netgeek『朝日新聞が2015年2月25日の首相動静を意図的に削除』は本当か?


対象言説

対象とした言説は2018年5月22日付けの「netgeek」というウェブサイトの記事である。

対象言説:愛媛県が安倍総理の癒着を裏付ける証拠として国会に提出した資料について、その信憑性が疑問視されている。あろうことか朝日新聞は証拠と矛盾する首相動静の記録記事を削除した。

対象言説は「【加計学園問題】朝日新聞、2015年2月25日の首相動静を削除」という見出しでnetgeekに掲載された記事の冒頭部分で記されている。

ソース<http://netgeek.biz/archives/118939>

netgeek首相動静写真org
netgeekの対象記事の冒頭部分
ファクトチェックの目的、選定基準

この記事は昨今話題となっている加計学園問題に関係するものであり、世間からの注目度は高いと言える。また公平性を保つべきである新聞社に対する疑いであるため、検証する価値があるとした。netgeekサイトによると、34万人がこの記事に「いいね!」を押したことになっており、社会的影響力は十分であろう。記事掲載の翌日(2018年5月23日)にウェブメディアの「Japan In-depth」[i]と「BuzzFeed Japan」[ii]が同記事をファクトチェックし、それぞれ「誤り」「デマ」と判定した(後述)。一方のnetgeekの記事は【追記】を掲載し、ファクトチェック記事などが指摘している「朝日の記事は自動削除」という内容に反論するかたちになっている。そのため今回は、【追記】の部分も含めてnetgeekの記事を改めてファクトチェックする意義があると考えた。

 

判定 誤り

 

判定理由

対象言説(下線部)は、「あろうことか」「証拠と矛盾する」記事を「削除した」という構成になっている。朝日新聞が記事を削除したのは「証拠と矛盾するから」という意図があったというメッセージが伝わってくる。

朝日新聞が意図的な削除をしたとする根拠はnetgeekの記事内では以下のようになっている。

⑴ 2015年2月25日の首相動静が削除され、見ることができない。

⑵ 2015月8月15、16、17日の首相動静は削除されていない。(記事内【追記】より)

まず対象言説は、朝日新聞が2015年2月25日の首相動静を削除したと書いているが、朝日新聞(紙面)は記事を削除していない。「朝日新聞記事データベース聞蔵Ⅱ」では過去の紙面を見ることができる。そこでは問題の日付の記事を確認することができた。対象記事が問題にしているのは朝日新聞自体ではなく、朝日新聞デジタルのことである。対象記事内では朝日新聞デジタルの画像を元に書かれているので、紙面上の削除だと誤解する読者はいないと思うが、言説だけでは紙面上から2015年2月25日の首相動静を削除したのではないか、との誤解を招きかねない。その点はミスリーディングである。

 

・朝日新聞にデジタル記事の公開期間を尋ねた
公開から約1年経つと、このような文言が出てくるようになり、閲覧することができない。
図① 朝日新聞デジタルの記事は公開から約1年経つと、閲覧不可となる。

根拠⑴については、2018年7月5日に朝日新聞デジタルお客様センターに問い合わせた。回答によると、朝日新聞デジタルでは過去1年間分しか公開期間として設定していないとのことである。

同日、試しにサイト内で「首相動静」と記事検索をしてみた。2017年6月20日の首相動静が一番古い記事として出てきたので、お客様センターでの公開期間は過去「1年分」というのは、「約1年分」ということなのだろうか。

Googleで「2015年2月26日 朝刊」(首相動静は翌朝朝刊に掲載されるため、2月25日の首相動静は2月26日の朝刊に載る=筆者注)と検索し、朝日新聞デジタル内でその朝刊の記事一覧から首相動静にアクセスしてみたが、「お探しのコンテンツは見つかりませんでした。URLが間違っているか、公開が終了した可能性があります」と出てきた(図①)。2015年2月26日の前後数日間の記事も調べたが、同様の結果がでた(図②)。よって根拠⑴の表現自体は誤りではないが、意図的な削除ではなく、システムによる公開期間終了、自動削除である。

