現代の日本に奴隷制度が隠れているのか
〜外国人技能実習制度を追う〜

 

29万人。この数字は、オーストラリアの人権団体Walk Free Foundation(以下WFF)が2016年に発表した、日本で「現代の奴隷」(注1)と呼ばれる状態にある人々の数である。売春での性的搾取、労働などにおける搾取の多さが原因で、「現代の奴隷」の人数は167か国中25位という高い順位にある。そして、米国務省の人身売買年次報告書 (注2)が、日本での強制労働を招いている要因の一つとして2007年度から挙げているのが外国人技能実習制度である。この制度は果たして正しく運用されているのだろうか。私たちは外国人技能実習生と、彼らを取り巻く人々を追った。(取材=池田百花・早川史也・皆川優大、写真=早川史也。トップの写真は岐阜県内のシェルターで共同生活をする外国人技能実習生たち)

 

時給300円、残業200時間

JR上野駅周辺、近くに観光地が多いためか平日のお昼ごろにも関わらず観光客の姿が多く見られる。外国人も数多く、カメラを首から下げ楽しそうである。そんな観光スポットの近くから少し離れた落ち着いた路地に建つ小さなビル。そこに外国人技能実習生の問題に取り組んでいる事務所がある。
鳥井一平さんは全統一労働組合の代表理事として技能実習生の問題に長く取り組んでいる。全統一労働組合では、会社との労使トラブルを抱えた個人を対象に会社との交渉を支援している。ここには外国人労働者からの相談も数多く寄せられる。なぜなら鳥井さんは移住連(移住者と連帯する全国ネットワーク)の代表として日本に住む外国人の権利を守る活動もしているからである。
技能実習制度の実態を説明する上で鳥井さんはまず、実習生数人の給与明細をパソコン上で見せてくれた。

技能実習生の給与明細の例
    技能実習生の給与明細の例(パソコン画面)

 

これは、縫製工場で働いていたある実習生の給与明細書である。記載されている時給は300円。残業時間は200時間を超える。日本人でこのような労働環境で働いている人がいるだろうか。心身ともに健康な人であっても、月の残業時間が100時間を越え続ければ次第に心も体も壊れてしまうだろう。ましてや、最低時給の半分以下で働き続けることの苦痛は計り知れない。
鳥井さんによると、このような賃金、労働時間で働いている実習生は数多く、自分たちではどうすることもできないため労働組合に助けを求めて来るという。

 

見えない手かせ足かせ

 

そもそも外国人技能実習制度は「発展途上国への技術援助」を目的とし、1993年に創設された。技能実習生は、農業や機械金属など技術を要する様々な分野の技能を習得しつつ賃金を受け取る労働者として最大3年間の在留が認められる。前身の「外国人研修制度」とは異なり実習生は賃金の支払われる労働者として扱われる。
しかし、鳥井さんは「実習生はこの制度を利用している間、見えない手かせ足かせをつけられた状態にある」と制度の問題点を指摘した。そして、この見えない手かせ足かせが劣悪な労働環境を生んでしまうという。どういうことか。これを理解するためには送り出し機関、実習生、受け入れ先機関の3者の関係を見る必要がある。
送り出し機関とは、本国から日本の企業へと実習生を斡旋する機関である。ただ斡旋するだけならば何も問題はないのだが、この送り出し機関が実習生に対し「保証金」と呼ばれる違法なお金を要求することがある。この「保証金」とは分かりやすく言うと担保である。送り出し機関は実習制度を利用したい人に対し、日本企業へと斡旋する代わりにこの「保証金」を要求する。「保証金」は時に年収の数倍に当たる高い金額になる。実習制度の三年を満了すればきちんと返還されるが、途中で帰国することになればそのお金はすべて没収されてしまう。制度を利用して日本に一度来たら3年終えるまでは帰ってはいけないのである。
では、日本に来た実習生は受け入れ機関でどのように扱われるのか。まず、問題視されているのがパスポート、通帳・印鑑、携帯電話などの取り上げである。これらを取り上げられることで、仕事場と住んでいる住居以外に身動きが取れなくなるし、外部との連絡を取ることも困難になる。このような環境が一度出来上がってしまうとどんなに賃金が低く、辛い仕事であろうとも3年間を耐えるしかない。「保証金」の存在から本国に帰るわけにはいかないし、日本においては助けを求めることができないからである。つまり、実習生は送り出し機関と受け入れ機関の間で自由を失うのである。これが鳥井さんの言う「手かせ足かせをつけられた状態」である。

