震災後の子どもたちの「こころ」を支える『NPO法人相馬フォロアーチーム』

福島県相馬市のJR相馬駅からから5分ほど歩くと、住宅街のまんなかに突如楕円形の不思議な建物が現れる。真っ白な平屋は吹き抜けになっており、中庭には一本の木が立っている。LMVH子どもアートメゾンだ。高級バッグで知られるLMVH(ルイ・ヴィトン)グループの支援のもと、著名な建築家、坂茂氏の設計で2016年に完成した施設だ。ここを拠点に、NPO法人「相馬フォロアーチーム」による、震災後の小中学生に対する心理ケアの取り組みが進められている。(取材・執筆=清水未来)(2018年12月13日更新)

<トップの写真はLMVH子どもアートメゾン。写真はすべて2018年9月13日撮影>

 

LMVH子どもアートメゾン

モデルルルームのような内観。 机や椅子も紙でできている。
モデルルルームのような内観。机や椅子も紙でできている(写真=清水未来)

この不思議な建物のなかに入ってみた。楕円状の建物は、中庭を中心に一面ガラス張りの窓で取り囲む。太陽の光で自然と室内は明るく、白を基調としたインテリアや、植物の飾られた壁などとあわせて、まるでモデルルームのようだ。建物内には図書室もあり、天井いっぱいになるまで絵本が収められている。全国から寄付で集まった絵本の中には、手作りの絵本も並んでいた。

「この椅子、紙でできているんです」。相馬フォロアーチーム事務局長の堀川幸一さんの指摘に目を向ければ、何気なく腰かけていた椅子が、大きな茶色いトイレットペーパーの芯を重ねてできていることに驚く。よくよく見れば、てっきりコンクリートだと思っていた壁や間仕切りも紙製だった。「やはり温かみの溢れる建物ですね」と感想を言うと、堀川さんは「でも夏は暑くて暑くて大変なんですよ」と笑った。

こうした施設を構えるNPO法人は全国的にも珍しい。

 

 

子ども一人一人と向き合うために

相馬フォロアーチームは、相馬市沿岸にある磯部小中学校、中村第二小、第一中学校を中心とした相馬市内の小中学校に対する心理ケアを行うNPO法人だ。現在、3人の心理士と事務方2人の合計5人の職員を中心に運営している。

主な活動内容として、4校を中心としたスクールカウンセラーとしての相談窓口のほかに、教育委員会や医療期間と連携しながらLMVH子どもアートメゾンでのカウンセリングや、震災孤児・震災遺児の支援も行なっている。

子ども一人一人で異なるケースに対応するために、相馬フォロアーチームでは、週一回の心理士同士のミーティングの他にも、勤務後の教師との面談も行なっている。

そういった、密な対応を可能にするのが、LMVH子どもアートメゾンの存在だ。

個室の相談室が設けられているため、教師だけでなく、日中は仕事で学校に赴くことが困難な保護者との面談が可能だ。

 

 

7年間の子どもたち

相馬フォロアーチームができたのは、2011年4月。東日本大震災の一ヶ月後のことだ。

震災当時、上記4つの学校には485人の児童が通っていた。虚脱感や喪失感を訴える子どもたちのPTSD(心的外傷後ストレス障害)発症を憂慮した立谷相馬市長が、全国に呼びかけ、当初市直属の機関として発足した。

興味深いことに、この7年間、震災を経験した子どものうち直接的にPTSDを訴える子どもはいなかった。

心理士の守屋光さん
心理士の守屋光さん(写真=河野耀佑)

では、震災が子どもに影響を与えなかったのかといえば、「影響していないとは言えないな」。心理士の守屋光さんはそう語る。

沿岸という場所柄もあり、被災4校に通う生徒の保護者の多くが漁業従事者だ。震災によって、相馬市の漁業は大きな被害を受けた。

発達心理学上、幼児期は社会性の基礎を育む時期だ。親の失業や転居など、安心できる環境を震災によって一時的に失ったことが、直接震災を体験・記憶していなくても間接的に子どもたちの発育に影響を与えているという。

4校の子どもたちには、心理学用語で「発達のかたより」が見られる、すなわち適応困難障害がある事例が多い。

「普通の子どもなんですが、字が書けなかったり、人の話を聞けなかったり、一部分だけ問題があるんです」。「ケースバイケースで一人一人違うから、ニーズに合わせて対応しなければ。そんな使命感があります」

 

 

相馬フォロアー「チーム」として

心理士の城戸有未さん。
心理士の城戸有未さん(写真=河野耀佑)

 そもそもカウンセリングは個人作業だ。心理士ごとにやり方が異なる。心理士の城戸有未さんによれば「本来心理士の仕事は1人なんですよ」。ところが相馬フォロアー「チーム」に所属する心理士は、週に一度のミーティングで、2〜3時間かけ各自が抱えるケースの報告や相談をしあう。

「切磋琢磨しあえる場でもあり、学べる場でもあるかな」

 

 

LMVH子どもアートメゾンには全国から絵本が届いた
LMVH子どもアートメゾンには全国から絵本が届いた(写真=清水未来)

「チーム」として活動する利点は他にもある。

長期的に子どもやその家庭と寄り添うことを大切にする相馬フォロアーチームだが、職員とて自分の暮らしがある。当初全国から集まった心理士たちも、結婚などさまざまな事情で辞めていった。現在活動する職員も、長くて4年目。震災直後のことを知る職員は誰もいない。心理士が交代する際は、カルテをもとに作成する資料や口頭で、丁寧に引き継ぎを行っている。

同僚同士での横のつながりと、先輩との縦のつながり。「チーム」として活動することが、子どもたちのケアだけではなく、心理士自身の成長の場も促している。

相馬出身であったり、長崎出身であったり。通っていた高校に被災学校の仮設校舎が建てられたり、ボランティアに参加したり。出身も年齢も相馬の子どもとの出会い方も様々だ、しかし全員が、相馬の子どもたち一人一人と向き合いたい、支えたいとの同じ熱量を共有していた。

 

 

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相馬フォロアーチーム(https://www.soma-ft.org

こどもと震災復興国際シンポジウム2016「フォロアーチームの活動〜子どものPTSD対策を通じて〜」(http://www.soma-area4.jp/_userdata/04_session1_jp.pdf