検証・兵庫知事選 「稲村和美氏 県庁建て替えに1000億円」は誤り。 ネットで拡散
コンテンツ
対象言説
2024年11月2日、X(旧Twitter)上で匿名ユーザーが以下の投稿を行った。
「県庁建て替え1,000億円の稲村和美 VS 県庁建て替え500億円圧縮で余ったお金を教育予算に 斎藤元彦 の兵庫県知事選です。どちらに投票しますか?」
この記事では、上記の投稿内の「県庁建て替え1000億円の稲村和美」の部分を対象言説として、検証を行う。
選定理由
この投稿は2024年12月11日時点で「いいね」が2万件以上、リポストが3300件以上に達しており、広く拡散されている。投稿が行われたのは2024年11月2日で、10月31日に告示された選挙期間中にあたる。選挙期間中の発信内容は、有権者の投票行動に少なからず影響を与えた可能性があるため、検証の必要性が高いと考えた。
判定
「稲村和美氏 県庁建て替えに1000億円」= 誤り
判定理由
建て替え事業費の想定が当初の1.5倍に
兵庫県庁舎のいくつかの建物は、築約50年が経過したことや、阪神・淡路大震災で大きな被害を受けたこともあって、2018年度の診断で耐震性が不足していることが判明した[i]。県はこれを受けて、2019年に「県庁舎等再整備基本構想[ii]」を策定し、建替えを目指していた。しかし、新型コロナによる働き方の変化や建設費の高騰などの影響を考慮し、2022年に県は再整備事業を一旦凍結させた[iii]。当初700億円程度と見積もられていた事業費は、物価高の影響等により2023年度の試算では約1.5倍の1050億円程度となっていた[iv]。斎藤元彦氏は、初当選の2021年兵庫県知事選の際から県庁再整備構想の見直しを公約として掲げており[v]、2023年には県庁再整備構想見直しを含めた行財政改革は斎藤県政の大きな柱の一つであると述べている[vi]。
稲村氏は自ら何度も1000億円を否定
「県庁建て替え 1000億円の稲村和美」という表現は、現在凍結中の再整備事業を稲村和美氏がそのまま再開させようとしているかのような印象を与える。しかし、稲村氏は県庁舎の建て替えに関して、費用を抑制していくという考えを繰り返し発信している。
選挙期間中の11月9日、稲村氏は自身の公式サイト[vii]において、「1,000億円の費用は過大すぎると、私は重ねて発言しています。また、私は本庁舎の建設費用を抑制するだけでなく、県の保有する全施設の総床面積を減らしていく必要があると考えています。」と自らの考えを表明した。
また、自身のYouTubeチャンネル[viii]やTikTokチャンネル[ix]においても、「もちろん、前知事が計画をしていた大きな庁舎の計画は一旦立ち止まり、整備費を抑止していくということ、また、本庁舎だけじゃなく、県有の公共施設の床面積全体をしっかりと縮減していくというような取り組みの中で、財源もしっかりと手当てをしながら、コンパクトで必要な機能をしっかりと最低限に備えていったようなそういった県庁舎整備が必要だと思っています」と発信し、県庁舎の整備費を削減していく方針を明確に示している。
発表した政策からみえる稲村氏と斎藤氏の違いは
Xでは対象言説と似た内容のポストが他にも見受けられたが、この言説の根拠はどこから生まれているのだろうか。このポストの投稿者である匿名ユーザーは、「稲村も削減するやろ」という返信に対して、「斎藤は具体的な金額を口にしたが、稲村はあえてしない時点で削減などする気ない」と返信を返している。
今回の選挙前に稲村氏と斎藤氏両者がそれぞれ発表した政策を比較してみる。10月25日発表の「いなむら和美の政策 アクション30[x]」では、稲村氏は「震災から30年。経験を踏まえた防災・減災対策の強化」という項目群の中で、県庁舎整備について「建設費用を抑制、県有公共施設の総床面積を縮減しながら、防災拠点機能を有する県庁舎を整備」という方針を打ち出している。
一方、10月23日発表の「さいとう元彦の政策 兵庫の躍動を止めない![xi]」では、斎藤氏は「県政改革等が進む兵庫」という項目群の中で、「防災機能や働き方改革を志向したコンパクトな県庁舎再整備-事業費1000億円を実質半分程度へ-」という目標を打ち出している。
斎藤氏とは違い稲村氏が具体的な削減金額を示していないのは確かであるが、稲村氏も従来の建設費用を抑えていく方針を明確に示しており、「県庁建て替え 1000億円の稲村和美」という表現は事実と異なる。
以上の理由から、「稲村和美氏 県庁建て替えに1000億円」は誤りと判定した。
注
[i] 兵庫県, 元町周辺再整備に関する経緯と取り組み
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk49/motomatikeii.html
[ii] 兵庫県, 県庁舎搭載整備基本構想
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk49/documents/kihonkousou.pdf
[iii] 兵庫県, 県庁舎の建て替えについて
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk04/teianbako/r611/r611gyousei1.html
[iv] 兵庫県, 県庁舎等のあり方に関する検討会, 第1回検討会資料
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk49/documents/kenntoukaikaigisiryou1.pdf
[v] さいとう元彦の約束 ひょうご前に進めよう! 5つのビジョン+プラスワン
https://saito-motohiko.jp/wp-content/themes/saito_motohiko_v3/img/saito-motohiko_20210610.pdf
[vi] 兵庫県, 知事就任3年目記者会見(2023年8月1日(火曜日))
https://web.pref.hyogo.lg.jp/governor/g_kaiken20230801.html
[vii] 稲村和美氏HP, 皆さんの質問に答えます,
https://inamura-kazumi.com/qa/#Q20
[viii] YouTube, 稲村和美(いなむらかずみ) official, 県庁の建て替えはどうなる?
https://www.youtube.com/shorts/7o9l3JUK2Vs
[ix] TikTok, 稲村和美(いなむらかずみ) official, 県庁の建て替えはどうなる?
https://www.tiktok.com/@inamura_info/video/7433967621768252690
[x] 対話と信頼で改革を実現。いなむら和美の政策 アクション30
https://inamura-kazumi.com/hyogo/wp-content/uploads/2024/11/23aba5fcd12fc9b314ff0e2569ad7143.pdf
[xi] さいとう元彦の政策 兵庫の躍動を止めない!
https://saito-motohiko.jp/wp-content/themes/saito_motohiko_v3/img/saito-motohiko_20241023.pdf
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記事担当者=平野智久, 奥山莉里花, 菅原丈矢
本記事は、2024年度秋学期のアカデミックリテラシー演習(ファクトチェックの理解と実習)=担当教員・瀬川至朗=の受講生が作成しました。
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