鳥井一平さん
鳥井一平さん

表面化しづらい問題

 

また、受け入れ先での問題は他にもある。まず、制度上、実習生には職業選択の自由が認められていないことである。一度受け入れ先が決まったらそこでの労働環境や雇用条件に問題があったとしても、我慢して働くか中途帰国をするかの二択しかない。「保証金」のことがあり、問題を表面化させずに働くケースが多い。
ここでの中途帰国とは受け入れ先による強制帰国も含まれる。強制帰国にはいろいろなケースが考えられる。病気や仕事中での怪我を理由に突然解雇される場合や、労働問題について外部の機関に相談しに行ったために、ある日突然車に乗せられ空港から帰国させられるケースもある。このような事態を避けるために我慢する人も数多くいるという。
問題点は多い。その一方で、「多くの企業が制度を正しく利用している」と鳥井さんは言う。実際、実習を終えて帰国した実習生に向けて行ったアンケート調査では、「保証金」を没収された人は16%前後、パスポートなどの取り上げにあった人は5〜10%であり、割合的には少なく見える(注3)。 しかし、現時点で20万人以上の実習生が日本にいることを考えると問題ケースの人数は決して少なくない。多くの問題が表面化しにくいことから問題事例はさらに多いと考えられる。

 

ダンボール箱製造中、指を失う「これからのことは想像もできない」

 

2017年1月、岐阜県羽鳥市の岐阜労働一般組合にあるシェルター(労働問題を抱えた実習生たちが共同生活をしている施設)を訪ねた。実習中の事故で左手の人差し指、中指、薬指の3本を失った黄世護(こうせいご)さん(24)が保護されていた。黄さんはベトナムに隣接した中国南部、広西省南寧市に生まれ育った。ここは中国最大の少数民族チワン族の原住地でもある一方、都市部には日系企業も多く進出している。黄さんの姉は技能実習制度を利用して来日し、2012年に3年間の実習を終えた。今は中国で通訳として働いている。
黄さんは中国で仕事に就いたのち、姉の影響を受けて1年間日本語を勉強した。まだ日本語には自信がなかったが、岐阜県にあるダンボール箱製造工場で技能実習が始まった。岐阜県の最低賃金(760円)で月173時間働いた。姉を目指して仕事を覚えていくある日、工場のベルトコンベアに手が巻き込まれ、指を失う大事故が起きた。病院では1年間の治療と計3回の手術が必要と言われたが、日本の法律で定められている治療ビザを実習先の雇用者が拒否した。黄さんに貯金はない。故郷の両親にも怪我の状況は話せていない。そんな中、最後に頼りになったのがこのシェルターだという。
シェルターを運営する岐阜労働一般組合第二外国人支部の支部長である甄凱(けんかい)さん(58)が調べたところ、工場内ではそれまでも運転・操作の免許を持たない実習生にフォークリフトを運転させ、事故の原因となっていた。工場の雇用者は、実習生として働くことのできなくなった黄さんを強制帰国させるため、治療ビザを拒否したのだという。黄さんは「日本のことは変わらずにいい国だと思っている。悪い人かどうかは人によるから。でもこれからのことは想像もできない。」と暗い表情を見せた。

甄凱(けんかい)さん=写真左=と黄世護さん
甄凱(けんかい)さん=写真左=と黄世護さん
黄さんが実習中に負った指の怪我
黄さんが実習中に負った指の怪我

 

取り締まり機関の機能不全

 

日本における実習制度の適正かつ円滑な実施は国際研修協力機構(以下JITCO)がその役割を担っている。では、送り出し機関の不正に受け入れ機関とのトラブルについて、企業と実習生の橋渡し役を担うJITCOはどう捉えているのか。
電話取材に対し、JITCO企画調整課の山中さんは「職種が(本人の意志と)合わなかったり、労働条件が思っていたものと違っていたり。この労働条件じゃ日本人でも辞めたくなるような場合がある」と話した。悪質な業態の受け入れ企業が存在することは、JITCOも認識している。では、そういった悪質な労働条件を課している企業が特定された場合、JITCOはどのような対策をとっているのか。尋ねてみると、「そういったトラブルがあった場合、管理団体(企業)がまず一元的に解決に向けて対応することになっています」との答えが返ってきた。
悪質な企業には形式的な注意喚起だけにとどまり、あとは企業側の自浄能力に任せるというスタンスである。受け入れ企業を変更できない点についても、その問題点は認識されているのに今まで対策が講じられたことはない。
さらに、送り出し機関の「保証金」の問題について、JITCOの担当者は「国外での話なので、日本国内の法律で強制的にこうしろああしろとは言えない。相手国の政府に技能実習の趣旨を徹底するという対応をとっています」と説明した。国外の送り出し機関と国内の受け入れ企業の仲介役といえども、国外で不正を行う機関に対しては国内法の適用外であり、直接手を下すことができずにいるようだ。また、担当者が述べるところの「相手国の政府に対する技能実習の趣旨の徹底」が行われたとして、その内容が政府から送り出し機関にきちんと伝わるのかどうかも疑問が残る。

