沖縄をめぐるデマやフェイクにどう対処するか  琉球新報編集局長(当時)の普久原均氏に聞く

沖縄では、米軍基地などの問題をめぐりデマやフェイクが広まっている。地元のメディアとしてどのように対処しているのか。琉球新報編集局長(当時)を務める普久原均氏(注1)にインタビューをした。(聞き手=瀬川至朗、河合遼、船本潤平、當間由佳、木村京 執筆=船本潤平 写真=河合遼<ジャーナリズム大学院>。インタビュー実施日は2018年9月4日)

 

デマやフェイク 単なる誤解から悪意が感じられるものに変化

 

―沖縄の基地問題などに関するデマ、フェイクについて、いつごろから意識し始めましたか。

私がニセやデマについて意識し始めたのは2005年の在日米軍再編の時です。この時、日米間で海兵隊や普天間飛行場の代替施設について協議されました。この協議の過程で「正しい情報が伝わっていない」と感じることが多々ありました。例えば当時の防衛庁(現防衛省)と記者団の会見で、ベテランの記者でさえ「海兵隊は沖縄の島を、血を流してとった。だから手放さない」といった発言をしていました。現在沖縄にいる海兵隊は戦後、山梨や岐阜に駐在していたものが、主権の及ばなかった沖縄に押し込められたという経緯があるため、この発言は事実と異なります。ほかにも、当時から「沖縄は基地経済によって成り立っている」「沖縄に基地を置くことは軍事的に合理性がある」といった、誤りを含むと思われる言説が流れていました。このころから私自身、雑誌への投稿や新聞連載によって誤解を解くような記事を書き始めました。

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―最近のデマやフェイクについてはどのように考えていますか。

デマやフェイクの性質が変わってきたと感じます。4~5年前までのものは、単なる誤解や知識不足から生まれるものが多かったですが、2~3年前からは背景に悪意が感じられるものが増えてきています。先の産経新聞による誤報のように、フェイクが公的な情報として流れている例もあります。私たちは今まで、誤解を解くための新聞連載等を書いてきましたが、明らかなフェイクに対しては相手にしないような態度をとっていました。ですがこれからは、悪意、ヘイトに立ち向かい、反論するような記事も書く必要があると感じています。

 

―なぜフェイクのような言説が出てきているのでしょうか。

「無意識の反映」が原因の一つだと思います。フェイクのような言説を一番最初に言う人には何らかの悪意があると考えられます。しかしそれが広まってしまうのは、多くの人が無意識のうちに「基地は沖縄に置いておきたい」「この状況を正当化して安心したい」と考え、言説がフェイクであっても、それを信じたいと感じてしまうからだと思います。

 

―新聞などでの発信に対する反応はいかがですか。

全国に浸透していないという印象を受けます。確かに、私たちは沖縄のメディアなので、発信したことが伝わる範囲に限界があります。ですが、それにしてもなかなか伝えたいことが伝わらないという感覚があります。今も県内の人ですらフェイクを信じてしまっている人がたくさんいるという現状があると思います。「無意識の反映」の影響は本当に根深いものだと思います。

 

―やはり沖縄県内と他の地域では、基地に対する考え方に差があるのでしょうか。

大きな差があると思います。私たちが2016年に沖縄テレビと合同で行った沖縄県内での調査では、「日米安保条約についてどう思いますか」という質問に対して「平和友好条約に改めるべきだ」が42%、「破棄すべきだ」が19%、「多国間安保条約に改めるべきだ」が17%で、現在の日米安保条約を改変・破棄すべきとの意見は計78%に上り、「維持すべきだ」はわずか12%しかありませんでした。しかし2015年に共同通信が行った全国規模の調査では「現状維持」と「強化すべき」の合計は86%にのぼりました。この結果を見ると、県内と全国ではっきりとした差がついてしまっています。この差は被害が身近に及んでいるか否かの差のように感じます。

 

フェイクに関する連載はウェブサイトで積極的に発信

 

―影響力を強めるために琉球新報として取り組んでいることはありますか。

普段、連載は紙面上にしか載せないのですが、フェイクに関する連載はウェブサイトに掲載しました。これは県外の人にも読んでいただきたいと考えたからです。また、週に15本くらいのニュースを英訳してウェブサイトに掲載するという取り組みを10数年前から行っています。英訳するニュースもできるだけ基地問題についての誤解に関するニュースを積極的にピックアップしています。これも県外や国外に発信したいという思いからです。私たちの発信を通して事実を知ってもらえさえすれば、世論はかなり変わるのではないかと考えています。問題はそれをどのように届けるかです。

琉球新報の本社。撮影をした2018年9月当時は、安室奈美恵さんのイベントが壁面で紹介されていた。
琉球新報の本社。撮影をした2018年9月当時は、引退前の安室奈美恵さんが壁面で紹介されていた。

 

―この取り組みの手ごたえはいかがですか。

2014年の初め頃、海外の有識者の方が、連名で「沖縄に基地を置くのは非合理的だ」という声明を発表しました。映画監督のオリバー・ストーンさんやナオミ・クラインさん、著名な言語学者でおられるノーム・チョンスキーさんもこの中に含まれます。このように届いていると実感できる場面もあります。ですが、なかなか届かないと感じることが多いのが実感です。

 

―県内においても年齢層によっては意識の差が出ているのでしょうか。

今の若い人は新聞を読まない人が多いため、フェイクを信じてしまいやすい状況にあります。ですが、多くの沖縄の若者が実際にフェイクを信じてしまっているというわけではないと思います。フェイクによってよりはむしろ、「自分たちが何を言っても沖縄には基地がおかれ続けるんだ」といった諦めのような感情によって意識に差が出ているのだと思います。

 

―近年若い人たちが新聞を読まなくなっているという現実があるなかでどういった発信方法が効果的だとお考えですか?

