コロナ禍で顕在化した差別構造 ― 日本人学生が見た米カリフォルニア


ヨーロッパに続き新型コロナウイルス感染拡大の中心地となったアメリカ。感染拡大直後、アジア系住民に対する差別が顕在化したというニュースも流れた。現地での差別の実態はどのようなものだったのか。カリフォルニア大学サンディエゴ校認知科学部に通う杉本彩さんに話を聞いた。(取材・記事=日高 大 写真=ⓒAFP PHOTO /FREDERIC J. BROWN, 杉本あやさん)


トップの写真は5月中旬のロサンゼルス市内のスーパーの様子。利用客はマスクを着用している。(杉本さん提供)

 

2020年3月4日

カリフォルニアで新型コロナウイルス感染による初の死者

3月19日

外出禁止令を発令

5月8日

外出禁止令を解除

7月1日

屋内レストランやバーなどの営業の多くを禁止

表1 カリフォルニアにおけるコロナ対策のタイムライン(注1)

取材のきっかけ

アメリカではニューヨークを中心に感染が拡大し、日本でも頻繁に報道された。一方、カリフォルニアは州政府の対応が早かった?と評価されているが、現地の様子が伝えられることは少なかった。第1波の感染拡大直後はどのような状況だったのだろうか。当時の様子を明らかにしたいと思い、大学の友人に杉本さんを紹介してもらった。

 

アジア系住民が買い占めを引き起こしたという報道も

杉本さんは複数の友人と、サンディエゴの大学近くにアパートを借りて生活していた。新型コロナウイルスの感染拡大後はロサンゼルスに移り、家族と共に暮らしている。「罰則もあったので外出することはほとんどありませんでした」。杉本さんは二か月弱の自粛生活を振り返った。

カリフォルニア州では3月19日から5月8日まで外出禁止令が発令され、移動や経済活動が制限された(注2)。眼科医と眼科技師として働く両親は外出が認められていたが、杉本さんは外出することができなかった。現地では買い占めも発生し、食料品や衛生用品が品薄になったという。「アジア系住民が買い占めを引き起こしたともいわれていました」と杉本さんは語る。もともとマスクをつけることが多かったアジア系住民がマスクを多く購入し、そのほかの商品でも買い占めが起きた。

当初は多くの人が規制に従っていたが、5月上旬頃になると一部の地域では自粛解除を求めるデモも起きたという。制限解除から1か月ほど経った現在では徐々に日常が戻りつつある。「マスクをする人が減ったのが気になります」。杉本さんは不安そうな表情でつぶやいた。欧米ではマスクの着用に抵抗感を抱く人が多い。マスクの流行も一時的なものに過ぎないと杉本さんは語る。「ワクチンができるまでは気が抜けない状況です」。

インタビューの様子
2020年6月12日、Zoomによるオンラインインタビューに答えてくれた杉本あやさん(写真左)

 

アジア系の人たちのなかでの差別

現地で最も目立ったのはアジア系住民内での差別だった。「アジア系の人は中国人に間違えられたくないと思っていたと思います。中国系の方に嫌悪感を抱いている人もいました」と杉本さんは語る。中国人留学生のプレゼン後に入念にパソコンを拭くアジア系の教授もいた。なかには差別や周囲からの注目を避けるために中国系でないことを示そうとする人もいたという。しかし杉本さんはこのような感情や態度に違和感を覚えた。「”I’m not Chinese”と発信するのは中国人差別に加担することになると思いました」。自衛のための何気ない言動が差別の助長につながる。現地での生活が長く、英語も流ちょうな杉本さんだからこそ気が付く問題だ。

一方で欧米の人からの差別を経験することはなかったという。カリフォルニア州はアジア系住民が人口の15%ほどを占め、大学でもアジア系の生徒の割合が40%に上る(注3)(注4)。アジア系の人と関わることが多かったため欧米の人から差別的な扱いを受けることはなかった。

また、現地での生活経験が役に立つこともあった。「現地のアクセントで話していたのが大きかったと思います」と振り返る。杉本さんの話し方を見て警戒心を解き、態度を変える人も多かった。一方で現地での生活経験が短い人や英語が不得意な人は、差別に直面することもあったようだ。「短期留学している友人の中には差別的な扱いを受けた人もいます」。杉本さんは悲しげな表情をみせた。平常時と同じように弱い立場にある人が差別の対象とされることが多かったという。