 

形だけの制度と変貌する雇用主

 

このような問題点を見ていく中で、「保証金」を払ってまで実習制度を利用して日本に来る理由に疑問を持ったり、制度を正しく利用したりしているのであれば問題がないのではないかと考える人がいるだろう。
一つ目の問いに対しては、実習生自身が本来の制度の趣旨を理解せず出稼ぎのように利用している場合が多いと答えることができる。二つ目の問いに対しては、制度自体に問題があると答えることができるだろう。
実習生のうち、6割~7割の人がお金を稼ぐことを来日の目的に挙げている(注4)。 本国において実習制度を利用して成功した人を見たり聞いたりすることによって自分も同じように裕福になりたいとの思うケースが多い。たとえ、高額な「保証金」を払うことになっても3年の期間を満了すれば、保証金に加え日本で稼いだお金が手元に来るのである。もちろん技能の習得を目的としている人も数多くいる。しかし、制度自体をきちんと理解している人がどの程度いるか疑問が残る。
また、制度の趣旨を履き違えているのは何も実習生だけではない。実習制度を利用している企業・団体の6割以上が実習制度の果たす効果について日本企業の人材確保を掲げており、途上国の人材育成よりもその割合は多い(注5)。 全統一労働組合の鳥井さんによると「元々、人手の足りていない企業が安い労働力を確保するために作られた制度なのだから当たり前だ」という。
そして、そのような目的があるからこそ会社との関係において実習生が圧倒的に弱い立場に置かれるような制度になったのである。
「農家や工場の経営者は、ごくごく普通の人で、むしろ気のいいおじさんたちが多い。彼らが違法行為に走ってしまう理由の一つには、制度の旨い汁を吸って邪悪な欲望に変貌してしまうことがあるからだ」鳥井さんはそのように話してくれた。

 

2020年東京オリンピックに向けた制度拡張

 

2016年11月28日には「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」が公布され、技能実習制度は1年後の施行に向けて新制度へと移行していく。現行の最大在留期間3年から5年へと期間が延長されるのだ。これだけ制度の問題点が指摘されているにもかかわらず期間が延長されるのはなぜだろうか。その大きな理由の一つには2020年東京オリンピックに向けて特に建設現場などでの人手不足が挙げられる。
「発展途上国への技術支援」という大義名分のもと拡大していく実習制度。「技術支援」であっても「外国からの労働力確保」であっても、何よりも求められるのは「労使」の対等な関係ではないだろうか。

(この記事は2017年3月までの取材をもとに執筆しました)

 

(注1)「現代の奴隷」とは、WFFが出した報告書「2016 World Slavery Index」において「脅迫、暴力、威圧、権力の濫用、または詐欺により、当人が拒否したり退去できない搾取の状態にあること」と定義される。

Global Slavery Index – 45.8 million people are enslaved in the world

http://www.globalslaveryindex.org/

(注2)(TIP)Report- Trafficking in Persons Report (人身売買報告書)

https://www.state.gov/j/tip/rls/tiprpt/

(注3)『2013年度 帰国技能実習生フォローアップ調査報告書』より

(注4)『2013年度 帰国技能実習生フォローアップ調査報告書』より

(注5)『技能実習制度見直しに関するアンケート調査結果(JITCO賛助会員による評価)』より

<参考URL>
・ 全統一労働組合          http://www.zwu.or.jp/
・ 移住者と連携する全国ネットワーク http://migrants.jp/
・ 岐阜労働一般組合         http://gifu-scrum.net/
・ JITCO 国際研修協力機構      http://www.jitco.or.jp/
・ 厚生労働省 技能実習制度        http://bit.ly/2jJqxk9
・ 厚生労働省 技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)について

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000142615.html