よさこいで人と人をつなぐ 伊藤孝さん

音に合わせてパチパチと鳴子の音が響き渡る。福島県楢葉町にある「みんなの交流館ならはCANvas」(1)で、よさこいのチーム「よさこい 浜さkoi」のメンバーが練習をしていた。仕事終わりのメンバーが集まる午後7時ごろである。10人ほどのメンバーを一番前で仕切り、踊りのアドバイスをするのが伊藤孝さん(48)だった。練習を取材させてもらったこの日の前日には伊藤さん本人にインタビューをし、お話をうかがった。踊っているときの表情はインタビュー時とは別人にようにみえた。心の底から人と踊ることを楽しむ、そんな気持ちが表情にあふれていた。(取材・執筆・写真=織田媛乃・吉田桃子)

<トップの写真は「よさこい 浜さkoi」のメンバーに振り付けを教える伊藤孝さん>

 

福島の人と踊る

春の福島県富岡町では、東日本震災より前の2001年から、夜ノ森の桜並木の下で毎年、「富岡町桜まつり」というお祭りが催されていた。まっすぐに伸びた道路の両脇に桜の木がずらっと並び、道路の上にアーチ状に覆いかぶさる。その桜のトンネルの中でよさこい踊りを披露するのがこの桜まつりの名物で、県内外のよさこいチームが参加した。桜まつりは多くの観光客で賑わう町を挙げての大イベントだった。伊藤さんはさくら祭りの実行委員会に所属しており、2011年度の実行委員長を務めていた。

2018年9月現在の夜ノ森の桜並木
2018年9月現在の夜ノ森の桜並木

しかし、桜まつりの開催をちょうど1ヶ月前に控えた2011年3月11日に東日本大震災が発生した。富岡町は甚大な被害を受け、町のシンボルだった夜ノ森の桜並木の区間は立ち入り禁止となった。桜まつりに出ていたほとんどのよさこいチームは解散を余儀なくされ、人々は年に一回のお祭りも、踊る機会も失うこととなった。

震災から一年後の2012年、伊藤さんは自身も所属する「チーム富岡さくらYOSAKOI」(2)というチームを設立した。きっかけは「よさ

インタビュー時の伊藤孝さん
インタビュー中の伊藤孝さん

こいを踊りたい」という人々の声だった。実行委員長をしていた伊藤さんの元には、避難を余儀なくされバラバラになってしまった踊り子さんたちの熱い想いが多く寄せられた。「もう一度よさこいを踊って楽しく過ごしたい」という踊り子さん達の願いを叶える場として「チーム富岡さくらYOSAKOI」は設立された。また、大学生の頃によさこいを踊ったきりであった伊藤さん自身も、「チーム富岡さくらYOSAKOI」の一員として踊ることとなった。

 

チーム「よさこい 浜さkoi」

「チーム富岡さくらYOSAKOI」での活動を続ける中、伊藤さんは2017年に自身をプロデューサーとする新チームを設立する。それがチーム「よさこい 浜さkoi」であった。福島県では復興に向けて誰もが参加できる対話の場として「未来会議」(3)が行われている。その中でも浜通りについて話し合う人たちが集まった場で、何気なくでた「よさこいやってみたい」との声がきっかけでチームの結成が決まった。集まったメンバーのほぼ全員がよさこい未経験の社会人。出身や年齢もバラバラだった。練習は全員が笑顔で賑やかに和気あいあいと行われている。このチームの初舞台が、今年復活した「富岡町桜まつり2018」だった。富岡桜まつりは立ち入り禁止が解除された夜ノ森の桜並木の一部を使って行われた。2018年4月に避難指示が解除された富岡町では町のいたるところで建物の解体や建設といった作業が行われている。夜ノ森も普段は作業員の方が目立つが、この日は観光客と元々富岡に住んでいた人々で賑わったそうだ。

振り付けの練習をする「よさこい 浜さkoi」のメンバーの皆さん
振り付けの練習をする「よさこい 浜さkoi」のメンバーの皆さん

メンバーの一人である深谷繁さんは、福島県富岡町出身の46歳。「あの夜ノ森の桜の下で踊りたい」という想いから浜さkoiに加入した。たくさん練習して、桜まつりでよさこいを踊った時の達成感は今でも忘れられないという。また来年の桜まつりにも是非参加したいと意気込んでいた。

またメンバーの中でも一際若い西崎芽衣さんは、東京出身の26歳。彼女はボランティア活動で学生時代から震災後の福島県にずっと通い続け、この場での就職を決めた。踊っているときは「みんな平等」だと感じられると笑顔で語る。もともと支援する側と支援される側という関係から始まってしまったので、今も、少なからず壁を感じてしまうこともある、という。また、復興を巡り福島の町同士ですら良好な関係を築けないこともあるようだ。そんな中、踊っているときはみんな平等で心からつながりを感じられるそうである。

 

「復興を背負って踊っているわけではない」

「富岡町さくら祭り 2018」で踊る「チーム富岡さくらYOSAKOI」の皆さん=伊藤孝さん提供
「富岡町さくら祭り 2018」で踊る「チーム富岡さくらYOSAKOI」の皆さん=伊藤孝さん提供

「復興などという大きいものを背負って踊っているわけではない」。そう伊藤さんは語る。近頃は復興をメインに取り上げる取材などは断っているそうだ。では、見据えるものはなんなのか。それはよさこいによる人と人との繋がりであった。人と人を繋げることこそがよさこいのパワーだと伊藤さんは力強く語った。

今年の夜ノ森の桜まつりには震災以前から新たに他県の二チームが祭りに参加してくれた。それが今後さらに県をまたいで日本中のチームがに参加してくれれば伊藤さんは話す。よさこいの舞と年に一回のお祭り。その二つで富岡が「人をつなげる場」になればいい。

取材させていただいた「チーム よさこい浜さkoi」のみなさんと取材グループメンバーの集合写真
取材させていただいた「チーム よさこい浜さkoi」のみなさんと取材グループメンバーの集合写真

【注】

(1) 「みんなの交流館ならはCANvas」 http://naraha-canvas.com/

(2) 「チーム富岡さくらYOSAKOI」 https://ja-jp.facebook.com/sakurayosakoi/

(3) 「未来会議」 http://miraikaigi.org/