先ほど、連載をWEBサイトに乗せたということを申し上げましたが、これは県外はもちろん、若い人たちにも読んでほしいという思いがあるからです。また、WEBサイトでは、「重複を厭わない」という工夫もしています。一般の紙面だと、過去に報道したことを繰り返し報道するということは基本的にはしません。ですが、この特徴が若い人を新聞から切り離す原因になってしまっているのではないかという議論があります。WEBサイトでは基本的な情報を、繰り返しであっても紐づけて報道するようにしています。

2018年9月の沖縄県知事選挙期間中に琉球新報が取り組んだファクトチェックのウェブ画像。このファクトチェック報道で新聞労連大賞などを受賞した。後述の<インタビュー後の琉球新報の取り組み>を参照のこと。
2018年9月の沖縄県知事選挙期間中に琉球新報が取り組んだファクトチェックのウェブ画像。このファクトチェック報道で新聞労連ジャーナリズム大賞などを受賞した。後述の<インタビュー後の琉球新報の取り組み>を参照のこと。

 

「米軍基地問題は人権問題」

 

―世間では「沖縄の新聞は偏っている」という声もある中で、報道姿勢としてどのようなことを意識していますか?

政治的なことについては、一党一派に偏らないということを意識しています。選挙の時は全ての候補者についての記事の行数を同じにし、同じ大きさの顔写真を使うといった配慮はしています。私たちのことを「偏っている」というとき、それは米軍基地の報道についてそう言っているのだと思います。私たちは、米軍基地問題は政治的な問題ではなく、人権問題であるという共通認識を持っています。人権被害をなくすような報道をするのは当たり前のことです。人権問題を扱うにあたって、それを良しとする意見とそれに反対する意見を半々で書く、ということはありえないはずです。私たちは人権問題をなくすというスタンスで記事を書いています。

 

―沖縄の基地問題は本土では「人権問題」と見られないことのほうが多いと思うのですが。

私たちも2005~2006年ころまでは安全保障の問題として語りがちでした。当時私は防衛庁(当時)担当の記者で、在日米軍の再編についての取材をしていました。その時「アメリカ側が沖縄の基地を関東北部や九州に移転することを打診している」という情報を得ました。そのことについて防衛庁の幹部に聞いたところ、「本土はどこも反対の山なのだから、そんなことは検討するわけがない」と言われました。ですが、移転の打診について当時、ほとんどの人は知りませんでした。知らない人が反対決議をするはずがありません。つまり、防衛庁の幹部の発言は、「仮に移転について知らせたら、反対決議をされるだろう」という予測に基づいたものです。民意が示される前に、示されるであろう民意をくみ取って移転を認めませんでした。一方、沖縄では、県、市町村レベルで反対決議が出ていました。現に反対している沖縄の意見は無視して、実際には反対されていない方の民意をくみ取ったのです。これは明らかにダブルスタンダードです。そのころから、沖縄に対する一種の差別があるということを意識し始めました。

 

―そのような打診がアメリカからあったということは、海兵隊が必ずしも沖縄にいる必要がないということの裏付けになっているということでしょうか。

その通りです。私は以前、米国務省のプログラムでワシントンやニューヨークにあるたくさんのシンクタンクにお邪魔して議論したのですが、海兵隊が沖縄になくては効果がないということを言う学者はほぼいませんでした。つまり、基地は関東にあっても九州にあっても大差ないということになります。

 

―メディアの信頼性が問われています。琉球新報は、誤報対策としてどのようなことをしていますか。

基本的には日々の積み重ねしかないと考えています。例えば、ある人物の年齢を書くときはその生年月日も一緒に聞き、確認の材料にする、固有名詞が出てきたときは、自社のデータベースにかけて再確認する、といった対策を日々行っています。その中で考えているのは、「常に狙われている」という意識を持つことです。私たちは批判と隣り合わせのことを常にしている以上、相手から狙われるという危機感を常に持つことで、少しずつ誤報を減らしていきたいと考えています。

<インタビュー後の琉球新報の取り組み>
本インタビューは2018年9月4日におこなわれた。同年9月には沖縄県知事選挙があり、デマや中傷などさまざまな情報が飛び交った。琉球新報は「ファクトチェック フェイク監視」というコーナーを設け、選挙期間中にファクトチェック記事4本を掲載。他にも「真偽不明情報が大量拡散」などの見出しで、ネット情報について取材・分析記事を積極的に掲載した。同社の県知事選ファクトチェック報道は第24回平和・協同ジャーナリスト基金賞と第23回新聞労連ジャーナリズム大賞を受賞した。2019年1月からは「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」という連載記事を掲載し、沖縄をめぐるフェイク情報の発信者らに迫る取材を進めている。

(注1)普久原均氏は2019年4月1日付で琉球新報営業局長に就任