【ファクトチェック】「東京新聞が『違和感あり 岸田氏 生まれも育ちもほぼ東京なのに核兵器ない世界目指す』と報道した」とするツイートはミスリード。紙面の一部を切り取り投稿
(トップの写真は日本記者クラブで行われた党首討論会に出席した岸田文雄首相。2021年10月18日撮影=ISSEI KATO / AFP)
対象言説
「違和感あり 岸田氏 生まれも育ちもほぼ東京なのに 核兵器ない世界目指す」という見出しが書かれた、東京新聞の紙面の画像がTwitter上で拡散した。10月12日に投稿されたツイートには、この画像を引用する形で「東京出身の人が核兵器のない世界を目指しちゃダメなんですか?」というコメントが添えられている。 このツイートは10月21日時点で2967リツイート、1.4万いいねを獲得している。
今回は「違和感あり 岸田氏 生まれも育ちもほぼ東京なのに核兵器ない世界目指す」と東京新聞が報道した事実があるのか、検証する。
選定理由
先述したように、この情報はネット上で広く流布している。また、当該ツイートに対して、「別にどこ出身とか関係ない話だと思うんですが、何なんですかねこの新聞記事は」といったコメントが寄せられている。
この紙面の画像を見た多くの人が、東京新聞の報道姿勢に疑問を抱いていることがうかがえる。本当に東京新聞は「違和感あり 岸田氏 生まれも育ちもほぼ東京なのに核兵器ない世界目指す」という見出しをつけた記事を掲載していたのか。
衆院選の投開票を10月31日に控えている中⁽¹⁾、メディアの発信はより一層重要性を増していると考え、当該言説を検証することにした。
判定
「違和感あり 岸田氏 生まれも育ちもほぼ東京なのに核兵器ない世界目指す』と東京新聞が報道= ミスリード
判定理由
Twitter上で拡散された東京新聞の記事は10月12日朝刊特報1面・2面に掲載されたものである⁽²⁾。下の画像のように、見開きに渡って見出しが続いている。
拡散した画像は紙面の一部を切り取ったもの
上記の画像を見ると分かる通り、記事の見出しは「岸田氏 生まれも育ちもほぼ東京なのに『被爆地広島出身の首相として核兵器ない世界目指す』違和感あり」となっている。つまり、Twitter上で拡散している画像は、実際の紙面の一部分だけを撮影したものであることが分かる。
この記事によると、岸田氏は東京都渋谷区生まれ。小学校1年生から3年生まではアメリカ・ニューヨークで暮らしていた。帰国後は東京都千代田区の小中学校に通い、高校は荒川区にある私立開成高校に進学した。その後、早稲田法学部を卒業し、銀行に就職。勤務地は東京と高松(香川県)だった。
1987年に衆議院議員だった父の秘書として広島を拠点に活動していたが、93年に初当選してからは東京で過ごす時間が多くなっている⁽³⁾。岸田氏の著書『岸田ビジョン 分断から協調へ』(2021年10月、講談社+α新書)(4)も確認したが、経歴について東京新聞の記述と異なる部分はなかった。
東京新聞の記事では、この経歴を踏まえ、実際には「生まれも育ちもほぼ東京」であるにもかかわらず、「被爆地広島出身の首相として核兵器ない世界目指す」と岸田氏が発言したことを疑問視している。岸田氏が「生まれも育ちもほぼ東京」でありながら、核兵器のない世界を目指すと発言したことを批判しているわけではない。
なお、岸田氏は著書『岸田ビジョン 分断から協調へ』の中でも、自身について「広島出身の日本の政治家」という表現を用いている。著書によれば、もともとは代々続く広島の地主で、祖父の正記氏が1928年の第1回普通選挙で衆議院議員に当選して以来、3代続いて、広島選出の国会議員となっている。
繰り返しになるが、当該記事の見出しは「違和感あり 岸田氏 生まれも育ちもほぼ東京なのに核兵器ない世界目指す」ではなく、正しくは「岸田氏 生まれも育ちもほぼ東京なのに『被爆地広島出身の首相として核兵器ない世界目指す』違和感あり」である。
Twitter上で拡散している投稿は、紙面の一部を切り取ったものだと判明した。その画像にみえる見出しは事実と異なることはないが、重要な事実が欠落している(本件では「被爆地広島出身の首相として」の部分)ことにより、本来の見出しとは異なった意味を持つ形になっていた。
したがって、「『違和感あり 岸田氏 生まれも育ちもほぼ東京なのに核兵器ない世界目指す』と東京新聞が報道」はミスリードであると判定した。
脚注
⁽¹⁾NHK、『政府 衆院選の日程 今月19日公示 31日投開票に 臨時閣議で決定』、2021年10月14日
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211014/k10013306821000.html
⁽²⁾東京新聞、2021年10月12日朝刊
⁽³⁾同上
(4)岸田文雄『岸田ビジョン 分断から協調へ』講談社+α新書、2021年。https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000360562
(ウェブサイトは2021年10月21日までに閲覧)
【追記】
2021年10月28日 本記事の見出しについて、東京新聞の報道がミスリードしたとも受け取れるというご指摘を受けました。そういう誤解がないように配慮をした上で付けた見出しでしたが、ご指摘を考慮し、より誤解を与えない見出しに修正しました。
運営責任者=瀬川 至朗
調査・記事担当者=原田万凜、中山大輝、鳥尾祐太
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