根拠⑴の調査結果
図② 2015年2月26日前後の朝日新聞朝刊の首相動静をGoogleで検索してみた。
・2015年8月15日の首相動静は本当に削除されていないのか

根拠⑵では、2015年8月15日の首相動静は見ることができるということだ。確かに「2015年8月15日 首相動静」とGoogleで調べ、朝日新聞の首相動静の記事に直接アクセスすると見ることができた。しかし「2015年8月16日 朝刊」と検索し、朝日新聞デジタル内でその朝刊の記事一覧から8月15日首相動静にアクセスしてみたところ、「お探しのコンテンツは見つかりませんでした。URLが間違っているか、公開が終了した可能性があります」との表示が出てきた(図③)。試しに「2015年8月16、17日 首相動静」の記事をGoogleで検索したところ、朝日新聞の首相動静記事を見ることができた。だが、同じ方法で2015年8月11~14日、18~20日までの首相動静をGoogleで検索しても、朝日新聞の首相動静を見ることはできなかった。

これについても先ほどの朝日新聞お客様センターに問い合わせたところ、「基本的には1年以内分しか検索できないため、なぜこれらの日付だけアクセス出来るのかはわからない」とのことだった。これらの日付の記事を見ることができたことは例外的なようだ。2015年8月15日の関係では、朝日新聞デジタル内で前後3日調べたが、記事は公開されていなかった。

根拠⑵の調査結果
図③  2015年8月15日の首相動静をGoogle検索と朝日新聞デジタルの検索で調べてみた。
・意図的ではなくシステムによる自動削除

以上の結果より、2015年2月25日の首相動静は削除されていたが、これはシステム上の公開期間終了に伴うことであると判明した。確かに公開終了されていたため、記事自体は閲覧できず削除ともとれるため、対象言説は、あたかも意図的に2015年2月25日の首相動静のみが消されているとの書き方がされており、システムによる自動削除という事実とは異なる。重要な部分が事実と異なる内容になっているため、判定結果を「誤り」とした。

・netgeekの追記による「反論」を含めて検証

なお、このnetgeekの対象記事については、冒頭で述べたように「Japan In-depth」と「BazzFeed Japan」が2018年5月23日付でそれぞれファクトチェック記事を掲載している。Japan In-depthの判定は「誤り」、BuzzFeed Japanは一般的な記事形式になっているが、<netgeek「朝日新聞が証拠隠滅」はデマ 加計学園の新文書めぐりネットで拡散>という見出しであり、「デマ」という判定をしている。

一方、netgeekの記事は、【追記】の冒頭で「朝日新聞の首相動静が消えたのは自動削除(古い記事を削除する仕様)なのではないか?」という声を紹介しつつ、その「自動削除」の考えに疑問を投げかけている。また、ファクトチェック記事で誤りと指摘されてからも、記事の訂正・削除はしていない。

今回のファクトチェックでは、【追記】も含めてファクトチェックを実施した。結果的には、Japan In-depthとBuzzFeed Japanの判定を裏づけるものとなった。

 

(注)

[i]Japan In-depth 2018年5月23日 <netgeek「朝日新聞が首相動静を削除して“証拠隠滅”」は本当か?> https://japan-indepth.jp/?p=40165

[ii]Buzzfeed Japan 2018年5月23日 <netgeek「朝日新聞が証拠隠滅」はデマ 加計学園の新文書めぐりネットで拡散>https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/netgeek-asahi?utm_term=.vbZd997Ky#.qaJM66xJW

※トップ画像はnetgeekの対象記事<http://netgeek.biz/archives/118939>より

【追記】

ファクトチェックの結果である「誤り」の表示をトップ画像に追加=2018/8/6

netgeekの対象記事の冒頭部分を画像として記事本文中に挿入=2018/8/6


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記事執筆者:田中創太