 

就活の自由度が高いからこそ募る不安

杉本さんは現在二つの不安を抱えている。一つは感染状況の収束だ。「人種差別に反対するデモに多くの人が集まっていて感染が再拡大しないか心配です」と杉本さんは語る。アメリカでは黒人差別に反対する抗議が広がり、カリフォルニア州でも多くの人がデモに参加した。マスクを着用せずに参加する人も多く、杉本さんは不安を感じているという。

 ロサンゼルス市内のレストランで食事をする人たち。再感染が広がりレストランやバーの営業が一部制限されている-ⓒAFP PHOTO /FREDERIC J. BROWN
2020年7月1日、ロサンゼルスのレストランの屋外の席で食事をする人たち。カリフォルニアでは多くのレストランの屋内営業が再び禁止された=ⓒAFP PHOTO /FREDERIC J. BROWN

実際にカリフォルニア州の感染者数は増加している。ジョンズホプキンス大のデータによると、5月8日の時点で一日の感染者数は2000人を下回っていたが、6月30日には7731人の新規感染者が確認された(注5)。経済活動再開後の急速な感染拡大を受け、カリフォルニアでは、多くの屋内レストランやバーなどの営業が再び禁止される措置が取られた。

もう一つは就職だ。本来であれば今学期中に就職活動を行うはずだったが、イベントの多くが中止になってしまった。「アメリカでは就活のスケジュールとかがはっきりしていなんです。特に入社時期などもなくて各自が自由に就活をする感じです」。就職活動の自由度が高いからこそ先行きも不透明だという。「アメリカでも就職難が来るといわれていて正直不安です」と杉本さんは語る。不確定なことが多くどうすればいいのか分からないというのが本音だ。今後は大学院への進学も視野に入れつつ就職活動を続けるそうだ。(取材は2020年6月13日、Zoomを利用してオンライン形式でおこなった)

参考

(注1)The New York Times “California Reports First Coronavirus Death as Symptoms Swirl on Cruise Ship”

https://www.nytimes.com/2020/03/04/us/coronavirus-california.html?action=click&module=RelatedLinks&pgtype=Article

REUTERS “California rolls back reopening, steps up enforcement as corona virus surges”

https://jp.reuters.com/article/us-health-coronavirus-california-idUKKBN24276R

カリフォルニア州ホームページ

https://www.gov.ca.gov/2020/03/19/governor-gavin-newsom-issues-stay-at-home-order/

https://www.gov.ca.gov/2020/05/04/governor-newsom-provides-update-on-californias-progress-toward-stage-2-reopening/

https://covid19.ca.gov/roadmap-counties/#top

(注2)カリフォルニア州ホームページ

https://www.gov.ca.gov/2020/03/19/governor-gavin-newsom-issues-stay-at-home-order/

(注3)United States Census Bureau. “racial demography in California”

https://data.census.gov/cedsci/allq=racial%20demography%20in%20California&g=0400000US06&hidePreview=false&tid=ACSDP1Y2018.DP05&vintage=2018&layer=VT_2018_040_00_PY_D1&cid=DP05_0001E

(注4)UCSDホームページ

https://ir.ucsd.edu/undergrad/publications/ug-student-profile.html

(注5)Johns Hopkins University Corona Virus Resource Center

https://coronavirus.jhu.edu/data/new-cases-50-states/california

全て2020/7/8までに閲覧

カリフォルニアの新型コロナウイルス感染者数の日別推移(~2020年7月7日、三日間平均)=JOHNS HOPKINS UNVERSITY& MEDICINE CORONAVIRUS RESOURCE CENTERより
カリフォルニア州の新型コロナウイルス感染者数の日別推移(~2020年7月7日、3日間平均)=JOHNS HOPKINS UNVERSITY& MEDICINE CORONAVIRUS RESOURCE CENTERより(©2020 Johns Hopkins University)

 

2020年度春学期の瀬川ゼミ演習Ⅰ(3年生のゼミ)では、新型コロナウイルスの問題を取材実習のテーマとし、それぞれリモート取材に取り組んでいます。「海外コロナ事情」と「早稲田とコロナ」という2つの特集企画で記事をお届けします。