パラリンアートカラオケルーム から障がい者アーティストを支援 ー早稲田とSDGsー
「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉は最近よく聞くけど、自分に何ができるのかいまいち分からないという人も多いだろう。しかし、あなたも意識しないうちに目標実現のための取り組みに参加していたかもしれない。 私たちの身近な場所で、SDGsへの取り組みが始まっている。複合カフェ「自遊空間」BIGBOX高田馬場店もその一つだ。この店舗には、障がい者アーティスト[1]の作品を活用したコンセプトルーム「パラリンアートルーム」が設置されている。このルームを通し、SDGsが掲げる17の目標のうち、「①貧困をなくそう」「③すべての人に健康と福祉を」「⑧働きがいも経済成長も」の3つの目標の実現が目指されている。企画実現に携わった株式会社ランシステム(「自遊空間」の運営会社)CS室課長の白取貴幸さんに話を聞いた。(取材・執筆・写真=豊田晴萌) トップの写真はパラリンアートカラオケルームの室内=2021年6月1日、豊田晴萌撮影
パラリンアートルームで稼働率UP
パラリンアートルームは、BIGBOX高田馬場店内にあるカラオケルームの一つだ。白取さんの案内でパラリンアートルームを見学させてもらった。黄色を基調としたカラフルな壁紙に目を奪われる。壁紙には色とりどりの動物が描かれ、店内の中でも一際目立っており、ルーム内を華やいだ雰囲気にしていた。壁紙のデザインは障がい者アーティストのKippeiさんの手によるものだ。
利用者がこのルームを選ぶと、一人当たり50円が、自遊空間を通して障がい者アーティストの支援を行う取り組み「パラリンアート」に寄付される仕組みになっている。白取さんによると、パラリンアートコンセプトルームとなってから、他のルームより稼働率が上がり、人気が集まっているという。店舗とパラリンアートの双方にとって良い成果が出ているようだ。
パラリンアートルーム設置までの道のりと様々な支援体制
パラリンアートルームは2017年10月にスタートした。自遊空間を運営するランシステムの子会社で、放課後デイサービスや児童発達支援事業所の運営を行なっている株式会社ランウェルネスの活動がきっかけとなった。ランウェルネスと、パラリンアートに取り組んでいる一般社団法人「障がい者自立推進機構」との出会いで企画が練られていった。
障がい者自立推進機構は、「障がい者がアートで夢を叶える世界をつくる」ことを理念として、障がい者アーティストの支援を行うパラリンアートを展開している。同機構に登録している障がい者アーティストによる絵画やデザインなどのアート作品(パラリンアート)を企業に貸し出し、その貸し出し料の50%をアーティストに報酬として支払うというものだ。障がい者の成功体験の創出や経済的自立などを課題として掲げ、障がい者が抱える社会参加への課題や、金銭的困窮といった問題の支援を試みている[2]。
白取さんが中心となり、コンセプトルーム設置の具体的な計画が進んでいった。壁紙に使用する障がい者アーティストの作品を選ぶ際には様々な絵が検討され、最終的にポップな雰囲気がカラオケにふさわしいとしてkippeiさん[3]の作品が選ばれた。また、全国に展開されている自遊空間の店舗の中でも、ターミナル駅に隣接した好立地かつ大規模店であるという理由から高田馬場店への設置が決まった。
2019年4月からは、応援メニューも始まった。注文時に「募金:パラリンアート」ボタンをクリックして注文するだけで、パラリンアートに1メニュー10円を募金できるシステムだ。利用客の自発的な行動が求められるシステムだが、中にはすべてのメニューに募金ボタンをクリックして注文する利用客もいるという。こうしてスタートしたパラリンアート支援活動には、2020年12月末までに約41万円の募金が寄せられている。
募金の行方
パラリンアートルームの利用を通して集まった募金はどのように使われているのだろうか。一部は、パラリンアートを通して障がい者アーティストの支援に使われている。また、ランウェルネスは、発達の遅れや偏りがみられる子どもたちのための放課後の居場所、放課後デイサービス「ハッピーキッズスペースみんと」を運営している。集まった募金の一部はそこに集まる子供たちのためのワークショップにも使われているという。2020年はコロナ禍ながらオンラインで開催された。セロハンテープアーティストによるワークショップが開催され、子どもたちに好評だったという。
社会貢献活動への思いと今後の展望
「お客様がいてこそ。この場所があってよかったなと思ってもらえる施設にしたい」と白取さんは話す。
2011年の東日本大震災発生時には、東北にあった自遊空間の店舗も本棚が倒れるなど被害を受けた。しかし、複合カフェという特性を生かし、被災した人が情報を得る場として使えるように一部店舗ではすぐに店を開いて一定期間無償で開放した。
現在は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、緊急事態宣言中にはカラオケスペースの営業ができなくなるなど厳しい状況が続いている。そのような状況下で、今後もパラリンアートルームを増やしていけるかどうかは不透明だという。しかし、白取さんは今後の活動についてこう力を込める。「コロナ禍の中できることは限られているが、地域に、社会にプラスになるようにできることから社会貢献を続けていきたい」。
SDGsとは SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、2001年に策定されたMDGs(ミレニアム開発目標)の後継として、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のこと。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。(参照:外務省 ”SDGsとは?”、https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html、最終閲覧:2021年8月22日)
<注>
[1] 「障がい者アーティスト」という呼称は、パラリンアートの活動を行っている障がい者自立推進機構HPを参照しています
[2] Paralym Artホームページ, https://paralymart.or.jp/association/#activity (2021/07/01最終閲覧)
[3] kippeiさんの紹介ページ, https://paralymart.or.jp/artists/details/?id=5febd56103d43 (2021/07/01最終閲覧)