にいっている形を、これからもしっかりと伸ばしていくこと。これは従来の、補助金頼みの、県の予算づくりではありません。国との太いパイプを強調したら、その太いパイプですべて国にまた吸い上げられる。大型の公共工事にしろ、これはもういままでも顕著な、その姿を見せられてきた。
だから、第五次振計からは、これから沖縄県が自分たちで計画を作って、そのための財源として一括交付金をということで、前の民主党政権の時には沖縄の自立型経済の後押しをした。今の政権でもそれはしっかり認められているわけですね。アジアのダイナミズムを取り込みながら、県民主体の自らのための新たな振興計画によって、自分たちで原資を獲得し、得られた利益は、今度は沖縄らしい優しい社会づくりに幅広く還元させていく、これが私たちの考える新時代の沖縄の、ゆいまーるの、本当のうちなんちゅのあり方だと思います。(51分05秒)
なお、玉城候補の政策集「新時代沖縄」(9月10日発表)(5)には、国の補助金に触れた箇所は見つからなかった。
このように玉城候補は「国の補助金に頼らない自立型経済を目指す」という趣旨の発言はしているが、「国庫支出金は要らない」という趣旨の発言は見つからなかった。「国の補助金に頼らない自立型経済」は、一般に、国の補助金のような「依存財源」に比べて、自前で徴収できる「自主財源」の比率を高めていくことを指している。
「沖縄県の財政 2018」(6)によると、沖縄県の歳入面での自主財源比率は約30%(平成28年度決算)であり、他府県より低いとされている。玉城発言は、沖縄の自主財源比率を高めていくことを意味している。それを「国庫支出金は要らない」という意味だとする遠山氏の主張は実際とは異なり、解釈が飛躍している。よって言説①は「誤り」と判定した。なお、国庫支出金が1993億円という数字は正しい(平成30年度の一般会計予算)。
言説② 「法定外目的税「観光・環境協力税(仮称)」が代替財源として示されている」
遠山氏のツイートには、「代替財源として示されている法定外目的税『観光・環境協力税(仮称)』」という表現がある。玉城候補は代替財源と位置づけているのか。9月10日の政策発表会において、玉城候補は次のように述べている(主要政策の一つであり、以下の発言は、政策集「新時代沖縄」8頁にある文章と同じである)。
「観光・環境協力税(仮称)」を導入します。法定外目的税の創設により、沖縄県の新たな財源を確保します。関係者との丁寧な調整を行い、早期実現を図ります。観光客1000万人時代を迎え、今後も増加が見込まれる中、派生する環境問題等、インバウンドへの対応に資する財源として、効果的に活用します。(13分45秒)
玉城候補の発言は「新たな財源」であり、代替財源とは言っていない。言説①でみてきたように、そもそも「国庫支出金は不要」とも語っていない。よって言説②も「誤り」と判定した。
【注】
(1)9月5日に実施された県知事選公開討論会(日本青年会議所沖縄ブロック協議会主催)=琉球新報 YouTubeサイト(1時間36分50秒)
(2)9月10日の政策発表会見=琉球新報 YouTubeサイト(51分48秒)
(3)9月11日の沖縄県知事選立候補予定者討論会(沖縄県政記者クラブ主催)=琉球新報 YouTubeサイト(58分56秒)
(4)地方自治体への国からの補助金(財政補助金)は、使途が限定されない一般補助金と、特定の使途が決められている特定補助金からなる。具体的には地方交付税が一般補助金、国庫支出金が特定補助金であり、国からの補助金は地方交付税と国庫支出金を合わせたものとなる。内閣府経済総合社会研究所の以下の資料を参照した。http://www.esri.go.jp/jp/archive/ken/ken039/ken39b.pdf
(5)玉城候補の政策集「新時代沖縄」(9月10日発表)=ひやみかちうまんちゅの会HP
(6)沖縄県総務部財政課 「沖縄県の財政 2018」
(7)ウェブサイトは2018年9月28日までに閲覧した。
運営責任者:瀬川至朗
調査・記事担当者:溪美智、木村京
なお、このファクトチェック記事の作成にあたってはNPO法人ファクトチェック・イニシャティブ(FIJ)のサポートを受けた。