外国にルーツを持つ子どものための日本語教室「なかよし」―コロナ下を生きる―


「学習支援は、外国人だから難しいということはない。日本人の子も同じ。『子どもと共に学ぶ』姿勢が大事。そうすれば、子どもは自分で考える力を身につけられる 」
外国にルーツを持つ子どものための日本語教室「なかよし」の代表者・浦山太市さん(72)は、机に向かう子どもたちの後ろ姿を見つめながらこう語った。コロナ禍でソーシャルディスタンスが呼びかけられ、人と人との「つながり」を保ちにくくなっている。そうした状況でも、外国にルーツを持つ子どもたちに「信頼できる人がいる場所」を提供しようとする日本語教室「なかよし」を取材した。(取材・執筆・写真=金子 祥子)

トップの写真は、日本語教室「なかよし」の様子=2021年5月30日、金子祥子撮影
ルールに縛られない、日本語教室での「学び」

事前に知らされていた開室予定時刻の10分前、古い公民館の一室に入ると、すでに何人かの子どもが机に向かっていた。隣には先生が座り、机の上には国語や理科の教科書が広げられている。

ボランティア団体「なかよし」は、日本語を母語としない子どもたちを対象に学習支援を行っている。土曜日と日曜日に日本語教室を開き、学校での学習に困っている子どもたちが、ボランティアと一緒に勉強する場を提供する。

日本語教室でやることは生徒それぞれによって異なる。マンツーマン体制がとられ、ボランティアの助けを借りながら学校の宿題をやる子もいれば、漢字の読み方を学びながら教科書にルビを振る子もいる。修学旅行のための調べ学習として、奈良の仏像について調べる中学生もいた。

教室に来る子供たちの人数は1回当たり10から15人ほどで、その多くは小・中学生が占める。毎週末参加する生徒もいれば、たまに来る生徒もいる。団体に所属するボランティアである先生たちも、都合が合う人が指導を行うという形式だ。先生も生徒も、「なかよし」の中でルールに縛られることはない。

 

教室の黒板に書かれたお知らせ。生徒たちは勉強が終わったら、その日学習したことを前で発表する。=2021年6月12日、金子祥子撮影
教室の黒板に書かれたお知らせ。生徒たちは勉強が終わったら、その日学習したことを前で発表する。=2021年6月12日、金子祥子撮影

 

コロナ禍でも変わらない信念

代表の浦山さんは足立・葛飾区の小学校で教員を20年、他にも八丈島の小学校などで教頭・校長を15年間つとめた。外国にルーツを持つ子どもの支援を始めたきっかけは退職後、本格的に不登校児童と関わる中で見つけた気づきにあった。

不登校児童の中には外国にルーツを持つ子どもが複数人おり、「日本語の理解が十分でないことが学校への行きづらさの一つの原因であることは否めない」と浦山さんは考えていた。そして、その頃開催された「外国人児童生徒のための学習支援ボランティア講座」に参加し、そこで出会った人たちの有志で、日本語教室「なかよし」を発足させた。

「なかよし」は、1回目の緊急事態宣言が解除されて公立の小・中学校の授業が再開されると同時に活動を再開した。葛飾区公式サイトでボランティア日本語教室の活動状況を調べたところ、 10分の7が休室という状況になっている。[ⅰ]

しかし、「学校がやるんだからやる、と考えた」と浦山さんは言う。コロナでもコロナではなくても、「ここに来たら大丈夫」と思える場所づくりをするというのが浦山さんの信念だ。

「リモートは便利という声もあるけど、子供たちは『なかよし』に勉強だけしに来ているんじゃない。つながりを求めてきている。やっぱり直接コミュニケーションが取れる場所でないと意味がない」。

教室では検温とアルコール消毒、窓とドアの開放など、通常の学校と同様の対策を講じている。

「なかよし」の代表を務める浦山太市さん(72)=2021年6月12日、金子祥子撮影
「なかよし」の代表を務める浦山太市さん=2021年6月12日、金子祥子撮影

「なかよし」には、張さんという先生がいる。彼女を訪ねて「なかよし」に遊びにきたり、ボランティアとして戻ってくる卒業生もいるほど、生徒に慕われているそうだ。張さんもまた浦山さんと同じように、「なかよし」で保てる「つながり」を重要だと考えている。生徒が進路に困ったときには、同じような状況にあった卒業生を紹介してきた。

コロナ禍が続き、張さんはある危機感を覚えているという。それは、学校に行っていない子どもの存在だ。家庭がコロナに対しての警戒心が強いと、子どもを学校や日本語教室に行かせることをためらってしまう。「本当なら日本語に触れていたはずの期間がなくなって、これからの学校生活や勉強に大きな影響が出る可能性がある」と張さんは語る。

子どもたちにとっての「なかよし」

一番前の机でひとり英語の勉強をしていた高校1年生の鈴木さん(16)は、4年前に中国から日本に来た。彼もまた、張さんを慕う生徒の一人だ。小学校6年生の3学期から日本の小学校に通ったが、その時点で話せたのはひらがな50音程度。鈴木さんは「にほんごステップアップ教室」に通いはじめる。

「にほんごステップアップ教室」とは、葛飾区総合教育センターが主催する教室だ。2018年度に、来日直後などで日常会話や生活習慣についての指導が必要な児童・生徒を対象に開設された。子どもたちは週4日間、午前中に日本語の基礎や生活習慣を学ぶ。また、教室に通う期間は原則4か月となっている。[ii]

浦山さんによると、この教室では日本で暮らすための基本的なことのみを対象にするため、そのまま学校に通っても学習言語を理解するのは難しいという。そこで中学生の子どもたちは、区のいくつかの中学校に設置されている「日本語学級」に通うことになる。

鈴木さんも4か月でステップアップ教室を卒業した。中学校では、午前中は日本語学級で日本語を学び、午後は通常クラスで他の日本人の生徒たちと授業を受けた。張さんとの出会いが、その日本語学級だった。高校生になった彼にとって「なかよし」とはどのような場所なのか。

「学校でわからないところがあったとき、『なかよし』に来れば言葉の通じる先生に質問ができる。高校受験で不安なことがあれば、相談することができた。学校の先生に質問すると言葉が伝わらないのではないかという恥ずかしさがあるけど、ここに来れば理解してくれる先生がいる」。

教室では、休憩時間に同じ国をルーツに持つ子供たちが母語で会話を行う場面も見られた。彼、彼女らにとって、「なかよし」は自分の国の言葉で安心して話せる場であり、同じ国をルーツに持つ子どもたちとの交流の場でもある。3年前にフィリピンから来たという少年は、「なかよし」を通じてフィリピン人の友達ができたという。彼もまた、同じ国から来た同世代とつながりを持てるということに安心感があると話した。

<注>

[i] ボランティア日本語教室 葛飾区公式サイト
https://www.city.katsushika.lg.jp/information/1000087/1022737/1025235/1025612.html

[ii] 「かつしかのきょういく」平成30年(2018年)5月31日発行
https://www.city.katsushika.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/018/221/136_5.pdf